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第十七話.魔王の所以 ーー魔王の油断ーー




 夜月の怒気と威圧に当てられ、温泉街にいる人達が、どんどん失神していく。それほどまでに凶悪なものだ。夜月は、酷く合理的な人間だ。だが、一度家族のこととなれば、強い感情がその表面に現れる。今回は、その感情の中でも、最も強い、優凛への感情が引出されたのだ。夜月が、この人生で、これほどまでに感情を表に出したのはこれが初めてだ。


 家族には、何かフィルターが掛かっているのか効かないが、エルティカインとセレナは、その怒気と威圧に物理的な現象が起きているかのように、夜月に近付くことさえできない。そう、勇者や元女神でさえ、魔王に近付けない。


 エルティカインとセレナの二人は、それでも諦めず、夜月を止めようと、言葉を投げかけ、近づいていく。その瞬間に、烈風が如く、怒気と威圧が荒れ狂い、相手を問答無用で斬りつける刃となる。


 エルティカインとセレナは、時間を追うごとに、体に数々の裂傷を負っていく。エルティカインとセレナの言葉は…………夜月に届かない。


「アムルッ! 落ち着いて!!」


「落ち着いてください、アムル!! 周りに、甚大な被害が出ていますっ!」


 エルティカインとセレナは、夜月のことを思わずアムルと呼んでしまう程に、二人は夜月の怒気と威圧に緊迫していた。ここまで、怒りを露わにしている夜月は見たことがない。故に、対処の仕方が分からないのだ。


 そんな中、何も影響を受けずに、夜月に近付く影が現れた。エレナだ。暴走する夜月に、エレナが近づいていく。そして、後ろから優しく抱きしめた。


「落ち着いて、アムル」


「エ……レナ…………ぐっ!?」


 エレナに声をかけられ、その直後、急に呻く夜月。エレナが声をかけた直後、夜月の背後にいつの間にか現れていた青銀色の髪をした美女。その闇色の眼を怪しく光らせながら、彼女は、不意打ちで、夜月の首に手刀を放ったのだ。その瞬間、夜月は気を失い、急速に怒気と威圧が霧散していく。気配は尋常なく警戒感を与える程の絶世の美女。だが、そんな女を持ってしても、夜月を真正面からではなく不意打ちでしか意識を奪うことはできない。


『……すまないな、エレナ。アムル様を抑えるのに手間取ってしまったよ。アムルの威圧が強すぎてな。今の今まで、近づくことさえ難しかったのだ』


 彼女は、夜月達がいた世界レイアシアを守護する三大悪魔が頂点。青銀の髪に闇の眼を持った、世界を混乱に陥れる悪魔王ティナーシャ。夜月からは、ティナと呼ばれている。夜月の契約者の悪魔。とある事情から、夜月と契約し、仕えているのだ。今の彼の格好は、一端のメイドである。


 ティナーシャは、夜月の中に眠っていたのだ。それが今回、夜月の異常なまでの怒気と威圧を感じ取り、意識が覚醒したのだ。


 起きた直後、夜月の威圧は、彼の精神世界へまでも効果が及び、精神世界の維持にも支障が出た。その維持に加え、安易に外に出たとしても、夜月へは近づくことは不可能だと、ティナーシャは本能で理解していた。だから、夜月の中から出て来なかったのだ。夜月がエレナに声をかけられたことで、気を少しでも緩めるまで。


 そして、ティナーシャは、夜月を背に背負うと、エレナにどこに行けばいいのかを聞く。


「そうね。一旦、旅館に戻りましょうか」


 その言葉を聞いて、ティナーシャは、直ぐに歩き出す。夜月の頭の中から記憶を読み取ったのだ。世界を守護する悪魔王にとって、このくらいのことは朝飯前だ。

 みんなも、そうねと言いながら同意した。


 旅館に戻ると、ここも従業員と宿泊客全員が意識を失っていた。みんなで手分けして、少しだけ倒れている人達を整理した。そして、部屋に戻り、夜月を寝かせた。


 それから、数分もせずに夜月は目を覚ました。


「……ん……ん?」


 目が覚めた直後、なんでここにいるのか、どのような状態なのかを寝ぼけていて認識できていなかったが、だんだん目が冴えて来て、今どのような状況にあるのかを認識した。


 そして、周りに眼を向け、ティナーシャがいることに気付く。それで、自分がどうして気を失ったのかを察する。


「ティナーシャか。助かった。あのままだと、完全に暴走しそうだったからな」


 夜月は、苦笑しながらそう言う。だが、実際にあれは完全な暴走ではない。あれは、強者が持つ闘気と呼ぶべきもの、それに夜月の強大な意思が乗っただけの、ただの現象だ。あれを止めるには、夜月の意識を緩めさせ、その一瞬のうちに、化物の意識外から完全な不意打ちをしなければならなかったのだ。そして、不意打ちができ、尚且つ夜月の意識を失わせる程の攻撃力を持っているのが、ティナーシャだったのだ。それを、夜月は一瞬で理解した。


