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『赤い槍に降る白い花』

(* ̄∇ ̄)ノ 赤槍の騎士がついに邪教の神殿に突入!

 

 闇の神の彫像が、邪悪な笑みを浮かべ見下ろす邪教の神殿。その禍々しい空気を切り裂くように激しい戦いが繰り広げられる。


 赤槍の騎士と四腕オーガの死闘は続く。魔獣深森の深部に住む人食い鬼、そのオーガの中でも狂暴という変異種の四腕オーガ。

 四本もの太い腕が繰り出す鋼のような拳が、赤槍の騎士を襲う。既に赤槍の騎士は鎧の左の肩当てが吹き飛び、鎧の腹の部分は四腕オーガの拳の形に凹んでいる。鋼すら歪ませる怪力の拳を受けて、しかし、赤槍の騎士は闘志みなぎらせて四腕オーガを睨む。

 赤槍の騎士は口から溢れる血を、乱暴に手の甲で拭う。そこに響き渡る不快な嘲笑。


「ハハハハハ! 人が四腕オーガに勝てるものか!」


 高みから見下ろす邪神官が顔を歪め、勝ち誇り笑う。邪神の神殿の中は乱戦状態。赤槍の騎士の仲間達は黒づくめの邪神の信徒達と激戦を繰り広げている。


「エイク! 一旦下がれ!」


 邪神の信徒を袈裟斬りに切り下ろしながら、赤槍の騎士の親友、ダウルが叫ぶ。しかし、赤槍の騎士は首を振る。


「俺が四腕オーガを抑える! その間に姫を!」

「エイク! ひとりで無茶をするな!」

「無茶、では無い」


 満身創痍となりながらも、赤槍の騎士は勝利を確信した目で赤槍を構える


「コイツは操られている。故に力はあってもこの魔獣の動きは単純だ。既に見切った」


 赤槍の騎士は、愛用の槍『赤涙』を握り直し、四腕オーガへと駆ける。唸る黒い拳を潜り抜け『赤涙』を振るう。


「姫の嘆きを止めると誓ったのだ!」

「ガアアアア!」


 四腕オーガは吠え黒い腕を振り回す。しかしその腕は赤槍の騎士にかすることも無く、ブオンという音と風を起こすだけ。赤槍の騎士は四腕オーガの動きを全て読み切り、四つ腕オーガの肩に足に赤槍を刺す。

 身体中に穴を穿たれ苦鳴の声を上げる四腕オーガ。


「操られていたとは哀れだが」


 ついに赤槍が狂暴な黒い巨人の胸を穿つ。胸を貫かれた四つ腕オーガは、糸が切れたように膝をつき、音を立てて地に伏した。


「バ、バ、バカな!? 我が配下の魔獣が人に負けるなど?」


 勝利を確信していた邪神官は、四腕オーガの敗北を信じられないと悲壮な声を上げる。

 赤槍の騎士は愛槍『赤涙』の切っ先を邪神官に向ける。槍の先から四腕オーガの血が涙のように溢れる。


「嘆きの涙を流すのは、悪行の果てに行き着いたお前達だ!」


 赤槍の騎士の言葉に、共に邪神の神殿に突入した仲間達から気勢が上がる。四腕オーガが倒れたのを見た邪神の信徒達は浮き足立つ。


◇◇◇◇◇


 ここまで読んだところでカダールは本から顔を上げる。本を読み聞かせていた三人の子供達の顔を見る。ベッドの上、フォーティスを挟むように寝転ぶカラァとジプソフィ。三人とも目を輝かせている。

