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深都の住人、その食事の秘密 その3

(* ̄∇ ̄)ノ ララティに聞いてみよう、その3。深都の住人の食事の謎は、これでラスト。


 ララティの言葉に寒気を感じます。調理という技術を発達させた為に、人の内蔵が劣化していると。

 確かに野の獣を見れば、生で食事をするのが当たり前。調理して食べるのは人間の特徴とも言えます。

 それが調理無しでは満足に食べることができるものが少ない、ということに?

 保存に便利な穀物の農耕、その穀物を調理することで人は飢餓の対策としてきました。その調理に頼る手段で生きることとなった人。

 もはや、調理無しで生きられない? かつての人はどうやって暮らしていたのか?

 私が考えているとルミリア様がララティに応えます。


「だけど、調理することで食料を保存し、干ばつなどの自然災害に対して強くもなったわ。冬の厳しいメイモント国では保存食に発酵食を改善して、長い冬に備えているのだし。一長一短、ということかしら?」


 ルミリア様が言うことにララティは、ふふん、と鼻を鳴らします。


「技術を高め、農業と流通で飢えに対抗する代わりに、社会システムの混乱で飢えるという弱点欠点も産まれたぴょん」

「それも内蔵が劣化したことを知恵と技術で補おうとしたから、かしら。だからと言って私達は、古代魔術文明と同じ道を辿るわけにはいかないわね」

「それでアイジスねえ様が、ルミリアとルブセィラに、たまにチクチク言ってるぴょん」

「そうね。そしてララティのおかげで、またひとつ考えることができるわ。長い時を生きた者の視点からは、いろいろと気づかされるわね」


 確かに、今を生きる私達の視点からでは、長期的な視野で見ることは難しいです。深都の住人の言うことは、実に考えさせられます。

 便利な技術は気づかぬ内に堕落する。

 それに抗うには、より深く、より広く識ること。そしてその知を御すること。世にある物事を見詰め正しく理解すること。

 いえ、それは少し違いますか? カダール様とゼラ様を見れば、あの二人は人並み外れた知恵者という感じでもありません。なのに強く、正しく在るように見えます。それは、何故なのか? 

 私はララティに深く頭を下げます。


「ララティ、ありがとうございます」

「ルブセィラ、それはなんの礼ぴょん?」

「ララティの言葉のおかげで、何か大事なことが解りかけた気がします」

「ふーん……」


 ララティはシャクシャクとリココの実をひとつ食べ終え、果汁のついた指を舐めます。


「あちはルミリアに心配は無いけど、うーん、ルブセィラはちょっと危ういとこ、あるぴょ?」

「私に危ういところ、ですか……」


 知的好奇心のままに研究を進め、それが禁則に触れる技術に繋がる可能性。かつての古代魔術文明が陥ったという文明の陥穽。

 知恵と知識では賢さには届かないことを、かつての古代魔術文明の滅日が教えてくれます。

 ならば、何をもって人の賢さと言うのか。

 俯き考えているとルミリア様が言います。


「ルブセィラも結婚してみると変わるのかしら?」

「結婚ですか?」

「私はハラードと結婚して、伯爵夫人としての責任と、カダールが産まれて母親としての責任から、いろいろと学ぶことが多かったから」


 伯爵家の一族として領民のことを考え、親として子の未来を考える。それがルミリア様の確かさと強さに繋がるのならば。

 研究者もまた、人の未来に責を負い真摯に考えることで、迷い無く選べる大切な事が解るということでしょうか?


「ですが、その為に結婚するというのは。相手もいませんし、何よりその動機では相手に悪いでしょう」

「ルブセィラは、ここに来たときよりそういうことに気を遣えるようになったのではなくて?」

「そうかもしれませんね。カラァとジプソフィに先生と呼ばれると、先生としてちゃんとしなくては、という気にもなりますし」


 私は既に嫁き遅れで、実家のカリアーニス家からは研究と結婚した変わり者と諦められてますから。今更、結婚する気もありませんし。

 む? 今、ちょっと引っ掛かりました。結婚するには、結婚する相手がいる。深都の住人には、ゼラさんのように、かつて恋焦がれた人がいるのではないか? というのが私の推測。

 カダール様とエクアド隊長から聞いたクインの話からも、それが間違いでは無いと考えられます。


「ララティは、リココの実が好物なのですよね?」

「そうだぴょん」

「ゼラさんの好みには、加工されたチーズもあります。また、クインも豆は茹でたもの、炒ったものを好みます。クインの場合、酒のツマミで、豆をもりもりと食べることはありませんが」

