第五話.最強の帰還 ーー晩酌ーー
ーーその日の晩。
エルティカイン、エレナ、セレナは、個別に割り当てられた部屋に引き上げており、リビングには夜月、優凛、朱里、蒼花がいた。
四人は家族水入らずで、晩酌をしていた。
「夜君は、異世界でどんな風に過ごしていたの?」
朱里は、お酒でほんのりと頬を赤く染めながら夜月に聞いた。
「そうだなぁ。……異世界に落ちた時は、お金とかも無かったからな。最初はスラムで過ごしてた」
夜月は、あんなこともあったなぁと思い出して、薄く笑みを浮かべる。そして、夜月は自分の過去を語り始めた。
「その後、その国は戦争に巻き込まれて、隣国に滅ぼされたんだ」
その言葉に、朱里達は息を飲み込んだ。戦争で国が滅びるなど、おおよそ、体験していいものではない。初めて見る、人と人との殺し合い。それは、想像を絶する程の苦痛、そして絶望だっただろう。
「その時、思い知ったよ。この世界では、個人と集団の力が物を言うんだってな。だから、俺は、力を求めていろんなところを旅したよ」
「そう……大変だったのね」
「夜月、よく頑張ったな」
人によっては、この言葉を軽く感じるかもしれない。だが、朱里と優凛は夜月の表情からどんなことを言って欲しいのか分かっていた。だから、そういう言葉を送ったのだ。
蒼花が、この重い空気を変えるように、気持ち明るめの声で聞いた。
「ねぇ、夜君。異世界って言うからには…………いるんでしょ?」
なんかめっちゃ溜めて言った。
それに、夜月はニヤリと笑い、言葉を返した。
「あぁ、いたぞ、蒼花さん」
その返答に、朱里達三人は眼を輝かせ始めた。
エルフを見せれば。お酒が入っているせいもあって、ハイテンションに「わぁぁぁ! やっぱり綺麗なのね!」とか「テンプレと違って、胸大きいんだな」とか「よく手を出さなかったわね」と騒いでいた。最後の言葉は、夜月にとって誠に遺憾である。恋人の優凛がいるというのに。
まぁ、でも言いたいことは分かる。エルフの容姿は非常に整っているのだ。基本的に、色素の薄い髪色、例を言うなら、金・白金・緑系統などをしており、眼は、水色か翡翠色をしている。また、男性も女性のような中性的な容姿をしており、女性も全員が大きなお胸の持ち主だ。異世界でも、見惚れる者は多数いる。
「それで、エレナちゃんのこと、どうするの?」
朱里は、エレナが夜月に恋心を持っていることをどうするのか聞いているのだ。彼女の想いに応えるのかどうか。
「んー、後で、優凛と話し合うさ。俺一人で決めていいことじゃないからな」
エレナのことについては、夜月は優凛と話し合うことにしたようだ。夜月の隣で、優凛も頷いている。
そして、なんやかんや、話が一区切りついたところで、夜月が空間魔法を発動して、その中からある物を取り出した。
「夜君、それは何? 何か、物凄く綺麗だけど」
夜月の前には、三本の酒瓶が置かれていた。
「これは、異世界の酒だ。みんなで飲もう」
一本目は、金色に輝くお酒。見た目も綺麗で、飲む他にも、見るだけでも楽しいお酒となっている。
夜月が、みんなのグラスに注いでいく。
「へぇ、美味しいわね」
「これは美味しいな」
「美味しいわ」
三人共、一口飲んで、その余りの美味しさに固まった。
「だろ? 俺も結構好んで飲む酒なんだ」
そして、蒼花が気になったことを聞いた。
「このお酒、なんて名前なの?」
「この酒は、檎琳酒って名前だ」
「何となく綺麗な名前ね」
「これは果物で造ったお酒なのか?」
「あぁ、異世界にある黄金の林檎を熟成して造っている酒だ」
ーー檎琳酒
異世界にある宝石果物のうちの一つである、黄金林檎を熟成して造っているお酒だ。この黄金林檎をお酒にするには、難しい技術が必要であり、このお酒は、自然と共に生きるエルフ族にしか酒造することはできない。
夜月が次に開けた酒瓶は、空色に輝き、色は透き通っている。
夜月は、新しいグラスを人数分出し、お酒を注いでいく。
「これも、美味しいわね」
「爽やかな味で飲みやすいな」
「私、このお酒が一番好きだわ」
「それで、このお酒の名前は?」
「これは、秘海酒と言って、秘境と呼ばれている海の水を特別な方法で抽出して酒にするんだ」
ーー秘海酒
異世界の海に住む、人魚が持つ、海水栄養抽出法を利用している。秘境と呼ばれる魔力の多い地域の海水の栄養を抽出し、このお酒の為だけに造った無味無臭のお酒と合成して造っている。このお酒は、人魚にしか造ることはできない。
「よく分からないけど、とにかくすごいのは分かったわ。でも、本当に綺麗だし、美味しいわ」
「じゃあ、最後はこれだな」
最後に開けるお酒。これは、透明のお酒の中に金箔が漂っている。見るからに高級そうなお酒だ。
「これはまた、高級感のあるお酒ね〜」
「あぁ、これは龍霊酒と言って、龍の魔力と龍の里にある泉の水から造った酒だ」
「はぁ〜、すごいものなのね」
「龍とは、またすごいな」
「因みに、この酒には美容効果もある」
「「「えっ!? 本当にっ!?」」」
美容効果があると言った瞬間に、この反応である。女性はやはり、美容に対して食いつきが半端ない。
ーー龍霊酒
龍の里にある魔力の泉の澄んだ水、龍の膨大な魔力を混ぜて造ったお酒。美容効果もあり、肌艶等が良くなる。また、主な効果としては、飲んだ者の魔力総量が増大する。このお酒は、龍族とドワーフ族が協力して酒造している。
「これも、美味しいわね〜」
「おぉ! これは一番美味しいな。いくらでも飲める!!」
「美味しいけど、私は檎琳酒が一番好きかな」
夜月達は、異世界のお酒の飲酒会を終えると、思い思いにのんべんだらりとお酒を飲み始める。
「夜君」
「ん?」
「今日は、夜君の好きなすき焼きをしてあげたけど。明日からは、どうする? 後何日かは、十五年ぶりの好物、母さんが作ってあげるから」
「うぅ〜ん、そうだな。和食は外せないから絶対として、オムライスとかグラタンが食べたい」
「ふふ、それは何年経っても変わらないのね。うん、分かったわ」
「ありがとう、母さん」
「えぇ」
次は、蒼花が話しかけてきた。
「夜君、明日はあの三人、私達が見てるから、優ちゃんとデートしてきたら? ねぇ、朱里」
「そうね、夜君にとっては十五年ぶりの再会なんだから」
「そうか? なら、お言葉に甘えて、明日はデートをして来るか」
そして、三人は先程から反応をしない優凛の方に眼を向けた。
優凛は、両手でグラスを持ったまま、顔を真っ赤にして眠っていた。
「あちゃ〜、優ちゃんはお酒弱かったか」
「ふふ、かわいいわね」
「じゃあ、今日はここまでにしようか。夜君、悪いけど優ちゃん部屋に送ってあげて」
「そうね、そうしましょうか」
「分かった。じゃあ、おやすみ」
「「おやすみ」」
夜月は、優凛を部屋に送る為に、少し揺すった。
「うぅ……ん」
「ほら、優凛。もう寝るぞ」
少し、強めに揺すった。
「………………ん」
夜月は、困ったような笑みを溢して、ほんの少しだけ目の覚めた優凛をお姫様抱っこして、部屋に向かっていった。
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