人物まとめ、深都の住人編、乳母二人
(* ̄∇ ̄)ノ 深都の住人まとめ、今回はアシェとクイン。
■アシェンドネイル
通称、アシェ
真珠のように白い髪、白い肌、赤い瞳。腰から下は黒い蛇。半人半蛇のラミア。
火系、水系、風系と多様な魔法を使うが、アシェが得意とするのは精神操作系と幻覚系。対象の認識を変え錯覚を起こし、催眠術のように操ることもできる。また、自身の見た目を変え見る者の印象を操作できることから、人の群れに紛れ込むことでは深都の中でもトップクラス。長く人類領域の潜伏調査を担当してきた。
過去には人口調整目的から人と人が争いあうような組織作りなど行う。しかし人を見下すアシェの性格から組織作りは上手くいかず破滅することが多かった。
それはそれで深都の住人を楽しませるイベントと、アシェはわりと好き勝手に。アシェの作る演目は人間嫌いを拗らせた深都の住人を楽しませてきた。
■人類領域への潜伏
闇の母神に仕える深都の住人の目的、人類の滅日に繋がる技術の蔓延の阻止。そのために危険な古代魔術文明の遺産を回収し、人を弱体化させる技術の発展を阻止する。
古代魔術文明にもっとも詳しい十二姉、アダーゲルダラムラーダ=ハオスが統括する。
人に変化でき怪しまれずに活動できる深都の住人が行っている。
◇◇◇◇◇
アシェはウィラーイン家と関わりを持ったことで深都からの初めての外交官となってしまう。
ウィラーイン伯爵ハラードの要請は深都に混乱を招いた。アシェは正式な外交官が決まるまでの中継ぎの予定だったがなかなか決まらず、ウィラーイン家に長く滞在することに。
その後、ゼラの出産を間近で見てからはゼラの娘、カラァとジプソフィが気になって仕方が無い。
後にアイジストゥラが正式に外交官として赴任してからも、カラァとジプソフィとフォーティスの乳母としてウィラーイン家から離れようとはしない。
■マッ裸組
アシェは服を着ることを嫌う。ゼラと同じく肌に服がまとわりつく感じがイヤ。
もともと脱皮習性のある者は服を嫌がる傾向があり、深都で裸を好む者はマッ裸組と呼ばれている。
深都の住人は病気にならず、暑さ寒さにも強い。暑いのがイヤ、寒いのがイヤというのは好みになる。
治癒力も高くちょっとした傷は直ぐに治る。そのために服の必要性は感じない。服を着る深都の住人の理由は、趣味と羞恥心の二つ。
アイジストゥラはもとウミガメで脱皮習性があるが、羞恥心を感じるようになったことで服を着るようになった。
また脱皮習性が無くとも裸を好む者もいる。深都の住人は羞恥心の差が大きい。服を着る派と服を着ない派でケンカすることもあるが、これはじゃれあいのようなもの。
◇◇◇◇◇
ウィラーイン家では寝室と浴場以外では全裸は禁止ということで、アシェは妥協し下着のような格好や裸エプロンで過ごす。ここからエプロン蛇さんの渾名がつく。
寝室で子供たちと添い寝するときは全裸。
■ラミアとアルケニー
ラミアとアルケニーは知名度が高い。
人に化け言葉巧みに人を騙す。魔法で人を操る。美女の姿で男を誑かす、などなど、恐ろしい半人半獣の伝承、怖い魔獣のお伽噺として語られる。
そのために実際の目撃例がほとんど無いにも関わらず有名。
人語の通じない人食いの魔獣とは違う種類の怖さ、半分が人で美しい女という見た目などが、ミステリアスな魅力と共に語り継がれる。
■聖獣の対なるもの
光の神々信仰では光の神の使徒として聖獣が讃えられる。また魔獣は闇の神々の僕として伝わる。
聖獣に価する闇の神々の使徒が存在するのではないか、というのは光の神々教会で議論になることも。
ゼラは光の神々教会総聖堂が聖獣と認定し、西の聖獣と呼ばれるようになる。しかし総聖堂の中にはゼラが闇の神々の使徒ではないか、と疑いを持つ者もいる。
◇◇◇◇◇
アシェは外交官アイジスの補佐をしつつ子供たちの乳母として努める。人を挑発する悪癖はあるもののウィラーイン家で暮らすアシェの様子は、
