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運営からのメッセージ。狙われてるのは……ユズキ!?


 テレビ画面で見たときから、RPGのゲームに出てくるオークのようだとは思っていたが、オークのグラフィックなど、どんなゲームでも大概似たようなものだ。

 普通、それだけでメタリボと紐付けるのは難しい。

 しかし、つい最近もゲーム画面で見たからそう思うのだろうか。あの遠目で見なければ分からないような粗いドットのグラフィックで思い起こされるのは、やはりメタリボのオークだった。

 戦斧(せんぶ)を持ったファイター階級(クラス)オークのグラフィック。

 PCの画面で見ても粗いと思うのだから、現実で、それが人間と等身大に───いや、それよりも何回りかは大きく───引き延ばされたのなら、そりゃあ、あれだけチャチくもなるだろうと妙に()に落ちた。


 そして、メタリボからの連想で、ユズキのことが気になった。


 あいつ、気付いてないんじゃないか?


 確かチャットで、テレビはほとんど見ないと話していたはず。

 二台持ちのPCの片方で配信サイトの動画や音楽を聴きながらゲームをしていると。


 不安に駆られながらメタリボの画面を覗き込むと、テキストチャットのウィンドウは見慣れない蛍光ピンクの文字で埋まっていた。

 何事かと思い必死でそれに目を走らせる。

 そこに書かれていたのは、書いた者の正気を疑うような内容だった。

 だが、先ほどテレビで見た映像と付き合わせると、途端に笑い飛ばせなくなる。

 今の俺にとっては極めて濃い真実味を()びた戯言(ざれごと)だった。


『メタリボの統括AIが暴走を始めました。我々は既にシステムのコントロールを失っています。システムのシャットダウンはおろか、建屋の主電源を落とすこともできません。現実世界に浸食してきたモンスターによって、既に施設内は占拠されています。現在、地域全体に供給されている電力を止めていただくよう政府筋に要請していますが、時間が掛かりそうです。

 お客様にはご不便をおかけして大変申し訳ございませんが、どうか今すぐ、ご自身でログアウトして、メタリボとの接続を絶っていただくようお願いいたします。事態は緊急を要します。不確かな予測で恐縮ですが、現実に現れたモンスターの侵攻ルートから推測する限り、モンスター群は現在メタリボに唯一接続されているお二人様のもとへ向かっていると思われます。

 と言うかもう絶対そうです。間違いないから、はやく電源切って逃げろ!』


 それと同じ文言がコピペしたように何度も書き込まれ、チャットのログを埋め尽くしていた。

 最後のほうは(なか)自棄(やけ)になって書き込まれていることが俺の不安を(あお)る。


 これだけ何度も書き込まれているということは、ユズキもこれを見て避難を始めているだろうか。

 そう思ったが、気掛かりなのは街中に放置してあった俺のブルーウッドの隣に、ユズキシが並んで立っていることだった。


『ユズキいるか?』『ヤバイぞ。テレビ見ろ』『こっちに向かって来てる』『逃げろ』


 反応を待つ間にチャットウィンドウを上にスクロールする。

 ユズキが俺に何かメッセージを残していないかと思って探していると、ピンクの文字の羅列が途切れたところにユズキの最後の書き込みがあった。


『頭痒い』『私も風呂入ってくるわ』


「風呂っ!?」


 思わず口に出していた。

 このゲームのチャットに時刻表示はないから、ユズキが何分前から離席しているのか分からない。

 だが、運営からのピンク文字のメッセージは、ユズキの打ったその最後のチャットの後から始まっている。

 運悪く、俺たち二人ともPCの前を離れたときからそれは始まっていた。


 運悪く……。

 果たしてそうだろうか。

 子供の妄想じみた、荒唐無稽(こうとうむけい)な話だが、俺にはこれが仕組まれた……、狙い澄まして行われたことであるように思われた。


「だから全チャはやめようって言ったんだ」


 仮にメタリボの統括AIとやらが俺たち二人のことを狙い、俺たち二人のゲーム内での行動をモニターしていたのだとしたら、全チャだろうが個別の囁き(ウィスパー)チャットだろうが関係なさそうな話であるが、俺はそう愚痴らずにはいられなかった。


 ユズキからのチャットの返しはまだない。

 片手でマウスを操作し、チャットウィンドウをスクロールさせながら、俺はもう一方の手でスマホを操作する。

 飲み会のときに大西から無理矢理送られてきたユズキの携帯番号を探してタップする。


「…………」


 コールは続いているが出ない。

 逃げるのに必死で気付かないのか?


「…………」


 ……あるいは、風呂に入っていて気付かないかだ。


 俺はメタリボをログアウトし、電源を落としたノートPCを抱えて家を出た。

 父親と母親は、徒歩で隣のW市のなんとか体育館を目指して避難するらしい。

 俺はチャリンコに(またが)り、友達を迎えに行くと告げて両親と別れた。

 背中から母親が息子を呼び止める悲痛な声が聞こえたが、俺は前を向いたまま、大丈夫だ、と叫んだだけだった。

 何が……、何を根拠に大丈夫なのか、俺にも分からなかったが、そう叫ぶしかなかった。


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