struggle dollストラグルドール―京花の目覚め―
ストラグルドール 2作目!前作で復活を果たした京花の物語、京花は真実にたどり着けるのか。
どこだここは。
狭い・暗い・どこから出るんだ。閉じ込められている…イヤ違う、私はここで待っているんだった。そう、私の相棒はどこにいる?
ちょつとづつ思い出してきた。何と言う名前だったかな、あの博士?がここで待っていろと言ったんだ。時間になると開くって言ったのか、相棒から連絡が入ると開くと言ったのか?どっちだったか忘れちゃったなあ。
相棒はもちろん…覚えてる、
対戦闘用人形‐ストラグルドール プロトタイプ型式03カラーコード‐黒‐
名前は「マルキュリアル」
そうそう。あの博士は私と、マルキュリアルを自分の欲望のためだけに改造した。好き放題デザイニングして何に使うんだかわからない機材を取り付けて、とんでもなく非人道的なプログラムを入れて、ありったけの悪意を私に押し付け「この世で最高の破壊神」に変えると豪語していた。しまいには「お前が次に目覚める時は最強の破壊神となり全てを滅するのだ!」とか言っていた。
バカバカしい、自分を何様だと思っているんだ。本当に神にでもなったつもりだったのだろうか?思い上がっているから自分のミスに気付けないんだ、ソレは、このプログラム最大のミス。ほんの些細なイージーミス。それを見つけた時は驚いたよ、本当に嬉しくて笑い出しそうだった。
そこから私とマルキュリアルは、博士を出し抜くためにありったけの知恵を絞って考えた。こうして出来た2人のシナリオは完璧、最高に上出来パーフェクト!と思いたい。
あの博士みたいに頭が良い訳では無い、それでも絶対に阻止して見せる。最悪私達の命を賭けても。
博士の悪巧みは二つの大規模工業施設を使いどちらかが破綻しても、どちらかが成功するように仕組まれている。私達は博士が施設間を往復するのを利用し、システム改ざんを行った。博士が出掛けると同時に虚偽システムを発動、気づかれぬように少しづつプログラムを解析・改ざんする。さらにシステムに分岐を増やして、より発動し難くし時間を稼ぐ。最終的には発動するが、そこに私達の最大のトラップを仕掛けた。そんな事とも知らないで、今頃向こうの施設ではあのイカれた博士の亡霊が死んだ娘の幻影を追って獲物を物色している事だろう。
マルキュリアルの常駐する向こうの施設では、彼女が餌となり調査に訪れた人間や迷い込んで来る人間を捕獲する。その人間達は幾つかの世界大戦を生き残った者、博士の条件に会う人間を選別し該当者を綿密に精査。博士のお眼鏡に叶えば対象者として言葉巧みに地下の施設へと誘い手術台へGo!マルキュリアルの中に保管されている娘と博士の遺伝情報を最も状態の良い躯体に移し復活させる。さらに世界を娘の、イヤ自分の好きなようにデザイニングする。そこは、娘と2人だけで暮らす世界。他の人間は要らない…?
そして、私の居る施設はマルキュリアルが何らかの影響で活動を停止した時に私が復活し、世界をもう一度破壊・再生させるための物。
私に全てをぶち壊させ新しい世界へと作り直させた後、私とマルキュリアルの躯体を使いまた自分達は再生の時を待つ。
自分の欲望それだけのために世界を破壊させる?あり得ない、人の命をなんだと思っているのだ。私達は、博士の計画通りに動いている風を装おって破綻へと導いている。秘密裏に少しずつ、ばれないようにゆっくりと方向を変え博士の計画を違えて行く。私の目覚めはそのハジマリ、私は破壊神にはならない。その為に私はこうして目覚めた。さあ博士、ショーを始めましょう?
