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ネガティブ・ララティ 第1話


■■■前回のあらすじ■■■


 海外旅行に行きたくなったララティ、無自覚にファルフィをディスってしまい、らふるされて下半身のウサギ体の体毛が全て無くなってしまいました。


アイジス

「ファルフィ……、気持ちは分かるがちょっとやり過ぎでは」


ファルフィ

「いえ、その、さすがにカチンと来まして、だってわたくしを色ボケ男好きのように、それもあんな大勢の人の前で……」



◇◇◇◇◇



 グリーンラビット試験飼育牧場、その近くには飼育員専用宿舎と牧場付き研究室が一体となった建物がある。

 一見牧場付きの宿舎のようでありながら、その中身はウィラーインの博物学者と呼ばれるルミリア夫人。聖獣警護隊の参謀と呼ばれるルブセィラ女史。この2人の魔獣飼育実験の為の研究施設でもある。

 その建物の一階の奥には一回り大きな扉があり、そこには『特別顧問』と書かれている。

 この部屋はララティことルナバニーのラッカラックランティの私室である。


「……あちは、ダメダメなウサギぴょん。人の迷惑も省みず、イタズラばかりしてる悪い子ウサギぴょん……」


 その部屋の隅でララティは身体を丸めて小さくなっている。暗いどんよりとしたオーラを纏ってブツブツと呟きながら、ひたすら落ち込んでいる。

 その姿を見てルティが呆然とした顔で呟く。


「こんなララティ、ボク初めて見たよ」


 隣に立つロッティは慌てて駆け寄りララティの背中をテシテシと叩く。


「お、おいララティ、しっかりするのじゃ! 午後のダンスレッスンはどうするのじゃ? ワシらアイドルになるのじゃ?」


「……あちがアイドルなんて、そんなの無理ぴょん。できない高望みぴょ……」


「なんじゃとー!?」


「こんなに凹んでるララティ、ボク初めて見たよ!」


「ヤバいのじゃー! こんなララティなんか怖いのじゃー!」


 縮こまるララティの側でわたわたするルティとロッティ。3人娘の騒動を眺めるルブセィラ女史は、ほう、と呟き眼鏡の位置を直す。


「グリーンラビットが毛刈りされると臆病になり大人しくなるのはこれまでの飼育試験で判明しましたが、ララティも下半身のウサギ体を毛刈りされるとこのようにネガティブになってしまうのですね。ゼラさんの服がキライというのと同じで、深都の住人は進化前の生物の習性が残っているということですか」


「なにをこの事態で冷静に観察してるのじゃー! 少しは心配するのじゃ眼鏡!!」


「いえ、私もちょっと動揺してますよ。こんな元気の無いララティを見るのは初めてですし。ですが深都の住人ならば、自己治癒能力は高いのでは?」


「そのはずなんじゃ、がー」


 困った顔をするロッティ。ララティの肩を抱くルティは振り向いて、


「うーん、ちょっとケガしたりとか、体毛が燃えたりしてハゲても、ふんっ、てしたらだいたい治るんだけども」


「それが今のララティの場合、どーも上手くいかんようなのじゃ」


 自分の身体を抱き締めるように縮こまるララティ。ルティとロッティの声も聞こえているのかいないのか、虚ろな瞳で立ち上がる元気も無いらしい。

 いつもはいらぬ騒動を起こしてははしゃぐララティが病気にでもなったようにおとなしい。

 そんなララティの様子をじっと見てルブセィラは、内心で動揺しながらも分析したことを口にする。


「深都の住人の魔法はその精神、意識の在り方が深く関わるというのは分かってきました。ということは深く落ち込み自罰的な気分に支配されると、回復や治癒が上手くいかない、ということなのでしょうか?」


