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リス姉妹、寂れた村の死闘◇3

(* ̄∇ ̄)ノ リス姉妹死闘編パート3

( ̄▽ ̄;) なんか、長くなっちゃった?


 カッセルダシタンテの右の肩が弾ける。


「が、あぁ!?」


 肉が飛び血飛沫が跳ね、右手から長剣が落ちる。遠くから、ターン、と音が聞こえる。

 カッセルダシタンテは右の頬を血に染め、左手で右肩を押さえる。ダランとぶら下がる右手を力無く下げて、肩から血を流しながら慌てて村の粗末な家の影へと走る。


(何だ? 魔力の乱れは感じ無い、魔術では無い。ぐう、矢では無い、指弾か? スリング? だが、あの音は?)


 建物の影、カッセルダシタンテは左手ひとつで右肩の応急手当てを行う。治癒の魔法で止血、呼吸法で血流を抑える。建物の影から周囲を伺い、不思議な破裂音の聞こえた丘の方に視線を飛ばす。


(肩が、抉れたか。右手の指が動かん。しかし、どういう武器だ? 音が当たった後から聞こえる武器など聞いたことも、いや、まさか音より速く届く遠距離の武器、禁則技術の銃、か? 何処から掘り出して来た!)


『おやー? 何処に隠れたのかなー? おちびちゃんが止めなきゃ、村の住人皆殺しになっちゃうよー?』


(ソレガシを挑発し銃の的に引き摺り出す、その為だけにこの村を使うつもりか? それでわざわざ声を届かせるか、悪趣味な。く、奇機械衆、絶対に許さん、だが、どうする?)


 左肩の激痛からくる目眩をこらえ、周囲を伺うカッセルダシタンテ。長剣は落としてしまい右手は痺れて動かない。予備の小太刀を左手で逆手に抜く。その間も戦闘狂化兵は手当たり次第に村の住人を襲い、あちこちから悲鳴が聞こえる。


(しかし、迂闊に動けば銃の的。あれが殺気を捉えて避けることもできぬ武器、銃となれば、せめて視界に使い手を収めることができれば)


「ハッハー! いたぜ、小娘ぇ!」

「ちぃっ!」


 戦闘狂化兵の男が横凪ぎに大斧を振るい、カッセルダシタンテは身を屈めて斧を避ける。


(く、ぐ、おのれ奇機械衆、このままでは、)


◇◇◇◇◇


「……よく動く。頭を狙った筈が」


 丘の上、地面に腹這いになり狙撃銃を構える男、奇機械衆スナブ=Sが呟く。必殺の狙撃がわずかに外れ、頭では無く肩に当たった。


「次は外さ……、む!」


 狙撃銃を手にしたまま草の上をごろごろと横に転がるスナブ=S。さっきまでスナブ=Sがいた地面にビスビスと穴が空く。


「銃? いや、これはチーズ? 指弾使い?」


 身を起こし長大な狙撃銃を構えるスナブ=Sの前に降り立つのは、一人の女剣士。着地と同時に腰の剣を抜き二刀を構える。それは先程、スナブ=Sが狙撃した女と同じ顔。


「バカな? この距離を一瞬で? いや、肩にキズが無い、よく似ているが、別人か」

「そうだ、よくもセッシャの姉に怪我をさせてくれたな」

「……姉、そうか、そっくりの姉妹だったか」

「貴様、何故、銃など持っている?」

「奇機械衆は、過去の魔術文明の遺産を扱う、実験部隊だ。知らなかったのか?」


 二刀を構えるカッセルダシタンテの双子の妹、ユッキルデシタントの目がスナブ=Sを睨む。


「禁則の中でも火薬銃は、その存在を許す訳にはいかん」

「……火薬銃以外にも奇機械衆はいろいろな過去の遺物を使っている」

「殺意も無く、実力も無く、狙って引き金を引くだけで年寄りでも子供でも人殺ができる武器が世に広まれば、人の世に虐殺が増える。火薬銃を世界に広めて、人を終わらせたいのか?」

「……終わればいい」

「なんだと?」


 スナブ=Sが暗い瞳でユッキルデシタントを見る。その目は虚ろな闇。


「力が無ければ仇は討てないのか? 恨みは晴らせないのか? 銃さえあれば誰でも簡単に人を殺せる。剣のように長い期間の修練も必要無い。子供でも、年寄りでも、銃があれば恨みを晴らすことができる」

