大丈夫かしら?
(* ̄∇ ̄)ノ 時期的には、ゼラの結婚式の前あたり。領主館で子育てするフェディエアさん。
領主館の中、カダールとゼラの寝室。
ゼラはローグシーの聖堂へと行っている。黒蜘蛛の騎士カダールも共に。エクアドもアルケニー監視部隊を率いて聖堂へと。
王都の大神官ノルデンより手紙が届き、中央総聖堂よりゼラを聖獣として認めることが正式に決まった。
大神官ノルデンがローグシーに到着次第、このローグシーの街でゼラの聖獣認定の儀礼を行うことに。そのため、ゼラはローグシーの聖堂で教会の神官より光の神々教会の儀礼や歴史を教わることに。
留守の間、カラァとジプソフィを世話するのは領主館の主に女性陣。ゼラとカダールがいない間は、カラァとジプソフィとは兄妹のように育つフォーティス、その母であるフェディエアが仕切ることになる。
とは言ってもカラァとジプソフィを甘やかしたがる者、世話をしたがる者が多い領主館。かまいすぎないように医療メイドのアステが注意することも多い。
フェディエアはゼラ用の大きな特注のベッドの上で、上半身裸になりカラァとジプソフィを抱く。右手にカラァを抱き、左手にジプソフィを抱く。
双子の子供達は目を閉じてフェディエアの胸にしがみつく。んむんむ、と、口を動かしフェディエアの母乳を飲む。
「私の母乳をカラァとジプソフィに飲ませても、大丈夫かしら?」
「ですが、今日はゼラちゃんとカダール様は聖堂に行っておりますし」
護衛メイドのサレンがベッドの側に立ち見守る。広い寝室の中には医療メイドのアステ、魔獣研究者ルブセィラ、更にはラミアのアシェとカーラヴィンカのクインもいる。
フェディエアは双子の子の背中を撫でながら、
「ゼラも聖獣認定の儀礼のために、なにかと忙しいわね」
「なるべくゼラちゃんはカラァとジプソフィと一緒にいられるようにしてあげたいのですが」
「有名になるといろいろと大変ね」
ルブセィラ女史が眼鏡の位置を指で直す。
「ゼラさんは以前の支援活動で治癒の魔法を見せたことで、ゼラさんの癒しを求める巡礼者も増えてしまいましたからね。教会の方でもゼラさんの癒しを受けたいという人は制限しているのですが」
「ウィラーインではケガをするハンターも多いから、高位の治癒術には人が集まってしまうわね」
「ゼラさん頼りにならないように、ローグシーの教会では上級回復薬の製造を頑張っているとのことですが。治癒の魔法を除いても、これからは西の新たな聖獣として姿を見せることが重要ですか」
「以前のようにゼラと街を歩くのも難しくなるのかしら?」
「今のローグシーの聖獣認定祭りのような熱気が落ち着けば、前のように街を歩いたりできるのでは」
ルブセィラ女史はクインとアシェの方を見る。
「お二人にはローグシーの街に出るときは人に化けてもらわないといけませんが」
「そりゃ当然だ」
フェディエアの母乳を飲むカラァとジプソフィを見ながらクインが言う。
「いくらウィラーインでも、あたいとアシェがこのまま街に出れば大騒ぎだ」
「そうね。でもこの領主館の内壁の中では正体を出しても大丈夫っていうのも」
アシェの言葉にルブセィラ女史はクスリと笑う。
「アルケニー監視部隊にウィラーイン領兵団、諜報部隊フクロウに館の守りがありますから。壁も高くし内壁の中は簡単には覗けないように作ってあります。庭までならアシェもクインもそのままで大丈夫ですよ」
「それでもなるべく外では人に化けるようにするわ。騒ぎを起こす気は無いもの」
「そうだな、しかし大丈夫なのか? フェディエア?」
眠るフォーティスを抱っこしたままで、クインがベッドの上のフェディエアに訊ねる。
「さっきフォーティスにおっぱいあげて、そのあと、カラァとジプソフィに飲ませて、その、フェディエアの胸が萎んだり枯れたりしないのか?」
