スキュラねーさま お料理編 前編
スキュラのハイアディ、お料理に挑戦
彼はローグシーの街の守備兵で、夜勤もあるけど昼間は仕事に出ていることが多い。
「それじゃ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
行ってらっしゃいって、なんだか、なんだか、奥さんみたい? きゃう。
「……急にモジモジするのはなんですか? 誰か訪ねて来ても留守ということで、顔を出したりしないでくださいね」
「はいっ」
彼が仕事に出ているときは暇といえば暇。どうしようかな。水槽も作って、広くして補強もして、地下の改造は一通り終わったとこだし。地下水脈と繋げて、給水も排水もこれで問題無いし。
彼が仕事してる間に、お掃除とかお洗濯とかしたら、彼、喜んでくれるかな?
そんなわけで人化の魔法で人型になって、地下室から彼の家の中へと。
私は人化の魔法は苦手で、驚いたり動揺したりすると、集中が切れてすぐに正体が出てしまう。こんなことなら、ちゃんと練習しておけば良かったかな。もとのスキュラ体だと下半身が大きくて、人の家の中を移動するのがたいへんなのよね。
私に何ができるかわからないけれど、うん、お料理やってみよう。
彼が作ってくれた人の料理は食べたことがある。もともとカラミティオクトパスの私は、貝とかカニとか生で食べるのが好きなのだけど。人には私達の食事は見せない方がいいって知ってるから、彼に私の食事のことは言い出せてない。
人と同じものを食べるよ、と、言ってごまかしてる。魚とか好き、と、言ったら彼は私の為に魚を買ってきてくれた。
この街では大きな川も大きな湖も遠くて、魚は入手しずらいはずなんだけど。海産物は南のジャスパルから塩漬けしたのを輸入してるって聞いてるのだけど。
……私の為にわざわざ魚をもってきてくれたのよね。きゃうう。
……あ、人化の魔法が解けちゃった。うぅ、人の台所って狭い。椅子とテーブルはちょっと動かして、このまま触手でお料理してみよう。練習すれば上手にできるようになる、よね?
お料理って不思議ね。人の調理については少し知ってる。もともとは食べ物が無いときでも、飢えないようにするための人の工夫。毒のあるところを落としたり、加熱することで寄生虫を処理したり。
藁に木の皮も時間をかけてじっくりと煮込むことで、食べられるようになる。さまざまな調理法を開発したことで、人は食料難を乗り越えてきた。
調理によりいろんな種類の食料を口にできるようになったのが、人。そのかわり生で食べることがほとんどできなくなった。
えーと、たしか野菜の皮を外して、人の一口大のサイズに切って、煮込んだらシチュー、よね? たしかそんな感じ。触手で包丁握って、えいえいえい。
ちゃんと加熱すれば殺菌できて柔らかく食べやすくなるはず。私、火系の魔法は使えないけれど、水系なら得意。火を使わなくても水の温度を変えればいいわよね。でー、ぐつぐつぐつ、と。いろんな色の野菜が入って、賑やかな感じ。うん、たぶんいい感じ。
問題は味付け、なのよね。生のカニとかバリンボリンと食べるのが好きな私の味覚と、彼の味覚は同じじゃ無いから。私が味見しても彼がどう感じるか解らない。
こういうところで、スキュラと人は違うのよね。
だけど、私には奥の手が、奥の触手がある。
私の下半身は乾燥を防ぐ為に粘液が覆っている。この粘液を操作するのが私の得意技。毒液とか麻痺液とか作るのが簡単なんだけど、解毒薬だって作れるの。
そして、ほとんどの生物は自分の体に必要な栄養素を含むものを、美味しいと感じるもの。
ぐつぐつとあぶくをたてる鍋の上に触手を伸ばしてー。
粘液操作! ビタミン、ミネラル、グルタミン酸、ドコサヘキサエン酸、マグネシウム、亜鉛、その他もろもろたっぷり含んだ、これぞ海の恵み!
この私の栄養素たっぷり粘液をシチューの中に、トローリトローリと。これで栄養満点! 完成、究極健康食! これで元気にならないほ乳類はいないはず!
あれ? でも、これを彼が食べるとすると、
私の下半身の粘液が、か、か、彼の口の中へ? わわわわたしの粘液がが、彼の、彼の口の中から、体内に? わ、私の粘液、ひ、ひわわわわわ。
設定考案
K John・Smith様
加瀬優妃様
ありがとうございます