第十八話.魔王の所以 ーー悪霊ーー
「っ……何でそれをっ!?」
彼女は、夜月の言葉を聞き、今度こそ驚いた表情を浮かべ、目を見開き、思わず口を開く。その言葉は、彼女が何らかの組織に属し、その命を受けてこの場にいると言うことを裏付ける発言だった。
夜月は、彼女を見た時に、彼女に違和感を覚えた。この違和感が、優凛を拐われた時に感じた違和感と同じだったのだ。
それに、夜月のこの核心の言葉。これは、仮定のことを語っているのだが、夜月は確信を持って言っている。異世界で、夜月は暗殺術についても学んでいた。その一環で、読唇や読心、視線誘導、思考誘導、発汗や視線の動きなどから相手の思考や行動を察知するということなどの技術を会得している。今回は、視線の動きを監視しており、彼女が何かを気にするような、探すような目を周りに向けていたことに気付いたのだ。そこから、今回の事件と結びつけ、確信を持った仮定を立てることができたのだ。
夜月は、驚いている彼女を何も感じさせない、全てを見透かしたかのような眼でじっと見ている。
彼女は、そんな夜月の視線に臆し、口を開いた。
「……分かった。私の知っていることを話す」
そうして、彼女は、自分の素性や所属している組織のこと、また知っている情報などを語り始めた。
「私は、世界魔法師協会所属のリルテット・L・フェレスティア。魔法師協会のS級魔法師」
「……へぇ」
夜月の反応が一拍遅れた。魔法やその組織的存在が存在しているということは仮説を立てていた。陰陽師に政府の陰陽寮然り、日本の歴史から見ても、魔法やそれを扱う組織は確認できる。だが、あくまでも昔、それに書物に書かれている歴史だ。それが正しいということなど誰にも分からない。故に、夜月の中では仮説に過ぎなかった。
だが、そんな魔法やその組織的存在が世界規模で広がっているとは、流石に予想できていなかったのだ。
「なるほど、地球は存外ファンタジーだったんだな」
「えっ! 本当に?」
「ヘ~、すごいわね!」
夜月は、ただ事実を確認しただけのような淡々とした反応だったが、朱里と蒼花は少しワクワクしたような顔で反応していた。異世界勢の三人は、魔法があるということは常識なので、あまりそれらしい反応は見せていない。
リルテットは、三者三様の反応を見て、戸惑う。
「なら次は、俺たちが自己紹介する番だな」
夜月が、そう言って、夜月達は自分達の名前をリルテットに明かしていく。
「……そう、分かった」
そう言って、リルテットは話を続ける。
「今回は、世界魔法師協会からの依頼で富士の大樹海に住み着く悪霊の討伐の為に、ここに私が投入された」
世界魔法師協会は、魔法的に存在する悪いものを討伐を主にした組織である。そして、今回の悪霊討伐の依頼には、協会の最高戦力である、S級魔法師をここに寄越した。この意味が分からない程、リルテットも夜月達も頭は悪くない。
世界魔法師協会にとって、それほどの戦力を出すまでの強敵だということだ。
「悪霊か。なら次は、悪霊の情報だな。俺が質問していく」
「分かった」
それから、夜月はリルテットに色々と悪霊について質問していった。優凛奪還の為に万全を期す為だ。
「まずは、悪霊が使う力を知りたい」
まずは、相手の未知の力を知らなければ、対策の取りようもない。これは、あくまでも保険だ。夜月なら、そんなことを聞かなくても倒すことはできる。だが、そのせいで、優凛が危険な目に合うことは許されない。その為に聞いているのだ。
「それを知ってどうするの? あなた達は戦う術を知らないはず。一般人は戦えないわ」
リルテットは、まさか目の前にいる者達が、異世界の魔王に勇者、神だとは思うまい。だからこそ、心配の言葉が出てくる。
その言葉に、夜月は数秒黙る。そして、おもむろにリルテットの額に人差し指を当てた。リルテットの記憶を読み取る為だ。そして、言う。こいつならいいか、と。
「俺達は、魔法の存在を知っているし、使うこともできる」
リルテットが、えっ、そんなはずは、と言おうとしたところで、夜月がこのようにな、と言い、手のひらにボッと青白い炎を出現させた。
