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鋼魔樹の霊実

(* ̄∇ ̄)ノ リス姉妹、ウィラーイン領に来てからの話です。K様の魔獣研究ネタから膨らませてこんな感じに。



 魔獣深森の奥地。そこは人知を越えた恐ろしい自然の魔城。

 塔のような大木が聳え、人の知る森とは姿が違う暗い森。見上げる巨木の枝葉に日の光は遮られ、極相林のように下生えの小さな草花は少なくなる。代わりに大人が手を開く大きさの花が咲き、椅子として座れそうなサイズの茸が生える。何もかもが一回り巨大となり、そこに住む魔獣もまた大きく強い。この地に来た人は自分が小人にでもなったような錯覚を覚える。


 巨大な鋼のような落ち葉が下を進むウサギを両断し地に刺さる。ウサギの死体はやがて樹の根の養分となる。巨大なトラバサミのような食肉植物が罠を張り獲物を待ち構え、そんな危険な植物を食料とするような魔獣がいる。

 極彩色の羽根で獲物に催眠をかける巨大なカマキリが不思議なダンスを踊り、体内のガスで浮游するスライムが不意に頭上から飛びかかる。


 熟練のハンターすら命の危険を感じ、未だに探索の進まぬ魔獣深森、深部の奥地。尋常ならざる生態系が人の侵入を拒む、前人未到の秘境。

 そこに立つ二人の女剣士がいる。東方風の着物に腰に毛皮を巻き付けたような、奇妙な衣装の二人組。

 すっかりウィラーイン伯爵家の食客になってしまったカッセルダシタンテとユッキルデシタントの双子の姉妹だ。

 人が恐れる魔獣深森の奥地を二人は散歩でもするように呑気に進む。それもその筈、二人は深都の住人。その正体は人には伝承の進化する魔獣と呼ばれる世界樹に住まう栗鼠(ラタトスク)


 カッセルダシタンテは右手に持つ抜き身の刀を惚れ惚れと見る。


「これほどの出来とは……、あの鍛冶姉妹は天才だ」


 ユッキルデシタントも右手と左手に一本ずつ持つ刀を見て応える。


「東方から来たクチバがその作り方を伝え、それを実験的に再現した、ということだが。まさか、東方古刀を再び手にできるとは」

「……シタンより受け継いだものは、折れて無くしてしまったから」

「これまで形を似せた片刃の長剣を使っていたが、やはり刀は良いな、姉よ」

「あぁ、やはりシタンの武術は刀が良い。鍛冶姉妹には無理をさせてしまったが」

「それは眼鏡の賢者と博物学者が乗ってしまったから」


 ウィラーイン領諜報部隊フクロウ、その統括は東方から流れて来たシノビのクチバ。

 刀が欲しい、という話がリス姉妹から出たときにクチバが東方古刀の作り方を知っている、と言った。これまでクチバとその一部の配下の為に自作していたが、黒の聖獣警護隊、武装班で造ってみようとなった。

 これにルブセィラ女史と博物学者ルミリアが盛り上がった。


『ほほう、柔らかく折れない代わりに刃物としては切れ味の鈍い金属。硬く鋭く切れ味のいい代わりに弾性に欠け、折れやすい金属。その二つの長所をこのように合体させるとは』

『ただ、溶かして混ぜるだけでは互いの欠点を補い合うことにはならないわ。面白い発想ね』


 二人の研究欲に火がつき、試作を何本も作らされた鍛冶姉妹は疲労で手が上がらなくなることに。

 クチバによると、


『東方でよく採れる金属に加えて、昔は金属を溶かしきる大きな窯を作る技術が難しかった頃の職人の知恵ですね。ただ、造るのに手間がかかりめんどくさいので、この技術は東方でも喪われつつあります。そのため東方でも古刀が持て囃されるのですが』


「人の知恵と技術の研鑽は、ソレガシには思いもよらぬところがある」

「セッシャ達は持ち前の自力で強引にやってしまいがちだから。しかしやはり刀は良い」

「この東方古刀の良さとは、人の、いや生物の在り方と繋がるからかもしれん」

「姉よ、どういう意味で?」

「二つの金属の欠点を補い合い双方の長所を生かす。まるで肉と骨の関係のようではないか? 骨は固いが折れやすく、肉はしなやかだが、肉のみで立つことはできず。肉が骨を守り、骨が肉を支える」

