第十二話.魔王の所以 ーー出発ーー
旅行出発当日。
「よし、これでいいな」
早朝六時に夜月は目を覚ました。起きて、着替えなど諸々の準備を終えた夜月は、玄関にキャリーバックを置き、自分の部屋に戻った。
自分のベッドでは、まだ優凛が熟睡している。昨日は、何か考え事をしていた様だし、今日の旅行が楽しみで少し興奮気味で寝付きが悪かったのもある。
優凛は、結構寝相が悪い。まだ肌寒い季節、優凛は自分から剥いだ布団を「うぅん……」と言いながら手繰り寄せる。そのパジャマは、あられもない程にはだけてしまっている。
「とは言え、もう起こさねぇとな」
家を出るのが、七時なのだ。もうそろそろ、起きないと、出る時間に間に合わなくなる。幸い、優凛は女子にしては、準備の時間が短い。
「ほら、優凛。起きろ、もう朝だぞ」
夜月は、優凛を揺すりながら声をかける。ちなみに、エルティカイン達が相手だと、頬を叩いたりする。さすが魔王様だ。
数秒して、優凛が目を覚ました。
「……ん…………おはよ」
まだ寝ぼけている様だ。優凛は、そのまま夜月の方に倒れ込むと、そのままキスをした。
「……んっ。えへへ」
優凛は、自分からしたそのキスが嬉しかったのかふにゃっと笑う。夜月は、その魅力的な笑顔に癒されながら、優凛を抱っこして、起き上がらせる。
「ほら、着替えるぞ」
「ん、任せた!」
そう言うが否や、優凛は、ばんざいをして、着替えさせてもらう姿勢となる。夜月は、そんな優凛を見て、仕方ねぇなと言い、優凛を着替えさせた。そして、お姫様抱っこで洗面所まで連れて行き、洗顔などをさせ、夜月達の準備は完了した。後は、旅行の荷物を玄関に置いて、リビングに行くだけだ。
優凛の荷物も玄関に置き、準備を終えた二人は、一階のリビングへと向かった。リビングには、朱里と蒼花、エレナが準備を終えて、くつろいでいた。
先に起きて、リビングでくつろいでいた朱里達三人。エレナは、朱里と蒼花に、まだ教え切れていなかった、夜月と優凛の幼少期のことを教えてもらっていた。リビングに入った瞬間、夜月と優凛は膝から崩れ落ちた。何と言う羞恥プレイなんだと。
「おはよ」
「おはよう」
数秒して、再起動した二人は、おはようと言いながら椅子に座る。そして、テーブルに朱里と蒼花が用意してくれたトーストにバターを塗り、食べ始める。二人とも、若干急ぎ目で食べ、数分で食べ終わる。
「二人共、コーヒー飲む?」
朱里が、夜月達に食後のコーヒーがいるかどうかを聞く。
「あぁ、ブラックで頼むよ」
「私も同じの」
朱里はキッチンへと向かい、コーヒーメーカーで二人のブラックコーヒーを作る。そして、出来上がったコーヒーを二人の前に置いた。
「はい、どうぞ。二人共」
「あぁ、ありがと」
「ん、ありがと」
夜月と優凛は、コーヒーをズズッと一口飲み、一息ついた。
「ふふっ」
「どうした?」
優凛が急にくすりと笑った。
「いや、こうしてると夫婦みたいで嬉しいと思ってな」
「……そうか」
「ふふふっ、夜君たら、照れちゃってかわいいわね」
コーヒーを二人並んで、ゆっくりと飲む。確かに、仲良しな夫婦の姿そのままだ。それが、優凛には嬉しかったのだ。これには、流石の魔王様も赤面する。返事を返すのが一杯一杯だ。そんな、夜月に母親の朱里はほっこりとしつつ、夜月を可愛がった。
「優ちゃん、楽しそうね〜」
「ん、久しぶりの旅行だからな。それに、夜月が一緒だったら何でも楽しい」
「夜君、愛されてるわね〜」
そうして、談笑していると、エルティカインとセレナもリビングに入って来た。
「「おはようございます」」
二人は、夜月と優凛の前に座り、テーブルに用意されたトーストを頬張る。出発する時間が近い為、若干急ぎ目で食べている。
「「ご馳走様でした」」
