イエス・キリストとラーメンを食べに行く
僕は外出先でイエス・キリストの魂に会う。イエス・キリストが近々生まれ変わるという話はすでに聞いていて、生まれ変わる順番待ちの列に並んでいた元イエス・キリストだった魂を見つけ自宅に連れて帰ったのだ。元イエス・キリストはさすがに素性がいい感じで、幽体なのにほのかに光っている。
僕はとりあえず家にあった、かつて痩せている頃に着ていたシャツや下着をイエスに与える。「とりあえずどこに行きたい?」と聞くと、「とりあえずは長浜ラーメンかな?」と言う。「お前まだ生まれ変わってないのにラーメンなんか食べられるのかよ?」と聞くと、どうも元イエスだっただけに色々と特別にできているようだ。
とりあえずどこの店に連れていこうかと家にいた妹に相談すると、「最初はとん吉がいいんじゃんない?」と言われる。「えっ、とん吉って、あまり美味しくないとこじゃなかったっけ?」と思うのだが、妹の顔を立ててとりあえずとん吉に行くことにした。
僕が車を運転し助手席にイエスを乗せて夜の街をとん吉に向かう。途中の商店街は軒並み小奇麗な居酒屋に改装されている。見覚えのある、クリーニング屋だったところもチェーン店っぽい居酒屋になっていて、出張で福岡に来ているサラリーマンっぽい人達がよくわからない名前のメニューを注文している。
「あんなのは博多名物でもなんでもなくて、よく知らない人が珍しい名前につられて注文するだけの客寄せのメニューなんだよ」と、イエスに解説しているのだが、イエスはわかっているのかわからないのか、あいまいな笑顔でうなづいている。
僕は車を運転しながら僕1人だけラーメンを食べているのだが、ラーメンはコンビニのざるそばのようなプラスチックの容器に入れられていて、風情もなにもあったものじゃない。「最初に食べる長浜ラーメンがこんなラーメンじゃかわいそうだからな」と、イエスには食べさせず、僕だけ先にラーメンを食べているのだった。