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リス姉妹 対 奇機械衆

リス姉妹の過去編、こっちをスピンアウトに先に入れるべきたったかな?

シリアスモードの仇討ち編の一幕。


「カッカッカ! チーズの指弾などで、我が無敵の装甲が貫けるものか!」


 暗い夜の森の中、仁王立ちに立つ巨漢の剣士が笑う。全身に鋼の鎧を纏う男が肩に大剣を乗せ勝ち誇るように。木々の合間から放たれたチーズ指弾は硬い音を立て鎧に弾かれ、草地に落ちる。人体に当たれば骨が折れる威力のある岩石チーズの弾丸が、いともたやすく鎧に弾かれる。


「ちっ!」


 木の影に隠れた女剣士は舌打ちする。


「何故、デカイ男には飛び道具が効かない、というケースが多いのだ? セッシャの指弾を弾くとは」


 巨漢の剣士の身に付ける金属の鎧。そこから不快な振動音が小さく鳴る。ユッキルデシタントの鋭敏な耳はその小さい音に気づく。


「どうやらあの鎧の仕掛けは空間振動による防御壁、あれも古代魔術文明の遺産か?」

「見いつけた」


 下から聞こえる声にユッキルデシタントが木の枝の上から見下ろせば、そこには長刀を振り上げる男の姿。


「神技! 裂空無斬!!」

「ちぃっ!」


 男がやたらと長い刀を振り下ろす。東方風の着物を着た女剣士は木を蹴り地面へと飛ぶ。直後、大木が真っ二つに縦に斬られ、ミシミシと音を立てて倒れる。派手な服装をした男が長刀を振り下ろした姿勢でニタリと笑みを浮かべる。


「お? 俺の神技を避けたか? やるなあ」


 地に膝を着いた女剣士は倒れた大木を視界の隅で見、目前の男の持つ長い刀を見る。


(あの長刀ではまるで届かぬ距離で、しかし長刀の軌道にそっての斬撃? 投射魔術とは違う、これも古代魔術文明の遺産か)


「下らぬ玩具ばかり掘り出しおって……」


 肩に長刀を担いだ派手な男。金属の鎧を纏う巨漢の男。二人はゆっくりと背の低い女剣士を挟む位置取りへと移動する。


「ははっ、どうしたどうした? 伝説の進化する魔獣よ?」

「いつまで人に化けている? ドラゴンを倒したという本性を見せてみろ!」


 挑発する二人に女剣士は呆れたように深く息を吐き、腰の二刀に手をかける。


「人の身を捨て借り物の力で、よくも傲れるものよ」

「あぁん? 借り物でも何でも力は使いこなしてこその力よ!」

「たわけ、振り回されることを使いこなすなどと呼ばぬ。セッシャの技は師の技、武人の技……」


 腰の刀を鞘から抜き、奇妙な男二人に対峙する女剣士。半眼の瞳に敵を捉える。


「師の敵を討つに使うは師の技のみ。姑息な小細工に酔う輩には、魔獣の力は不相応よ」

「なめたこと言いやがる。ま、人語の解る魔獣なら研究者へのいい土産だ」


 派手な格好の男が長刀を高く構える。


「奇機械衆、巨人殺しのアレス=A! 俺の神技は無敵だぜえ!」


 巨漢の大男は大剣を肩に担いだまま、腰を沈め突進の体勢に。


「奇機械衆、突撃する城塞のグラス=G! 我が鎧を貫けるもの無し!」


 二刀を構える女剣士は、苦々しげに敵を見る。


「何に誇りを捧げているのだ、お前らは? 魂宿らぬ武技など、術理とは呼ばぬ。目先の勝ちを拾う為に無様を晒すとは、」


 左の刀を前に、右の刀の柄を腰につけ後ろに、切っ先を二人の男に向けて二刀の女剣士は静かに立つ。


「このユッキルデシタントが、我が師の真の武術を見せてやろう」


 暗い夜の森の中、人を捨てた奇機械衆と、人に化けた魔獣との闘いが始まる。


「いくぜえ!」


 派手な男が長い刀を振り下ろす。ユッキルデシタントは素早く身をかわす。長刀の届かぬ距離、しかし地面には斬撃の痕。まるで見えない刀が振り下ろされたような一筋の痕。


「おおうら!」


 ユッキルデシタントが避けた方向から鎧の巨漢が迎え撃つように大剣を横凪ぎに振る。ユッキルデシタントは右の刀を下から大剣へと当て軌道を上に逸らす。その大剣を潜るように体を沈め、大男のがら空きの脇腹へと、ユッキルデシタントの左の刀が放たれる。しかし、


(ち、刃筋が乱れる?)