二人が食べ終わり、旅行の準備はほとんど整っているので、後はみんなで荷物を車に積んでいくのみだ。その荷物も玄関に置いてある為、スムーズに準備は済んだ。
「今日、俺は運転しなくていいんだよね?」
「あぁ、こっちで初めての旅行なんだ。道中くらい楽しんどけ」
夜月は、エルティカイン達は朱里と蒼花とすでに親交を深めているが、まだまだ覚え切れていないこの国の常識や世界の歴史を覚えれれば得だと思っているのだ。それに常識を早く覚えてくれないと、少し不安なのだ。まぁ、何か起こしたとしても、魔法で何とかできるが。
「分かった。なら、俺達は楽させてもらおうかな」
夜月達の家から熱海まで車で約一時間弱だ。夜月一人で運転できる。
一時間も車の中で過ごすのは暇なので、最初に、最寄りのスーパーに寄り、お菓子やジュースを買うことにする。
「何を買うかな」
「私は、クッキーとカフェオレだな」
「なら、俺も同じのにするか」
夜月と優凛はクッキーとカフェオレ、朱里と蒼花はみんなに分けれる飴とコーヒー、エルティカインはグミと炭酸、エレナはビスケットにイチゴミルク、セレナはチョコにカフェオレを買っていた。
みんなそれぞれ、お菓子とジュースを買い、出発する。直ぐに、高速に乗り、後は熱海付近まで一直線だ。
「日本で有名な名剣ってあるんですか?」
「そうね〜、一番有名なのは天下五剣かしらね〜。私はその中でも、数珠丸恒次が好きよ」
「見てみたいですね」
「ね〜」
「この伊勢神宮っていうところには言ってみたいですね」
「そうね。私達も行ったことなんてないから、いつか行きたいね」
神谷家と七瀬家はサブカルチャーにも詳しいのだ。
夜月も、この話を聞きながら、いつかは伊勢神宮には行かないといけないと思っていた。異世界には、神がいる。なら地球にも神話で語られる神は存在すると、夜月は仮定しているのだ。だが、待機中の魔力濃度は低く、歴史から見ても、御伽噺や神話以外に魔法的存在を使う組織が実在しない。これらから、一度天照大御神を祀る神宮に行き、そこに神の魔力の残滓が存在するのかどうかを調べたいのだ。夜月は気になったことややりたいことは、暇を惜しんでやる。それは時々、優凛や朱里に強制的に終わらせられる程だ。
「なら、また今度な。今はこっちを楽しまねぇとな」
そう、今は熱海温泉の旅行なのだ。他の場所を考えず、こちらを楽しまないと損だ。そう考え、みんなは温泉旅館に行ってからのことを話し出した。
「温泉って何の種類があるのかしら」
エレナは、温泉の種類やその効能が気になるらしい。
「あるわよ〜。美肌効果や疲労回復の温泉があるのよ」
「美肌効果のある温泉はいいですね」
女性は、美肌効果などに敏感だ。確か、今日泊まる旅館の温泉には、美肌効果のある源泉の流し湯があるらしい。
そんな話を前で聞きながら、夜月は優凛と二人で話しながら運転していた。
「はい、あ〜ん」
優凛は、袋からクッキーを出し、夜月の口元に運ぶ。夜月は、運転をしており、手でクッキーを食べられないからだ。まぁ、普段からこんなことをしているが。要するにラブラブってことだ。
夜月は、クッキーを優凛の指から口で取り、食べる。
「美味いな」
「ん、美味しい」
甘々な空気だ。後ろの人達は、二人を暖かい目で見ている。エレナは羨ましそうな目で見ていたが。
そして、一時間が経ち、高速を降りた。ここから夜月達が泊まる旅館は近い。そして、目的地が近くに連れ、エルティカインはうずうずし始めていた。温泉オタクの性だな。エレナとセレナも、色んな効能のある温泉に興味津々で目をキラキラさせている。
そして、夜月達は今日から十日宿泊する熱海の温泉旅館『富士の里』に到着した。
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