ある日の領主館の客人達
(* ̄∇ ̄)ノ こんな日もある領主館
ララティ
「なんか、ズルいぴょん」
アシェ
「何がズルいのよ?」
ララティ
「カッセルとユッキルの館での扱いと、あちの扱いと、差が大きいぴょん!」
クイン
「あー、あの双子は人間の武術マニアだからなー」
◇◇◇◇◇
二人の娘が剣舞を踊る。一人は一刀、もう一人は二刀。その手に持つ武器の数に違いはあれど、見た目はそっくりな双子の姉妹。
東方風の着物は袖は無く裾は短く、ほっそりとした手足が素肌を見せる。腰の部分だけは毛の長い毛皮をぐるりと巻きつけたような奇妙な衣装。
カッセルダシタンテとユッキルデシタント。
ゆらりと揺れるように、柔らかく緩やかに、はた目にはのんびりとも言えるような剣舞を踊る。
「……なんと、」
それを見詰めるウィラーイン伯爵ハラードの額から一筋の汗が流れる。
一見、ゆっくりとも見える幼い少女二人の剣舞を緊張して、一手一足の動きも見逃さぬと真剣な目で見る。
ウィラーイン剣術を極め無双伯爵とも呼ばれるハラードだからこそ解る、双子の剣舞。
「……一片の隙無く見ゆる動作の極致、この美技に潜む恐ろしさよ……」
無駄を省く動作を互いに確認するために、動作の時間軸を互いに合わせる手合わせは、何も知らぬ者が見れば決められた振り付けどうりに二人が踊るように見える。
しかし、この剣舞は互いの隙を攻め合い凌ぐ、寸止めの手合わせ。それが止まらず終わらずに続くのは、決着が着かないということ。その上で互いの視線の先に己の未熟を探ろうと、更に武の頂きを望む。
速度で誤魔化すことなく、動きの可能性の極限に至る為の、一流の武人ならではの修練。
「「ふう、」」
双子が深く息を吐き、動きを止める。刀を一本持つカッセルダシタンテがハラードに向く。
「これがソレガシが、我が師シタンより受け継いだ武技だ」
「とは言ってもセッシャらが扱うように、少し変わっている部分はある」
「うむ、ソレガシらはシタンより身体が小さい故、扱う得物もシタンより短い」
「それとシタンは指弾よりも投針の方を好んでいた」
背中に冷や汗を感じながら、ハラードはそっくりな双子の姉妹に近づく。
「まさか、盾の国の武術の源流を知るとはの。いろいろと話を聞きたいところではあるが、」
ハラードは腰の剣を抜く。双子の姉妹に真剣な目を向ける。
「一手、指南願えるか?」
◇◇◇◇◇
アシェ
「赤毛の英雄もその父も、カッセルとユッキルには一目置いてるから、仕方無いんじゃない? なんでも、盾の国の武術の源流というのをあの二人は知ってるってことだし」
クイン
「人化の魔法で人に化けて、武術指南してるから仕事もしてる。そこはララティとは違うだろ」
ララティ
「あちも仕事してるぴょん! グリーンラビットを捕まえて、飼育しやすいように大人しくさせてるぴょん!」
◇◇◇◇◇
半地下グリーンラビット試験牧場。そこでは子馬ほどの大きさの緑の兎が果物をかじっている。
ルブセィラ女史が眼鏡に指をかけ言う。
「やはり人が魔獣を飼うのは、難しいですか」
「当然ぴょん」
ルブセィラ女史の隣に立つのは深都の住人。下半身は大きな首の無い白い兎。その兎の本来、頭のあるところから少女の上半身が生えている。生意気そうに胸を張る。
「それをあちが睨んで大人しくさせているぴょん。人間を見て弱そうと感じればグリーンラビットは襲うぴょん。それでも強い奴相手に逃げられ無いと解れば、大人しくなるぴょん」
桃色の艶持つ金髪を風に靡かせて、ルナバニーのラッカラックランティは、ふふん、と腕を組む。正体を現して横に長く伸びた耳もパタパタと動く。その耳の先も金の柔らかな毛に包まれている。
「んでー、グリーンラビットを飼育して、毛皮を剥いでしまうぴょん?」
「いえ、飼育が上手くいくようなら、毛を刈ってまた生えるのを待つつもりです」
「どうやって刈るぴょ? あちが押さえつけるかぴょん?」
「できればララティに頼らず、人の手だけでグリーンラビットの飼育ができるようにしていきたいので、いろいろと考えてます」
「んじゃ、あちは万一のときに抑えればいいぴょんね」
「よろしくお願いします。それと、リココの木を栽培できないかも試すことになりました」
「えええ!? あれ、生ってるとこ少ないぴょん。それに直ぐに鳥に取られるぴょん?」
「グリーンラビットの好物らしいですね」
「あの実を取る為にグリーンラビットはジャンプ力が上がったぴょん!」
「ほんとですか? 取り合えずルミリア様が裏の守護婦人で頼んでみると」
「ぴょーん♪」
◇◇◇◇◇
ララティ
「あちだって仕事してるぴょん。逃げたグリーンラビットを捕まえたりしたぴょん」
アイジストゥラ
「半地下実験牧場からグリーンラビットを逃がしたのは、ララティお前だ! あと痩せるまで食事制限だからな!」
ララティ
「ぴょーんー……」
クイン
「……なんで他のグリーンラビットは逃げたのに、ララティだけは逃げ遅れたんだ?」
ララティ
「それはアイジスねー様の結界に捕まったからぴょん……」
アシェ
「……じゃ、そのお腹は? あと二の腕、」
ララティ
「まじまじと見るなぴょん!」
アイジス
「食っちゃ寝しすぎだ」
ララティ
「これは罠ぴょん! 半地下実験牧場は運動するには狭いぴょん! 食べて寝る以外すること無いぴょん!」
ルブセィラ
「運動不足にならないように、なにか考えないといけませんね。それと果物は糖分が多く、意外とダイエットには向かないですから。ララティが好む果実は甘いものが多いですし」
アシェ
「太って速度を落とした、斬撃の支配者、ねえ?」
クイン
「懺悔、喜の失敗者、なんだろ?」
ララティ
「アシェ! クイン! そこになおるぴょん! 新開発の新技、月兎抜刀牙を食らうぴょん!」
◇◇◇◇◇
エクアド
「うーん、蜘蛛、ヘビ、グリフォン、海亀、リス、そして兎か……」
カダール
「明日はレーン副隊長がスキュラを連れて来ることになっている。ところでリス姉妹は?」
エクアド
「アプラース王子とハラード様と何か話していた。今後の訓練計画だろうか?」
カダール
「(……怪傑蜘蛛仮面A強化計画か。あのカッセルとユッキルをアプラース王子の騎獣にするとか、まさか本気なのか母上?)」
( ̄▽ ̄;) この環境で育つフォーティス君は、どんな子に育つのだろう?