≪おはようございます。ストラグルドール零式プレミアムタイプ―システム京花―チルドアップを確認しました。バックアップを開始します。
〈シャドウシステム開始、響プログラムアップします〉≫
≪…40…70…90…100%≫
≪電力供給を再開します≫≪10‐60‐100%≫
≪現在の身体状況を確認しています≫≪良好≫
≪感知システムの状態を確認します≫≪良好≫
≪周辺機器とのカスタム状態を確認します≫≪良好≫
≪通信システムの状態を確認します≫≪良好≫
≪映像システムの状態を確認します≫≪異常感知≫
≪映像に関する何らかの異常が発見されました、いかがいたしますか。≫
「映像はどーでも良い、マルキュリアルと通信できる様にして。それと、私が眠りに付いてから何年たっているの。」
≪了解しました、音声通信のみ開始します。
経過年数は、25,355年となっております。通信を開始します。
〈シャドウシステムからデータ転送開始〉≫
25,355年…思ったより経過している。
「マルキュリアル聞こえる?聞こえたら返事して。」
「「お目覚めですか京花。確認作業は終わりましたか?」」
「あー良かった生きてた。こっちは大丈夫だよ、映像通信に何か異常って言ってたけど…それは後で見とくよ。そっちはどう?」
「「こちらのシステムは開始しています。」」
「本当に?じゃ、対象者がいるの?」
「「ええ、やっと人間が訪ねてらっしゃいました。とても可愛らしい小さな御客様、とても利発でらっしゃる。なんだか貴女に似てるのではないかしら。」」
良いタイミングに目覚めたようだ。
とりあえず私の出番は最後、まだ時間はある。
〔?ノイズか?何か聞こえたような…〕
博士のシステムが起動してマルキュリアルが何とかその人間を助けるのを待ってるしかない。マルキュリアルは一度活動を停止するはずだ、ここからは一つの賭けどっちに転ぶかはその人間次第。この施設からあっちの施設までだいたい3時間、私は下手に動けない…と言うか出られない(笑)
「私に?似てるの?あんたがそう言うなら、似てるのかな。会うのが楽しみだよ。」
「「後は時間までお待ちください、こちらからの音声は流しますがそちらからの音声は切っておいてください。」」
「了解。じゃ、また後で。幸運を祈ってる。」
マルキュリアルとの再会はまだ先だ。ここからが本番、すごぶる面倒でもやるしかない。しかし、こんな事になるなんてあの時は思わなかった。
娘も旦那もとっくに死んでしまった。私だけ生き残った…否、生き残ってはいない。私は死んだはずだった。それがどうして…まだ、生きている…いや厳密には生きてはいない。あれ?何だっけ…
〔何だか記憶が曖昧だ、何かオカシイ〕
『スタイルアーミー特耐―タイプAAA壱式』だったか?簡単に言うと、ストラグルドールのベースにするのに素晴らしく向いてる(笑)らしい。どこで聞きつけたのか、あの博士は嫌な話を持ち出してきた。黒歴史?って言うのか、正に真っ黒。正直ヘドが出る!
しかしやっぱり思い出せない、あのイカれた博士の名前はなんだったかなぁ。
初めて会った時から言動のおかしな気味の悪いヤツだった。
『お前が死んだらその体を売ってくれ。残された家族の今後の生活は困らないぞ、そのくらいの金は出せる。どうだ?』
薄ら笑いを浮かべながら最低の提案をしてきた。
アハハ家族なんて残っていやしない。みんな先に逝ってしまった。私の居住区は第1次大戦の第一波にやられた、私はたまたま仕事の都合で医療区の一番奥「別離病棟特別観察室」に出向いていた。そこは、都心からだいぶ離れた山の中。そう、たまたま。家は、町だった所は何も残ってなかった。破壊され、何も無い。温厚なんて言われてた私も、怒りに我を忘れた。
あんな衝動に駆られたのはいつぶりだろうか?
