第九話.最強の帰還 ーー旅行の準備ーー
「んじゃ、行ってくるわ」
「行ってくる」
「「「行ってきます」」」
夜月と優凛、そしてエルティカイン達は、旅行に向けて買い物に行くことになった。エルティカイン達は、こっちの世界で着る服や日用雑貨を買う為に。夜月と優凛は、お金は沢山あるので、今使っている中古車を売り、七人以上乗ることのできるミニバン型乗用車と、母親達に送る少しいい車、夜月と優凛の個人車、大型バイク、魔法実験用車等の車を購入することになっている。
お金は、昨日の夜の内に、夜月がネットで調べた宝石や金塊を買い取ってくれるお店を調べ、足がつかない様、顔を変えたりしながら、様々なお店で換金し、総額は一億円以上となっている。
「最初は生活用品店に行くか」
「そうだな」
「お任せするよ」
そうして、夜月達は、生活用品店で歯ブラシやタオル、コップやお皿などを買い足した。そして、次に服屋に行く為に街中を歩いていた。
夜月達七人は、非常に容姿が整っている。自然と周りの意識はそちらに吸い寄せられる。その大半は、うっとりするか見惚れる様な反応をするが、極稀にとんだ馬鹿な奴が現れる。そう、今この時の様に……。
「お姉さん達、みんな綺麗だね〜。どう? そんなヒョロっちい男なんて置いといて、俺達と遊ばない?」
「そうそう、俺達と遊んでくれたらそれはもう気持ちいことを教えてあげれるよ? そんな男達よりね」
夜月達に、二人の男が寄って来た。目的は勿論、優凛達女性三人だ。優凛達は、人並外れた美貌を誇っている。声をかけてくるのも仕方の無いことだろう。だが、優凛達と共にいる夜月とエルティカインも容姿は俳優並みに整っている。そんな中に、まさに典型的なDQNが話しかけて行く姿は、ある意味勇者だった。
「あ゛?」
夜月から、魔王の覇気が容赦無く叩きつけられる。そのあまりの威圧に、周囲の人もほんの少し影響を受け、ガクブルしていらっしゃる。
そして、優凛達に声をかけてきたDQN達は、勿論相応に手加減している魔王の覇気をもろに受けた為、尻を地面に着いて、その威圧に恐怖を感じ涙を流している。
「で、なんだって?」
夜月は、DQN達の前にヤクザ座りをしながら眼を飛ばしている。その姿はまさにヤクザ。堂に入っている。日常的に人を絞めているかの様だ。昔から、優凛に言い寄って来る奴が多数いるのだ。その最中で見つけた対処法がこれだった。……まぁ、異世界から帰って来て、酷くなっている様だが。
DQN達は、口を開くこともできない。微かに、ヒュッ……と息を飲む音が聞こえるくらいだ。
そして、夜月は口が裂けた様な悪魔の笑みを浮かべる。
「なぁ、人の女に手ぇ出そうとしたんだ。何か言うことがあるだろう? 無かったら……」
その無言の時間が怖い。何を言われるのだろうか。この悪魔に。
「ド玉カチ割るぞ」
その顔や声の質からして、DQN達は、その言葉が冗談の類では無いと一瞬で理解した。
「「も……申し訳ありませんでした」」
DQN達は、土下座をしながら誤った。
それを見て、満足した夜月は、優凛達と共に何事も無かった様に歩いて行く。その後ろからは、街中の人達が彼らを見つめていた。……お前、どこのヤクザだよ、と若干引いていた。
「全く、相変わらずだな、夜月は」
「えぇ、ちょっと引くんだけど」
街中の人だけでは無かった。エレナ達も引いている。
「ああいう奴はな、あのくらいしねぇと性懲りも無くまた来んだよな」
「じゃあ、俺もそういう場面が来たら実践してみようかな」
勇者がヤクザ……。駄目だろう。勇者は勇者らしくしなさい。
そして、ヤクザ率いる一行は最寄りの服屋に来た。