「うんうん」

「ゼラさんは進化前にカダール様から貰ったチーズの味を思い出すと言っていました。クインもまた、進化前に相手から炒り豆、茹で豆を与えられた、と聞きました」

「……」

「ララティも、リココの実をじっくりと味わうように食べますね?」


 ララティは、かごの中から次のリココの実を取り出したところで止まり、私をチラリと赤い瞳で見ます。


「ルブセィラは何が聞きたいぴょ?」

「ララティの話を聞けば、加工されたチーズにフォイゾンは少ない筈。豆もまた加熱した物はフォイゾンは失われている筈。ですが、それを好むというのは、深都の住人の食事の好みのひとつに、かつての思い出を味わうというのもあるのではないか、と、思いつきました」


 リココの実の匂いを嗅いで、赤い瞳を細めるララティを思い出します。

 ゼラさんがカダール様から貰ったチーズのことを憶えていて、今もチーズを好むように。クインもまた、想い人が酒を飲みクインに話しかけながら豆をクインに与えていた、と聞きました。

 ララティにもリココの実に関わる、かつての想い人との特別な思い出があるのではないでしょうか?

 ララティは私からリココの実へと視線を移します。


「まー、深都の住人の食事の好みには、そういうのもあるぴょん。だけどそこは聞かれたく無いのもいるぴょ」

「ララティは聞かせてくれませんか? リココの実に纏わることを」

「あちがそーいうの語るのは似合わないぴょん。あちはこれでも業の者、そこは察しろぴょん」


 ついっ、と顔を背けてしまうララティ。ですが私には、リココの実をそっと兎に差し出す人の姿を想像してしまいます。


「あー、あちからも、二人に謝っておくぴょん。脅して悪かったぴょん」


 ララティは片手で長い耳の後ろをポリポリとかきながら、バツが悪そうに言います。


「あちはルミリアとルブセィラなら、これくらいは言ってもいいかと思ったぴょん。それに、深都の住人のことを知りたいというのは、ちょっと嬉しいし」


 恥ずかしいのでしょうか? ララティは赤い瞳を背けたまま、小さな声で続けます。


「……ルミリアが家族のように言ってくれるのは、その、なかなか良かったぴょん」

「ゼラの姉で、同じ館に住み、一緒にご飯を食べて、ときには一緒にお風呂に入ったり、これが家族で無くてなんて言うのかしら?」

「あちらを怯ませるなんて、とんでもない人間ぴょん」

「ララティのお話のおかげで深都の住人の食事がどうすればいいか、ちょっとわかったわ。生でなるべく新鮮なもの、ね」

「館の料理長は不満たらたらぴょん?」

「そうでも無いわ。最近はお菓子作りに力を入れているみたいだから。果物のジャムにソースの種類を増やしてバリエーションを広げるとか」

「果物のジャムのお菓子! ぴょーん!」

「アイジスからは、ララティに甘い物ばかり出さないように言われているけれど」

「もうぷにっとしてないぴょん! 運動不足は解消したぴょーん!」


 軽口を交わすララティとルミリア様は、家族のようでもあり、友人でもあるように見えます。下半身は大きな兎のララティが、人間のルミリア様に、まるで甘えるようにからかうように。

 これがカダール様の母親、護衛メイドのサレンが心酔するウィラーインの博物学者。こういうときにルミリア様の人の器の大きさ、というものを感じます。私だけではララティの言葉に何も返せなかったでしょう。


「ララティの持ってきたエクスガーネットベリーの種も、ようやく芽が出てきましたし。そのエクスガーネットベリーの実、というのも味見してみたいですね」

「あの実で作ったパイとか、食べてみたいぴょん」

「ジャムにするには砂糖が多くなるので、またアイジスから注意されるかも」

「砂糖控えめで作れないぴょん?」

「ジャムは砂糖の量が少ないと保存性が悪くなるのですよね」


 ララティとお喋りしながら、こんな話を気軽にできる今の状況に感謝します。

 知識だけでは足りない、好奇心だけでは届かない。私の知らないことが、まだまだここにあるようです。


設定考案

K John・Smith様

加瀬優妃様


m(_ _)m ありがとうございます


( ̄▽ ̄;) 本編に出て来なかった裏設定、お披露目するのがララティとは。


ララティ

「これでもあちは業の者ぴょん。あ、でも深都のマスコットポジション的なとこもあるので、そんなに怖がらないで欲しいぴょん」


( ̄▽ ̄;) ワガママな。


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