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ハイアディの地下湖 その4

( ̄▽ ̄;) 深都の住人の食事シーンあります。苦手な人もいるかな?


 淡水エビを養殖してる水辺をルミリアとルブセィラが覗いている。その二人を見てるレーンが、ちょっと苦い顔をして俯いている。どうしたのレーン?

 あ、レーン、まだあのときのこと気にしてる? ちょっと心配になって見てると、レーンがボソッと。


「これまで、ハイアディに気を遣わせて我慢させてしまっていたとは……」

「あ、あの、レーン、違うの。私が、レーンに嫌われたくなくて、隠してただけなの」

「ハイアディのことを見てるつもりで、私はハイアディのことをちゃんと見ていなかったのですね……」

「だ、だからそうじゃ無くて、隠してた私が悪いの。レーンは悪くないの」


 ウィラーイン家に行ってから、レーンは私のことを、前より気にするようになった。切っ掛けは領主館での晩餐会から。

 あのときの領主館での晩餐会は、私も驚いたもの。


「我が家にハイアディを招くことを祝い、また、これからのウィラーイン家と深都の住人との良き縁が結ばれることを祈って、乾杯」

「「乾杯」」


 人と一緒に食事をする、というのは、私はレーンと一緒にご飯を食べたことはある。でも、私が好きなのは生のカニとかエビとか、できたら活きのいいのを、ピチピチしてるのをバリンボリンと食べたい。

 だけど、そんなところをレーンに見られたら、レーンに怖がられるって思って、これまで隠していた。私達のいつもの食事は、人とは違うから人が見たら怖がったり気持ち悪がったりするだろうし。

 だから、レーンには、私は人と同じものを食べるよって言ってた。レーンが用意してくれるご飯を、二人で一緒に食べてた。

 我慢してたつもりは無いけど、物足りないとは感じてて。


 だけど、領主館で見た晩餐会というのは、


「ハイアディ、食べないのか?」

「え? ちょっと、クイン、」


 クインが呑気に食べながら言うけど、そのクインは生肉の切り身を指で摘まんで口に入れる。血の滴る生肉を口に入れて、唇から溢れる血を指で拭う。


「ずいぶんと新鮮な長角牛の肉ね」


 アシェはナイフとフォークを使って、肉を一口サイズに切り分けて、口に入れると喉を鳴らしてゴックンと飲み込む。深都での食事風景と変わらないクインとアシェ。

 いいの? これ、人に見せてもいいの?

 恐る恐る人の様子を見てみると、これを目の前で見てる領主館の人達は、平然としてた。平気な顔で食事をしている。人の前にあるのはちゃんと調理された人の為の食事。


 私達の食事風景、見せてもいいの? でも、領主館の人達は、まるで気にしてないみたい? あっちは焼いたお肉を食べてる。

 金の髪のおじさま、ハラードはワインのグラスを傾けて言う。


「ハンターが生きたまま捕獲してきた長角牛はどうかの? 今日さばいたばかりのものだ。味はどうかな、クイン?」

「ああ、旨いぜ。なんだがあたいらの為に手間をかけさせて悪いな」

「なに、さして手間でも無い。ローグシーには腕のいいハンターが多いからの。アシェはどうか?」

「美味しくいただいているわ。この肝臓がいけるわね。あ、ワインのお代わりを」

「ゼラは心臓の肉が好きだったかの」

「ウン、コリコリしてるとこ美味しい」

「ゼラはしっかり食べるのだぞ」

「ウン、いっぱい食べてカラァとジプの飲むおっぱい出すの」


 そう言ってゼラは、人の頭くらいあるおっぱいをポムンて揺らす。そのゼラの手も生の肉を指で摘まんでて、血がついている。

 血の滴る生肉もりもりって。ゼラもクインもアシェも、血がテーブルの上に垂れないように気をつけてるけど、人の見てる前で血の滴る肉を食べるなんて。あ、このお手拭きってその為にあるの?


