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また夢の中で  作者: 利根川渡
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今度は篠田麻里子さま

 最近、柴咲コウ、宮崎あおいなど、既存の女優の姿を借りて僕の夢に出て来て、何かのメッセージを伝えようとして来る存在がいるのだが、数日前には篠田麻里子の姿で出て来た。

 何故か篠田麻里子が僕を尾行してくる。しかも、見え見えのバレバレの尾行のしかたで、どこまでもついて来るのだ。しかたがないので立ち止まって話しかけると、どうもメンバー内の噂話かなにかが元で、僕に対して反感を持っているらしく、何か「復讐」的なチャンスを狙って、僕を尾行していたとのこと。

 僕はAKBのメンバーが出演している番組のディレクターのような存在という設定らしい。実はこのシチュエーションには心当たりがあった。現実の世界で、今担当している現場のレポーターさんと僕は、ささいな行き違いが原因で、この半年間以上、ずっと対立状態にあったというか、冷戦関係が続いていたのだ。

 それが最近、あるきっかけでお互いに本音を話すようになり、最悪の状態は脱しつつあるのだが、そのレポーターさんは全体のシルエットが篠田麻里子に似ていると言えなくもない。このことが夢に出て来ているのかもしれないが、夢の中の篠田麻里子は10代の子供のようなイメージで、僕は子供に諭すような感じで状況の説明をしていた。

 夢の中の常だが、いつの間にか場面が変わり、僕と篠田麻里子は、僕の家のベッドの中におり、僕は子供を寝かしつけるような感じで篠田麻里子を抱いて、身体をさすってやったりしながら、延々と子供に言い聞かせるように話をしていた。

 すると、ある瞬間を境に、触れ合っている肌を通して、篠田麻里子の身体から僕の身体に何か暖かいものが流れ込み始めたのである。僕は相手が僕の話を理解して、誤解が解けたのだとわかった。夢の中では「良い感情」を、暖かいお湯のようなものとして体感することもできるらしい。反対に「敵意」などは冷たい水のようなものとして感じるのだろうか。もしかしたら、現実でもこんなことが起こっているのかもしれない。夢の中のように、こんなに直接的に体感できなくても、こういう意味合いの「暖かい」とか、「冷たい」感情のやりとりが現実世界でも行われているのかもしれない。そのことをわかりやすく、映像や音声や、温度として体験させてくれるのが、「夢」なのではないだろうか?

 ということは「夢」というのは、やはり「映画」に似ている。「映画」の中では普段しないような体験をしたり、普段はお目にかかれないような美女が出てきたり、知らない国や架空の星にさえ行ける。観客は主人公や登場人物の行為や感情を追体験することによって、「そんな時自分ならどうする?」という選択を常につきつけられ、それを「楽しい」と感じたり、「面白い」と思ったり、「不快」に思ったり、「理解できない」と判断を放棄したりして、結果、その映画のことを「面白い映画」とか、「つまらない映画」とか「くだらない映画」とか、「難解な映画」とか評価しているのだと思う。

 それで、麻里子さまの夢の続きだが、僕は相手の暖かい感情が僕の中に流れて来始めた途端、相手を「人間」として、そして「女性」として意識した。それまではうっとうしいガキのような存在として、石のお地蔵さんでもさすっているような感じだったのだが、急に相手が、柔らかく、体温のある、生身の人間の女性になったので、「これはヤバイ状況だ」というような感じになったのである。

 そこで、「ちょっとマズイので、起き上がって、外へ出ましょう」と言うのだが「えっ、なんでですか?」と麻里子さまはおっしゃる。それで、状況を説明しようとしたところにガチャガチャと扉が開いて、現実世界でも僕の奥さんであるチャッピーが帰って来たのである。

 なんでこいつはいつもこういう設定で出て来るのだろう、僕が登場させているのか、それとも、実際には横で寝ているこの人が、グループチャットのように僕の夢に乱入して来ているのか、どちらにせよやっかいな存在である。

 そして麻里子さまの対応がまた凄かった。ピョンと飛び起きて「えっ、今日は帰りが遅いんじゃなかったんですか?」と言ったのである。これではまごうかたなき「浮気の図」ではないか。

 ちなみに、夢はここで終わりである。結局この夢の一番大事な部分は、「良い感情」が暖かいお湯のようなものとして僕の中に流れ込んで来るという感覚を体験したことだったのだが、それに付随して、妻が帰って来てドキドキハラハラするという部分は、完全なる蛇足である。この夢の脚本家と演出家は誰なのか?もっとスッパリと、クールに終わらせてくれよ。じゃないと楽しい夢なのか悪夢なのかが判断できない。

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