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リス姉妹、寂れた村の死闘◇4

(; ̄∇ ̄)ノ 間が開いてすいません。リス姉妹死闘編その4


 カッセルダシタンテは歯軋りを鳴らす。


(迂闊に出れば狙撃の的、しかし、このままでは……)


 肉が弾け血を流す右肩を左手で抑え、村の粗末な家の影に身を隠すカッセルダシタンテ。

 惨劇の村では戦闘狂化兵が哄笑を上げて暴れ続ける。泣き叫ぶ村人が逃げ惑う。

 カッセルダシタンテは肩の痛みに歯を食いしばる。


(ソレガシ一人を狙えばいいものを、無関係な村人を人質のように)


 武技に自負のあるカッセルダシタンテにとっては、相手の数が多くとも怯みはしない。しかし、自分以外の者を手当たり次第に襲う狂人の群れを相手どるのは、経験したことが無い。


(このまま隠れていれば、被害が増える。しかし、ソレガシを狙う銃使いが待ち構えている)


 殺気も殺意も読めぬ、何処にいるかも解らぬ遠距離からの銃による狙撃。相手が視界に入れば対処のしようもあるが、いつ射たれるか解らぬ音より速い弾丸は、避けることが難しい。


(デタラメに動き回り、足を止めずに狙いを外すか。それも相手の技量が低いことに期待して、ち、銃とは厄介な)


 右肩を撃たれたときに刀は落とした。右手はしびれて動かず、あるのは左手の小太刀がひとつ。


〈クカカッ! どうしたチビ剣士? 村人は見殺しか? さぁ、あたしの戦闘狂化兵、動くものはなんでも殺せッ! 獲物を追いたてろッ! クカカカカ!〉


 勝ち誇るドラクナル=Dの笑い声、襲われる女の悲鳴が被る。阿鼻叫喚の地獄絵図。


(ち、ソレガシ一人を炙り出す為に、村を悪意に沈めるとは、奇機械衆ドラクナル=D、貴様は絶対に許さぬ! もはや、致し方無し!)


 カッセルダシタンテは身を隠す家の影から飛び出す。血と悲鳴と狂笑の村に、茶の疾風が現れる。


「なんだぁ?」


 大斧を振り上げた男が間抜けな声を上げたまま、空高く飛ぶ。斧を持ったままの両腕だけを地に残し、肩から先を無くした男の身体が、血の糸を引き空を舞う。


「ぎゃあ!?」

「おぶっ!」

「げはあっ!」


 地を蹴る砂埃だけを残し、茶色の影が残像を残す。尋常ならざる速度は人の目に追えず、疾風が過ぎ去れば、戦闘狂化兵が宙に浮き、または崩れ落ちる。人体が破裂する赤い血煙を吹き上げ、頭を無くし、腹を裂かれ、致命の傷をうけた戦闘狂化兵がバタバタと倒れる。


「しゃああっ!」


 かろうじて反応した男が茶色の疾風を止めようと、大剣を横凪ぎに振るう。だが大剣は不自然にピタリと動きを止められる。


「な、なんだお前?」


 戦闘狂化兵が驚きの声を出す。狂化薬と強化魔術と暗示により正気を無くした男が、目前の異常により一瞬、我に帰る。

 薬物と暗示による恍惚と興奮による酩酊すら、冷え覚める恐怖。

 大剣を掴んで止めるのは異形の巨大な獣の前足。

 大剣を掴むために、その異形は疾風の動きを止めて目前に在る。

 その姿は栗鼠に似ていた。ただその大きさ、馬よりも大きく。茶色の体毛は返り血に赤く染まり、大きな栗鼠の尾が毛を逆立てている。

 異形と呼ぶのは大きさだけでは無い。その巨大栗鼠には頭が無かった。本来頭のある部分からは人の少女の上半身が生えている。

 右の肩からは血を流し、茶色の髪は長く伸び、耳は一回り大きくなり焦げ茶色の毛が覆う。

 突き上げる怒りのあまりに表情を無くした女の顔は、黒の瞳が大きく底無しの暗い穴のように。

 下半身は巨大な頭の無い栗鼠。上半身は人の少女。

 半人半獣。伝承に語られる進化する魔獣、オーバードドラゴン、世界樹に住まう栗鼠(ラタトスク)の正体を現したカッセルダシタンテ。

 溢れる怒気を隠そうともせずに立つ。


「……あ、あぁ……」


 大剣を握る男は異常な気配に当てられて身を竦める。栗鼠の前足が握った大剣が尋常ならざる握力に負けて、音を立てて折れる。


「外道は死せ」


 正体を現したカッセルダシタンテは冷たく言い放つ。ラタトスクの前足が男の頭を掴み、地に押し倒す。熟れすぎた果実が地に落ちるように、男の頭は栗鼠の前足と地面に挟まれ割れて、グシャリと血と脳の飛沫を散らす。