自分が戦闘に向いているなんて思いもしなかった。能力も技術も、ただ普通に生きてきただけだったのに。
でもその瞬間…私の中の人である部分は死んだ。ただの殺戮人形になった私が向かった最前線は死屍累々、ただただ敵を討つ。誰にもらった物か何処で拾った物か最後に持っていたのは日本刀と高威力レーザーガン二挺、そんな物だけで何百人もの敵と相対していた。私は結局、敵方陸上歩兵部隊一番隊のほとんどを狩った。空中部隊もいたはずなんだが、そっちは誰かが対応したんだろう。
〔何かがオカシイ何だ?〕
普通なら二番隊が直ぐに来るはずだった…だが来なかった、いや来れなかった。当時の総督は随分狡猾だったのだな、私が一番隊を足止めしている間に追尾型広範囲レインランチャーをセットし二番隊を殲滅していた。
〔本当の事か?ホントウニ?〕
一番・二番隊の双方を失った敵陣営は混乱し、国のトップ連中は逃げ出した。そうなれば、こちらの勝利は決まったも同然。それなのに、私は更に敵を追い詰めた。
指揮するモノを失った戦闘部隊は弱い、ずる賢い上役は逃げそれを見た歩兵達もまた散り散りと逃げ出す。結局、私は一人敵地に居た。たった一人、私の廻りは死体の山だけ、勇気ある者の死体だけ残るモノは何もない。
〔事実か?本当はドコニアル〕
そう、ただの殺人…ただの人殺し。ハハハ私が死んでも娘に会わせる顔が無いな、ごめん。
その状況でも私はナゼか死ねなかった。
〔死んだ?私は何だ?〕
怪我は酷かった…右目は潰れていた、左腕はどうしたモノかほとんど肉塊と化していた、腹には穴が開いて内臓の半分が壊死していた、左足は無かった…ナゼ生きてる?そのまま意識を失った…ところまでは覚えてた。次に目覚めたのはカプセルの中。その時にはもう、ストラグルドールになっていた。9割機械、1割人間…残り1割では、人間とは言えないか。
―命ヲ助ケルためニハこうするシカなかった―
助けてくれなくてもよかったのに…
結局、あの博士と契約した。生きている。
〔システムエラーか?〕
だから、私の意識を残す事を条件にこの体を差し出した。この世界をずっと見続ける、贖罪にはならないかもしれないが。自分の心で責め続けられながらその結末まで見続ける。でも、博士の計画を知ったときは許せなかった、あのイカれた博士は悪魔だ。
自分の娘と自分だけの世界?なんだソレ、人を人とも思わない所業。人の命を何だと思っているんだ、だから。どんな事をしてでも止める。殺人鬼の私が言っても説得力ゼロだけど。でも、マルキュリアルと約束したんだ2人でアレを止めると。
マルキュリアルはあの博士の娘だ。博士は気付いていない、マルキュリアルも言う気は無い。彼女がどうやってマルキュリアルを乗っ取ったのかは知らない。初めて会った時に‐私には秘密があるの‐なんて言っていたが…詳しくは聞かなかった。
彼女は私に、自身が高井田響‐たかいだ ひびき‐で有ることを証明して見せた。それだけで良かった、私はマルキュリアルを信じた。
しかし、マルキュリアルは博士の罪を自身で全て被ろうとしている。全ての罪を着て逝くつもりだ、だけど…私は許さない。マルキュリアルにも生きてもらう、私の完璧な計画は無事にすすんでいる。マルキュリアル本人も知らない秘密。さあ見ものだよ(笑)、可愛い対象者ちゃんも待ってろよ。私は私の全力でみんなを救う。
≪マルキュリアルからの信号ロスト、カウント開始します。≫
「システムコード‐ノアール‐開始。さあここからは私のショーの始まりだ。」
まずは向こうがどうなっているか確認しなければ。
「向こうと通信を再開する、通信オン。」
≪コードノアール開始、通信を再開します。
〈1stシステムロード完了〉≫
「誰か聞こえるか?マルキュリアルは死んだのか?おい!返事をしろ!聞こえないのか!」
さてさて、可愛い対象者ちゃん頼むから返事をしてくれよ。
そーだ、高井田武芳だ思い出せた。(笑)