「火薬銃が広まれば、その恨みが無くとも、扱い方を間違えるだけでも人が死ぬ。そんな世界を望むというのか?」

「この銃のおかげで、俺はアイルの仇を討つことができた。あとはこの銃をくれた者に、礼として仕えるだけ」


 男の暗い瞳が全てを飲み込むようにユッキルデシタントの目を捉える。


「アイルのいない世界で、どこで誰がなんの都合で死のうが、もう、どうでもいい」

「貴様、」

「……お前とて俺と同じなのだろう? 復讐者よ。お前がまだ途中なだけだ。辿り着けば、いずれは解る」

「セッシャが受け継いだものは、恨みだけでは無い」


 ユッキルデシタントが剣を持ち上げる。左手の剣の先を銃を持つ男に向ける。


「力を振るうものはその力に責を負う。故に力を己が物とする為に修練を重ねる。誇りも無く振るう暴力に人の真の力は無い」

「そんなもの無くて構わん。誇りがあって何になる? それが理解できる者など、」

「お前は、それを識るから復讐したのでは無いのか?」

「……お喋りはここまでだ。目の前の敵を殺す、それだけだ」


(奇機械衆にも、こんな男がいるのか、いや、この男に銃を与え都合良く使おうとするのが、奇機械衆を纏める者か)


 ユッキルデシタントは二本の剣のひとつをスナブ=Sに向け、もうひとつを逆手に握り背中に隠すように構える。男は隙を見せぬように銃でユッキルデシタントの額を狙う。

 二人の距離は約十歩の遠間、遠距離の飛び道具の間合い。


「奇機械衆、遠見殺しのスナブ=S、貴様の命を奪う」

「……シタンの剣技を受け継ぐ者、ユッキルデシタント。師の仇を討つ」


 二人は暫し睨み合う。スナブ=Sが狙撃銃の引き金を引く、火薬の破裂する音が高らかになり響き、


「ぐ、おお、」


 呻き声を上げて手の狙撃銃を地面に落とすのはスナブ=S。その右の胸にユッキルデシタントの長剣が突き刺さっている。

 呻き膝を地に着くスナブ=Sに近寄り、その首に右手の長剣を突きつけるユッキルデシタント。


「遠距離の飛び道具であっても、この距離で射つならば全て視界に入る。姿が見えればいつ射つかは見透かせる。砲身の長い銃ならば、何処を狙うかも解りやすい」

「……引き金を絞る瞬間を読み、銃弾をかわしながら逆手に構えた剣を投げる、か」

「銃は人が人を殺しやすくする為の武器。人が身を鍛えぬまま、弱いままでも相手を殺せるようにと作られた武器。剣は戦士を育てるが、銃は人殺を軽んじる者を作る為の、武器では無い兵器だ」

「……それが、どうした。奪われたならば、殺してやり返さなくば、一歩も動けん。お前もそうだろうが」

「恨みを晴らす、仇を討つことに違いは無い。だがセッシャが守るのは、我らが師の思い、師の願い、師の誇り――」


 ユッキルデシタントの長剣がスナブ=Sの首に触れ、肌を切り血が滲む。


「人の力と人の武術の可能性を信じた、我らが師の信念を汚す者、道を外れた外道は死せ」

「……道を外れた者が我が物顔で生きる、それがこの苦界。その外道を甘く見たのが女、貴様の敗因だ!」

「な、に?!」


 スナブ=Sが突然に立ち上がる。ユッキルデシタントは反射的にスナブ=Sの首を切る。気管と脛動脈を切り血が溢れる。だが、口に狂気の笑みを浮かべるスナブ=S。

 その服の中から煙が溢れ、


「……火薬銃の、火薬は、たっぷりと、ある」


 スナブ=Sが首から血を吹きあげながらユッキルデシタントにしがみつく。不意を打たれたユッキルデシタントは反射的にスナブ=Sの首を切ったが、切れ味の良すぎる剣撃に相手を押し返す力は無く、そのままもたれかかるように倒れるスナブ=S。


「……死出の、道連れだ」

「しまっ……」


 丘の上、奇機械衆スナブ=Sの身体が爆散する。ユッキルデシタントを巻き込み、古代魔術文明の禁則の遺産、火薬の爆ぜる大音が轟き、振動が地を揺るがす。


 

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