激甘ご都合ハッピーエンド! 俺たちの闘いはこれからだ!
「ねぇ、いつまでこうしてんの?」
道端に立ってノートPCを叩いている俺の背中に向かってユズキが話し掛ける。
ユズキは上下にグレーのスウェットを着て、サンダルを突っ掛け、バスタオルで長い髪を拭きながら俺がする様子を眺めていた。
「いや、ユズキ待ちだからな?」
スタン、とキーを弾くと、また前方に『雷槍』が飛んでCGオークを蹴散らした。
ユズキの身支度が整うまで、こうしてユズキの家の前で、後から後からやってくるCGオークを捌いているのだ。
「まだ、髪乾いてない」
「長過ぎるんだよ。昔は短かったのに、別人かと思った」
「一体何年前の話してんの?」
「十年前だよ」
ずっとゲームのチャットで話していたこともあって、十年振りに会ったはずのユズキとの間には、学生時代でもこうはならなかったであろう気安い友達同士のような雰囲気が出来上がっていた。
あのラブコメ的なアレがなければ、もうちょっとしっとりした、いい感じの雰囲気にできていたのではないか、という邪な想像をしてしまうが、まあ、こういうノリも悪くない。
「早くユズキもノートPC持ってきて手伝えよ。押し返そうぜ?」
「えー? 私はもう少しこのままでいいかなー」
ユズキは俺をからかう……、というか、少し甘えるような口調になって参戦をもったいぶる。
「じゃあ、ずっとこのままだぞ?」
「それ、プロポーズ?」
「は、はぁっ!?」
俺は今、全世界に向かって、hを連打したい気持ちに駆られていた。
『ずっとこのまま』が『ずっと一緒にいて欲しい』だとか、曲解もいいとこだろ!?
ノートPCを持つ手が震える。
心臓がバクバク鳴っていた。
「ほら、もう、来てるよ?」
アングリと口を開けてユズキの方を見る俺に向かって、ユズキは前を指差す。
俺はチョンとキーを押してブルーウッドに通常攻撃を命じた。
「十年間、私に片想いしてたんでしょ?」
「ば、ばーか。自惚れんな」
フワリといい香りが鼻を突いた。
ユズキが近付いてきて、後ろから俺の肩に手を掛ける。
「根拠。根拠はあんのかよ?」
「ああ、ソースゥ?」
あるとしたら大西だ。
同窓会のときの俺の様子を見て、俺の胸中を見透かしたうえで、あの女が大袈裟に世話を焼いたのではないか。
先回りして、ユズキに俺のことを密告したのだ。
「ソースは、私。でも、合ってるでしょ?」
「…………」
「皆逃げてる中、命懸けで助けに来てくれたんだもんね?」
「ったりめーだろ。見捨てられっかよ」
「裸もガン見だったし……」
「それは……、すまん。不可抗力だ」
「助けに来てくれて嬉しかったよ? ありがと」
「……俺も」
「ん?」
俺もウィンダリアのギルドで助けに来てもらえたときは嬉しかった。
なんとなく、今まで礼を言いそびれていたので、どさくさに紛れてそのことを清算したくなったが、流石に今がそれを言うタイミングではないことは、童貞無職のヒキニートでネトゲ廃人の俺にでも分かった。
「俺も、ユズキを助けられて良かったって思ってる」
眩い閃光と派手な効果音。
まだ、撃つタイミングではなかったが、思わず手が滑って『雷槍』が暴発した。
俺の背中にユズキが思い切り抱きついてきたからだ。
「じゃあ、私も」
「お、おい」
「私も青木のこと好きだったよ。ずっと」
「う、嘘付けよ。落ち着け。吊り橋効果的なやつだって」
そんなわけがない。
高校時代の俺たちなんて、ほとんど接点なんてなくて、俺にとってアカネは高嶺の花で……。
「多分ね。ずっと待ってたの……。メタリボ続けてたら、いつか青木が来てくれるんじゃないかって。ほんとは、青木のキャラの名前見た瞬間から、心臓バクバク言ってたの」
あんなヘタレた救援コールで?
いやいや、落ち着け俺。
これは何かの罠だ。
からかわれてるだけだ。
こんな美味い話があるわけないって。
「西野って……、誰だよ?」
小声でそう言った瞬間、ユズキが笑い出した。
「あれねー。やっぱ気になってたんだ。ぷふっ。……アレわざと。西野なんて知り合いいませーん。ねぇ? 嫉妬した?」
「こっ、こいつ……。……マジか!?」
「マジマジ。大マジ」
身体をよじって、俺の背中に抱きついたままのユズキと顔を合わせる。
満面の笑顔を見せるユズキに思わず息を飲む。
「……好きです。付き合ってください」
「よし!」
ユズキは元気よくそういうと、抱きつくのをやめてブンブンと腕や腰を回し始めた。
「言質取ったぞー!」
ステップを踏むように飛び跳ねながら、大声で叫ぶユズキは、とても二十七の大人の女性とは思えなかった。
高校時代、俺が密かに想いを寄せていたあの頃のアカネの姿がダブる。
「うぉっ。ヘリコプター!」
ユズキが指差す先を見上げると、バタバタと轟音を轟かせながら、俺たちの上をヘリコプターが旋回し始めていた。
「ねぇ! きっと今、カメラでこっち撮ってるよ?」
「かもなー!」
轟音に負けないように互いにシャウトし合う。
「ちょっとヒーローさん! カメラに向かってポーズ決めてあげてよ!」
ヒーローか……。
確かに、銃などの現実の手段が効かない謎のCGモンスターの進撃を、こうやって食い止めているのは俺だった。
正直、これからこの世界がどうなるのか……。それに、果たしてこのブルーウッドの力でメタリボの統括AIに対抗することができるかどうかはまだ何も分からないが、今、このときぐらいは調子に乗ってみたっていいかも知れない。
十年越しで初恋を成就させた今の俺に怖い物など何もないのだ。
俺は夜空を旋回するヘリのカメラに向かって高々と手を上げ、Vサインを作って見せた。
『ネトゲ廃を舐めんなよ!』
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連載開始直後の、長編謎解きTSファンタジーです。
本作の方は約5日で書き殴ったものですが、連載中のこれは半年くらいかけて練りに練りに練った力作となります。
作者的に陽の目を見ないのは忍びないので、どうか何卒、皆様のお力添えをお願いいたします。