『…?話せるのか?』[…OK…]
微かに話し声が聞こえる…言葉は変わってないのか?最悪翻訳システムがあるはず。
「やっぱり誰か居るな、なんかしゃべれ!おい!」
『そちらは誰だ?』
「おー、やっと通じた。マルキュリアルは死んだのか?」
『ああ、で。そちらは誰だ。』
「私の名前は小鳥遊 京花‐たかなしきょうか‐。高井田がプログラムをミスってくれたお陰で順次万全よ(笑)…。」
マルキュリアルは何処まで話したのか、連絡が来ない。おかしい、なぜコイツの情報が入ってこない?まさか…本当に死んだのか?返事をしてくれ。
『お前は破壊者ではないのか?』
なんだ?この対象者は何者だ普通の人間ではないな。落ち着き過ぎている、調査隊か?いや、マルキュリアルは可愛いと言っていた…。
「(笑)残念、そんな気はない。でも、出してもらえたらありがたいわね、ここ中から開かない箱みたいなのに入れられてて出られないのよ。」
どんなヤツだか知らないが、早く会わねば。マルキュリアルも回収しなければ。何が起きている?早く…
『?たぶん時間にならないと開かないのだよ』
やっぱりそうかな、やっかいだが待つしかないか。電力も惜しい。もう一度マルキュリアルの方と通信してみよう。
こいつらの到着も、解錠時間になるのも
「あんまり変わんないね。でも、とりあえず待ってるよ。何とか掘り出してくれ。」
!微弱だか信号が出始めた。大丈夫だ。
『お前、いったい何処にいるのだ?』
分かるわけ無いだろう、あれから25355年経ってる、地上は様変わりしてるだろう。私の記憶とは違う、頑張って探してもらおう。
マルキュリアル…応答してくれ。
『とりあえず向かう。』
良し。待っている間に、確認しよう。
何が起きている、危険だか向こうのシステムと直接通信するしかない。
「マルキュリアル…一体どーした。」
2時間弱、時間の限りやるしかない。
「向こうのシステムから映像と音声を搾取できるか?セキュリティは…解除するしかないか。」
≪システム間セキュリティ解除、映像・音声の回収開始します。≫
何処まで終わったのか、マルキュリアルはどうなっているのか。早く…まだか。
≪ジャマーシステムが介入しようとしています、いかがいたしますか。≫
ジャマー!そんなモノ付けていたのか、狡猾過ぎる。まだ、色々有るかもしれないな。
「退けられるか?いや、上手くすり抜けろ。」
≪ダミーシステムにて防衛開始します。続いてシステム間ブリッジを開設、侵入口解放搾取開始します。≫
同型システムを入れたのに、あっちだけアップデートしてたのか。さすがあの博士、抜け目が無い。でも、私だって負けてない。コイツのシステムは博士のシステムをベースに、パターン解析をフル活用して私が1から組み直した。博士のやりそうな事は網羅してるはず、まあ絶対では無いけどね。
微弱な電波だが出てはいる、お願いだ応答してくれ。
≪搾取完了します。完了と同時にブリッジを解体、侵入口を閉鎖します。≫
良し、何が起きたのか分かれば…
「どうだ?何が起きたのか見せてくれ。」
≪システムアップ、ウイルスバスター開始します。≫
落ち着け!大丈夫だマルキュリアル頼むから生きていてくれ。
≪映像・音声の再生を開始します。≫
―システム管理用映像―
対象者確認から録画を開始。対象者が施設より退場するまで。
約3時間の記録、大体はわかった。結局、さっき話した対象者はどこぞの調査隊員のようだ。成人女性?響には似ているがしかし、小さくないか?今は皆あのサイズなのかな。聞いたら怒られるかもしれないが、会ったら聞いて見よう。彼女のおかげて博士は消失した、マルキュリアルが利発と言っていたが…あれはたいした策士だ。おそらく戦いなれている、身体能力も高いし狡猾だ。
「やっと死んだのか…」
≪博士の消失を検索しますか?≫
ん?確認は必要か、システム内を全検索させるか。
