第七話.最強の帰還 ーー恋人とデートーー
「んじゃ、行ってくる」
「……行ってきます!」
翌日。デートは、昼からになった。昨日は諸事情により、寝るのが遅くなったからだ。
そんな彼らを、母親達が玄関から見送っていた。
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
「行ってらっしゃい。楽しんで来てね~」
夜月と優凛は、母親達に見送られながら、出かけて行った。
二人が、まず最初に向かうのは、家の最寄駅から電車で三駅離れた場所にあるデパートだ。そこで、優凛のウショッピングやウインドショッピングを一緒に楽しむのだ。男性は、ほとんどが、女性の買い物に付き合うのは苦手かもしれないが、夜月は、小さい頃から優凛達に連れ回されていたのでそうでもない。むしろ、優凛と一緒に見て回るのは楽しいと思っている。
「最初は、どこを見にいくんだ?」
「ん、時間も限られてるから、まずは、服屋さんに行く。夜月は、なんか雰囲気が変わったからな。ふふ、私が、新しい服を選んでやろう!」
優凛が、腰に手を当て、胸を張って、ドヤ顔で言った。
「お、ありがとう。優凛のセンスに外れは無いからな」
優凛は、服選びのセンスが高い。だから、夜月は毎度服を買う時は優凛に任せているのだ。
今日は、元々、服を買う予定は無かったが、夜月の雰囲気が変わり、似合いそうな服が増えたと感じたので、服を買うことにしたようだ。
と、夜月が周りの視線に気付いた。
そして、あぁ、いつものやつかと思い、げんなりとした。優凛は、日本人とは思えない白銀の髪に赤い眼をしている。その美貌もずば抜けており、どうしても眼を引いてしまうのだ。
それに、今はいつものようなぽけーっとした表情ではなく、夜月がそばにいる為、夜月の腕に抱き着いて、花が周りに見えるかのような笑顔を咲かせている。そして、それが更に周りの好奇の視線がついてくる。夜月は、更にげんなりとした。
だが、今回は、夜月にも視線が集まっていた。容姿的には、優凛程ではないが人気俳優並みに整っている。まぁ、優凛の隣に立つと霞んでしまうが。今の夜月は、落ち着いて安心するような、少し危ない大人の雰囲気を纏っている。それに、異世界で培ったその異世界人ですら早々経験することのない凄惨な経験とその自分の力からくる絶対的な自信と堂々とした振る舞いから、魔王の覇気が滲み出ており、その存在感から注目を集めている。
「じゃあ、服屋から行くか」
「ん」
二人は、デパートの三階に出ている服屋に向かって歩き始めた。
夜月と優凛の二人は、服屋にやって来た。
「お、これなんか夜月に似合いそうじゃ無いか?」
そう言って、優凛は夜月に服を渡した。それを、夜月が広げて見る。その服は、黒を基調としたコーデで、白の下地に、青色のボーダーが入ったシャツ、ゆったりとした黒色のカーディガン、普通のデニムパンツ。大人っぽい感じのコーデだ。
「じゃ、着てみるか」
「ん、早く着て。絶対似合うから」
夜月は、優凛のそんな様子に、苦笑いを溢しながら試着室に入っていった。
そして、数分経ち、試着室のカーテンが開いた。
そこには、優凛の選んだ服装のコーデに身を包んだ夜月がいた。違和感がない程に似合っている。それは、思わず、女性の店員さんがポッと頬を染めてしまう程。それを見て、優凛は得意げな顔をして、夜月の方に振り向いた。
「やっぱり、すごく似合ってるな!!」
「そうか? ならいいんだが。いつもと違う服はなんだか落ち着かないな」
そうして、夜月の服を買っていたら、程よくいい感じの時間になった。
二人は、今日のデートの本命であるスイーツ店へと向かう。
「ここか」
「あぁ、ここが最近人気のあるお店なんだ」
夜月達は、その人気のスイーツ店に入っていった。入った瞬間に、落ち着いた音楽が流れ、女性の店員さんがおっとりとした声で「いらっしゃいませ」と言った。
お店の中は、カジュアルな雰囲気で統一されており、落ち着く空間だった。
「いい感じの店だな」
「だな、これはスイーツにも期待できる!!」
優凛は、二人が着席した席のテーブルの真ん中に置かれてあったメニュー表を手に取り、キラキラした眼でメニュー表を見始めた。メニューには、各種パンケーキ、各種パフェなど一般的なメニューに加え、この店オリジナルであるトッピングのパンケーキがある。このパンケーキがSNSなどで拡散され、人気となったのだ。今は、落ち着いて、人はまばらだが。
