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スキュラねー様、出会い編

スキュラのハイアンディプス

ローグシー街の守備隊副隊長レーン

二人の初めての出会い編


 あるわけが無い。

 あるわけが無いと、諦めた。

 諦めたはずが諦めきれなかった。 

 願う想いが胸を裂くなら、

 心など壊れてしまえばいい。

 そうして心を無くした。

 心を無くした筈だった。

 なのに無くした筈の心が、まだ歌っていた。

 消えきらぬ心が、歌を歌っていた。

 どうして、いつまで。


 嘆きと諦めを往復し、何かがすり減っていくような日々。穴蔵の奥、地底湖に沈み涙を湖水に溶かし。

 終わらぬ日々が、いつか終わってくれないかと。

 いっそ全て、消えて無くなれば良いのにと。溜め息と涙が止まらず溢れる。


 夢を見たあとは、いつもこう。最近はちょっとマシになっていたと思うのに。


「ハイアディ、ちょっと来なさいよ」

「なんですか? お姉さま?」

「珍しいものが見れるわよ」


 珍しいもの? この深都で珍しいものなんて。悠久の時、変わらず在り続けるこの深都に、珍しいものなんて。


「え?」


 そこには赤毛の男を抱く蜘蛛の子。甘い幸福、とでも題名をつけた方が良さそうな笑みを浮かべ、人の男を優しく胸に抱く、黒髪の蜘蛛の子。

 蜘蛛の子に抱かれる男も、全幅の信頼を顔に浮かべ、蜘蛛の子にされるがままに。それどころか、男の方から蜘蛛の子に唇を寄せる。

 何? これは?

 かつて、願ったことを絵画にして見せられたような。

 在りし日の想いがそこに具現したような。


「……これは、誰?」

「蜘蛛の子のゼラと、おっぱいいっぱい男」


 ……おっぱいいっぱい男?

 誰?


◇◇◇◇◇


 ローグシーの街、住民を守る為に建設されたばかりの第二街壁、そこを見回るために外に出る。


「レーン副隊長、おはようございます!」

「おはようございます。変わりはありませんか?」

「今のところ何も、レーン副隊長、随分と早いですね?」

「目が覚めてしまいまして」


 不思議な夢を見た。深い深い水の底のようなところ、そこで歌を聞いた。悲しげな女の声で何と言っているのか、解らない歌だった。

 その夢のせいか何時もより早く目が覚めてしまった。

 あんな綺麗な声は、これまで聞いたことが無い。まあ、夢だから。しかし、夢で女の歌を聞いて、何時もより早く目が覚めてしまうとは。

 私は欲求不満なのだろうか? 娼館にでも行ってみた方がいいのだろうか?


 ローグシー街の守備隊に勤めるようになり、給料や待遇に不満は無いが、ハンターとして魔獣狩りをしていたころの充実感は無い。

 守備隊よりも無双伯爵に付いて、攻めの領兵団の方がいいのかもしれない。

 もっとも私を副隊長に推薦した隊長曰く、ウィラーインの兵は脳筋が多く守備隊を志願する若者は少ないという。同じ兵として仕えるならば無双伯爵と共に魔獣と戦いたい、と血気盛んな者が多いらしい。


「ほんとに独特の街ですね、ローグシーは。だから私のような者でも守備隊の副隊長になれたんでしょうが……」


 蜘蛛の姫の住む街、ローグシー。そこを守るというのは、たまに蜘蛛の姫に会えたりするのでおもしろくはあるが。異形の姫も見慣れてしまえば可愛らしい。会話が通じる相手を、下半身蜘蛛だからとただの魔獣とは思えない。

 私もローグシーに染まってきたのだろうか?


「たまには魔獣深森で魔獣狩りなどしたいですね。強化したという魔獣に私の罠と仕掛けがどこまで通用するか、試してみたいところですが……」


 呟きながら街壁を見回る。新しい第二街壁は白く綺麗だ。

 ……白く綺麗? 一ヶ所、黒ずんでいる?


「なんですか? これは?」


 近づくと猫が四匹、ニャーニャーと鳴いている。壁に張り付いた蒼黒い、何か。何だろうこれは? 南方ジャスパルから輸入した海草の干物に似ているような。大人程の背丈もある大きな蒼黒い干物が、街壁にベッタリと張り付いている。そしてその端っこを猫がカジカジと噛みついている。


「変なもの食べるとお腹こわしますよ?」


 猫に言っても解らないか、とりあえず一旦詰所に戻り、桶に水を汲みモップを片手に謎の物体のもとに。壁から剥がして、魔術師に調べさせて、場合によっては伯爵様に知らせなければ。乾いて張り付いているようなので、水をかければ取れるだろうか?


「誰かのイタズラですか? それとも新種の魔獣の痕跡? よいしょっと」


 桶の水を蒼黒い謎の物体にかける。すると水を吸ったその蒼黒い干物は、いきなりむくむくと大きく膨らむ。足元の猫が驚いて慌てて逃げ出す。


「……あ、あぁ……」


 干物が水を吸い、大きく大きく膨らみ、蒼黒い色が鮮やかな青色へと変わる。その中から暗く赤い色の触手が伸び、小さな声が聞こえてくる? これは?


「く? 魔獣? しかしこんなおかしなものが街の近くに?」


 桶を投げ捨て腰の剣に手を伸ばす。壁に張り付いた干物は更に大きく膨らみ、今は見上げるほどに。下は暗い赤色の太い触手が蠢き、天辺からは鮮やかな青い色の細い触手? いやこれは毛? 青い毛の中から現れるのは、美しい女の姿。


「スキュラか!?」


 上半身は人の女、下半身は海洋生物のような触手、伝承に伝わる海の魔獣スキュラ。何故、海から遠いローグシーに? 青い毛の中から今にも泣きそうなやや垂れ目の、上半身だけは美しい女が現れ、艶やかな唇から声を出す。


「……あ、あぁ、水……、乾いて、死んじゃうとこ、だった……」

「は?」

「……あ、あの、お水……、ありがと……」


 涙が潤む目で見下ろすスキュラの声は、夢の中で聞いた声に似ていた。朝焼けの中、私は呆然とそのスキュラに見蕩れていた。



設定考案

K John・Smith様

加瀬優妃様


m(_ _)m ありがとうございます。


(* ̄∇ ̄)ノ 会話回の一言と増えるワカメの連想から、どうしてここまで広がった。

( ̄▽ ̄;) このあとレーンはハイアディを隠す為に巨大壺に押し込み自宅へ連行。

ハイアディは初めての彼からの贈り物、巨大壺が手放せなくなったりと。


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