『あのアシェが人に従っている?』
と、他の深都の住人を驚かせた。
好物は酒、生卵。
かつては気性の違いからあまり仲の良くなかったクインとは、今では飲み友で乳母友。
■裏事情
蜘蛛の意吐、本編連載時にゼラに次ぐ第二の半人半獣として登場したアシェ。このアシェの登場から蜘蛛意吐世界の裏側、進化する魔獣ゼラの秘密へと主人公カダールは踏み込むことに。
褐色肌で黒髪のゼラと対象となるような白髪白肌のアシェ。性格もまたゼラの純真に対してアシェの腹黒と。
そしてポムンポムンのゼラに対してペタン娘でモデル体型のアシェ。これまで登場してきた深都の住人の中でも一番のペタン娘。
鎧鍛冶師妹のアーキィが選抜したペタン娘五人衆の一人に入っている。
初登場時、ゼラに匹敵しうる存在にしてゼラと同じ半人半獣、しかしゼラとは違う立ち位置の悪女として現れた。
このアシェの魔法がズル過ぎる、そして説明不足、と感想欄で言われたことも懐かしい。三章は書き直そうかと考えたこともあるが、今ではこれはこれでアリかな、と思う。
また感想欄で、
『蛇の子、何故だろうしれっと二人の新居に侍女として戻って来そうな雰囲気が』
と感想を貰い採用。
再登場時、アシェがメイドに化けてウィラーイン家に潜入しようとしたらゼラの作った落とし穴に即落ち。なぜだ。
世界の闇の一端をちらつかせながら現れた悪女、の筈がウィラーイン家に住み着きすっかり馴染んでいる。なぜだ。
人を挑発する悪癖はあるもののウィラーイン家の乳母生活から性格は随分と丸くなり、今では他の深都の住人から『アシェは子離れできるのか?』と心配されている。
■エアリアクイーン
通称、クイン
鮮やかな緑の髪、鋭い目付き。下半身は首の無いグリフォン。
得意な魔法は風系の一点特化。風の刃を放ち竜巻を起こす。また大気を揺らめかせ光線の屈折で姿を隠す細かい使い方から、雲を招き雨を降らせる天候操作と大規模なものまで。
人化魔法を使うと髪は茶色のショートカットになる。
人類領域の潜伏調査も行うが、飛行能力の高さから連絡役、上空からの探索など活動の幅は広い。
過去を語りたがらない深都の住人の中で、最初にカダールとエクアドに自身の過去を語ったことがある。
■守護獣、緑羽
グリフォンの中でも珍しい希少種のエメラルドグリフォン。緑の翼と黒と緑の縞模様の長い尾羽根を持つ。
ハイラスマート伯爵領にあるアバランの町は、魔獣に襲われる被害があると何処からともなくエメラルドグリフォンが現れ町を守る。
町の住人はこのエメラルドグリフォンを守護獣緑羽と讃える。
この守護獣緑羽の正体はグリフォンの姿に変化したクイン。長く正体を隠しアバランの町を守り続けてきた。
クインが積極的に人類領域の調査任務を行うのもアバランの町を守るため。
アバランの町では守護獣緑羽の人気は高まる。
家の玄関には魔除けとして木彫りのグリフォンの像を置く。
町の中央広場には守護獣緑羽の石像が立つ。
教会の聖堂には緑羽の尾羽根が額縁に入れて飾られ、参拝者が拝む。
卵菓子『グリフォンの卵』はアバラン銘菓として定着する。
高名な芸術家赤髭の描いた名画、『緑の羽と風の乙女』は、守護獣緑羽の背にハイラスマート伯爵家の長女ティラステアが座る絵。この絵はアバランの町の聖堂に展示される。
そしてクインはアバランの町を訪れる度に、居心地が悪いような、悩ましいような、いたたまれないような微妙な気分を味わうように。
◇◇◇◇◇
クインの好物は炒り豆、茹でた豆、酒。深都の住人は基本的に生食を好む。クインも主食としては生肉を食べる。炒り豆、茹で豆は酒のツマミとして好む。
クインは酒に弱いわけでは無い。飲み友のアシェがうわばみであり、アシェと比較すれば誰でも酒が弱いことになる。
またウィラーイン家では泥酔して正体を出しても大丈夫という安心感からついつい飲み過ぎてしまう。
