スキュラおねえさま、参上
深都のおねえさま会話回から、一言しゃべった下半身タコのおねえさま、その後、盛り上がって短編になりました。
( ̄▽ ̄;) 何故、ここまで濃いキャラに?
目が覚める。
暗い海の底から、明るい海面へと浮上するように。
「はぁ……」
手でまぶたに触れる。また、寝ながら泣いていたみたい。嫌な夢、だけど、悪夢の中で思い出す。あのときのことを、遠い昔のことを。
嫌な夢だけど、その中で、今はいないあの人がいる。手で涙を拭いて身を起こす。
「まだ、夜中よね?」
背伸びして天井に。勝手に地下に作っちゃった私の寝床の浴槽から上へ手を伸ばす。
「んしょっ」
にゅるんと背を伸ばして、蓋を開けて上に出れば、大壺の中から地下室へと。ここはローグシーの街、彼の家。
地下室から穴を掘って勝手にいろいろと作っちゃったんだけど、彼は『しょうがないですねー』と、苦笑して、それで終わりだった。
ローグシーの街の人達はいろいろとおかしい、と、クインもアシェも言ってたけれど、おおらかな人が多いのかな? 『蜘蛛の姫様を見慣れてしまっただけですよ』 なんて、彼は穏やかに微笑んでいたけれど。
「おや、起きてましたか?」
「ひゃい?」
え? なんで地下室にいるの? なんで起きてるの? まさか?
「あ、あの、また起こしちゃった?」
大壺の中に引っ込みたくなるのを堪えて、ふちに手をつけて、頭だけ出して聞いてみる。また寝ながら悪夢を見て、悲鳴を上げて起こしちゃった?
彼はランプを片手に近づいてくる。いつものように穏やかに微笑みながら。
「また、ハイアディが怖い夢を見ているのかも、と、ちょっと心配になりまして」
「あう、こ、この前はゴメンナサイ……」
「寝られないんですか?」
初めて会ったときから、彼には迷惑ばっかりかけてしまって、ほんとに申し訳無い。彼が手を伸ばしてくる。
「あ、あの、濡れちゃう、よ?」
「かまいませんよ」
伸ばした手が私の頭をそっと撫でる。顔が熱くなる。優しく労るように私の髪を撫でる彼の手。
「暗い中で淡く輝く青い髪、不思議ですね」
「……ほんとに、怖くないの?」
「初めて見たときは話に聞く鬼火のようで、不気味とも思いましたが、神秘的で綺麗です。ハイアディこそ、人に触られるのは怖くないですか?」
「……怖くない、けど、緊張する……」
「嫌ですか?」
「……ヤじゃ、無い……」
彼の手はあったかい。そのままずっと、触れていて欲しい。彼のちょっと困ったように微笑む表情が、かつてのあの人に、少し似ていて、思い出すと胸がズキリと痛む。
彼の手が下りてきて、私の頬を触る。
「こうして見ると、スキュラも可愛いですね」
「か、か、可愛いって、それは、壺の中の下半身が見えないから、」
私の上半身は人間みたいだけど、下半身はタコだもの。ヌメヌメした触手だもの。
気持ち悪くて怖いに決まってる。だけど彼は顔を近づけて、
「そうかもしれませんね。でも、そっちもそのうち慣れると思いますよ」
人に根付く魔獣への恐怖は、簡単に消える訳が無い。そんなハズは無い、のだけど。
強がってる、ようにも見えないし、彼は変わった人、なのかな?
「そうですね。慣れる為にも、ハイアディの下半身に、触れたり、撫でたり、ギュッとハグしたり、キスしたりしてみましょうか?」
は、ハ、ハグぅ? キスぅ? む、ムリムリ! 死んじゃう!
「……こういうのは恥ずかしがるのに、よく解らないところでは積極的ですよね、ハイアディは」
「え、えと、その、だって、それは」
「今のところはハイアディのことを隠してますが、私も役目上、ウィラーイン伯爵に報告しないといけないんです」
「あの、それは、」
勝手にローグシーの街に来たことが、あのおっぱいいっぱい男と蜘蛛の子に知られたら、そこから深都に連絡がいって、深都に連れ戻されちゃう。
もう少し、ここにいたい。彼の側に。
彼は困ったように微笑みながら。
「私からも伯爵にお願いして、ハイアディの悪いようにはしません。いましばらくは隠しておけますが、落ち着いたら一緒にウィラーイン家に挨拶に行きましょう」
「う、うん……」
私を安心させようとしているのか、片手で私の頬をふにふにとする。その手の体温が心地よくて、自分からその手に頬を押しつけるようにしてしまう。
あったかい、ホッとする。
不思議な人。
「ヒンヤリとして柔らかくて、手が吸い付くようで、ハイアディの頬は気持ちいいですね」
ひう!?
「ずっと触っていたくなりますね」
ひうう!
彼は優しいけれど、よく解らないところでイジメっ子のようになる。今も、にやにやしながら、私の頬をふにふにするのをやめない。
だけど、私も、ずっと触っていて欲しくて。
設定考案
K John・Smith様
加瀬優妃様
ありがとうございます