 跳ね上がり一迅の赤と茶色の疾風と化した半人半獣の、殺戮劇が再開する。


(ソレガシが人化を解き正体を現すなど)


 沸き上がる怒りと屈辱のあまりに正気を失いそうになるカッセルダシタンテ。


(シタンの武術を受け継ぐソレガシが――)


 シタン。カッセルダシタンテとユッキルデシタント、二人の剣の師にして双子の栗鼠が愛した人の男。

 人が持って産まれた力を信じ、その可能性を追求した武人。

 だが、そのシタンは殺された。奇機械衆と古代妄想狂の一派の手にかかり無惨に。

 人の力を越えた古代の遺産、その力に酔い、人の尊厳と在り方を歪める古代魔術文明の負の遺産に溺れる輩の手に依って。

 シタンの弟子を名乗る双子は誓った。シタンの仇を討つことを。シタンの武術とシタンの生き様を貫く為に、人外の力を封印しシタンの武技にて奇機械衆を滅ぼすと。

 小さな栗鼠の頃、憧れ惹かれた剣士シタン。そのシタンの想いと誇りを守る為に。愛する者を奪われた怒りと恨みを晴らす為に。


(それが、窮地に落ち入れば本来の力に、人外の力に頼るなど、なんという不様。これでは古の力に酔うあいつらと変わらぬ。ソレガシはいまだ未熟――)


 ラタトスクの足の剛力で戦闘狂化兵を屠るカッセルダシタンテ。技の無い力任せの暴力。本来の力を振るいながらカッセルダシタンテは屈辱に身を震わせる。

 

(優しいシタンならば、何があろうとも人を守る筈。誓いを破ることになったが、シタンはソレガシを褒めてくれるだろうか?)

 

 かつての想い人、シタンの姿を思い出し、怒りに飲まれそうになる正気を繋ぐ。力任せに振るう左手の小太刀は折れた。自らシタンの武術を否定することになったカッセルダシタンテは、その屈辱から逃れるように暴れ狂う。


 ラタトスクの疾走が止まる。もはや村には動く戦闘狂化兵はいない。人外の力を受けた戦闘狂化兵は、まるで水の入った風船を破裂させるように肉体を損壊している。古代の遺産の力で強化されていても、圧倒的な力の前に動けぬ肉塊へと変わり果てた。


(……全て救うことはできなかったが、)


 戦闘狂化兵の最後の一人を栗鼠の足で踏みにじり、カッセルダシタンテは振り向く。そこには腰を抜かして座り込む村の女。両手でその身体を抱き締め震えているが、見たところ大きな怪我は無い。

 戦闘狂化兵に殺されそうになったところをカッセルダシタンテが救った。

 その女が震えながらカッセルダシタンテを見上げる。


「あ、あぁ……」


 カッセルダシタンテが、無事か? と尋ねる前に怯える女が口にする。


「ば、バケモノ……」


 栗鼠の四つ足を血に染めた半人半獣、カッセルダシタンテはピクリと動きを止める。項垂れ、茶色の髪で顔を隠す。

 バケモノ。


「……そうだ、ソレガシは、化け物だ」


 シタンに惹かれ人に近づこうと、進化を繰り返し、姿形を変え、それでも未だ人の姿は半分。残る半分は獣。人に化生した、人に似た、人外の魔獣。


「食われたくなくば、さっさと逃げろっ!」

「ひいっ!」


 カッセルダシタンテの一喝に女は這うようにして遠ざかる。人は人、魔獣は魔獣。その垣根が破れたのは、かつての森の小さな家の中だけのこと。


(ち、落ち着け、冷静になれソレガシ。まだ戦いは終わっていない。ドラクナル=Dは何処だ? 銃使いは何故、撃ってこない?)


 惨劇の村を見回すカッセルダシタンテ。無惨な死体が並ぶかつての平和な村は、修羅の通り過ぎた死の静けさ。居所を隠して挑発を繰り返したドラクナル=Dの声は聞こえない。


(逃げたか? ソレガシの力を探るのが目的だったのか? ち、いいように玩ばれたか)


 奇機械衆の痕跡を探ろうとしたとき、遠く離れた丘から爆発の音が響く。


「なんだ?」


(銃使いか? あの丘で戦っているのか? 奇機械衆が戦う相手、)


 この村に向かっていたのはカッセルダシタンテだけでは無い。別れて調べながら移動していたのは、カッセルダシタンテの双子の片割れ、ユッキルデシタント。


「妹ッ!」


 返り血で赤く染まった姿をそのままに、下半身巨大栗鼠の半人半獣は、黒い煙が立ち上る丘へと走る。


( ̄▽ ̄;) 描写がクドくなった? じ、次回こそ決着がつく、つくハズ。

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