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ネトゲ廃人が二人に増えただけだったかもしれない


ユ『仕事行かなくていいの?』


 ユズキがそう聞いてきたのは、世間的な三連休を過ぎ、平日の月曜に入った朝のことだった。

 俺から話しても良かったのだが、俺なんかのことに興味などないはず、という意固地(いこじ)な決め付けによって頑なに言わずにいた話題だった。

 決して無職だとバレるのを格好悪いと感じたからとかではない。多分。


俺『仕事辞めたし』


 いつそのことを聞かれるだろうかと、ずっと待ち構え、心の中で何度もシミュレーションを重ねていたので、ほら、このとおり、サラリと返すことができた。


ユ『知ってる』


 はあ?

 予想の斜め上の返しに、俺はあっという間にうろたえた。

 こんなシミュレーションはしていない。


俺『はあ?』

ユ『大西に連絡して聞いた』


 あいつか。俺の斜め前に座り、盛んに他人の皿に料理を盛り付けてきた女。

 ユズキがメタリボをやってるという情報をリークしてきたのもあの女だったし、何の世話焼きか、ユズキの電話番号や自宅の住所まで俺に送って寄こした個人情報を尊重しない(Pマークアンチ)女。


俺『知ってたんなら何で聞いてきたんだよ?』

ユ『別に』『聞いて欲しいのかなと思ったし』


 何故か顔が熱くなった。

 ネットのチャット越しで良かった。

 直接話してたら一発で動揺がバレる。


ユ『あと』『嘘つくかなーって思って』


 なんだよそれは。


俺『つかねーよ』『しょーもない』


 おっと。ヤバいヤバい。今ちょっと死にそうだった。

 操作を少しミスって減らしたHPゲージを、ポットをガブ飲みして戻す。


ユ『あたしら』『いっしょだね』


 !!!!!


 おい。誘ってんのか?

 こちとら童貞だ。二十七にもなって、高校時代の同級生に、まだ想いを残してるような痛いド童貞と知っての狼藉(ろうぜき)なのか!?


 やはりネトゲ中のチャットで良かった。

 顔のニヤけが止まらない。

 キモイ。キモ過ぎる俺。

 一瞬、弱り目の同級生に付け込んで、お近づきになろうとしていた自分の(いや)しい下心のことも忘れて舞い上がった。


ユ『なんで黙んの?』『こっちは真面目に言ったのに』

俺『ごめん』『ちょっと今死にそうだった』


 全然そんなことはなかったのだが、そういうことにしておく。

 しかし、黙ったと言われるほどチャットの間が空いていたようにも思えなかったが。


俺『まぁ平日の昼間からこんな過疎ゲーで』『作業狩りしてるなんて』『駄目人間だよなあ』『けど』『面白いわ』『マジ』『俺のやってた頃と』『全然別ゲーだし』『絶望的に不利な状況を』『なんとか持ちこたえてる感じ』『面白いよな』


 俺は黙ったと指摘されたことを取り返すように、ひたすらにチャットを続けた。


俺『こんな面白かったら』『皆帰ってきても良さそうなのに』

ユ『それ』『昔よく来てた復帰組の人』『みんな言ってたよ』


俺『そうか』


 そうしてチャットは途切れた。



 基本的に起きてる間中ずっとメタリボに繋いでいる二人とは言え、その間もずっとチャットし続けているわけではない。

 お互い別の狩場で黙々と、作業のように敵を狩り続けてるだけ。

 そしてときどき、どちらかが思い出したように話題を振り、しばらく会話をして、また黙る。

 それの繰り返しだった。


 俺はその大部分を占める沈黙の時間が嫌いではなかったし、それはユズキだって同じだろうと感じていた。

 直接聞いて確認したわけではないが、きっと彼女も、同じ世界で同じようにプレイしている他人との緩い繋がりを、心地良いものと感じているはずだ。


 もしかすると俺の独りよがりの思い込みに過ぎないのかも知れない。

 ただ、やはり、こうしている今も感じるのだ。

 身を寄せ合うようにする仲間意識や、お互いに、明日もその先もずっと同じようにログインし、同じように狩りをし続けるであろうという謎の信頼感を。


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