「それは大丈夫みたいよ。逆に張って痛いときがあるから」
「そうなのか? 随分と出るものなんだな」
フェディエアの胸にしがみつくカラァとジプソフィを見ながら、アシェが言う。
「私とクインは母乳が出ないから、どうすれば出せるようになるかしら? ねえ、クイン?」
「いや、あたいらには無理だろ。ゼラの捨て身の自己改造がどうかしてんだよ」
「それならクインはどうして、」
「おいアシェ、言うな、それは言うなよ」
んくんく、と無心にフェディエアの胸に吸い付くカラァとジプソフィ。双子の背を優しく撫でながらフェディエアが訊ねる。
「それと、フォーティスがゼラの母乳を飲んでも大丈夫なのかしら? 前にゼラがフォーティスに飲ませていたけど」
ルブセィラ女史が眼鏡をキラリと光らせる。
「そこは、私とカダール様が自身の身で試してみました。ゼラさんの母乳は人が飲んでも、なんともありませんよ」
「飲んだのかよ」
「はい。成分を調べてみたあと、ゼラさんにお願いして」
ルブセィラ女史は思い出すように目を細める。
「ゼラさんのおっぱいに口をつけて、なんだか幼い頃に帰ったかのような不思議な気分を味わいました」
「なんでも試すのか、そういやルブセィラはゼラの唾液も舐めたことあるんだよな?」
「はい、あのときは大変なことになりました。ゼラさんの想いのこもった夜元気は、とんでもない効果がありますね」
「眼鏡賢者は恐れ知らずね」
「アシェとクインもゼラさんの身体のことは調べているのでしょう? ゼラさんの母乳はどうですか?」
「こちらで調べてみたところ、人に害になるものは無いわ。栄養素を見るに、ちょっと元気になるくらいかしら?」
「私がゼラさんの母乳を飲んでみたところ、便秘が解消してお腹がスッキリしましたが」
「ゼラの母乳を便秘解消薬に使うんじゃねえよ。あれはカラァとジプソフィのごはんなんだから」
「ですが、ゼラさんからゼラさんの母乳でチーズが作れないか? と相談も受けてまして。試しに作っているところでもあります。フェディエア様の母乳も同様に」
「ゼラに誘われて、つい頷いてしまったけれど、チーズができたら誰に食べさせてみようかしら?」
お腹いっぱいになったのか、フェディエアの胸から口を離すカラァとジプソフィ。フェディエアは上体を起こしてカラァを抱き上げ、背中をトントンと叩いてげっぷさせる。
「ゼラの母乳でちょっと元気になるのね。それで、フォーティスがゼラの母乳を飲んだ日の夜は、なかなか寝つけなかったのかしら?」
アシェがジプソフィをそっと抱き上げ、フェディエアの真似をするようにジプソフィの背をトントンと叩く。
「私達でもフォーティスの健康状態は調べておくわ。ゼラの母乳には特別な効果は無さそうで、フォーティスへの悪影響は無いわ。フォーティスに何かあればすぐに伝えるわよ」
「そうね、アシェ、しっかり頼むわ」
「……もっと恨まれてるかと思ったわ。それを、ビンタ一発で水に流すとはね」
「いつまでもウジウジと恨み続ける姿を、母としてフォーティスに見せられないわ。代わりにアシェには、フォーティスの乳母としてしっかり働いてもらうから」
ジプソフィを抱いたまま、アシェは不敵に微笑むフェディエアを見る。
「随分と強くなったわね。ウィラーイン家が人を強く育むのかしら?」
「私はウィラーイン家としてはまだまだでしょうね。それでも今ではウィラーイン家の一員。妻としてエクアドを支えて、母としてフォーティスを守らないと。そうね、守るものと責任感が、強くならなきゃって思う心の力になるのかしら?」
「それで、その心の力があるから、私とクインがフォーティスを抱いても平気なのかしら?」