ちなみにクインは、裸を見られるのは恥ずかしい派。服を着る派。
■裏事情、カーラヴィンカ
クインはアシェに次ぐ第三の半人半獣、二人目の深都の住人として登場。
アシェとは違い人間にやや好意的な存在として世界の裏側をカダールたちに語った。
カッコいい女として登場した筈が、初登場からゼラの糸でグルグル巻きにされロウソクの火で炙られながらストリップしてしまう。なぜだ。
そしてクインがカダールに向けて言った言葉『おっぱいいっぱい男』がカダールの呼び名に定着した。なぜだ。
クインの種族はカーラヴィンカ、迦陵頻伽。マイナーどころの半人半獣。感想欄で指摘されたスーパーファミコンのゲーム『フェーダ』に出てくるグリフィスが見た目が近い。
蜘蛛意吐世界の半人半獣は下半身の魔獣体は大きいので、ゼラもアシェもクインも下半身の魔獣体は大きい。
ビジュアルとして見るとアルケニーのゼラは、『モンスター娘のいる日常』のアラクネ姉さんよりも、『ヘルマドンナ』に出てくるアルケニーくらい蜘蛛体は大きい。これ、解る人いるのかな?
連載中、感想欄ではクインの正体を推理する方もいて、ノマよりファンタジー知識が豊富そうなので先読みされるかな? まあいいか、と連載を進めたところ、『獣要素に騙された~(笑)』と。いい感じで予想を越えることができたようだ。
感想欄で先読みするのはマナー違反と言う人もいるが、蜘蛛意吐では様々な感想をいただいた。そして先読みする人もいてこれにはノマが楽しませていただいた。
なので感想欄に予想を書かれるのもアリだな、とノマは感じる。ちなみに予想されたからとプロットをねじ曲げたことは無い。
そして蜘蛛意吐は暖かな感想に支えられ、感想の中から本編に採用したものもいくつかある。そのためノマが書いたものの中で一番ナラティブ感がある。
スピンアウトに至ってはカセユキさんとK様の案からできているのも多い。
改めて感謝を。
■アシェとクインの乳母暮らし
ルミリア夫人が、
「アシェとクインには子育てを手伝ってもらいましょうか」
と言い出してからはアシェとクインの乳母暮らしが始まる。
深都には子供がいないためアシェとクインには子育ての経験も知識も無い。ルミリア夫人と医療メイドのアステに教わりながらウィラーイン家の子供たちの面倒を見ることに。
カラァとジプソフィはゼラの娘で下半身蜘蛛のアルケニー。フォーティスはエクアドとフェディエアの息子で人間。
始めは人の子のフォーティスの乳母をすることに戸惑った二人だが、三人の子供は乳兄妹として一緒に育てるというウィラーイン家の方針に従うことに。
そうして三人の子供を育てるうちにアシェとクインは子供たちを溺愛するようになる。
アシェとクインの乳母暮らし、フォーティスが三歳くらいの頃。
◇◇◇◇◇
■フォーティスが風邪?■
「ちょっといいかしら?」
アシェがルブセィラ女史を呼び止める。振り向くルブセィラ女史の前でアシェは首を傾げて。
「フォウがいつもより体温が高いようなのだけど」
「わかりました、見てみましょう」
アシェとクインが見守る中で、ルブセィラ女史はお昼寝するフォーティスの体調を調べる。
「これは風邪でしょうか。よくわかりましたねアシェ」
「私は蛇だから、熱を見ることもできるわ」
「ほう、人には無い感覚器官ですか。クインの視力が優れているのは知ってましたが、アシェにそのような能力があるとは」
「私のことはどうでもいいわ。それで、カゼってどうなるの?」
「病の一種ですね。熱が出て咳や鼻水が出たりします」
ルブセィラ女史の説明にクインの顔が青ざめる。
「おい、病ってフォウはどうなるんだ? そういや元気も食欲もいつもより無かったか?」
「病状がどうなるかは観察しないと解りませんが、暖かくして寝かせておきましょう。カラァとジプはうつらないように離しておきましょうか」
「じゃあゼラを呼んで治癒の魔法で」
