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魔窟ギルドからの脱出


『早く』『倉庫』


 ユズキシに言われて、俺は自キャラを操作することを思い出す。

 モンスターはまだ数体残っていたが、ガランと空いたギルトの中を俺の自キャラがスススと歩いていく。

 倉庫のイベントリを開くとゴチャっとしたアイテムのグラフィックが飛び出してきた。

 とりあえず、残量ゼロのポットを自分の所持品イベントリに移動させて、あと強化スクロールと、食べ物系の回復アイテム……。


「一応補給したけど、どう考えても足りないわ」

『何が?』


 俺は近距離の相手だけに伝わる一般チャットに切り替えていたが、ユズキシの方は全体チャットのままだった。

 おそらくこの世界に二人しかない過疎サーバーなのだから、気にする必要はないのかもしれないが、どうしても昔の感覚が残っているせいで、小声で喋ってる自分に対し、相手は拡声器を持って大声で叫びながら会話をしているような想像をしてしまう。


「回復ポット」「いつでも店で買えると思ってたし」


 ユズキシはこうしている最中も剣を振り続けていた。

 メタリボが全盛だった当時から、よく見られた光景とはいえ、戦いながら普通に会話をしている姿はかなりシュールだった。

 一旦、離れていたからこそ、その不自然さが分かる。


『テレポトークンはある?』

「あるけど、どこの?」


 メタリボではテレポートアイテムは、対応する街や村ごとに用意されていた。

 使用してから効果が発動するまで時間が掛かり、その間は行動できないので、先ほどまでのように敵に囲まれているような状況では使えないが、今なら大丈夫だろう。


『マグナバレー』


 それはまた……、辺鄙(へんぴ)な場所だな。

 だが、こちらは七年のブランクがある身だ。

 今は美味しい狩場になっているのかもしれない。


 反射的にそんなことを考えたが、そもそもレベル上げやアイテム収集をするのに美味しいとか、美味しくないとか言っていられる状況ではない世界なのだった。


「あったよ」

『じゃあ飛ぼう』


 言うが早いか、ユズキシはその場でテレポトークンを起動させた。

 まだ残っていた敵がユズキシを一方的に殴り続ける。


 あ、ヤバい。


 俺も慌ててテレポトークンを使う。

 先にユズキシが飛んで入口のセルが空いたら、そこから大量のゴブリンがなだれ込んで来て、残った俺がまたボコられることになる。

 テレポが発動するまでの時間が何となく気まずくて、俺はろくに考えもなしにキーボードを叩いていた。


「もしかして、アカネか?」


 打ってからすぐに後悔する。

 時計はもう深夜の1時を回っているが、飲み会での酒がまだ残っているのかもしれない。

 駆け引きとか、そういうことをするための頭がまるで回っていなかった。

 確かめるにしても、もう少し探りを入れてから、いや、まずは助けてもらったことに礼を言うのが先だろうに。

 相手が本当にアカネだったにしても、そうではない別人だったにしても、失礼この上ない会話だった。


『回答を拒否します』


 そう言った直後にユズキシの上にテレポの発動エフェクトが(きら)めいて消えた。

 それに続いて俺のブルーウッドも画面から消える。


 どうやら頭が回っていないのはお互い様だったようだ。

 飛び際にタイプされたその文字は、俺の問いを肯定したも同然だったのだから。


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