「今のアシェとクインがフォーティスにおかしなことをするとは思えないもの」
お腹いっぱいになったのか、うとうとするカラァを抱いたまま、フェディエアは、ふふ、と笑う。
「アシェ、あなたが子供を抱いてるとき、どんな顔をしてるか自分で解ってる?」
アシェは、ついっとフェディエアから顔を反らし片手で自分の顔を撫でる。
クインは自分の手の中で眠るフォーティスの顔を見て、眉間に皺を寄せる。
「あたいらがこうして、人の子を抱いて、ヘラヘラしてるのが、赦されていいのかって、思うこともあるんだ。アシェもそうだろ?」
「私は、クインほど深刻に悩んだりはしてないわ」
「嘘つけ、アシェが単純だったら魔法が精神特化になってねーだろ」
「私が歪んでるって言いたいのかしら? 否定はしないけど、私は悩む前に諦めてるわよ。クインほど一途ではないから」
フェディエアは言い合う二人にそっと注意する。
「二人とも、子供が寝てるときは声を小さくしなさい。それと、二人の過去に何があったか私は知らないけれど、フォーティスの母である私が、今のアシェとクインを赦してあげるわ」
フェディエアが言うことにアシェもクインもポカンとした顔をする。
その顔を見た護衛メイドのサレンが感心したように。
「伝承の魔獣ラミアにビンタを一発決めて、赦してあげるから乳母としてキッチリ働け、とは。フェディエア様はウィラーイン家の妻として、母として、実に素晴らしいです。フェディエア様が次期伯爵夫人となればウィラーイン家は安泰ですね。こうしてお仕えできることを光栄に思います」
「サレンがどの部分で褒めてくれたのか、ちょっとよく解らないのだけど、そう思ってくれるなら嬉しいわ」
ルブセィラ女史が眼鏡の位置を指で直す。
「ほう、母は強しと言いますが、母としての覚悟を決めるからこそ強く在らねば、ということなのでしょうか? 人の出産前と出産後の意識の変化など、比較して検証してみるのも面白いかもしれませんね」
クインとアシェは目を合わせて苦笑する。
「アシェ、ここにいると悩むのがバカらしくなるときないか?」
「そうね、まったくなんてところなのかしら」
アシェの抱くジプソフィが、相槌を打つように乳の匂いのする息を、けぷっ、と吐く。
カラァとジプソフィがフェディエアの母乳を飲んでも体調に異常は無く、フォーティスがゼラの母乳を飲んでも身体におかしなことは何も無く、スクスクと育つ。
フェディエアとゼラは一緒に子育てをし、三人の子供は兄妹のように育つ。このことが後に子供達にとって、エクアドとカダールを二人とも父親と、フェディエアとゼラを二人とも母親と思い込むことになるのだが、それは後の話。
「クイン、ジプソフィに靴下を履かせた?」
「それが靴下が七つしか無くて、フェディエア、あとひとつどこ行った?」
「アシェ、フォーティスのおしめは?」
「今、交換したところよ。ちょっと体重も計ってみるわね」
ラミアとカーラヴィンカ、伝承に語られる魔獣が甲斐甲斐しく人の子供の世話をする。
ローグシーの街の領主館の中では日常の光景となりつつある。
設定考案
K John・Smith様
加瀬優妃様
m(_ _)m ありがとうございます
(* ̄∇ ̄)ノ 乳兄妹として育つ三人の子供達でした。
◇◇◇◇◇
エクアド
「カダール、このチーズなのだが味見してくれないか?」
カダール
「チーズの味見、か?」
エクアド
「味で、どちらがフェディエアので、どちらがゼラのか、当てろと言われている」
カダール
「利きチーズ、か、どれ……、旨い」
エクアド
「俺には、どちらがどちらかわからん」
カダール
「うむ……、たぶん、こっちがゼラだ」
エクアド
「なぜ、わかる?」
カダール
「なぜと言われても……」