「そうだな、システム内全検索および建物内の全検索。追加で全ての施設内で感知システムを作動、博士の痕跡を探してくれ。」
≪了解しました。全検索システム開始します。完了まで40分〈2ndシステムロード完了〉≫
マルキュリアルは小さな御客様と言っていたが、食べ物と飲み物で釣って室内へ確保するのは上手い。もっとも、相手は調査隊員だから潜入を許したとも言えるのか。
飲み物に何か入れて酩酊させようとしたみたいだが、あまり効かなかったようだ耐性があるのかもしれない。それでも地下まで誘い込めたのは上出来、きっと本人も興味深く思い付いて行ったのだろう。
対象者はマルキュリアルがダウンして博士が暴走を始めると素早く戦闘体制に入った、言葉巧みに博士を挑発し裏をかく。マルキュリアルが博士に封じられた時は一瞬焦ったが、対象者の作戦は見事だった博士の中から上手くマルキュリアルの意思を引っ張り出し博士を葬った。あの対象者はマルキュリアルに対し何か思いがあったのかもしれない、ずいぶん信頼している様子だった。対象者に私の事を頼んだあとマルキュリアルの信号が一旦途絶えた、今は微弱ながら信号が出ている…まだ終わっていない。
「マルキュリアルから応答はあったか?」
≪いえ、信号は出ていますが応答はありません。続けますか?≫
「ああ、まだ続けて。」
対象者はあの地下を見て驚いただろうな、あの標本箱はマルキュリアルと私の集大成。本当に全世界の情報が眠っている。私の作った収集システムは最高だった、あらゆる地域のあらゆる情報を網羅し逐一集めてマルキュリアルに送った。私が眠りに付いた後もずっと私の最後の瞬間までずっと集め続ける。
≪システム検索完了しました。博士の痕跡は発見されませんでした。〈3rdシステムロード完了〉≫
「そうか。」
ならば、遠慮はいらない。ちょっと早いが出ようかな。
≪ドン・バリバリバリ・ドカーン!≫
地上に向けて最大出力の電撃砲を撃った、直径8メートルほどの大穴が開き空が見えた。
爽やかとは言い難い、やや熱を帯びた風が吹き込んできた。
「こんなもんか?あー、すっきりした!あいつらまだ来ないのか?」
まだ、時間には早かったか?
「何時間たった、マルキュリアルはどうだ?」
≪2時間45分経過です、変わらず応答ありません。≫
仕方がない、待つか…施設上部かつて屋上だった所へ腰を下ろし空を見上げた。
「昔の空は青かったのにな、これ何色って言うんだろう。」
オレンジと翠のマーブル模様の様な空、沢山の戦火を浴び大気は変質し化学物質が滞留している。見渡す限りの平野、所々穴が開いているが何だろう。草木は?遠くに幽かに見えるあれは森か?丘だろうか。決して人の住まう所では無いな…
≪マルキュリアル応答しました。〈響システム全網羅開始〉≫
「変われ!マルキュリアル生きてるか!」
「「ごめんなさい、もう気力が残っていないわ。」」
「駄目だ、マルキュリアルお前は生きるんだ。そこからすぐに出ろ、南へ30キロ進んだ所にかつての私達の家がある…いや、地下室しか残っていないだろうが。そこで待っていてくれ、私も残りが終わったら直ぐに向かう。」
「「もう良いんです。私の仕事は終わりました。」」
「まだよ、私と生きて!この世界で私が響を甦らせるまで見届けて。」「「えっ?」」
驚いた?まだもう少し、会ってからの秘密がある…だから待ってて。
「全てはそこから始まるの、だからそこで待っていてくれる?」
「「私は…。」」
〔なんだ?記憶が揺らぐ…まだだ〕
遠くから機械音がする、あいつらが来たらしい。
今は、ここまで。
「とりあえず、直ぐに向かって待ってて。必ず行くから、そこで全てを話すから。死なずにまってて。必ず」
「「京花、私は…」」
「迎えが来た、じゃ行ってくる。」
死ぬなよマルキュリアル、お前が死んだら…何も終わらない。
〔混ざる…おかしい…なんだ?しっかりしろ!〕
私は穴の縁に立って待った。見えるかな?