「ハイアディ、食べないのか?」

「え? ええと、その、えっとー」


 赤毛の男、カダールが私に聞いてくる。私の前にも皿に乗せた生肉がある。そして私の前にだけ、小さなカニが何匹か入った器がある。


「クインとアシェから、ハイアディは海のカニとエビを好むと聞いた。しかし、ローグシーでは海の物は手に入らないから、川のカニを取ってきてもらったのだが」

「あ、あの、その、」


 私はレーンをチラ、と見る。レーンは驚きで固まってる。あ、そうよね。

 長テーブルのこっち側は私達、深都の住人とゼラ。向こう側は領主館の人達。ゼラの正面にはカダールがいて、私の正面にレーンがいる。

 レーンは、たぶん初めて見るんだろう、アシェとクインとゼラがもりもりと生肉を口に運ぶのを見て、ビックリしたみたい。

 カダールはレーンの方を一度見てから、


「クチバの報告から、ハイアディは深都の住人の食事のことをレーンに隠しているようだと聞いた。だが、これからも共に住むつもりならば、いつまでも隠しておけるものでも無いだろう」


 と、さらりと言う。うぅ、レーンに怖がられたく無いから、ずっと隠しておくつもりだったのにい。

 レーンが驚いた顔で私を見て、カダールに尋ねる。


「カダール様、深都の住人と私達は、食べるものから違うのですか?」

「見ての通りだ、レーン。だが食べる肉は同じだ。俺達は焼いたものを食べるが、彼女達は生を好む。それだけの違いだ」

「……そう、なのですか」

「レーン、ハイアディのことを任せろ、と言うのであれば、この程度のことで動揺するな。レーンがそれではハイアディがますます遠慮するようになってしまう」


 レーンは、ハッとした顔で私を見る。それから気を取り直して、フォークを取って食事をし始めた。キリッとした態度だったけど、なんだかレーンが、ちょっと泣きそうになってるように見えた。心配になるけど、なんて声をかけたらいいのか解らない。どうしようって考えていたら、クインが言う。


「ほら、ハイアディも食えよ」

「う、うん」


 クインに促されて、私も食べる。久しぶりに食べる生のカニは美味しかった。甲羅の歯応えとか、ほんとに久しぶりだった。


 このときの晩餐会以来、レーンが心配症になってしまった。私から目を離さないようになったというか、私がレーンにいろいろと気を使って隠してるんじゃないかって、そこを見抜こうとしてるというか。私の様子を窺うというか。


「あの晩餐会を見て、カダール様に注意されなければ、私の覚悟は甘いものだと自分自身、気付けなかったでしょう。そのことで、ハイアディが私に合わせて我慢していたなんて」

「それは私がレーンに隠していたからで、レーンは何も悪くないの」

「私がハイアディの全てを受け入れられないと、ハイアディに思われていた、ということで、自分の不甲斐なさとそれに気がつかなかった自分の不明が恥ずかしいです」

「レーンが落ち込むことじゃ無いの。私が気弱で、臆病だったの。レーン、ごめんなさい」

「ハイアディが謝ることは何も無いです。悪いのは私の方で」


 身を屈めて俯いてるレーンの肩に手を置く。私の手をレーンはおそるおそるという感じで上から手を重ねる。私達、お互いに相手が何処まで受け入れてくれるか解らなくて、それを探りあっていたみたい。それを領主館の人達が教えてくれた。


「ハイアディが何の心配も無く、頼れるようにならなければ」

「レーン……」


 見上げるレーン。私が怖がらずに素直に言っていれば、レーンを悩ませることも無かったのに。レーンのせいじゃ無くて私のせいなのに。

 身を屈めてそっとレーンに抱きつく。うん、私がこうしてもレーンは怖がったりしない。お互いに驚くことはあっても、少しずつわかりあって、受け入れあって。

 レーンの手がそっと私の背に回る。

 少しずつ、近づく。少しずつ、近づいている。いきなり踏み込まれるとビックリするから、ちょっとずつ、ちょっとずつ。それが私とレーンの距離感。


「これはこれで、なかなかのイチャイチャですね」

「そうね、ゼラとカダールはあまあまだけど、ハイアディとレーンは甘酸っぱいわね」


 ルブセィラとルミリアの声で、私はレーンからパッと離れる。

 なかなかのイチャイチャ?

 あ、甘酸っぱいって、何?


設定考案

K John・Smith様

加瀬優妃様


m(_ _)m ありがとうございます。


(* ̄∇ ̄)ノ 後に森のグランドクラブが、ハイアディの新しい好物に。殼ごとバリッといきます。


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