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双子の蜘蛛姫と氷の彫刻

(* ̄∇ ̄)ノ ゼラとカラァとジプソフィの、芸術家教室。


「すいっ」


 領主館の庭、ゼラは下半身の蜘蛛の腹をペタンと草地につけて、手のひらの間に魔法で出した水球を浮かべる。


「ンー、こうして、うにゅっとして、にょーんとすると」

「「ママ、すごーい!」」


 カラァとジプソフィはゼラの手の上にあるものを見て、歓喜の声を上げる。

 ゼラの手の上にあるのは、氷でできた蜘蛛の彫刻。

 ゼラの水系魔法で操作して形を整え凍らせた、ゼラの魔法でしかできない精密操作で作られた精緻な氷の彫刻。

 糸を細かく制御して操るゼラは、ゆっくりと時間をかければ、見た目の細かい操作をする魔法も得意だ。プリンセスオゥガンジーを編むことでより細かい操作を身に付けたゼラの魔法の氷の彫刻は、より繊細な出来映えのものを作れるようになった。


 ゼラはこうしてカラァとジプソフィが魔法の力に目覚めてからは、二人の娘の目の前で実演して見せる。ゼラの使える魔法を二人の娘に見せている。

 人の魔術と違い、理屈では無く感覚で現象を操作する魔法は人では教えられない分野。カラァとジプソフィの得意な系統も未だに不明。

 暴走しないようにするために制御する方法から憶えてもらおうと、今日は水の操作を練習してもらうことに。


 カラァとジプソフィは洗面器に入った水に手を入れて、


「むむむー」

「んーにゃ」


 小さな両手の平の間で、魔法で持ち上げた水の玉を操作して、形を整えようとする。ゼラの真似をしてふわふわと浮く水の球を真剣に見詰める。パシュンと跳ねる水飛沫がかかり、キャアと声を上げる。


 その様子を離れて見ながら全身を震わせる赤い髭の男がひとり。


「ぬうううう、これが人智を越えた摩可不思議なる聖獣の魔法。魔性の法則にて意思の力で世界の律を変える真の魔法。古代魔術文明の秘技を解き明かし、魔法を技術化し解明しようとしても、我ら人の使える魔術など真の魔法の深淵の一欠片に過ぎぬ。世界の神秘に触れる魔法から産まれたあの蜘蛛の造形、あの輝き。想いを、想像を、イマジネーションをこの世に形として蘇らせる、芸術家であれば渇望する正に魔性の力。あの力が私にあれば、いや、想像を具現化しうる程に細密な想像力が私にあるのか? ならば私にできるのは、人にできるのは、魔法に匹敵する、世界から掬い上げる美の根源を見い出し、そこに形を与える人の技の極致とは」


 カラァとジプソフィは額にシワを寄せて、うにゃうにゃと唸りながらなんとか形を作る。ゼラはそこに手を伸ばして、


「ちー」


 と、一言、水を凍らせる。できたのはヒトデのような形のものと、雪だるまのような形のもの。


「「きれいにできなーい」」


 不満を口に頬を膨らませる双子の娘。だがそれを見ていた赤髭はそっと氷のヒトデに手を伸ばす。


「カラァ、ジプソフィ、それをちょっと貸してくれないかい?」

「「うん、いいよ」」


 赤髭はしばらく氷のヒトデを見つめると、懐から小刀を取り出して氷のヒトデを削り出す。続けて氷の雪だるまも。


「形を通して心を見る。幼子がこの世に現そうとした形を……」


 手早く氷が溶ける前に、整えるように小刀を振るう赤髭。


「少し手伝わせてもらったよ」


 カラァの手に戻したヒトデは、絵本『蜘蛛の姫の恩返し』に出てくる赤毛の王子に、ジプソフィの手に戻した氷の雪だるまは蜘蛛の姫に。素晴らしい出来映えとは言えないが、カラァとジプソフィがそれを見てぱあっと笑顔になる。


「「すごーい!」」


 微笑む三人の蜘蛛の姫。囲まれてゼラの作った氷の蜘蛛の彫刻を見つめる赤髭。


(魔法は人には使えぬが、代わりに人にできるのは、より作り込むこと。真の美を見つめそこに近づかんと手をくわえ続けること)


「どうしてカラァの作りたいものわかったの?」

「どうしてジプの作ろうとしたのがわかるの?」


 赤髭は小刀をハンカチで拭きながら。


「芸術家というものは、石の中に女神の姿を見、木の中からドラゴンの影を見いだすものなのだよ」


(子供心に素直に素敵と感じるもの……、うむ、次のテーマはこれでいこう)


 まるで子供のようにはしゃぎカラァとジプソフィと話す赤髭を、ゼラは優しく微笑み見下ろしている。


「ン、また木炭デッサン、教えて」

「うむ、もちろんだとも」


 王都でも名高い芸術家、赤髭。彼はローグシーの街にて、黒の聖獣ゼラと二人の蜘蛛の御子に絵や彫刻など教えるようになる。

 また身近で黒の聖獣に深都の住人と触れ合った赤髭の作品は、聖獣、魔獣という人外の存在を生き生きと描き出し、後世に名を残すことになる。



 これはその後の話だが。


 後に赤髭より絵の描き方を教えてもらったゼラは、ルブセィラ女史に頼まれ、ルブセィラ女史の書いた絵本の絵を描くことになる。


 ルブセィラ女史が双子の蜘蛛姫に贈った、世界にただひとつの絵本。その製作の影には芸術家、赤髭の尽力があった。

 

 しかし、当の本人がその絵本に参加したいと言ったものの、気合いを入れて描いたが為に、画風が可愛い絵本向けにならなかった。

 姉のルミリアより没をくらい、ショックで三日ほど寝込むことになる。


設定考案

K John・Smith様

加瀬優妃様


m(_ _)m ありがとうございます。

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