第四話.最強の帰還 ーー聖剣見物と慕う理由ーー
「あ、聖剣見ます? 綺麗ですよ」
「え、いいの?」
「はい、いいですよ」
そう言うが否や、エルティカインは空間魔法を発動し、聖剣を取り出した。
その剣は、荘厳だった。見た者を圧倒する。朱里達も、その美しさに言葉を無くしている。
柄には天聖国が崇める天龍の意匠が凝らされ、歴史を感じさせる。剣身は、鋭くも優しく、敵を斬り裂き、味方を護る剣として作られている。そして、その剣の周りには白く輝く粒子が漂っている。
創世神と天龍が加護を与え、その魔力を宿した剣、銘を神創龍天剣。これが聖剣の正式名称である。
「すごい綺麗な剣ね……」
「おぉ……これが聖剣か」
「なんか、神秘的なものを感じるわね」
朱里達は、聖剣に見惚れていた。感想は、なんとか言葉にしたような感じだ。そして、聖剣を間近で見物し、充分堪能して満足したところで、蒼花が質問をした。
「エル君は、聖剣に選ばれたって言ってたけど、それってどんな感じなのかしら?」
蒼花は、聖剣がどのように置いてあったのか、どのようにして聖剣の使い手が選ばれるのかということが気になったようだ。
「そうですね。聖剣は、通常、城の地下にある聖剣の間という、聖剣の為だけにある部屋に突き刺さった状態で保管されているんです。そして、王族は10歳になると聖剣の儀といって、聖剣が抜けるかどうかの運試しがあって、それで俺が抜いたんですよ。抜けたというのは、聖剣に選ばれたということなんで、俺が勇者になったというわけです」
天聖国エスタリアは、初代聖剣保持者が建国した国である。その聖剣の歴史は、三千年にもなる。そして、エルティカインが聖剣に選ばれるまで、聖剣に選ばれた者はいなかった。
エルティカインが聖剣に選ばれた時、それはもう大盛り上がりだった。国民は、勇者様の生まれ変わりなどと呼ばれ、国は何月もお祭り騒ぎとなったのだ。
「勇者って、何をするものなの?」
蒼花は、勇者としての仕事・行動・役割等が気になったようだ。
「そうですね。まぁ、主には魔物の討伐ですね。後は、魔王と呼ばれたヨヅキの討伐もありましたね。この仕事がきっかけで王子を辞めることを決意したんですよ」
朱里達は、夜月が国に討伐を依頼されるような存在だと知って、顔を青く染めていた。
「よ、夜君、大丈夫だったの?」
「夜月、向こうで何をしたんだ?」
朱里達は、矢継ぎ早に夜月に疑問をぶつけた。
「まぁ、向こうの世界の争いを止める為にいろいろしたんだ」
夜月は、儚い微笑みを浮かべて答えたのだった。
その表情を見て、朱里達は納得した。彼女達は、家族であり、夜月の行動や考えなどはお見通しなのだ。夜月の向こうでしたことなどは、大まかには彼女らも理解した。
そして、話はエルティカインの方に戻る。
「じゃあ、夜君に会って、どうしたの?」
「ヨヅキに会った時に、この世界を共に救わないかと共闘を持ち掛けられたんですよ。理由も一緒に説明してくれましたからね。即座に、その話に乗って、国のことは全部すっぽかしました」
まぁ、今は勝手に国も抜けて、勝手に聖剣もくすねて来ているのだが……。これは言わぬが花であろう。夜月は、遠い眼をしながら、そんなことを思った。
みんながそれぞれ質問し満足したところで、次はエレナに興味が移った。
「それで、それで、エレナちゃんは、なんで夜君のこと好きになったの?」
「ん。私も気になる」
「あ、私も教えてほしいわ」
朱里達は、エレナの恋について興味津々だ。三人とも、身を乗り出して、眼を輝かせながら聞いていた。
先程、自己紹介の時に、エレナは夜月のことが好きだと言っていたのでそれを詳しく聞きたいのだ。優凛は、夜月の彼女である為、尚更聞きたいのだろう。
エレナは、眼をキョロキョロさせながら、顔を赤くし、たどたどしく話し出した。
「え、えっと、私が元々は神様だったって言ったでしょ?」
「あぁ、言っていたな」
「それで、向こうの世界の神はね、神器っていう物を持っているの。私の場合は、神器”破傲剣レヴァイシズ”ね。これ、私には制御出来なくて、世界の理に従って、十年に一度、世界中の人々の命を奪うの」
語るエレナは少し辛そうな顔をしていた。そんな彼女の表情に、朱里達は心配したが、真剣な表情で話を聞いていた。
彼女の神器”破傲剣レヴァイシズ”を発動する条件は、彼女の持つ”焉禍の神眼”に魔力を溜め続け、十年掛けて魔力を最大まで貯蔵する。そして、それを一気に解き放つのだ。そして、神器”破傲剣レヴァイシズ”は、保有者の意思は関係なく、世界の人々を呑み込んでいくのだ。優しさを持つ彼女にとって、それが、どれほど辛いことか。
「私はそれが嫌だったわ。人々の泣き叫ぶ顔を見るのが辛かった。そして諦めていたところにヨヅキが来たの」
「そ、それで、どうしたの?」
朱里は、ごくっと唾を飲み込んで聞いた。他の二人も、ごくっと唾を飲み込んで、朱里の質問の答えを待っていた。
「そしてね、どうやったのかは、詳しくは知らないけど、ヨヅキは、颯爽と現れて神器と神眼を奪って行ったの。あの時は、本当にかっこよかったの」
まさに、エレナにとっての白馬の王子様。
「おぉ、夜月も隅に置けないな」
「キャー!! 夜君、かっこいいわね!」
「夜君、すごいわね〜。かっこいいわ」
朱里達は、夜月に『奪うとは……流石魔王様だな』とか『魔王様、一人の女の子を救うとは、やるわね〜』と言い、揶揄いまくっていた。
そして、夜月の死角でエルティカインがニヤリと笑った。そして、唐突に朱里達にある提案をする。
「皆さん、その場面の映像記録があるんですが……見ます?」
その瞬間、朱里達三人の眼がキラリと輝いた。
「「「見るッ!!」」」
三人共、食い気味に返事をした。
夜月は、羞恥心はそれは物凄くあるが、彼女達の顔を見たら、拒否することは出来なかった。そして、エレナは顔を限界まで赤くして、フシュゥ〜と頭から湯気が出ていた。
エルティカインが、映像記録の特性を持つ宝珠で夜月がエレナを救うシーンや戦闘シーンを見せれば、神谷&七瀬家に黄色い悲鳴が上がった。
「おぉ、おぉぉぉぉ! すごい! 夜月の戦う姿はなんか綺麗で圧倒的でかっこいいな!!」
「流石夜君! かっこいいわね!!」
「いや、これはかっこよすぎでしょ!」
さすがの魔王様も、羞恥心で顔が真っ赤になっていた。でも、愛しい人達からの素直な賞賛は、素直に嬉しい。
夜月の眼には、向こうの世界では見ることの出来なかった、平和で暖かく、優しい家族達との団欒が映っていた。
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