 ユッキルデシタントの刀が鎧に当たり弾かれる。


「カカカ! 我が鎧は無敵! 我に傷を与える者など無し!」


(空間振動により刀も指弾もその攻撃の軌道が歪ませられる、か。厄介な)


 鎧の力で攻撃を無効化する巨漢の男、グラス=G、見えぬ斬撃を放つ派手な男アレス=A、二人の奇機械衆を相手に回避に徹するユッキルデシタント。アレス=Aの更なる斬撃が木を切り地を抉る。


「おいおい、見せてくれるんじゃねぇのかい? 真の武術って奴をよう!」

「本気を出してその正体を見せてみろ!」


 ユッキルデシタントは挑発に乗らず、言葉を返さず、舞うように避けながら二人の男を静かに探る。


(鎧の仕掛けは解った、しかし、見えぬ斬撃の正体が読めぬ。こやつら口は軽いが連携は上手い、そこだけは認めてやろう。だがこれはどうするか?)


「手こずっているのか? 妹よ」


 突然の声に二人の男は攻撃の手を止め、一歩引き身構える。声がした方、森の暗がりの中から一人の女が歩み出る。


「どうやらやりにくい手管の使い手のようではないか?」


 派手な着物の男アレス=Aが目を見開く。


「同じ顔、同じ姿? まさか分身の術か?」


 身構える二人の男を無視するようにユッキルデシタントに近づくのは、ユッキルデシタントそっくりの女。違いはひとつ、ユッキルデシタントが二刀流であるのに対し、その女が持つ刀は一本。

 突如、現れた女にユッキルデシタントは言う。


「手こずってなどいないぞ、姉よ。これから二人纏めて片付けるところだ」

「そうか。しかし一人譲れ、妹よ。ソレガシにも師の仇を討たせろ」

「仕方無い、遅れて来た姉にも見せ場を譲るのも、妹の務めか」


 東方風の着物、腰に毛皮を巻きつける奇妙な衣装の女がふたり。瓜二つの姿に一人は一本の刀を構え、もう一人は二刀を構える。


「我が名はカッセルダシタンテ」

「我が名はユッキルデシタント」

「「シタンの武術を受け継ぐ者なり」」

「武技とは力無き者が身を守る(すべ)

「己が身命を深く識る(すべ)