「むむ? 確かに穴蔵ではそういうケースもあったのじゃ。ならば気を晴らせば良いのじゃ!」


「ララティ! しっかりして! ボクたちトラブルアトラクターズのリーダーでしょ!? アイドルデビューするんじゃなかったの!?」


 励ますルティのことを見ようともせず、虚ろな瞳でララティはボソボソと言う。


「……ルティ、ロッティ、いつもあちに付き合わせて、おしおきされてごめんなさいぴょ……」


「そんなしおらしい謝り方するララティは気持ち悪いのじゃー!」


「……2人の優しさにつけこんで、あちはヒドイウサギだぴょん……」


「あうう、もうコレ、どうしたらいいの?」

 

 どうしていいか分からず更にわたわたとするルティとロッティ。ルブセィラ女史も眉間に皺を寄せて、


「付き合いの長いお二人にも分かりませんか?」


「ララティはたまにマジメシリアスになるときはあっても、こんなに沈んでるのは見たこと無いよ」


「眼鏡ー! 研究者じゃろ、こんなこともあろうかと、とか言いながら発明品を出すチャンスなのじゃ!」


「いきなりムチャ言わないでください。こんな事態は想定してません。これはもうカダール様に相談しましょう」


「「なんでカダール?」」


「カダール様はこれまで、何度も想定外の事態に挑み、私も思い付かない方法で良い結果に繋げています。それに相談しているうちに何か良い方法を見つけられるかもしれません」


「分かったのじゃー!」


「待っててララティ!」


 飛び出し駆け出していくルティとロッティ。


◇◇◇◇◇


「カダールなんとかして!」


「なんとかするのじゃ!」


「ルティ、ロッティ、落ち着け。何があった?」


「「かくかくしかじか!!」」


 ルティとロッティのわたわたした説明を聞くと、カダールは腕を組み、むう、と唸る。


「ララティが元気を無くした、と。精神がもとに戻らないと自己治癒の魔法も上手く使えない、と。それならばゼラの魔法でどうにかもとに戻せないか? ゼラ?」


 カダールの言葉にコテンと首を傾げるゼラ。


「ン? ンー、上手くできる気がしないケド」


「そうなのか?」


 話を聞いていたルブセィラ女史は、なるほど、と。


「ゼラさんの治癒の魔法は怪我を治すことに優れていますが、病を治すのは上手くいきませんでしたね。骨折を治すのは可能でしたが、薄毛を治すのは難しかったりと。発毛は治癒では無く成長の領分ですか」


 聞いていたアシェが、そうね、と捕捉する。


「深都の住人の魔法は得意不得意がそれぞれ違うから。ゼラの場合、赤毛の英雄が怪我をしても直ぐに治せるように、だろうし。赤毛の英雄は風邪もひきそうに無いし」


「まるで俺が風邪をひかない類いの者のように言うが」


「赤毛の英雄がよく熱を出して寝込んでいたら、ゼラの魔法は熱冷ましと病の回復に特化していたかもしれないわね」


「ならば、アシェの精神系の魔法でララティを元気にすることは?」


「難しいわね。深都の住人ならレジストしてしまうもの。相手が人間なら笑いが止まらなくなったり、涙が止まらなくなったりはできるのだけど」


「む? 以前はゼラにそのテのものを仕掛けなかったか? 随分と前のことだが?」


 カダールの疑問にルティが、


「あー、アレね。ゼラが成り立てで幼いからって侮って、それでアシェがやり返されたんだっけ?」


「ルティ? 直接精神を操作するのは難しいけれど、幻覚や幻聴を感じさせることはできるのよ? 丸1日、幻のミントの臭いを感じさせることとかはできるわよ」


「やめてえええええええ!!」


 騒動を横目にカダールはしばし考えて、うむ、とひとつ頷くと動き出す。


「先ずは今のララティの様子を見よう。ファルフィにおしおきされた、としか聞いて無い。いつもはアイジスにおしおきされても直ぐに元気に復活していた筈では?」


「アイジスねえ樣のおしおきで全身毛刈りされたことは無いのじゃ」


「なるほど。ララティにとっても初めての体験ということなのか?」


 カダールはグリーンラビット試験場に向かい歩き出す。その途中、横目でチラリと中庭を見る。そこでは聖獣警護隊がファルフィのおしおき跡地を整地していた。



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