「んじゃ、カインの服は俺が見るから。エレナとセレナの服は優凛、頼んだぞ」
「ん、任せろ!」
夜月達は、それぞれ服を選び始めた。
エルティカインは、普段青や白の服で統一している。なので、夜月はこれを機に他の色の服を着させようとしている。夜月が、その手に取ったのは、黒のデニムパンツに黒色のハイネックのセーター、黒の薄いジャンバーだ。全部、黒で統一したようだ。
「どうだ?」
エルティカインは、試着室の鏡の前で自分の姿を見ながら頷いた。
「いいんじゃないかな。今まで、黒系統の服は着て来なかったけど、案外似合うもんだね」
「あら、エルティカイン、似合っていますね」
「そう? ありがとう」
この二人は恋人同士だ。急に甘い空気が漂い始めた。だが、魔王様はその空気を容赦無く叩き斬る。
「それで、セレナ達の方はどんなの選んだんだ」
そう言われて、セレナとエレナの二人は、優凛に選んで貰った服を手に持って、試着室に入っていった。
そして、先にセレナが出て来た。
優凛は、セレナの服を黒系統で選んだらしい。セレナも、普段、エルティカインと同じ様に、白系統の服しか着ていない。優凛も、この数日、白色のドレスしか着ているのしか見たことのない優凛は、黒系統の服にしたのだ。優凛が選んだのは、黒色のハイネックTシャツに白色のロングスカート、そして、銀色の鳥をモチーフにしたペンダントが付いている水色のカーディガンだ。
いつもとは全然違う感じで新鮮だ。どこかの女優の様だ。
「へぇ、セレナも黒似合うもんだな」
「似合ってるよ、セレナ」
「ありがとうございます、エルティカイン、ヨヅキ」
と、そこでエレナが出て来た。
「ど、どう? 似合ってる?」
エレナは、いつもの黒ドレスとは違う雰囲気の白や淡い色系統の服の様だ。優凛は、エレナが黒ドレスしか着ているところを見たことがないので、白系統で攻めたらしい。白のパーカーワンピースに黒タイツ、そして薄いカーキ色のジャンバーだ。
その質問は、夜月に返して欲しいのが丸分かりだ。
こちらもセレナと同様、いつもとは全然違う感じで新鮮だ。どこかの女優の様だ。
「エレナも似合ってるな」
「そ、そう? ぁ、ありがとう」
夜月に褒められて顔を真っ赤にしている。その表情に、周りにいた、男性は顔を赤く染め、エレナに見惚れていた。そして、隣の女性に頬を叩かれている。……ドンマイ、仕方ないよ。
女性店員も、恋する乙女のエレナに顔をポッと赤く染めていた。……何かに目覚めないといいのだが。「あぁ……んっ」とか言いながら、頬を赤く染めて、内股になりながらもじもじしている。……手遅れかもしれない。
「ふふふ、どうだ? 私の手にかかればこんなものだ」
優凛がドヤ顔になりながら夜月に自慢している。
「はは、そうだな。優凛にはいつもお世話になるよ」
夜月は、苦笑いしながらも素直に褒めた。いつも、服を選ぶ時は、本当に助かっているのだ。
夜月達は、選んだ服の他に何種類か服を買い、お店の外に出た。
「服も買ったし、車買いに行くか」
「おぉ! 車! 私専用のも買ってくれるんだろ?」
「あぁ、勿論」
「やった! ありがとう!」
優凛は、車を買って貰えることに物凄く喜んでいる。優凛は、小さくてかわいい車が以前から欲しかったのだ。それが今日叶うのだ。喜ばない訳がない。
ちなみに、夜月も優凛も運転免許は持っている。今年十八歳で今は冬なのだ。とっくに教習所に行っている。
夜月達五人は、車を買う為に車センターに向かって行った。
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