大群を防ぐのに地形は大事という話
何度もウネウネと曲がりながら、しばらく狭いマグマの地形を歩いていくと、衛兵姿の味方NPCが大量にいて狭い道を塞いでいた。
『マグナバレー』で雇い入れた防衛ユニットだろうか。
こんなこともできるようになっていたのかと驚く。
一貫してアップデートしないことを謎の信条のように運営をしていたゲームだったが、流石に七年も経てば変わりもするか。
そう言えばアカネのユズキシが使っていたスキルも俺が見たこともないスキルだったし。
ユズキシは衛兵NPCをすり抜けてさらに進んだ。
俺のキャラはそのNPCをすり抜けられない仕様のようで、その手前に置いていかれる。
その人垣のNPCを越えたその先には、大量のサラマンダーが押し寄せている様子が見切れて見えていた。
ユズキシは前線に出ると、先ほどのギルドで見せたのと同じようにガツガツと敵を削り始めた。
「そっち行けないんだけど」
『来たら』『多分死ぬよ?』『こいつら』『遠距離攻撃』『あるし』
それは知っている。
が、俺はこの時点で、このゲームを先に始めたのは俺の方なのに、という何とも情けない拗れた感情を持て余すようになっていた。
メタリボのことを知らないアカネ相手に、学校で最強の初期装備をあげようか、などと言っていたのに、今では立場が逆転し、向こうは現在のメタリボを相当やり込んでいて、こちらは知らないことだらけだった。
「アカネは何で大丈夫なの?」
『火レジ』『90パーある』
90%か。それは凄い。
何故『マグナバレー』なのかという疑問はおおよそ解けた。
防衛し易い地形と、属性攻撃のほとんどを防ぐ装備。
物量で押されても、プレイヤー一人でも、これなら対抗できそうだ。
「俺も耐火装備持ってこようかな」
90%とはいかないまでも、手持ちを全部合わせれば、確か60%ぐらいまでは上げられたはず。
『多分』『ダメ』『だと思う』
相変わらず敵のモブに向かって攻撃を続けながらアカネが返す。
俺はポツポツと呟くように繰り返されるその全体チャットの文字を、ジッと待っていた。
画面の向こうの……、おそらく彼女の部屋でマウスクリックとキーボードタイプを忙しく繰り返しているであろうアカネの今の姿を想像しながら。
「なんで?」
『レベル』『低い』
思わずカッとなりそうになった気持ちを沈めて、俺は落ち着いてタイプする。
「90あるけど?」
さっき死んだので、もうレベルダウンしそうだが、レベル90はメタリボの上限だ。
これで低いわけはないだろうという意思表示。
だが、そう返しながらも俺はきっと七年の間にシステムが更新されて、レベルの上限が引き上げられたのだろうな、というところまでは想像していた。
『やっぱり』『私』『今』『512』
桁が違った。
なんだそれは。
「インフレし過ぎだろ」
『敵も』『そうだし』
「ギルドで見たとき、最初チートかと思った」
『チートは垢バン』『けど』『今はもう』『できなくされた』『らしいよ?』『対策されて』
ユズキシがサラマンダーの列をえぐり取って前進すると、遂に俺が見ている画面の外に消えてしまった。
俺は気になっていた自分のキャラのスキルツリーを表示させた。
案の定、昔俺が上限だと思っていたスキルよりもさらに上の層がいくつも積み上がっていた。
スキルポイントが足りずに取得できないが、ユズキシが使っているスキルと思しき『憤怒の槌』も見つけた。
こういう未解放のスキル群を見ると無性にテンションが上がる。
社会人になってもこういう子供じみた性分は変わらないものだなあ。
「どこか他にレベル上げできそうな場所ないの?」
『やるの?』
「うん」
しばらく待つとユズキシが大量のサラマンダーを率いて戻ってきた。
衛兵のNPCを越えて俺の隣に立つと、少し間があってからファンファーレのようなSEが鳴って『ユズキシ=レジスタンスに所属しました』というログが表示された。
『上の村の左下の小屋に』
「ああ、あそこか」
小屋の中から別のエリアに繋がる坑道に行けることを思い出した。
『憶えてるの?』
「多分」
『装備見せて』
俺はトレードウィンドウに自キャラが付けていた最強装備を載せていった。
『凄い』
ふふん。そうだろうとも。
オール+8(籠手だけ+7)の暗黒騎士セットは当時の俺のちょっとした自慢だった。
『よくこの装備とそのレベルであれだけ耐えれたね』
アカネの言った、凄い、の意味が真逆であったことを知り、俺は複雑な心境になった。
まぁ、相対的に貧弱になったステータスでも、大量のモブ相手に耐えてみせた俺のプレイスキルを褒められたのだと思っておこう。
『耐毒装備一式貸そうか?』
「意趣返しかよw」
『意趣返しって何?』
いや、流石に憶えていないか。
そして俺は学生時代に言った自分の言葉が、意外と人を傷つけるものだということを約十年越しで知ったのだった。
「お借りします。。。」