「なるほど、二種の金属で作られた刀の波紋を美しく感じるのは、そこに生物としての在り方と繋がるからか」

「この東方古刀であれば、あの難敵に文字通り刃が立つことだろう」

「楽しみだ。この刀を造るのに尽力してくれたあの者達への礼にもなる」

「と、言いつつ試し斬りがしてみたいというところなのだが」

「ヨロイイノシシ程度では物足りん。それにこの東方古刀であれば、因縁のあやつも斬れよう」


 クスクスの笑う二人の剣士。少女にしか見えないそっくりの双子の姉妹は抜き身の刀をぶら下げて森の中を進む。

 人と見れば襲う筈の魔獣は双子の剣士達から離れて身を隠す。手頃な堅さの魔獣となればこの二人の試し斬りの的にされると解っているのか、この二人の持つ気配に当てられたのか、まるで双子の剣士の視界から逃げるように魔獣はいなくなる。

 静かな魔獣深森の奥地を、双子の剣士は悠々と歩く。王者の行進を止められる強者はいない。


 暗い森の中を進む双子の剣士は、一本の巨木の前で足を止める。


「見つけたぞ、(ウルトラ)重装甲(ヘビーアーマード)魔胡桃(デビルウォールナット)


 目前に聳えるのは一本の巨樹。明るい灰色の金属的な光沢の樹皮を持つ巨大な樹。

 如何なる進化の果てか、魔獣多き森の中で根から土中の金属成分を吸い上げ、魔力持つ樹は魔法としか呼べぬ能力で樹皮を鋼のように硬くする。

 年輪のように重ねた鋼の装甲は積層構造となり、切れること無き樹として魔獣奥地に聳える。灰色の枝に灰色の葉が茂り、その堅さに風でそよぐことも無い。異常な環境に適応した異常の樹。

 (ウルトラ)重装甲(ヘビーアーマード)魔胡桃(デビルウォールナット)


 双子の剣士は微笑みを浮かべ刀を持つ手の肩をグルグルと解すように回す。ウキウキとした様子で軽くジャンプなどしたりする。


「久方振りに、なんとも心が浮き立つな、妹よ」

「ああ、やはり難題に挑んでこそ剣術家というものなのだろう、姉よ」


 双子の剣士は、すう、と息を吸い同時に駆け出す。灰色の樹皮に足を駆け、巨樹を駆け登る。まるで大地を駆ける疾風のように、二人の少女は真上に走る。リスが樹の幹を駆け上がるように双子の剣士は天へと向かって走る。

 灰色の鋼の葉の中を潜り、速度を落とさず上に上に、


「「()ッ!」」


 鋭い呼気と共に無数の刀閃が走る。灰色の巨樹から鳥が飛び立つように跳ね、そのまま二人は地上へと着地する。

 一瞬の静寂。地上に膝を着き動きを止める双子の剣士。ひと間、遅れて灰色の鋼の枝がバラバラと落ちる。人の拳よりも大きな胡桃のような実が次から次へと地に落ち、二つに割れて中身を晒す。


「鋼の魔樹といえど」

「東方古刀を手にした我らに」

「「斬れぬものは無し」」


 二人は立ち上がり刀に刃こぼれが無いことを確認すると、満足そうに鞘に刀を納める。


「しかし、食い意地だけでこの魔樹を切断するラッカラックランティは侮れんか」

「あれは自称、斬撃の支配者、だから。突進とすれ違い様の一閃だけなら、ラッカラックランティが深都でも十二姉に匹敵する」

「ラビットスラッシュか、月兎抜刀牙か、技名をちゃんと決めろと思うのだが」

「そこはラッカラックランティの芸風というものだろう」

「だが、あやつがソレガシ等と同じ武闘組呼ばわりされるのはどうかと思うぞ」

「しかし姉よ、どう見てもラッカラックランティは頭脳組では無い」

「深都の住人を和ませる芸能組、でいいのではないか?」

「ううむ、歌と軽業ならばセッシャらも芸能組なのだが」

「なんというか、ラッカラックランティの野放図さと同じに見られるのは、ちょっと困る」

「深都から抜け出してアイジスねえ様に面倒をかけるところで、同じ扱いになっているような」

「そこはソレガシらでアイジスねえ様の補佐をする、ということで落ち着いた話ではないか」


 双子の剣士は話ながら切り落とした木の実に近づく。落ちた鋼の木の実は何れも二つに割れ中身を晒す。鋼の殻に守られた柔らかい中身に、双子の剣士は手を伸ばす。


 そして、


「「おいしー♪」」


 二人の少女の満足気な声が、魔獣深森の奥地に響く。


設定考案

K John・Smith様

加瀬優妃様

ありがとうございます。


(* ̄∇ ̄)ノ 夏休みの自由魔獣研究から。

( ̄▽ ̄;) そして美味しい食べ物に弱かった、リス姉妹とランティ。ウィラーイン領のお菓子がお気に入りに。


(* ̄∇ ̄)ノ 蜘蛛意吐350万PV記念して、スピンアウトちょい追加しようかな?


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