それを見て、リルテットは驚きを隠せない。何故なら、一般人だと思っていた者が魔法を使ったから。だが、それ以上に驚き、恐ろしく思ったのは、夜月の魔力だ。魔法を構築する際に感じた魔力、恐ろしい程に膨大で、精密で、静謐な魔力だった。とても、人間とは思えなかった。
リルテットが、夜月達の魔力や力に気付かなかった理由。それは、エルティカイン達は魔力が膨大過ぎて、その中にいる為感知できなかったこと。それに、夜月は魔力自体を完璧に勇者や神でさえ気付けない程に隠蔽しているからだ。
だが、リルテットも協会のS級魔法師だ。自分も、下級の者に恐れられることは多々ある。それは、酷く悲しいことだし恐ろしい。化け物を見る目で見られるから。だが、目の前の彼は、そんな恐れを感じさせず、堂々とした態度で自分にその魔法を見せてくれた。そんな彼が、リルテットには眩しく感じたし、尊敬した。
「こんな極限にまで突き詰められた魔法を見たのは初めて。すごい」
「そ、そうか」
リルテットは、感慨深げにそう言っているが、肝心の表情が全然変わっていない。相変わらずの無気力的な表情だ。流石の魔王もちょっと返答に困っている。
で、ここからが大切な話になってくる。
「それで、敵とお前が使う力は何だ? 俺達は魔力、魔法しか知らない。だが、お前達が使う力はそれではないだろう?」
「……うん、私が使う力は魔力、魔法じゃない。……でも、あなた達程の実力者が魔力以外の力を知らないなんて思わなかった」
その言葉に驚きを感じ得ないリルテット。夜月達はリルテットをも優に超える程の実力者。でも、考えればそれ程の力を持っているにも関わらず、夜月達の名前を聞いたことがない。なら、夜月達がこれほどの力を持つ理由は?
リルテットの地頭はよく、天才だ。頭は、人の数倍はよく回る。そこから導き出される答えーー
そう、夜月達は
ーー地球とは別の世界からやってきた異世界人
「……異……世界人……?」
だが、リルテットは、自分で導き出したその答えに半信半疑だ。でも、考えられるのはそれしかない。
その言葉に、夜月は感心しながら口を開いた。
「ほう。自力でそこまで辿り着くか」
「え……本当に……?」
その夜月の言葉に、リルテットは、掠れた声で言葉を返す。まさか、本当に異世界人だとは思いもしなかったのだ。リルテットが所属する組織では、通説として、異世界という存在はあるとされている。が、その存在を認識できた者は、誰一人としていない。だから、誰もが空想上のものとして扱っているのだ。そして、その空想上の存在が今、リルテットの目の前にいる。驚かない方がおかしいだろう。
「あぁ、正しくは俺の後ろにいる4人だけはな。俺は、異世界に転移した一般人だ。それと、横にいる二人は俺の親に拐われた優凛の母親だ」
「……転……移」
もう言葉も無い。その言葉を聞くだけで、規格外というしかない。理論上、異世界へと通ずる扉は開けるが、その際には膨大と言うのも烏滸がましい程の魔力が必要となる。それをここにいる者達だけで成したということだ。化け物にも程がある。
そして、リルテットは自分達の力について話し始めた。
結果、リルテットが使う力は、仙氣ということが判明した。そして、夜月達が反応できなかった理由。それは、この仙氣という力が原因だ。この力はほぼ世界や自然との同化と言っても過言では無い。だから、初見の者は誰も反応できないのだ。でも夜月は普段なら気配も感じ取れた。なのに感じ取れなかったのは、油断。この一言に尽きる。故郷に帰って来て、家族に再会し、恋人に再会できたのだ。いくら夜月と言えど、油断するなという方が酷だ。
そして、この世界には魔力、仙氣以外にも二種、力がある。それは霊気と妖気という力がある。
この世界にある力の概要を教えて貰った夜月達。そして、朱里と蒼花以外の者が少し考え込み出した答え。別に、俺達に比べたらそうでも無いな、だった。それ程までに夜月達の力は格別なのだ。
そして、夜月がリルテットに最後の質問を聞く。
「じゃあ最後に、相手の目的はなんだ?」
夜月は、この答えが知りたかった。何の為に優凛を拐ったのか。
そして、リルテットは、夜月にとって……いや敵をどん底に突き落とす言葉を紡いだ。
「……相手の目的は、依代を見つけ、受肉すること」
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