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海ガメねー様、ローグシー登場

スキュラの次は海ガメだった?


「はぁ、」


 少年は絵本を閉じて溜め息をつく。手にする絵本はこのローグシーの街で人気の絵本『蜘蛛の姫の恩返し』


(蜘蛛を助けたら、蜘蛛の姫になって来てくれる。でも、いつ来てくれるんだろう?)


 絵本を真に受ける歳では無くても、この絵本のモデルが今、ローグシーの街にいる。それもあってこの絵本は人気がある。

 この少年にしても、絵本のモデルになった蜘蛛の姫を見てしまった。


(下半身は大きな怖い黒い蜘蛛、だけど上半身は黒い髪が長くて、綺麗で、おっぱい大きくて)


 少年はローグシーの街の中、飾り飴を売る屋台に目を向ける。


(蝶の形の飴を、美味しいって、ニコニコしながら舐めてて)


 その蜘蛛の姫は隣に立つ黒蜘蛛の騎士と手を繋いで、街の中を物珍しそうにキョロキョロしながら、蜘蛛の脚で歩いていた。


(蜘蛛の姫と黒蜘蛛の騎士。騎士の方はこの街の伯爵様の息子のカダール様。たった二人で数万のアンデッドから王国を守った英雄。……僕もあんな英雄になれたら)


 子供は英雄に憧れる。そして弱った蜘蛛を助けた騎士のもとへ、その蜘蛛がアルケニーとなり現れた。伝え聞くのはそのアルケニーとアルケニーライダーとなった男の武勇伝。

 絵本の影響からか、このローグシーの街の子供に一風変わった遊びが流行している。

 それは弱った小さな生き物を助けると、姫になって帰ってくる、というもの。やたらと野良犬、野良猫を拾って来る子供に悩まされるのが、今のこの街の子を持つ親の悩みだ。

 この少年もまた同じように、妹と共に弱った小さな生き物を探しては、助けている。助けているとは言っても、餌を与えたり、小さな虫なら人のいないところへと離したりというもの。


(いろいろ助けたけれど、なかなか恩返しに来てくれ無いなぁ。早く来て欲しいなぁ)


 そんなことを考えながらボンヤリと街を眺めている。魔獣深森に近いローグシーの街はハンターで賑わう街だ。蜘蛛の姫が灰龍を討伐してウィラーインには平穏が戻った。

 プラシュ銀鉱山の採掘も復活し、新しく街に来たシウタグラ商会が、南と中央から取り寄せた品も流通する。旅人も増え、広場では紙芝居があり活気がある。

 そこに背の高い女が街を物珍しそうに見ながら歩いている。一見ハンターに見える背の高い女。キョロキョロと辺りを見回すのはどうやらこの街に来たばかりのようだ。


(もしかしてこのお姉さんは?)


 少年は女のところへと走り、にこやかにその女に話しかける。


「お姉さん、ローグシーは初めて?」

「あ? あぁ、不思議な活気のある街だ」

「キョロキョロして、誰か探してるの?」

「まぁ、そんなところだが、先ずは宿を先に、」

「僕が案内してあげるよ!」


 背の高い女は少年を見下ろす。


(親切な少年だ、お人好しが多い街と聞いてはいるが)

(やった! 綺麗なお姉ちゃんになって、恩返しに来てくれた! これで僕も黒蜘蛛の騎士に! あれ? 蜘蛛かな? それともあのときの猫かな? ヤモリかも?)

(さて、ハイアディは何処にいるのか?)

(お姉ちゃん! あなたが探してる恩返しの相手は僕だよー! でも、こういうのって人に化けてるのを見抜いたら帰っていっちゃうんだよね。だから気づいてないフリをしよう!)

(……この少年、距離が近い? 警戒心が無いのか?)


「お姉ちゃん、宿はこっちだよー!」

「あ、あぁ」


 少年は背の高い女の手を取り歩き出す。いきなり手を握られた女は戸惑いながらも、案内されるままについていく。


(なんだ? この少年、やたらとキラキラした目で私を見上げて)


 女は戸惑う。人の男の子に手を握られるなど随分と久しぶりのことで、妙に胸の鼓動が高まる。


(この私を怖れもせずに手を取るなど、い、いや、今は人に化けているのだから、当然のことか)


 目の前の少年は頼んでもいないのに、ローグシーの街の中を案内してくれる。ここのパン屋さんは美味しい、街の広場では晴れてると紙芝居がある、と。


(人化の魔法が上手くいっているし、気配隠蔽ならば私は得意な方だ。人に私の正体がバレることは無い。ならば、この街の住人は旅人に優しいのだろう)


 女は自分を納得させるように考えて結論を出す。まさか街のただの子供が、その正体を期待して手を引いているとは、気がつかない。

 少年は人ならざる者が、人に化けて来たと期待して。

 女は人には己の正体がバレてはいないと思い込んで。

 奇妙にスレ違う二人がこれで縁を結ぶことになる。正しくは思い込みの激しい少年が女につきまとうのだが。


(ハイアンディプスにあの双子、私が見つけるまで騒ぎは起こすなよ)


 深都よりコッソリと抜け出しローグシーの街に来た者を連れ戻す。そのために人化の魔法で正体を隠して街に潜入した、深都の住人。

 業の者を纏める、十二姉がひとり。

 その正体は巨大な海亀、亀の王(アクーパーラ)のアイジストゥラ。


 同胞を連れ戻しに来たはずの彼女が、少年に手を掴まれたこのとき。

 思い返せば、捕まったのはこのときかと、呟いて溜め息を吐くようになるのは、ずっと後の話。



設定考案

K John・Smith様

加瀬優妃様

ありがとうございます

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