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我が名は吸血王アルカンドラス!! 4


「ふひゃおう!?」


 アルカンドラスは悲鳴と共にベッドから身を起こす。驚愕した顔で、


「な、な、ななななな!?」


 己の股間に手を当て、寝起きの頭が覚醒して行く中で現状を把握する。アルカンドラスがその手にするものとは、


「なんということだ……、我輩の愚息がカティンコティンではないか」


 アルカンドラスは驚愕する。


「見事に反り返っておる。朝勃ちなど十何年振りではないか」


 アルカンドラスは若返った男の肉体の生理現象に驚きを隠せず呆然とする。しばらく手で触り状態を確認し、納得の頷きをふたつ、うむうむ、と。


「これも身体が若返ったことによる反応か」


 解説しよう。

 朝勃ちとは、成人男性が睡眠中に勃起する生理現象、その最終形態。

 夜間勃起現象とも呼ばれる。

 性的興奮が無くとも男性器が勃起するこの生理現象は、健康な男性の肉体機能の試験の為に行われる。


 筋肉とは使われないと萎縮し柔軟さを失っていく。男性器の勃起とは各種筋肉と海綿体が正常に活動してこそ行われるもの。

 性的興奮したときにしか勃起しないとなれば、頻度が少なく筋肉が鍛えられる機会も少なくなり、いざというときに正常に機能しなくなる懸念がある。勃起しない期間が長くなるほどに筋肉は衰え、やがて勃起できなくなってしまうのだ。

 それを回避するために健康な男性の肉体は睡眠時に性的興奮が無くとも勃起する。この現象とは、男性器の睡眠時自動リハビリ行為。

 朝勃ちとは、人が生物として次代に子孫を残す為に身に付けた、人の生存戦略の機能なのだ。


「なので、我輩の身体は20代前半の男性として正常だと判明した。しかし、若返って性欲が復活したのか、昨夜はえっちな夢を見てしまったし。これは、若返った肉体に精神の方が引きずられた結果なのか? 我輩があのようなえっちな夢を見るとは。

 いやまあ、そういう願望が無いとは言わんが、どっちかと言えば好きな方だが。夢の中のアレが我輩の潜在的な欲求か?

 我輩をアンデッドとして殲滅せんと襲い来る教会の聖剣士。しかし、圧倒的魔力で返り討ちにして捕獲し、兜を外して見ればなんと美女聖剣士。憎々しげに我輩を睨み、

『くっ! 触れるな! 邪悪な不死者め!』

 くくくくく、この不死の王アルカンドラスを前に強気だな? その強情いつまで続くかな?

『外道が! 例えこの身が汚されようとも我が魂まで汚されはせん!』

 ほう? おもしろい。いつまで抗えるかな? このアルカンドラスのことを教会がどこまで把握しているのか、その口から聞き出してやろう。

 という感じで嫌がる強気な美女聖剣士をじっくりたっぷりと責めたてて、やがては嫌がりながらも頬を染めてだな。抗う気持ちが肉欲と官能にじわじわと敗北し、羞恥と悦楽に困惑しながらも快楽に抗えずに、美女聖剣士は神に懺悔しながら、いやあ、あはあん、だめえ、と、うむうむ」


 アルカンドラスは夢を反芻し、ニマニマとベッドの上で独り笑う。


「あぁいう気の強い感じの美女にこう、いろいろしちゃうというシチュエーションというのが、ふふふ。以前に読んでいた官能小説もこの系統が多かったか?

 しかし、真面目な話、人の因子を得る為には人を捕獲する必要があるのではないか? 今のところ呪詛汚染は抑えられているので直ぐに必要というわけでは無いが。血を得る為にどう人を誘拐するか。どうせ飲むのだからむさい男よりは美女か美少女の血が良い。

 なるほど、伝承の美しい吸血鬼の美女の獲物が異性の男ばかりというのも解ってきた。そういうことか。

 人に語られる吸血鬼とか演劇のヴァンパイアとかは、“魅惑(テンプテーション)”や“誘惑(チャーム)”などの魔法で男を惑わしていたか。確かにその魔法があれば吸血行為も簡単か? となれば我輩も吸血鬼として精神操作の魔術を極めるべきか?」


 アルカンドラスはベッドの上で腕を組み、難しい顔で思索にふける。


「だが精神操作系の魔術とは死霊術以上の禁忌。教会に禁じられ資料になるものも全く無い。まるで無いのはおかしいのだが。研究されてもおかしくない分野であるハズなのに、近いのは“金縛り(ホールド)”か“睡眠(スリープ)”ぐらいのものしか見たことが無い。

 賢人の学舎の秘密資料庫にも精神操作系の魔術の参考になるものは無かった。あっても片鱗が紹介される程度で肝心なところは皆無。あまりにも不自然だ、まるで意図的に何者かに歴史から消されたように」


 アルカンドラスは深く考察する。世界に隠された秘密、その深淵を覗くかのごとく。


「だいたいがヒドイ話ではないか? 資料が無ければ研究もままならん。しかもこの系統とは実験するには対象となる人が必要になるではないか。

 人を拐うために精神操作系の魔術が必要だというのに、その魔術を研究するためには実験台の人が必要というのはなんなのだ。まるでドラゴンを倒すのに、ドラゴンの魔獣素材から作られた武器が必要という、不可能の循環になっているではないか。まったく。

 と、なればスケルトンを操って力づくか? うぅむ、それは美しく無い。カッコ良くない。不死の王に、闇夜の支配者に相応しい美女の拐い方というのは……」


 アルカンドラスはベッドの上でメモを取り出し書き込み始める。今後のための婦女子誘拐計画について考える。

 天才と呼ばれた頭脳を駆使し、いかな手段が伝承の吸血鬼らしい女性の拐かし方なのか、その素案をいくつも書き込んでいく。

 思い付くままに書き、詳細を詰めてある程度まとまってきた頃、アルカンドラスはメモを閉じ立ち上がる。


「うむ、小難しいことを考えることで、ようやく朝勃ちがおさまってきた。これでやっとトイレに行けそうだ」


 目覚めた邪悪はついに動き出した。

 トイレに向かって。



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