リス姉妹、寂れた村の死闘
( ̄▽ ̄;) リス姉妹、死闘編、中途半端ですが。
(特におかしなことは無い村だが)
ひとつの村に入るカッセルダシタンテ。昼時のひなびた村、離れたところで畑仕事をする村人達。
何気なく横目で村の様子を伺ふいながら、カッセルダシタンテは慎重に村の中へと進む。
(倒した奇機械衆、アレス=Aの持っていた手紙には、この村を一時の拠点としていたらしいが)
奇機械衆の一人が持つ手掛かりを追い、この村へと辿り着いたカッセルダシタンテ。しかし、
(ただ、集まる為の目印か? 特に店や酒場があるようでも無い。余所者が来れば目立ちそうなものだが)
小さな村では旅人が来れば目立つ。現に今もカッセルダシタンテを遠くからチラチラと子供が見ている。
一人の村の男が向こうから歩いてくる。肩に弓をかけ左手には山鳥を吊るした、今日の狩りを終えた狩人という若い男。カッセルダシタンテをちらりと見て、声をかける。
「旅人さんかい? レノル村にようこそ」
「レノル村、というのか、のどかな村だ」
「変わった服だね、腰に毛皮を巻いてるのも珍しい」
「あぁ、これは東方のキモノという」
「東方から、はー、随分と遠くから来たもんだ」
「この村に武器屋はあるか?」
「無いよ。金属の武器とか金属の鍋は街まで行かないと手に入らない。あんたは魔獣狩人?」
「似たようなものか、武者修業中の剣士だ」
「ほおー、見かけによらないもんだ。あんたみたいな可愛い娘さんがね。魔獣狩りで名を上げようって?」
「己の未熟は知っているが、それが何か?」
「いや、どんな理由でも魔獣狩りしてくれる人は歓迎だよ。畑を守れるってことだから。でもこの村には酒場も宿屋も無いのさ」
「それは、困る。そんなに辺鄙な村だとは……」
「剣士さんがよけりゃ、家に泊まってくかい?」
「いいのか?」
「そのかわり、俺の女房と娘に旅の話を聞かせてくれよ。この村に来る旅人も商人も少ないからさ。あ、先に村長のとこに行った方がいいか」
「村長に、か。案内してもらえるか?」
「あぁ、こっち、」
カッセルダシタンテが、にこやかに話す村の狩人の青年と連れ立ち歩く。
(この狩人も特に怪しいところも無い。空振りか? 既にこの村を去ったか? 村長に聞いてみるとしようか)
村長の家へと向かうその途中。道の脇、一軒の家の壁が突如、破裂する。
「なんだぁ?!」
狩人の男が驚く目の前で、壁を割って中から現れた男が、大斧を振り上げ襲いかかる。
「きはあーー!! 死ぃねやあー!!」
異常に見開かれた目、口からは涎を垂らし、奇声と共に大斧を振り下ろす。カッセルダシタンテは狩人の男の襟首をつかみ、その場から跳びすさる。
「ちいっ!」
「ななな!?」
引きずられ間一髪、大斧の直撃を逃れた狩人の若者の動揺する声。カッセルダシタンテが跳びすさった目前、壁の割れた家から次々と人が現れる。全部で六人の男達。目を見開き息を荒げ、尋常では無い様子。
「あー? よけられたぁー?」
大斧を振り下ろした男。その力で地面に大斧がめり込んでいる。大斧は地面に食い込み、振り下ろした男は大斧を無理矢理地面から引っこ抜く。その右肘が、おかしな方向へと曲がっている。
狩人の若者を背に庇うカッセルダシタンテが眉を顰める。
(なんだこの異常な筋力? 威力は凄まじいが、己の一撃で右肘が脱臼する程の力だと? 身体強化の魔術にしては異常、こいつらはいったい?)
「逃げるなあ! はっはあー!」
大剣、大斧、鉄槌を手に、口から涎と奇声を発する男達を前に、カッセルダシタンテは腰の剣を抜く。
「始まったね」
カッセルダシタンテと男達が争う場からは離れた一軒の家。二階の窓から戦闘の様子を窺うのは顔色の悪い痩せた女。その鼻から下は、カラスのクチバシのような仮面で覆い顔の下半分を隠す不気味な女。
その部屋からは呻き声が聞こえる。
「……いやだあ、やめてくれえ」
「……許して、もう許してえ」
女のいる部屋には力無く泣き声を上げる五人の男女。いずれも村の住人だが、目は怯え手足は縄で縛られている。椅子に座らされ身動きできず、弱々しく首を振る。部屋の中には奇妙な臭いが立ち込める。
烏の仮面をつけた女は目を細める。
「香が効いてきたねえ」
仮面の女は壁に紙を一枚、ナイフで縫いつける。椅子に座らされた男女は全員、その壁を向くように座らされている。
その紙にはカッセルダシタンテの似顔絵。
「この女を殺せ、いいか? この女を殺すんだよ。エデラ、ボルワス、その枷を外せ、ムルトル、ラジカ、ドウ、猛き血を目覚めさせろ、ジンク、“無制限身体強化”」
烏の仮面の女は呪文を唱え、左手で魔術印を切る。右手には針のついたガラス筒を握る。ガラス筒の中には苔色の暗い液体が満ちている。
女はそのガラス筒の針を手近な女の首に刺す。
「あああ、やめて、やめてえ、もういやあ」
「大丈夫、すぅぐに気持ちよくなるから。この戦闘狂化薬『不可緑』でね」
泣き叫ぶ五人の男女の首に次々とガラス筒の針を刺す。内部の苔色の液体が首から体内へと注入される。
虚ろな目をして泣いていた五人の目に、怪しい光が灯る。身体強化の魔術と怪しい薬品で、全身の筋肉が肥大し、粗末な服が内側から膨らみ、端から破れる。椅子に縛りつけていた縄が千切れていく。
その変化につれて、五人の声の質が悲哀から狂気へと変わる。
「いやぁー……あ、あははひひ」
「やめ、やめや……、やがらあーー!」
「はっはー! 殺す! 殺してやるあ!」
「ふひひひ、たまんねえ! たぎってくるう!」
フラフラと立ち上がる五人の男女を満足気に見る烏の仮面の女。
「さぁ、武器はここだ。さぁ、あたしの可愛い戦闘狂化兵、あの女を殺したらもっともっと気持ちよくなれるよ!」
「「ひゃあっはー!!」」
五人の男女は斧に鉄槌を手に、次々と二階の窓から飛び降りる。そして戦闘中のカッセルダシタンテへと奇声を上げて突進する。
「どんな凄腕の剣士だろうと、戦闘狂化兵の数の暴力の前には無力」
烏のクチバシの仮面の中、くぐもった笑い声と共に勝利を確信する顔色の悪い女。
「クカカカカ、生意気な小娘剣士の首は、この奇機械衆、独草毒裁のドラクナル=Dが頂くわ!」
(* ̄∇ ̄)ノ 続きはちょいとお待ちを。