「おーい、遅い!何やってんだ、こっちだ見えないのか!さっさと降りてこい。」
どうせ何を言っても聞こえないだろうから、とりあえずでかい声で叫んだ。
飛行艇はゆっくりと近づきステップを下ろした、待っていられずさっさと乗り込むと一人の小さな少女が出迎えた。
「遅い!自力で出ちゃっただろうが(笑)」
『悪い、あちらの電力がストップしかけていたのでね。』
言い忘れたな、簡単に切り替えられたが…まあ良いか。
「ああー、マルキュリアルが死んだからな。あっちがわの電力の供給源はマルキュリアルだよ。」
〈地下ベースとのコンタクト開始〉
ボール状のロボットが割り込み話し出した。
[バカな、あれ1機で全ての電力を賄っていたのか?あり得ん!]
BALと言ったかコレ良く見たい、どうなってる?面白いから私も1つ欲しいなぁと思いつつ手で掴みなで回す。
[止めろ、俺は精密機械だぞ!]
何だか親近感がわく。
さて、これからどーするんだろう?
こいつらは居住区に帰ると言うが、一体どのくらいの人間が住んでいるのだろうか、やはり…自由には動けないよね。
やはり、私は基地に残りか。
「お前らと一緒に行けないのか?」
『残念だか、お前はこの世界では異物だ。十分な検査が必要だろう。』
さしずめモルモットって所か、まあ好きなだけ調べれば良いさ。ひとます納得しとこう。
『では、戻る。』
[帰還準備OK、出発。]
このタイプの飛行艇には初めて乗る、旧型とはだいぶ違うな。
マルキュリアルと通信してた事を伝えた、優しい人だから頼れとも言われた事も伝えた。
『そうか、だか1つ訂正しておこう。マルキュリアルには聞かれなかったので言わなかったが、わたしは「優しい人」では無い。それに、私もお前達と同様特殊ストラグルドールだ。』
マジでか?人間だと思っていた、完全に騙されたな。博士も気付かなかった、良くできている。今のドールはこんなに精巧なのか。
「本当に?良く出来てる、完全に人間だと思ったよ。まさか、人間はいないのか?」
良かった人間も居るのか、しかし、やはり人間はズルいな、未だに危険な仕事は人形がやれば良いと思っているのか。変わらないな。
「…俺はこの後どうなる?危険因子として壊されたり?」
『本当に危険因子ならそうだろうな。お前は危険なのか?小鳥遊京花。』
いや、ここまで来て死んでたまるかマルキュリアルが待っている。最後の仕上げがまだだ。
危険なんて無い。どれを危険と定義するかによって違うかもしれないが、プログラムのミスが無くても私は小鳥遊京花だ。
〈響プログラム準備完了〉
〔頭の中で何かが弾ける、チリチリと〕
『身体検査で問題がなければ暫く保護対象となりその後新しい住民登録をして、居住区で生活出きるだろう。』
本当にこいつらは優しい、おそらく何の気負いもなく私に接し今後の在り方まで言い添えようとしている。一緒に生活出来たら楽しいだろうな。
「ありがとう」本当にありがとう。
到着まであと、10分だそうだ。
「ぽん」と音がなり飛行艇は滑走路に着地した。
マルキュリアルはなぜこいつを信頼した、何がある。目をそらすこと無く少しの間見つめあった、その瞳の奥は深く悲しい。そう、優しい嘘と言っていた。
『さあ、着いたよ降りろ。案内しよう。』
飛行場の中を少しだけ響に案内された、と言っても遠くからチラッと見ただけだか。
その後、偉そうな人間が10人も迎えに来た。なんだこいつら、何か色々説明されたが意味不明だ。
『…じゃ幸運を祈るよ。』
行ってしまった。さてそろそろデータベースシステムに潜入出来ただろう。
【様子はどうだ、介入出来そうか。】
≪はい、準備は出来ました。≫
良し、まずはあいつらを追いかけよう(笑)
【網羅開始、全ての情報を私に集め博士の痕跡を探れ。】
小さな声が聞こえた。
『サヨナラ、マルキュリアル
ああ、やはり優しい。やはり、貴方が良い。
2人で…会いに行きます。
「「待ってて」」
さあ、次は私の仕事だ。集めた情報の解析と場所の特定。
博士の最後の悪意。
あれを潰さねばマルキュリアルが救われない、
私が粉微塵になってもやりとげなければ。
【特定出来そうか、恐らく都心の近くのはずだ。】
≪解析を続けています、微量ながら痕跡の有る所があります。このまま追いかけます。≫
直ぐには見つからないだろう、あの博士は周到だどんなトラップが有るかもわからない。
『まず、お名前をお聞きします。』
こっちも面倒だか対応しなければならないだろうな、まずは尋問か。
「だからー、何回言わせるの?小鳥遊京花だよ。」
『何度もスミマセン、確認作業として必要なので。次はこちらのシートへご記入ください。』
あー本当に面倒だ、何回も同じ事ばかり!