「力は拾う物では無く、己が身の内に重ねる物」

「技は打ち勝つ物では無く、己と他者を見る為の物」

「悦に入りその使いを誤る者、身の程を識れ」

「力に溺れ道を外れた者、為した事の報いを受けよ」

「「外道は死せ」」


 鎧の巨漢、グラス=Gが前に出る。


「カカカ、一人増えたところで何程か? 我が無敵の鎧は刀など効かぬ!」

「はん、そっくりの二人組か。目撃の情報がズレて伝わるのも、タネが解ればショボいじゃねえか」


 派手な男の言葉に一刀の女剣士、カッセルダシタンテが歩みを進める。


「お前の技もソレガシを嘲る程に上等には見えぬが? 見た目だけのくだらぬ手品(てづま)使いよ」

「あぁ? 言うじゃねぇか、お姉ちゃんの方よう」

「妹よ、こやつはソレガシが」

「ならばセッシャはこの鋼の亀を」


 二刀を持つ女剣士の言葉に、鎧の巨漢グラス=Gがその顔から笑みを消し、怒りに目を見開き睨む。


「鋼の、亀だと? 貴様、ただでは殺さん。如何なる技も通用せんという絶望を味会わせてから殺してやる!」

「如何なる技も、か。どうやらお前は亀以下か」

「この、口だけの武術かぶれがあ!」


 踏み込む鎧の巨漢に対し、左の刀を右耳の横に天を衝くように立て、右の刀の柄を右腰に着けるように水平に構えるユッキルデシタント。


「相手がお前一人なら、少し動く小うるさい添え物斬りと変わらん。ふっ!」


 鋭い呼気と共に二本の刀を水平に振り抜くユッキルデシタント。左の刀を追いかけるように、右の刀が追従するような二連撃。


「効くかあ!」


 鎧の力で刀を弾き、その後、振り上げた大剣を女に撃ち込もうとする鎧の巨漢、グラス=G。鎧の力に絶大の自信を持つ男の動きが、大剣を振り上げたまま止まる。

 二本の刀を振り抜いた姿勢で静止するユッキルデシタント。一拍の後、目前の男の前から半歩左に移動する。


「がはあっ!?」


 グラス=Gの首から鮮血が吹き出る。首の中、頸動脈を切断され鋼の鎧の斬撃痕から噴水のように血が迸る。


「ば、バカなぁ!? 我が鎧があ!?」


 大剣を手から落とし首を抑えるグラス=G。その返り血が届かぬ位置に移動したユッキルデシタントが告げる。


「空間を震わせ攻撃を歪め鎧で弾く。その程度の空気の壁で無敵を気取るからこうなる」

「何故、我が鎧の、ぼ、防壁が……」

「空間振動で刃筋が立たぬなら、刀でその空間を斬るまで。左の刀で空を斬りその斬撃軌道から逸れぬように右の刀を同じ線で振れば、そこにもはや防壁は無い。只の斬鉄と変わらぬ」


 グラス=Gは首を抑えたまま膝を着く。


(空間を斬るだと? それは一太刀目で空を斬り真空を作り、空間振動の無い部分を作り、そこに二の太刀を通したと?)


「……あ、あり、えるか? そんな、そんなことが」


(空間を斬る斬撃? その軌道を逸れぬようにそっくりなぞり放つ二つ目の斬撃? 空間が修復される前の一瞬の内に?)


 グラス=Gは己の首を切り裂いた技の理屈は理解した。だが、その理解を納得はできない。わずかの一瞬の内に全く同じ軌道を通す二つの剣閃、鋼の鎧を片手で斬鉄する二つの一撃を、糸一本の幅もずれずに行うなど。


「……人間技では、無い」

「我が師シタンならば、この程度、まだ技とも呼ばぬ。刃筋の立つ剣一閃は只の基本で、これが人の武術だ」


 ユッキルデシタントは冷たい黒い目で倒れるグラス=Gを見下ろす。


「己の命を己の技で守らずに、鎧に任せたまま避けもせず受けもせず、棒立ちのまま首を斬られた気分はどうだ?」

「が、あ……、こんな、無敵の、無敵の鎧、我が鎧があ……」


 己の首から吹き出た血溜まりに沈むようにグラス=Gは倒れ伏す。グラス=Gの想像では有り得ぬ絶技、それを基本と言い切る女剣士との技量の差に、届かぬ高みの技を首に受け、その身に死ぬほど思い知らされ、その絶望の中で死に落ちた。

 奇機械衆、突撃する城塞のグラス=G、ユッキルデシタントに首を斬られ死亡。


「神技! 百歩真剣!」

「先程と技名が違うようだが?」


 派手な男、アレス=Aが長刀を振り下ろす。カッセルダシタンテは見えない斬撃を回避する。そのままアレス=Aに背を向け走る。


「おいおい、あっさり逃げんのかよ?」

「これが逃げに見えるとは、楽観が過ぎる。お前の手品(てづま)、見えぬ斬撃は常に上からだ。横からと下からは無い」


 カッセルダシタンテの言葉に眉を顰めるアレス=A。走るカッセルダシタンテの前には大木。その木に足をかけ走る勢いのまま大木を真上に駆け登るカッセルダシタンテ。


「そしてお前の長刀の軌道と斬撃痕にはズレがある。その長刀は目を引く為の偽り。斬撃の正体は、」

「うおっ! 神技! 無限斬!」

「気分で技名を名乗るな、雑な奴」


 カッセルダシタンテは木を蹴り更に高く跳ぶ。カッセルダシタンテの居たところに見えない斬撃が木に溝を穿つ。

 宙高く跳んだカッセルダシタンテが刀を一閃する。金属を叩くような高い音が鳴り、空間から滲み出るように二つに断たれた銀色の半球体が現れる。


「表面を迷彩で隠した浮遊砲台。本来は偵察用か? 魔力探知をされぬように投射魔術では無く、ワイヤーを射ち出す仕掛けか」

「クソッ、だがその高さに跳べば落ちるだけ! 俺の『(うつ)蜻蛉(かげろう)』はその一台だけじゃあ無えんだよ! 死ね!」


 アレス=Aが長刀の柄を操作する。長刀から発する斬撃と見せかけた、姿の見えない浮遊砲台の真上からの攻撃。長刀の柄に仕込まれた操作用のスイッチに指で触れ、まだ無事なままの二号機、三号機にカッセルダシタンテを攻撃させる。

