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深都の住人、その食事の秘密 その1

(* ̄∇ ̄)ノ 深都の食事の秘密に、ルブセィラ女史が迫ります。ルブセィラ女史、主役回。


 地下秘密研究室にて、ルミリア様と資料の整理とまとめを行っています。この秘密研究室は私とルミリア様以外は立ち入り禁止としています。なにせここにある資料は、世に出せるかどうか怪しいものが多いですから。


「思い付くままに研究実験してしまう、無責任な研究者にはもう戻れないわね」

「ルミリア様は以前より、伯爵婦人として領地の為の研究をしていたのではないですか?」

「それも、禁則というものがあると知ってしまうと慎重にならざるをえないわ」


 禁則に触れるものを開発してしまい、それが世に出ることになれば、その為にウィラーイン領が滅ぶことにもなりかねない。

 どうやら聖獣一角獣のお言葉にも、禁則に触れるものを遠回しに禁ずるものがあり、それが教会の教えとともに守られることで人の世の滅日を防いでいるようです。

 教会の伝える光の神々の教えには、こうして人の世を守るものがあります。


 私とルミリア様の研究の中で、これは禁則に触れるのではないか? というのがこの地下秘密研究室に秘蔵されています。また、深都の住人のことで深都の大使、アイジスが人に広まって欲しくないと考えそうなものもここにあります。

 私とルミリア様で観察した深都の住人達のことも、ここで資料にまとめています。

 ルミリア様がイタズラっぽく笑ってこちらを見て、


「この点でローグシーの街の中で、危ないのは私とルブセィラだけかしら?」

「そのようですね。アイジスとクインがそれとなく注意してくれるので助かります」

「それにアシェが皮肉を言うものも、ね」


 ヒントとしてあるのは、広まれば人を弱体化させる技術。かつて古代魔術文明は発達した技術に溺れ、人として生物として弱体化し、滅日を迎えた、ということのようです。

 知恵の産物が人を堕落させ愚かにする、具体的に何があったのかまでは解りませんが、人がそうなるというのは想像できます。


「便利と堕落は繋がりやすいもの、かしら?」

「アシェが、怠け者を増やしたいのかしら? なんて苦笑してましたね」

「教会の教えも怠惰を悪徳とし、勤勉を善しとするものね」


 そうなると教会の教え、そのものがかつて滅びた古代魔術文明の希望で作られたものか、もしくは聖獣一角獣のお言葉も、旧くから人を見守ってきた闇の母神、深都の住人と何か繋がりがあるのかもしれません。

 そしてこのような事を書いたものなど、他人に見せられる筈も無く、この地下秘密研究所に隠しておかなければ。

 私は手元にあるメモを、ひとつの資料の中に書き写します。今、話していたアシェの似姿の絵と共に。

 ふうむ?