 夜月のその言葉に、ティナーシャは微笑みながら、勿体無きお言葉、ありがとうございますと答えた。


 エレナ達に対する言葉遣いや態度とは真逆だ。まぁ、ティナーシャは、夜月の専属メイドなので当たり前のことなのだが。優凛、朱里、蒼花は目を白黒させているが、夜月と異世界勢の三人は、当然っといった態度でそのまま話を続けている。


『ふふっ、ここまであっさりと起きられますと、悪魔王としての自信を無くしてしまいそうです。でも、アムル様といると楽しいですけどね』


 さて、と夜月が言うと、全員が居住まいをを正して、机を囲んで座る。


「優凛が連れ去られた。完全に油断してたな」


「えぇ、私ですら気配を一切感じなかったわ」


「うん、俺もだ」


「すみません、私もです」


 異世界勢の三人は、申し訳なさそうに言う。だが、それは夜月もあまり変わらない。夜月も優凛がいなくなる瞬間に僅かな気配を感じ取っただけだ。夜月ですら、この有様だ。気配を感じ取れという方が酷だ。


 朱里と蒼花は、顔を青くしていた。無理もない、自分達の娘が連れ去られているのだから。


「どうしよう、優ちゃんが……」


「どうするの、夜君……」


 朱里は不安そうに夜月に聞く。どうするのと聞かれた夜月は、明るい声で大丈夫だと答える。


「優凛は俺が絶対に助け出す」


 そう自信満々に言う夜月に、異世界勢の三人が疑問の表情を浮かべる。ティナーシャはその疑問の答えを知っているようだ。普通に平常運転で、夜月のすぐ後ろに控えている。


「でも、ユウリの気配は感じないわよ?」


「うん、それに拐った奴の気配も知らない」


「えぇ、私達には敵を探す手札が一つも無いのです」


 そんな不安な表情と言葉を溢す三人に対して、夜月はニィッと笑みを浮かべ言った。


「いや、ヒントはある。正確に言えば、この旅館に来た時に、そのヒントは既に見つけていた」


 そうして、夜月はティナーシャの耳元で何かを小声で呟き、ティナーシャが部屋から出て行った。


 ティナーシャが出て行き、先の会話で幾分か落ち着いた朱里と蒼花が夜月に問う。


「ねぇ夜君。あの娘は誰なの?」


「すごい美人さんね〜」


「あぁ、彼女は俺が契約している異世界の悪魔だ」


 その言葉に二人は目を輝かせる。

 そして、二人は、ティナーシャが現れた時から抱いていた、純粋な疑問をぶつける。


「ティナちゃんって、どこにいたの?」


「俺の精神世界だな。これは、人は入れないが、悪魔とかは入れるんだ」


「へ〜、すごいわね〜」


 そんな話をしながら、みんなでティナーシャの帰りを待っていた。




  ◇◆◇◆




 数分後、夜月達の目の前には、一人の女性が座っていた。金髪に淡い青の眼をした北欧系の外国人。そんな彼女は、つい先程、意識を回復された状態でティナーシャに、この部屋に連れて来られた。


 彼女は、何を考えているか分からない無気力な表情で夜月を見つめていた。


 彼女に、夜月が声をかける。


「さて、お前がここに連れて来られた理由は分かるか?」


 彼女は、首をふるふると横にふる。だが、夜月は彼女は何らかの情報を持っていると確信した上で、言葉で彼女を追い詰めていく。


「もう一度聞くぞ? お前の組織と今回の件に関しての情報を俺に教えろ」


 夜月が、組織と言葉にした瞬間、彼女は動揺した。ここにいるのが夜月達でなかったら彼女の動揺には気付かなかっただろう。それだけ、動揺した動きが少なかった。これは確実に訓練されている者の行動だ。この行動で、夜月の確信はさらに深まった。


 夜月は酷氷な笑みをその顔に浮かべた。


 そして、核心に迫る言葉を発する。


「俺の女が異界に連れ去られた。一瞬気配を感じたが、恐らく霊の類いだろう。心当たりはあるか?」


 ーーあるだろう? 


 ーー何故なら、お前はそいつを捕獲するか討伐する為にここに派遣されたのだから。







お読み頂きありがとうございます。

誤字や文がおかしいということなどがあれば報告してもらえるとありがたいです。


次話からは、更新を最低、一週間に一回にさせていただきます。


一章が終わった時点で、登場人物の紹介を上げたいと思っております。登場人物について、何かこれが知りたい! と思う情報があれば、感想やメッセージに送っていただければありがたいです。


○追記

2021年11月30日

・ティナーシャの髪や眼の色『黒と紫』だったのを、『青銀と闇』に変更しました。

・ティナーシャが、夜月の配下という設定を無くしました。


2021年12月11日

・『異世界レイアシア』のところが、『異世界ルーネディア』となっていたので修正しました。

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