第二話.最強の帰還 ーー魔王の愛する家族ーー
地球に存在する日本。明朝、神奈川県内にある一軒家の一室、神谷家の夜月の部屋。
「無事に帰って来れたな」
そこに、アムル達四人が忽然と現れた。
「ヘ~、ここがアムルの住む世界なのね」
エレナは、興味深そうに、部屋の窓から外を見ていた。エルティカインもセレナも、夜月の部屋にある物に興味津々にかぶり付きながら見ていた。
夜月は、部屋にあるスマホとカレンダーで日付を確認した。現在、土曜の午前八時だ。まぁ、帰る際に時間に干渉し、帰る際の時間が、異世界に漂流した直後の時間になるように調整したのだが。
この時間では、家族のみんなも下のリビングに集まっているだろう。
「下に行くぞ。皆を家族に紹介しないといけないからな」
夜月達は、四人揃って、階段を降りて行き、リビングに行った。そこには、夜月が予想した通り、自身の母親と家族と言っても過言ではない女性二人が朝食を食べる為に集まっていた。
「おはよう」
「うん、おはよう夜君」
「おはよう、夜月」
「おー! おはよう、夜君」
彼女達は、それぞれに返事を返した。
その後ろで、エルティカイン、エレナ、セレナは、夜月以外の初めての異世界人だ。夜月は、異世界に染まりきって化物なので、エルティカイン達からしたら、異世界人という感じが無いのだ。なので、夜月の母親達を興味深げな目線で見ていた。
夜月は、彼女達を見て、やっと会えたという思いから、涙ぐんだ。これが、夜月が長年待ち望んでいた、再会の瞬間なのだから。
「「「ーーーーーーえ?」」」
そんな彼達を見つけた彼女達は、ポカンとした表情で彼達を見つめた。
「夜君、後ろの人達はお友達? あら、どうしたの? そんな泣きそうな顔して」
彼女は、夜月の母親神谷朱里。夜月と同じ黒い髪に黒い眼をしている。子供を産んだとは思えないほどスタイルが整っている美人だ。その母親は今、エプロンをして朝食の準備をしていたが、エルティカイン達を見てものほほんとしている。そうじゃ無い。もう少し他に言うところがあるだろう。
「夜月?」
彼女は、夜月の恋人であり、生まれた時からの幼馴染七瀬優凛。白銀の髪に赤色の眼をした絶世の美女だ。街中を歩けば十人中十人が振り向くほど容姿が整っている。基本的に表情は変わらないが、夜月と一緒にいる時のみ表情が変わる。肝が据わっており、今現在も驚くことも無く、疑問を持つだけで混乱しても無い様子。
「あら、夜君、愛人は優ちゃんの許可がない限りダメだからね?」
彼女は、優凛の母親である七瀬蒼花。黒色の髪に少し茶色がかった眼をしている。朱里同様、子供を産んだとは思えないほどスタイルが整っている美人だ。こちらは、一夫多妻を普通に提案してくる。いや、日本は一夫一妻だろう。
余談だが、どちらの母親にも夫は存在しない。この二人は、小学校からの親友であり、大人になってから、二人で過ごそうってなったらしい。そして、子供も好きだから、子育てがしたかった。この時代、西暦2093年には科学技術が発展しており、人工精子なども開発されていた。そして、彼女達は、人工精子を手術で受精して子供を産んだのだ。
夜月の母親達は、なかなか個性的な面々のようだ。だが、内心は結構驚いている……のかもしれない。
「あぁ、友人だ。後で紹介する。まずは、その説明をしたいからさ」
そして、夜月は椅子に座り、居住いを正した。朱里達は、夜月の雰囲気が変わったことを察して、こちらも居住まいを正し、夜月の話を聞く態勢になった。
「俺さ、さっきまで異世界に行ってたんだ」
「へぇ、そうなの?」
「夜月はすごいな」
「貴重な体験ね〜」
朱里達は、あっけらかんと夜月の言葉を受け入れた。
「……そういう反応なのか?」
「夜君は、私達に嘘なんか吐かないって分かってるから」
「私は夜月のことを信じているからな」
「夜君は昔から誠実だからね」
「まぁ、一応今から異世界の証明である魔法を見せるよ」
そう、異世界に行っていたといきなり言われたら、普通は頭の痛い子としてみる。だが、朱里達は、普通に受け入れていた。……だからなんで? 何で受け入れてるの? もっと動揺してよ。一応、夜月は魔法を見せることにした。まぁ、害が出ないような魔法だけだが。
「楽しみね」
「あぁ、地球だと魔法なんかないからな」
「どんなものなのかしらね」
「まずは空間魔法だ。これなら危険はないからな」