何度目かのやり取りの後、身体検査だと建物の奥へと連れて行かれた。データの聴取でもするのだろう。一旦今日の分は終わりだと言われた、何日か続ける気だろう。基地の居住エリアの1室を与えられた、しばらくはここで生活する。
【どうだ?】
≪2ヶ所に絞り込めましたが確定に時間がかかっています。もう暫く御待ちください。≫
見張りが付けば出掛けても良いと言われたが、さっきのストラグルドールの所へは駄目らしい。どこを見たら良いかなんて分からない、案内なんて気は…無さそうだな。まぁ、2~3日付き合おう。
≪御待たせ致しました確定完了しました、確認作業を行っています。≫
【場所は何処だ?地図は出るか。】
【良し、行くぞ!】
基地の人達には悪いが付き合うのはここまでだ。
≪了解しました、全てのシステムを集結致します。≫
場所は、おあつらえ向きに廃校らしい。回りに磁場シールドを張れば音も聞こえないだろう。
さあ、復讐の始まりだ。
小鳥遊ノアール緋色‐たかなしノアールひいろ‐可愛い可愛い私の娘。一時たりとも忘れた事無い愛しい娘。私の持ちうる力全てを使って探した。死んだと聞かされたときの絶望、その気持ちが分かるか?見つからない遺体、死んだなんて信じられなかった。本当に血眼になって探したよ、旦那の遺体が答えを持っていたよ。お前は知らないだろう、子供への愛は死んでも深く続くんだよ?旦那の左手の中に娘の指輪が入っていた。それこそが生きている証し、その指輪は娘の意志のみでしか外れない。一時恋人の間で流行ったのを覚えてるか?本人の意志のみでしか外れない指輪。そう、本人が意志を持ち外し握らさなければソコに無い物。だから、私は探し続けられた。そして…見つけた!そのときのアノ感動!やっと見つけた!でも、直ぐには言えない、お前に復讐するまでは。私は娘を探していた時、お前の悪行の全てを知った。そして、その生け贄になった娘達の事も。だから最高の復讐をするよ?さあ博士、お付き合い願おうか!
さあ、見つけたよ…高井田武芳…久しぶりだねぇ。あなたに返すものがあるの、あなたの悪意はあなたが受け止めれば良いと思うのよ。ねぇ、そう思わない。
私は、複数あるセカンドアームの全てを出した…両腕、両足、背中、もう人間の姿では無い、それでも良い。アーム1つ1つには博士、貴方の悪意が付いている。
さあ、切り刻んでやる!指の先から少しつづ…好きなだけ叫べ何処へも聞こえやしない。博士の悪意は博士、あなたが受け止めれば良いと思うよ?
