メイドさんが家に来た その2
(* ̄∇ ̄)ノ レーンの家にメイドさんが来ました。ぱーと2。
メイドのフィスノが持ってきた荷物を開けて、部屋の中に片付けていく。
「さて、ハイアディ、晩御飯はどうする?」
「レーンの買ってきたパンと魚の干物があるけど。あとは台所にあるのを好きにしていいって」
「じゃ、お料理しましょうか」
「うん、夜勤から帰ってきたレーンの為にシチューを作ろうとおもってたの」
「ハイアディはお料理できるのね。ルミリア様から聞いた話だと、深都の方はゼラ様以外、お料理はしないということだったけれど?」
うん、深都でお料理することはまず無いから。保存の為に凍らせたり、凍ったのを解凍したりはするけれど。みんな生で食べるから。
「ちょっとハイアディのお料理を見せてもらってもいい?」
「え? うん、いいけど」
レーンの家の中を移動するときは、人化の魔法を使う。廊下とか人のサイズだから。私の下半身は触手で狭いところも移動できるけれど。
台所に着いてから下半身を触手に戻す。
「始めるね」
「ええ」
フィスノは私の正体を見ても平然としてる。たぶんクチバみたいに潜んで私を見たことがあるんじゃないかな?
と、いうか、私の正体を見てちゃんと驚いたのは、初めて会ったときのレーンだけ? あれ? やっぱりウィラーイン家がヘンなのかも。でも、レーンも驚いただけで、ちょっと話しただけで私を匿ってくれたのよね。ゼラの影響なんだろうけれど、この街の人達ってスゴイのかも。
触手で包丁を握って、シチューに入れる野菜の皮を剥く。これはレーンに教えてもらったから、どの野菜をどんな風にすればいいのか少し分かった。芋はちゃんと芽をとって皮は厚めに剥く。人参はよく洗って皮は薄くてもいい。下拵えが大事。
「……スゴイわね、ハイアディ」
「そう?」
「いつも触手でお料理するの?」
「私は手よりも触手でする方が、器用で早いから」
「そう……」
フィスノが手を頬に当てて考え込む。どうしたの?
「うーん、ハイアディに人のやり方をどう教えたらいいのか、悩んでいるの。誰にも見られなければこれでもいいのだけれど」
「ううん。レーンのメイドさんになるなら、人のやり方をおぼえないとダメよね?」
「そうね。そしてハイアディが人のやり方を憶えて、レーン様の身の回りのお手伝いをしたら、レーン様がお喜びになるわ、というのをハイアディに薦めるつもりだったの」
「あ、レーンが喜ぶんならいろいろ教えて欲しい、です」
「でもこれはこれで見てて楽しいわ。触手が何本も踊って、次々に野菜が綺麗に剥けて切られていくなんて。ハイアディ一人で五、六人分の料理人が一度に作業してるみたい」
言いながらフィスノは魚の干物に手を伸ばす。
「こっちは水で戻してから使うの?」
「私、水系の魔法は得意だから」
ボールの中で水に浸けた魚の干物、その水に触手の先をちょんとつけて、干物の内部に水を浸透させて身をほぐして、これでいいかな? で、切った野菜とほぐした魚の干物を鍋に入れて、火は使わないで水の温度を上げて、ぐつぐつと。
「火も着けないで鍋から湯気が出るなんて、不思議ね」
「そう?」
ううん、人のやり方と私のやり方は、やっぱりいろいろ違うみたい。
「味付けはどうするの?」
「えっとね、こう」
鍋の上に触手を伸ばして、粘液操作。レーンが元気になるよーに、レーンの疲れが取れるよーに、触手の先から灰色の粘液をとろーりとろーり、と鍋に入れて。触手の先から粘液を出して調整しながら鍋をぐるぐるかき混ぜる。美味しくなーれ、美味しくなーれ、と念じながら。
「味付けはこんな感じで……、あれ?」
振り向くとフィスノが固まっていた。細い目が開いて赤い瞳が見える。なんだか石像になったみたいに硬直してて。
「あ、あの、この味付けの仕方は、ダメ? レーンは美味しいって、言ってくれたんだけど……」
粘液操作で人の身体にいいものがたっぷり入ってるのだけど。やっぱり、私の粘液を人の口に入れるものに混ぜちゃ、ダメだったのかな? レーンが喜んでくれるから、この作り方にちょっと慣れちゃってた。あう。
「あの、フィスノ?」
「は、あ、ええと、ちょっとビックリしちゃって、ハイアディ、味見させてもらってもいいかしら?」
「あ、はい」
大丈夫かな? 無理させちゃってないかな? 小皿にお玉でちょっとシチューをすくってフィスノに渡す。スプーンもつけて。
フィスノは小皿のシチューをマジマジと見て、顔を近づけて匂いを嗅いで、私の顔と触手と灰色のシチューを見比べて、やがて覚悟を決めたみたいに私のシチューを一口、目をつぶって口に入れる。
ど、どうかな?
「なに? コレ?」
またフィスノの赤い瞳が見える。フィスノの目は細いけれど、驚くと目が開いて瞳が見えるみたい。そのままもう一口、更には小皿に舌を伸ばしてペロリと舐める。
「あの、フィスノ?」
「……うふ」
「え?」
「あははははは!」
いきなり笑いだした? どうしたの? 私、人がおかしくなるようなもの入れてないからね?
「なんで? どうして? あはは! 見た目と味が一致しない! 白灰色の絵の具みたいなのに、なんでこんなに美味しいの? あははははは!」
何がおかしいのか解らないけれど、右手に小皿を持ったまま、左手は近くのテーブルをバンバン叩いている。
「あ、あの、大丈夫?」
「ゼンゼンだいじょばないわ。あはははは。し、信じられない魔法の触手ね。ステキよハイアディ、うふふふふ」
笑い過ぎたのか、ちょっと息苦しそうにしてる。だいじょばないってなに? 大丈夫なの? 大丈夫じゃないの? わ、私、治癒の魔法はそんなに得意じゃ無いけど、えっと、精神安定するような粘液を作って飲ませた方がいい? アシェみたいに精神系も得意じゃ無いんだけどー。どうしよう?
「ご、ごめんなさいね、ハイアディ。ツボにはいっちゃった」
あう、やらかしたのは私で、私がツボに入って隠れたいのに。
「スキュラの魔法を見せてもらったわ。うん、とってもステキ、深都の住人ってまるで絵本から出てきた妖しい妖精みたいね」
「よ、妖精って」
「これは、ハイアディに人の振りを教えるのは大仕事かも」
「あう、」
「でも、いつかはハイアディと一緒にローグシーの街でお買い物とかしたいわね」
「え?」
フィスノを見ると瞳の見えない細い目で、私を見て笑っている。指で笑いすぎて出た涙を拭いながら。
「ほら、私はハイアディのお姉さんだから。あ、パンはどうするの? 焼きなおすの?」
「え? ええと? どうしよう?」
設定考案
K John・Smith様
加瀬優妃様
m(_ _)m ありがとうございます
(* ̄∇ ̄)ノ 糸目のできるメイドさん、驚くと赤い瞳が見えるようです。