「私は、このキャラメルクリームのパンケーキとカフェオレにする!」
「俺は、このチョコパフェとブラックコーヒーだな」
二人とも、頼むものが決まったので、店員さんを呼んだ。
「はい、メニューはお決まりになりましたでしょうか?」
「あぁ、このキャラメルクリームのパンケーキとチョコパフェ、カフェオレにブラックコーヒーを頼む」
「キャラメルクリームのパンケーキ一つ、チョコパフェ一つ、カフェオレ一つ、ブラックコーヒー一つですね。かしこまりました。少々お待ちください」
そう言って、店員さんは、お店の奥に引っ込んでいった。
「楽しみだな!」
「あぁ、そうだな」
そして、待つこと数分。店員さんが、二人が頼んだ品を運んで来た。
そして、二人の前に置いていく。
「お待たせしました。キャラメルクリームのパンケーキ、チョコパフェ、カフェオレ、ブラックコーヒでございます。では、ごゆるりとお楽しみください」
そう言って下がっていった。
優凛は、目の前に置かれたキャラメルクリームのパンケーキを見てテンションが上がっていた。そのパンケーキは、二枚重ねのパンケーキの上にバニラアイスが乗っており、その上からキャラメルソースがかけられている。そして、その上にこのパンケーキの名前の通りの、生クリームにキャラメルが混ぜられたキャラメルクリームがトッピングされている。このお店オリジナルのパンケーキである。
「おぉ! 美味しそうだな!!」
優凛は、早速テーブルの横に置いてあるナイフとフォークを取り、食べ始める。
夜月も、パフェ用のスプーンを手に取り、運ばれて来た、普通の一般的なチョコパフェを食べ始める。
パンケーキを綺麗に三角形に切り分け、バニラアイス、キャラメルソース、キャラメルクリームを贅沢に絡め、口に運ぶ。
口に入れた瞬間、あまりの美味しさに優凛の顔が蕩ける。
「美味しい!」
「そうか、なら来た甲斐があったな」
夜月が、普段の魔王に似つかわしくない慈愛の笑みを向けていた。この表情を、エルティカイン達が見たら、鳥肌が立ち、戦慄するだろう。今度は、何を起こす気なんだと。だが、この表情は優凛だけに向けられる表情だ。
この十五年間、優凛のこの幸せそうな表情が見たかった。記憶の中の、この表情を思い出しながら生きて来たのだ。やっと、十五年ぶりにこの顔を見ることができたのと、最愛の人と一緒に幸せな時間を過ごしていることができている事実に幸せを噛み締めているのだ。
「はい、あ~ん」
優凛が、パンケーキを刺したフォークを夜月に向けていた。所謂、あーんの図だ。羨ましい。
夜月も、自然な様子で、そのパンケーキを食べた。
「ん、美味しいな。流石、人気になっただけはある」
「あぁ、そうだな! 今まで食べたスイーツの中でもトップに入る味だな!!」
そして、二人ともスイーツを完食し、店を出た。
二人で帰り道を静かに歩く。その空間が、夜月には心地よかった。
無言の時間が数分続いたが、不意に優凛が口を開いた。
「今日は楽しかった。夜月はどうだった?」
優凛は、不安だったのだ。十五年間も戦いに包まれていた夜月が、今まで通りのデートで楽しめているのかどうかが。だが、それは杞憂に終わる。
それはそうだ、夜月は、この優凛と二人だけの時間を長年待ち望んでいたのだから。あの約束の日から、二人は互いが互いの特別になったのだ。その日から、二人の間には深い絆が繋がっている。それはもう、熟年の夫婦にも劣らない愛の絆が。
「あぁ、楽しかった。やっぱり、優凛との時間は何物にも変えがたいな」
夜月は幸せそうな笑みを浮かべ、返事を返してくれた。その笑顔を見て、優凛も幸せそうな笑みを浮かべた。夜月のその思いが嬉しかったのだ。
「ふふっ」
優凛が笑い声を零した。
「どうした?」
「ん~ん、またデートしような!」
「あぁ、今度はどこかの遊園地にでも行くか」
「それはいいな!」
二人は、夕焼けを背に、帰途へと着いた。
どちらも、互いの存在が必要不可欠だ。この二人は、互いがいないとダメなのだ。そう感じさせる深い絆を再確認できた一日だった。
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