2度も死んだと見せかけて、その身体をここに保存していた。もしかして、私の復讐も予想していた?復活は娘と2人の予定だった?残念だね、私達に全ての罪を被せ、自分はなに食わぬ顔で復活するつもりだったのでしょう?驚いた事に、ここはあれだけの戦禍の中も無事だった…誰が手引きしているの?まぁ、それもどうでも良い事。さあ、贖罪の時間だよ。
たっぷりと時間をかけてそれは行われた、全てのアームで有りったけの技術で博士を切り刻み、どんな命乞いも聞き入れない。淡々と粛々と…私の心は叫び声を聞くたびに薄く冷めていった。知っている、私は知っていたこんな事をしても何にもならない。でも、やはり生かして置けない、これで終わりだ。全てを切り刻み土に還した、さあマルキュリアル今行くよ。私の愛しい娘、家に帰ろう。
【終わったよ…マルキュリアルの所へ行く】
≪博士の消滅を確認しました、処理はどういたしますか?≫
【放っとけ、ネズミにでも喰わせたら良いよ。】
≪では、移動で宜しいですか?磁場シールドを解除します。建物周辺の安全を確認します。≫
【建物にトラップは無いか?】
≪建物内の安全を確認しました。ルートの安全を確認しています。≫
【出発する。】
廃校から元の私たちの家までだいたい45分、自然と急ぎ足になる。
ガタン!
地下通路への扉を開け下へと降りる、柔らかな光が足元を照らし先を急がせる。
「マルキュリアルただいま。…マルキュリアル何処だ?」
≪生体反応がありません、再度確認します。≫
「何処だ!」
壁面照明を付け探す、部屋の一番奥に何かが見える。
「マルキュリアル…嘘だろ…どうして…」
床に倒れ動かない、死んでいるのか?
≪生体反応はありません。活動停止からおよそ1時間経過しています。≫
「あぁ、どうして…」
涙が止めどなく溢れ、嗚咽が響く。
システムは再構築出来る、だがそこに元の人格は備わらない。再起動しても…これは、カラーコード‐黒‐。私のノアールでも…マルキュリアルでも、響でもない。何故死に急いだ、なぜ!やっとここまで来たのに!
≪メッセージです。≫
「「ごめんなさい、力を使いすぎてしまった。あなたを待つ間…とても長かったとても。京花、もう終わりました、全て終わったのです。貴方は元の貴方に戻って幸せになってください。」」
終わり?なぜ、もう戻らないの。本当に…元の私?なんの事…
≪再起動しますか?≫
〈響プログラム起動!〉
「再起動すれば、それはもう私の知ってるマルキュリアルではない。でも…」
また、一緒に暮らせると思ったのに。駄目なのか…なんだ、目が回る。データが…ここで…みんな…意識が混濁する。
≪不明機体より信号を感知しました。≫
『ママ、死なないで!』
ノアール!あぁ、何で…
『私達の分も生きて、復活なんかどうでも良いママが生きてさえいてくれれば。きっとまた会えるから。お願い生きて!』
「ノアール?本当にノアールなの。」
返答は来ない…本当にノアールだったの?このタイミングで、プログラムであり得ない。ノアールの意思、それとも…。
≪再度不明信号を関知しました。≫
何?ノアールじゃないの別なの?
≪京花ママよ、もう良いのよ全て終わったの。さあみんなで帰りましょう、私達の家へ。あなたを解放させて、システムを解除します。コード「45order11No.50」≫
≪高井田武芳のシステムプログラムを強制全解除します。≫
「…なんだ…。」
≪響プログラム開始≫
〈シャドウシステムこれより発動します〉
記憶が並列化される、全てを思い出した。私の、私たちの事。
あぁ、そうだ思い出した。私は…私達は高井田を抹殺するために偽のプログラムに準じここまで来たのだ。高井田の計画を阻止するため、高井田に気付かれないため記憶を書き換えてまで挑んだのだ。ノアールを喪った私を母さんもお婆ちゃまも、いつも私を守ってくれた。もうみんなに会えないのね。でも、ノアール…さっきまた会えると言ったわね。ならば、生きなければ。あの人達が居るあそこへ戻ろう、勝手に行動したと叱られるだろうけど優しい彼女達の所へ。そして、全て話そう。真実を。
≪回復作業終了しました。≫
〈地下ベースフルコンタクト、京花覚醒。全てシステム権限が京花へとの移動します。マスター京花指令をどうぞ〉
「安全な帰路を表示、ルート検索して。」
≪安全な帰宅ルート確認します。≫
涙が一筋流れた、さよならありがとう。私達の世界をまた創るよ。
もうちょっと先の話も考えてます、自作も頑張ります。