表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/21

第十九話.魔王の所以 ーー依代ーー




「依代だと?」


 依代という言葉に、夜月の顔に影が落ちた。そして、次の瞬間には、眼に光も宿さない恐ろしい程の無という感情が顔に張り付いていた。


 リルテットは、夜月のその表情にビクッとしながらも話を続ける。その精神はすごい。エルティカインとセレナ、ティナーシャでさえ、その場で固まり、動けなくなっているのだから。リルテット程の精神力の持ち主は、世界中を探しても片手で足りる程だろう。


「うん、私達は悪霊の情報は握ってたから、相手が受肉する為の肉体を探しているのは分かってた。でも、その肉体の探し方が私達には分からない。だから、必然的に後手に回るしかなかった」


「なるほどな」


 世界魔法師協会は、過去の悪霊の討伐記録から、悪霊が自らの依代となる肉体を探しているという情報は握っていた。だが、肝心の依代の見つけ方は終ぞ分からなかった。何故なら、今までの討伐された悪霊は、今回のように依代となる者を見つけずに、魔法師に討伐されたからだ。


 それと、もう一つ有益な情報がある。その情報は、夜月の心に余裕を生んだ。それは、悪霊の依代は、同性の者しか探さないという情報だ。


 今までの記録から、悪霊は自分と同性の男・女という性を叫びながら依代を探していた。だが、今回のように依代を見つけた悪霊はいない。だから、これから今回出現した悪霊がどのような動きを見せるのかが全く分からないのだ。


「だけど、依代を手に入れた悪霊が今後どう動くのか分からない」


 リルテットは、申し訳なさを感じさせる顔で言った。でも、夜月達は、それは仕方ないといった顔でリルテットをリラックスさせるように柔らかい表情をした。夜月達も、異世界では事前の情報が無い敵と幾度と無く戦って来た。その時の経験と戦士としての勘が、リルテットの言っていることは嘘では無いと言っている。だから、信用した。


 また、これまでの会話でリルテットのことを信用してもいいと判断している。だが、間違ってもリルテット個人を信用したのであって、世界魔法師協会を信用した訳ではない。


「あぁ、分かってる。だが、依代……か。これは、急がねぇと不味いかもな」


 夜月が、少しの焦燥を露わにする。ヨヅキ達は、異世界でも何度か、依代を目的とする敵と戦ったことがある。だが、その敵は悪霊では無い為、勝手は違うが依代に関しての動向はほぼ同じだろう。


「そうだね」


 夜月達が言っているのは、依代に受肉する為の儀式のことだ。依代に受肉する為には儀式が必要となる。その儀式の為には膨大な準備が必要となるが、それは依代を手に入れる前に全て終わっているだろう。なら、後は儀式を開始するだけだ。だが、これも少しの準備が必要となる。残りの猶予も幾ばくかだろう。すぐにでも行動しなければならない。


 夜月達が知っている依代受肉の儀式はこうだ。まず、依代の身体を清らかな水で清める。その後、これは相手にもよるが、その者が思う正装を纏わせ、床に描いた円形の陣の中心に依代を寝かせる。それが終わると、受肉する本人が陣を発動させ、思い思いの詠唱を行う。これは、気持ち的な問題なので、人それぞれで、千差万別だ。そして、この詠唱が完全に終了した時、受肉は成功するのだ。


 夜月は、この儀式を止めなければならない。恐らく、もう既に悪霊の受肉の為の儀式は始まっているだろう。夜月達は、早く行動しなければならない。


 だが、その前に。リルテットのことも聞いておかなければならない。組織の依頼として、リルテットはこの場にいるのだ。勿論、悪霊討伐に向かう夜月達と共に来るだろう。ならば、リルテットの情報や戦闘能力などを把握していなければならない。その情報によって対応を変えなければいけない。リルテットを守りながら戦うのか。それとも、自身で防衛できるのかを。


 それと、これを忘れてはいけない。敵は仙氣という力を使うのだ。そしてまた、リルテットもこの力の使い手だ。先に、仙氣のことをより詳しく知っておくのも悪くは無い。


「さて、リルテット。仙氣と呼ばれる力について、もっと詳しく説明して貰おうか」


「分かった」


 リルテットは、仙氣についての詳しい説明を始めた。


「さっき言った、仙氣がほぼ世界や自然との同化ということは基本中の基本の技。仙氣の真髄は別にある」


 そう言って、リルテットはその身に、夜月達からしたら未知の力、仙氣を発現させた。それは、目には見えないが、そこには確かに何らかの力があった。


 夜月達から見て、リルテットは自然、いや微かに不自然に纏うオーラを身に纏っていた。そう、それこそが仙氣の真髄。仙氣は、界や自然との同化といった力は初歩の初歩であり仙氣の基本の技だ。


「そして、仙氣を扱う者が使う仙道という体術がある」


 この仙道というものは、幾つもの型がある。この世界には、仙氣を扱う者はそうそういない。何故なら、彼らは、仙人であり、人里には中々降りてこないからだ。リルテットのように、人の世に現れ、組織に属していること自体が極稀なのである。現に、世界魔法師協会に、仙人はリルテットしか所属していないのだ。


 リルテットは、その場で軽く仙道を実演して見せた。その型は、実戦的な型であり、仙道の中でも、攻防一体となっている型だ。だが、この若さで、この攻防一体の型を納めている仙道の者は中々いない。そして、仙道は、剣道・剣術と同じように、初伝・中伝・奥伝・皆伝がある。攻防一体の型を納めているリルテットは、皆伝まで納めている。それだけ、リルテットが優秀だということだ。


 リルテットが実演するその姿は、巫女が舞を踊っているようで美しかった。それほどまでに完成し、尚且つ無骨ながら美しく見える領域まで達している。


 軽い実演を終えたリルテットは、だが、と仙氣についての話を続けた。


「仙氣の真髄はそこじゃ無い。それは、皆伝の先にある」


 リルテットが、そう言った瞬間。リルテットが身に纏う仙氣の質が変わった。


 その身が、まるでそこにあるのが自然かのように認識し、だんだんとリルテットの存在が消えていく。


 そして、リルテットが呟き、その存在は急激に現実に引き戻された。


「認識……か」


「そう、仙氣の真髄は……違和感を感じさせないこと」


 仙氣の真髄。これは、人にとっての違和感を自然に感じさせ、違和感を感じさせないという力である。


 つまりだ。ある日突然、家の目の前に砂の山ができたとしてもだ。その山に仙氣を纏わせていれば、その山が元からあったかのように、そこにいる人達は自然に、いつも通りに生活をするのだ。


「なるほど。それは強力だな」


「えぇ。でも、一歩使い道を誤れば、危ういわね」


 エレナがいう通り、仙氣という力は、使い手や使い道を誤れば大惨事が起こり得るのだ。


 夜月は、仙氣のことも充分聞いた。なので、リルテットに、肝心のことを聞いた。


 そう、優凛を拐った悪霊の居場所を。


「後は、敵の居場所だが……分かるか?」


 夜月は、そうリルテットに聞く。それは、リルテットを試す発言のようにも聞こえた。


「うん。もう、悪霊の居所の見当はついてる」


 リルテットはそう言った。







お読み頂きありがとうございます。

誤字や文がおかしいということなどがあれば報告してもらえるとありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