 手の本をパタンと閉じて、カダールは子供達に訊ねる。


「いつもの絵本より、難しかったかな?」

「ううん、おもしろい!」

「赤槍の騎士、カッコイイ!」

「お姫さまは? 赤槍の騎士はこのあとどうなるの?」


 三人の子供達は目をキラキラさせて、カダールに続きを促す。


「今日はここまで、ほら、そろそろ寝る時間だ」

「「えー?」」

「続きは、そうだな。エクアド父さんにしてもらうか?」

「父さんに?」

「赤槍の騎士というのは、実はエクアド父さんのことなんだ」

「「ええー!?」」


 カダールの言葉に三人の子供達は、父さんスゴイ、父さんカッコイイ、母さんがお姫様? と、盛り上がりなかなか寝つけずに夜更かししてしまう。


◇◇◇◇◇


「そ、それは物語の創作であって、俺はそんな決めゼリフを言ったりしたりは、」

「え? じゃ四腕オーガは? 父さんが倒したんじゃないの?」

「エクアドが一騎討ちで倒したのは本当だ。傷つきながらも気合いで勝ったんだ。そうだろうエクアド?」

「カダール、ちゃんと説明しないと、子供達が誤解するだろう」

「「父さん、スゴーイ!」」

「父さん、それじゃ、母さんは? 拐われたお姫様は?」

「邪教の信徒に捕まっていたのを助け出したのが、エクアド隊長、で間違って無いし、それでエクアド隊長とフェディエアが結婚、という流れになったんだ」

「あのね、シグルビー、間違ってはいないけれどその言い方だと、」

「「おおー!!」」

「母さんがお姫様!」

「父さんが姫を助け出した赤槍の英雄!」

「ちなみに、本には出て来ないが邪神官が操る魔獣は、実はもう一体いたのだ。マンティコアという魔法を使う魔獣で、これも四腕オーガに匹敵する強さがある」

「「まんてぃこあ?」」

「つよいの?」

「こわいの?」

「ふむ、強くて怖いの。しかし、そのマンティコアと戦って勝ったのが、実はこのワシなのだ」

「「じーじ、すごーい!」」


 目を輝かせて尊敬の眼差しで見上げる子供達。純粋な子供の期待は裏切れ無い。カダールが子供達に読み聞かせた本『赤い槍に降る白い花』のせいで、エクアド父さんとフェディエア母さんは、子供達の憧れの眼差しに困惑することになる。


「……大筋では間違って無いんだが、脚色されたところが多すぎて」

「だけど、ここは違うけどここは合ってるとか、細かく説明しても子供達には……」


 子供達がもう少し大きくなったら、しっかりと説明せねば、と、エクアドとフェディエアは決意する。


◇◇◇◇◇


「ひめのなげきを止めると誓ったのだ!」


 練習用の木の槍を構え、赤槍の騎士ごっこをするフォーティス。拐われた姫の役はカラァとジプソフィ。


「ごああー」

「お前の動きはみきった!」


 手甲をつけた護衛メイド、サレンに槍を打ち込むフォーティス。護衛メイド、サレンはオーガ役なので、ごああ、としか言わない。ごああー、と言いながらフォーティスの槍を手甲で打ち払い、ここだけフォーティスの槍の稽古としてやや実戦的だ。

 サレンはフォーティスと遊びながら、内心ではフォーティスをどう鍛えようか、などと考えつつ今はオーガ役に徹する。

 そんな子供の遊びを見ながら、並ぶ二人の父親が小声で話す。


「……俺はあんな決めゼリフを言ったりはしないのだが」

「エクアド、今更何を。俺とエクアドがネタにされるのは、これまでもあったことだろうに」

「カダール、それを息子に真似される、というのが新しい問題な訳でな」

「気持ちは解るが子供のごっこ遊びに口を出すのも」


 フォーティスが槍を振り回し、オーガ役の護衛メイドのサレンが、ごああー、と叫び地に倒れる。


「バ、バカな! 私の四腕オーガが人に敗れるなど!?」


 邪神官のセリフを言うのはアプラース王子だ。アプラース王子がじゃんけんに負けてしまったから仕方無いのだが、意外と楽しんでいるようだ。黒ローブを羽織ったアプラース王子の背後には、囚われの姫のカラァとジプソフィがチョコンといる。

 フォーティスは邪神官役のアプラース王子に練習用の木の槍の先を突きつける。


「嘆きのなみだをながすのは、お前たちだ!」


 フォーティスの言葉にカラァとジプソフィが、きゃあ、と歓声を上げる。

 しばらくの間、三人の子供達に赤槍の騎士ごっこが流行した。


設定考案

K John・Smith様

加瀬優妃様


m(_ _)m ありがとうございます


(* ̄∇ ̄)ノ ある意味、エクアドの主役回。


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