 空中から落下するカッセルダシタンテは右手の刀の背を口にくわえる。空いた右手と左手から岩石チーズの指弾を射つ。

 何も無い空中に向けて放たれたチーズ指弾は、何も見えない空間でカァンと金属を叩く音を響かせる。直後、


「ぎゃあああああ!?」


 派手な男アレス=Aが叫び声を上げる。左手が切り落とされ、右肩から腹にかけてを切り裂かれて血が飛沫(しぶ)く。

 見えない斬撃が二つ、アレス=Aを斬り刻む。


「な、何がおきた?」

「解らないのか? 己の武器で己を傷つけた。力に溺れる者の末路に相応しく」

「お、俺の『虚ろ蜻蛉』が? 何故、俺を射つ?」

「ワイヤーの射出直前に本体の向きを指弾で変えた、それだけのことだ」

「見えねえ、筈だ! 『虚ろ蜻蛉』は! 迷彩も、隠密性も完璧の!」

「ソレガシは耳が良いのだ。宙に浮く音も消そうとしてはいたようだが、聞こえてしまえばそこに居ると解る。一体目を斬ったことでそのフォルムも解った。あの大男の鎧の振動音で誤魔化すところを、お前たち二人を引き離せばこれは雑作も無い」

「……なんだよ、そりゃ、よう……」


 アレス=Aが落とした長刀に震える右手を伸ばすが、その長刀の柄にカッセルダシタンテがチーズ指弾を撃ち込む。長刀の柄に火花が走る。


「長刀の柄にコントローラーとは、妙な小細工にハッタリだけの、つまらん手品(てづま)だ」


 空中から迷彩を解かれた銀色の半球が二つ現れる。制御を失い動きを止め、糸が切れたように地面に落ちる。

 姿を隠した浮遊する古代魔術文明の遺産。本来の用途とは違う使われ方へと改造された魔術具。


「刃物でも使い方を間違えたなら、己を傷つける。古代魔術文明の遺産であれば、少し向きを変えるだけでもこうなる」

「……けっ、それでも、これで強くなれんなら、誰にでも勝てるようになれりゃあ」

「それで己を強いと実感を持てるならいいが、己を騙しきれたのか? その身に無い力を己の自信とできたのか? 見せかけで相手を欺く技術の研鑽に、満足を得られたのか?」

「……聞きたかねえんだよ、そんな正道、見たくもねえんだよ、てめえが雑魚だってのを、よう……」

「今の弱さを認めるところから、修練が始まる。剣士を名乗る者が、そこから目を逸らしてはならない。お前は、剣士ですら無い」

「けっ……」


 出血で朦朧となる意識の中、剣士として戦うことも無く、剣で斬られることも無く、アレス=Aは目前に鮮烈と立つ女剣士を見る。


「……俺あよ、かっこよく、なりたかったんだよう……」


 奇機械衆、巨人殺しのアレス=A、己の操る古代魔術文明の遺産のワイヤーショットを受けて死亡。


「これで、二人」


 双子の女剣士は互いを見つめる。


「奇機械衆、怪しげな技を使うが、敵で無し」

「問題は背後の古代妄想狂か」

「こいつらは、AとGと名乗った」

「残る奇機械衆は、二十二」


 暗い夜の森の中、夜よりも暗い黒の瞳が互いを写す。

 

「悪夢を終わらせる為に」

「人を迷妄に誘う者を終わらせる為に」

「師の仇を討つ為に」

「恨みを晴らす為に」


 復讐に飲まれそうになる心を、互いに引寄せ合うように、闇夜に言葉が木霊する。


「「外道は死せ」」


 仇を討つ旅路は、まだ始まったばかり。




設定考案

K John・Smith様

加瀬優妃様


m(_ _)m ありがとうございます。


( ̄▽ ̄;) これが何故、未来であーなってしまうのか? 終わった反動からマスコットキャラへと転身?


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