「ところで、アシェは生肉も食べますが、生卵も好きなようですね」

「そのようね。殻ごと丸飲みとは、実際に目にしてなるほど蛇ね、と思ったわ」

「ララティは果物、カッセルとユッキルは木の実、と」

「アイジスはクラゲ、ハイアディはカニとエビ、ゼラとクインは生肉ね。アイジスとハイアディの好みを用意できないのが残念ね。それがどうしたの? ルブセィラ?」

「深都の住人は、食事は生を好みますが、甘いお菓子も好きなんですよね。そこが謎です」

「アイジスとアシェとクインは、甘くないお菓子の方がいいみたいね」

「それは三人とも酒飲みだから、でしょうか? 甘さを抑えたマドレーヌなど喜んでいたようです」

「クインは酒のツマミには煎り豆、茹で豆が好きなのよね。クインはお酒に酔うとお喋りになって楽しいわ」

「アイジスとアシェも酒を好みますが、この二人は泥酔したところは見たこと無いですね」


 ふむ、と考えているとルミリア様が聞いてきます。


「深都の住人とお酒について調べているの?」

「いえ、これは料理長にも尋ねられたのですが、深都の住人は生食を好みつつも、何故、調理されたお菓子も好きなのだろうか? と」

「そうね、もとの食性だけじゃ説明できないわね」

「お菓子は調理された食品で、生では無いのですが。深都の住人の味覚というものがよく分かりません」

「それじゃちょっと聞いてみましょうか」

「誰に、というか、深都の住人で一番口が軽そうなのが」

「アプラース王子の魔獣深森調査隊に、リココの実の採取を頼んで、持ってきてもらったのがあるから」


 ルミリア様と顔を見合わせて、ニマリと笑みが溢れます。

 ララティに聞いてみて、それをアイジスが眉を顰めるようなら、調査結果はこの地下秘密研究室に隠しましょう。


「秘密基地のお宝が増えるみたいで楽しいわね」


 何が起きても楽しめるようなルミリア様は、同じ研究者として実に頼もしいです。


「深都の住人の食事、ぴょん?」

「ええ、少し教えていただけないかと」


 早速、ルミリア様と二人でララティのところへと。

 グリーンラビット半地下飼育実験場。その管理の為に建てた建物。その一室は現在、ララティこと、下半身大兎の深都の住人、ラッカラックランティの部屋となっています。


 ルミリア様と二人でこの部屋にお邪魔して、リココの実の入ったカゴをララティに渡します。


「ゼラさんもそうですが、皆さん食事は生のものを好みます。それなのにお菓子は調理されたものも、焼かれたものであっても美味しい、と食べるのを不思議に思いまして」

「ふうん?」


 ララティは正体を表して寝そべるように寛いでいます。下半身は頭の無い巨大な兎。真っ白な体毛は薄く桃色の艶があります。触ると柔らかくふわふわで子供達にも人気の毛皮。ララティも自慢するように人が触ることを気安く許してくれます。


 深都の住人は皆、髪を長く伸ばすようでララティの髪も長いです。クインとアイジスは人に化けたときは短くなりますが、正体を現すと皆さん腰の辺りまである長髪です。

 ララティの髪は明るい金色の髪の毛、この髪もまた、桃色の艶で輝くという不思議な髪色。


 特徴的なのはその耳でしょうか。ゼラさんの耳は人に似て、耳の先が少し尖って見えるくらい。

 ララティの耳はまるで兎の耳のように長いです。耳の位置は人と同じで、そこから横に伸びており、耳の先は髪と同じ色の金の毛で覆われています。

 ララティはその耳をぱたぱたと動かしています。機嫌の悪いときや、アイジスに怒られているときはこの耳が垂れ下がるようですね。


「ララティは果物を生で食べるのが好みのようですが、調理したアップルパイなども美味しいと食べますよね。味覚が私達と違うことは想像できますが、いつもの生の食事とお菓子とはかなり味が違うはずです。なのにどちらも美味しそうに食べるので、いったいどのようなものを美味しいと感じているのかが、私達には解らないところなのです」

「それを、あちに聞きたいぴょん?」

「はい、そうです」

「ふーん……」


 私とルミリア様の見ている前で、ララティがカゴの中のリココの実をひとつ掴みます。顔に近づけてスンスンと匂いを嗅いで、弄ぶように真上に投げてキャッチします。


「あちがリココの実につられて、なんでもペランコ喋ると思ったかぴょん?」


 リココの実はララティの好きな果物の筈です。

 ララティがお手玉していたリココの実を右手に受け止め、その赤い瞳がスッと細くなり、顔から笑みが消えます。


「あちを侮るなよ、人間」


 ララティの声がいつもより低くなり、冷たい赤い瞳に見据えられて、私の背筋に震えが走ります。


設定考案

K John・Smith様

加瀬優妃様


m(_ _)m ありがとうございます


(* ̄∇ ̄)ノ ララティがもうひとつの素顔を見せる?


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