夜月は魔法を見せる。空中に幻想的な魔法陣を描く。そこからは青白い粒子が漂っていた。それがまた、幻想的な雰囲気を醸し出す。そして、夜月はその魔法陣に手を突っ込み、一振りの剣を取り出した。
「綺麗……」
「おぉ……!」
「まぁ! 綺麗ね!」
朱里達は、魔法陣の醸し出す幻想的な雰囲気にうっとりとした表情で眺めていた。
夜月の手に握られた剣は、剣身が赤く染まっており、これもまた綺麗だった。この剣は、万が一にも朱里達が怪我のすることのないように配慮した”血盟の魔剣”である。
「どうだ?」
夜月は、聞くまでもないと分かっているが、敢えて一応聞いた。
「すごいのね!」
「すごいな!! 他にも魔法使えるのか?」
「へぇ、すごいわね」
朱里、優凛、蒼花はそれぞれに魔法の感想を言った。でも、あっさりと受け入れ過ぎだろう。普通は混乱必至だと思うのだが。
「次は水の魔法だ」
夜月は、右手の掌を上に向けた。そして、その上に直径十センチ程の球形の水が現れた。
「わっ! 水が宙に浮いてる……」
「母さん、触ってみるか?」
「いいの?」
「あぁ」
その水はふよふよと、空中を漂い、朱里の元へと移動した。
朱里は、手元に来た水を興味深げに見つめていた。そして、人差し指を突っ込んだが、本当にただの水の感触しかない。
「魔法って、私達も使えるの?」
「私も使ってみたい!」
「魔法を使えたら便利そうね」
「また今度教えるさ」
夜月は調子が良くなり、結局全ての魔法を見せていた。当然、朱里達の安全を配慮して、怪我をしないような規模の魔法だけだが。
そして、ふと朱里の雰囲気が硬くなった。そして、夜月に問い掛ける。
「それで、夜君は、異世界でどのくらい過ごしたの? ここでは一日も経ってないから時間の流れは違うと思うんだけど」
「……向こうでは約十五年過ごした」
「「「ーーーー!?」」」
朱里達は言葉をなくした。驚きを禁じ得ない。大人にもなっていない、ただの高校生が十年を優に超える時間を家族もおらず、同郷の人も一人もおらず、たった一人で過ごすことがどれだけ大変か。
ましてや、魔法があるのだ。それに、戦争や、地球にはいないファンタジー系ライトノベルに出てくるような魔物もいるかもしれない世界。十中八九、ここ日本よりも安全な場所ではなかっただろう。
「そう……だから、最初泣きそうな顔をしてたのね……」
「あぁ。この十五年間、地球に帰り、三人に会うことを目標に生きて来たからな。感慨に浸っていたんだ」
「夜月」
「ん?」
「……夜月が何歳になっても、私は夜月だけが好きだぞ!!」
夜月のもしかしたら拒絶されるかもしれないと心の奥底で考えていた思いに優凛は気づいていた。
その言葉は、夜月のそんな思いを簡単に打ち消してくれた。そして、夜月は優凛に、優凛に心からの感謝を伝えた。
「ありがとう、優凛」
「ん! どういたしまして」
優凛は、その夜月のいろいろな思いと感謝が詰まった言葉に心底嬉しそうな笑顔をして返事をした。
「夜君、抱きついて来ていいのよ?」
蒼花も夜月の気持ちに気付いており、そんな思いを打ち消すように夜月を茶化す。だが、夜月はみんなを抱き締めていった。やっと、愛しの家族に会えたから。
夜月達は、互いにぎゅっと抱きしめ合った。夜月は、帰って来たという安心感とまた皆んなに会えたという嬉しい気持ちを込めて。朱里、優凛、蒼花は、異世界に行っていたという夜月の存在をそこにあると確かめるように。
ーーこっちには母さんがいる。それに、恋人の優凛もいる、母さんと一緒に俺達を育ててくれた蒼花さんもいる。帰らないという選択肢はなかった。
ーー戦いに次ぐ戦いの日々。戦場で死ぬかもしれないと何度も思った。だが、その度に家族を思い出し、奮い立った。あの日々は無くならない、この手は血に塗れ汚れてしまっている、だが、やっぱり俺の家族だから。
ーーただいま、母さん、優凛、蒼花さん。
そして、抱きしめ合いが終わると、蒼花が口を開く。
「ね、夜君。後ろの人達、紹介してくれるんでしょ?」
ついに、エルティカイン、エレナ、セレナを紹介する時がやって来た。
お読み頂きありがとうございます。
誤字や文がおかしいということなどがあれば報告してもらえるとありがたいです。
○追記
2021年11月2日
・余談だが、〜のところを少し詳しく直しました。
2021年11月3日
・※アムル(夜月)の口調を全面修正致しました。
2021年11月4日
・家が広島県内のところを神奈川県内に変更させていただきました。