第八話.最強の帰還 ーー旅行の計画ーー
「「ただいま」」
夕方、夜月と優凛の二人は自宅に帰って来た。
そんな二人を、朱里が迎え入れた。
「あら、おかえり。今日は、夜君の好きなオムライスよ。早く着替えて来なさい」
「それは楽しみだな。急いで支度してくる」
「ん」
夜月と優凛の二人は、各々部屋へと移動する。
数分後、エルティカイン達を含めた、総勢七人がリビングに揃った。そして、みんなで夕食の準備を始める。
「カイン、その箸、机に運んどいてくれ」
「これ? 分かった」
「エレナさんとセレナさんはこっちのスープ運んでくれるか?」
「分かったわ」
「分かりました」
みんなで手分けして、食器や食事を運ぶ。エルティカイン達は、こういう行動が慣れないのか、少し辿々しい動きだ。それを見ながら、夜月と優凛は笑い、朱里と蒼花は微笑ましいわねと言いながら、微笑みを浮かべて眺めていた。
そうして、夕食の準備が整った。
「じゃあ、食べましょうか。いただきます」
「「「いただきます」」」
夜月達は、日本人特有の食前の挨拶をした。それを見て、エルティカイン達三人は、何度見ても、この挨拶は興味深いといった表情だ。エルティカイン達異世界勢には、夜月が異世界でこの食前の挨拶を教えており、何だそれ? という事態にはならなかった。
そして、エルティカイン達は、初めて見る食事に眼が釘付けになっている。異世界の食事事情は、あまりよくないのだ。美味しいものはあるにはあるのだが、それを食べることができるのは、上流階級の者だけで、他の者達は余程のことがない限り、食べることはできないのだ。
スプーンでオムライスを口に運ぶ。そして、食べた瞬間に、その美味しさに眼を見開いた。
「これは美味しいね!」
「美味しいわ!」
エルティカインとエレナは、素直にオムライスの美味しさに感動して。
「美味しいですね」
セレナは、この料理と味に感心した様に。
三者三様に感想を言う。
「だろ? 俺の好物だからな」
「ふふ、そう言って貰えてよかったわ」
朱里と蒼花も、みんなに美味しいと言って貰えて嬉しそうな顔をしていた。料理を作った人にとって、素直な賞賛程嬉しいものはない。
「このスープも美味しいですね。私、これ好きです」
セレナは、卵のスープが気に入ったようだ。
「あら、嬉しいわね。今度、作り方教えてあげるね」
朱里が、そう言った。卵のスープの作り方はそう難しくない。料理を作ったことのないセレナでも簡単に作れるだろう。
そして、みんなで話す内容は変わっていく。
そこで、夜月がある提案をする。
「母さん達、仕事辞めていいぞ? 金は、俺達異世界勢がどうにでもできるからな。それに、今まで俺達を育ててくれたし、忙しいだろ?」
「いいなそれは。私も夜月の手伝いするぞ」
朱里と蒼花は、片親でここまで夜月と優凛を育ててきたのだ。平日はずっと働き詰めで、毎日忙しそうにしていた。夜月も優凛も、そんな母親の為に、ずっと何かをしてあげたかったのだ。
「そうね、そこまで言ってくれるのだったら、そうしようかしら」
「ね、息子、娘にお世話になるのも悪くないかもね。息子はいつの間にか十五歳も歳喰ってたけど」
そう言って、朱里と蒼花は仕事を辞めることにした。補足しておくと、朱里の仕事は一般IT企業に勤めており、蒼花は近所の雑貨屋さんの店員として働いている。
「なら、今度みんなで旅行に行かないか? そうだな、熱海温泉とか。移動は、俺が運転するよ」
「いいわね。お願いしようかな」
「嬉しいわ〜。丁度、熱海温泉行きたいと思ってたのよね〜」
今度、諸々の事情が片付いたら、熱海温泉に旅行に行くことになった。
「温泉旅行かぁ」
「お、エル君は温泉好きなの?」
「えぇ、好きですね。温泉に入ってると落ち着きますからね」
意外にも、エルティカインは温泉が好きだった様だ。まぁ、異世界勢のみんなからしたら、公然の事実だったが。異世界では、毎日の様に温泉に入り浸っていたから。
……王族を辞めて、本来の性格がはっちゃけたのだろう。その温泉好きは、止まることを知らない。何せ、自分で温泉の構図と景観を考え、自分の異空間に何種もの温泉を保有しているのだから。
「この世界の観光……楽しみね!」
エレナは、ニッコニコの笑顔になった。エルティカインやセレナは、そんなみんなが集まる娯楽施設があることに驚いていた。異世界には娯楽施設はあっても、民のみんなが使用できる様な物ではないのだ。
「ん、私も楽しみ。初めて行くから」
優凛は、熱海に行ったことが無い。それは夜月も同じだ。それを、みんなで旅行で行けるのが楽しみなのだ。それに、エルティカイン程では無いが、優凛も夜月も温泉が大好きなのだ。
「あら、そうなの?」
「なら、一緒に楽しみましょう」
「ん!」
優凛は、順調にエレナやセレナと仲良くなっている様だ。
エレナもセレナも、楽しげな笑みを浮かべながら話している。
そんなエレナとセレナを見ながら夜月は思った。エレナとセレナをこの世界に連れて来て、本当によかったと。向こうの世界では手に入れることのできなかった、平和で幸せな、ただ一人の女の子としての普通の生活を手に入れることができて。今のエレナとセレナは、本当に輝いて見える。だから、余計にそう思うのだ。
そんなこんなで、みんなで、旅行をすることになった。
お読み頂きありがとうございます。
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○追記
2021年11月16日
蒼花の言葉『熱海温泉行きたかったのよね』を『丁度、熱海温泉行きたいと思ってたのよね〜』に変更しました。