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第十一話.最強の帰還 閑話 ーー七瀬優凛ーー




 ーー確か、あの時だったか。夜月と優凛が互いに異性として意識し始めたのは。


 夜月と優凛が、小学五年生の時の頃。


 とある小学校の教室。三人の女子生徒がいた。


「七瀬さんってさぁ、目障りなんだけど」


「そうそう、なんで生きてるの?」


 優凛はいじめられていた。その圧倒的美貌が故に、女子達からは疎まれていたのだ。彼女達が思いを寄せている男子達が優凛に首っ丈だからだ。


 このいじめは、一年前から続いている。当時は内気だった優凛は、周りに助けを求めることができなかった。


 それが、ますます、彼女達のいじめを助長させた。トイレで水をかけたり、物を隠したり、精神が疲れる様な醜い罵り等々を受けていた。今は、彼女達のボルテージが上がっているのか、カッターをジャキッと出して、刺そうと脅している。


「ヒッ…………誰か……助けて……」


 優凛は、彼女達とカッターに怯え、か細い声しか出ない。


 彼女達は、そんな優凛を見ながら嘲笑う。


「ハッ! 来るわけないじゃない。あんたの味方の女子なんていないんだからさぁ!」


「いっそ哀れだよね~。かわいそうっ、な~んちゃって! キャハッ!!」


「じゃ、いくよ? きれいな声で泣き叫んでね?」


「ヒッ! 誰かっ……誰か助けてっ!!」


 彼女達は、狂気的な笑みを浮かべながら、優凛の腕にカッターが振り下ろす。


 優凛は、咄嗟に目を瞑り、来る痛みに備える。だが、待てど待てども、切られた様な痛みは全く来ない。


 優凛は、恐る恐る目を開けた。


「大丈夫か? 優凛」


 目の前には、夜月がいた。彼は、右手でカッターを振り下ろした少女の腕を力強く、それも彼女の骨が折れそうな程の力で握り締めている。


「…………夜……君?」


 優凛は、夜月の登場に不意に涙を流した。それだけ彼女達の行動が怖かったし、夜月が助けてくれた安堵感が一気に押し寄せたのだ。


「いっ、痛いっ!! 誰よ、もう……って神谷君っ!?」


「っ!?」


 突然の第三者の登場に彼女達は驚いている。


「あっ、あのね、神谷君っ、これは……そのっ、違うのよ! 神谷君がこんなやつと仲良くしてるから……」


 彼女は、苦しい言い訳をし始めた。彼女は、夜月のことが好きだった様だ。でも、夜月は優凛と毎日一緒にいる。それが当然、当たり前だと言う様に。彼女には、それが許せなかった。自分の思い人の隣で楽しそうに笑って過ごしている姿が。本当なら、その人の隣は私のものなのに! と。


「へぇ……何が違うんだ? それに、俺が優凛と仲良くしようが、赤の他人のお前に言われる筋合いはねぇよ、名前も知らないクソブス子さん」


「……ぁ、あぁぁぁ! うあぁぁぁぁぁぁ!!」


 その言葉は、ボルテージの上がっている彼女にとって、暴走する引き金となった様だ。夜月に握り締められた腕を振り払い、そのカッターを夜月に向けて振り下ろす。


 夜月は、冷静に彼女の腕を(はた)き、カッターの切っ先を逸らす。その切っ先は、床に刺さった。そのまま、彼女の腕を取り、関節を押さえつける。そして、カッターを取り上げ、彼女が取れないようなところに投げ飛ばした。


「ぐっ……なんでっ! なんで神谷君はこの女の味方するのよっ!!」


 彼女は、くぐもった声を出しながら、疑問を口にする。


「優凛は幼馴染だからな」


 そう答え、夜月は口を彼女の耳元に持っていき、底冷えする様な、ぞっとする冷たい声で囁いた。


「……今回は見逃してやる。だが、次、優凛に手を出そうとするなら……分かってるよな?」


 そう言って、夜月は優凛を安心させに行った。その隙に、夜月に怯えた彼女達は、過呼吸気味になりながら逃げていった。


「優凛、大丈夫か?」


 夜月は、心配そうな顔をして優凛に近付いた。夜月がこの場面に出くわしたのは、必然だ。最近の優凛の様子がおかしかったのに気が付き、優凛の周りを探っていたのだ。


 いじめを止めるには、正義感で止めるのはよくは無い。止めるには、元を叩けばいいと思ったのだ。そして、今日ついにいじめの主犯格が優凛をいじめている場面に出くわすことができたのだ。


「夜君……こわかった…………」


 優凛は、先程の彼女達の剣幕に怯え、震えていた。それを見た夜月は優しく、抱きしめた。


「もう、大丈夫だ。これからは、俺が守るからな」


「…………うん……ありがとう……」


 優凛は、夜月に抱き付きながら大声で泣いた。


 そして、この日から、優凛の隣には、常に夜月がいるようになった。



 これが、優凛が夜月を異性として、意識し始めた時だった。




   ◇◆◇◆




 熱海温泉旅行前日の夜。


「ふぅ……」


 優凛は、いつも夜月と一緒に寝ているのだが、今日のこの時間だけは、自分の部屋のベッドに寝転がって休んでいた。


「はぁ、やっぱり夜月はかっこいいよな……」


 優凛は、数日前、夜月が異世界に行っていたという発言の日からのことを思い出していた。


 夜月は、エルティカインとエレナ、セレナを連れて帰って来た。三人共、現実離れした美貌を誇っていた。まぁ、優凛もそうだが。


 それに、夜月も覇気を纏い、優凛の体感的には前日より遥かにかっこよくなっていた。


 夜月の、異世界での話を全て聞いた。

 それは、とても過酷なものだった。夜月が優凛に話したのも、優凛が夜月の特別だからだ。夜月の過去の話は、エレナ達でさえ知らない。


 異世界での生活の中、夜月は心に傷を負っていた。それも、優凛以外では修復不可能な程に……。


 その過酷な話に、優凛は涙を流した。流さずにはいられなかった。


 優凛は、夜月をその胸に抱き、心の中にある苦しさをできるだけ出させた。夜月は、五分以上、優凛の優しい心音を聴きながら、泣き続けた。


「これからしっかりしないとな」


 今まで、しっかりしていなかった訳ではない。だが、気を抜くと夜月に置いて行かれそうだから。それに、夜月の苦しみを緩和できるのは優凛しかいない。


「私は夜月を守る。そういう約束だからな」


 優凛の最終目標は、夜月をその苦しみの中から救い出すことだ。当然、救い出せないとは言わない。


「ハーレムか」


 優凛は、夜月に関しての女性関係の常識は、存在しない。そして、それを優凛は自分で理解している。その為、優凛はハーレムを許容できるのだ。


 そして、思い出や考え事が終わり、優凛は微笑んだ。


「ふふ、明日から楽しみだな」


 明日からの旅行に思いを馳せていた。そして、優凛は、枕を持って夜月の部屋に移動した。


「夜月、一緒に寝よ」


「あぁ、いいぞ」


 二人は、仲良く布団に入った。


 優凛は、布団に入った直後、夜月に抱きつき、言った。


「夜月」


「ん?」


「私は、ずっと夜月の隣にいるからな」


「あぁ、ありがとう」


 夜月と優凛は、優しく笑い合った。







お読み頂きありがとうございます。

誤字や文がおかしいということなどがあれば報告してもらえるとありがたいです。


これで、最初の導入部分的な物語は終了です。次の話から、どんどん物語が進んでいきます。

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