「落ち着いてくださいクイン。先に呼ぶのはフォウの両親、エクアド隊長とフェディエアです。それと医療メイドのアステを」
動揺しながらも頷き、慌てて部屋を出るアシェとクイン。二人を見送りながらルブセィラ女史は呟く。
「……子供たちのことだと必死な顔になりますね。二人とも気づいているのでしょうか?」
フォーティスの体調は夜になると熱が上がり、身体には赤い発疹がポツポツと現れた。
「「森の風邪?」」
アシェとクインが声を揃える。頷き説明するのはフォーティスの母、フェディエア。眠るフォーティスの髪に触れながら話す。
「そう、森の風邪。森の選別とか、試練の風邪なんて言われ方もされる病気で、この国の人なら子供のときには一度はかかるものよ」
「それで、フォウは大丈夫なのか? 辛そうだぞ?」
「この風邪は一度かかって治ると二度とはかからないの。暖かくして安静にしていればだいたいは治るものよ」
「だいたいは、ってことは?」
続いてクインの疑問に答えるのはルブセィラ女史。眼鏡の位置を直しつつ。
「身体の弱い子や栄養状態の悪い子は、この風邪で死ぬこともあります。それがこの病が選別や試練と呼ばれる理由でもあります」
「じゃあフォウは死ぬかもしれないってことか? なんでそんなに落ち着いているんだ!」
「怒鳴らないで下さいクイン。落ち着いて見えるのは私もアステもフェディエアも、一度はこの病にかかり全快した経験があるからです。でもフォウのことを心配してないわけではありません」
「だったらなんとかできねえのか?」
「風邪に特効薬はありません。栄養薬、解熱薬などはありますが、薬に頼り過ぎるのもフォウのためになりません」
「だけど、」
言いつのるクインをフェディエアが止める。
「森の風邪は自力で克服することで、二度とかからなくなる、というものなの。今夜は私がフォウを見るわ」
フェディエアがフォーティスの額に浮かぶ汗を拭くとフォーティスは薄く目を開く。そしてコホ、コホと咳をする。ポツポツと発疹の浮かぶ顔、目は涙で潤み、すがるような目でフェディエアを見る。
その姿に堪らなくなったアシェは唐突にその手に赤い宝石『母神の瞳』を握り、
「今からフォーティスの病の解析をするわ。そして深都でお姉さまたちに特効薬を作ってもらう。クイン、深都まで飛んで薬を持ってきて」
「わかった、すぐ行く」
思い詰めた顔のまま動き出そうとしたアシェとクイン。
「お前たち、いいかげんにしろ!」
アイジスの怒声が二人を止める。驚くフェディエアたちに、すまないと一声かけてアイジスは右手でクインの首を、左手でアシェの首を掴む。そのまま二人をズルズルと引きずって行く。
「私の部屋で話すぞ! カッセル、ユッキル、私の部屋に誰も近づけるな!」
「「うむ、承った」」
「ぐえ、アイジスねえ様、ちょ、」
「うぐ、離してアイジスねえ様、フォウが、」
「黙れ、大人しくしろ」
呆気に取られるフェディエア、ルブセィラ女史、医療メイドのアステを残し、アイジスはアシェとクインを引き摺りながら行ってしまった。その後をカッセルとユッキルがついて行く。
アシェの長い黒い蛇の尻尾だけがまだ部屋に残り、ズルズルと引き摺られながら扉の向こうへと消えていく。
黒蛇の尻尾の先端が部屋から出て見えなくなると、ルブセィラ女史がポツリと。
「部屋の広い一階でフォウを寝かせて正解でしたね」
「アシェもクインも人化の魔法が維持できないくらいに動揺してたから」
フェディエアはルブセィラ女史に応えながらフォーティスと添い寝するためにベッドに横たわる。フォーティスの心配そうな目が開いたままの扉を見つめている。
◇◇◇◇◇
「二人とも、少しは頭が冷えたか」
領主館別館、その地下はアイジスの私室。下半身海亀の巨体を現したアイジスはアシェとクインを見下ろす。
アシェとクインはずぶ濡れのまま静かにうなだれる。この部屋に着いて早々にアイジスの寝床のプールに突き落とされた。全身ずぶ濡れに。
「……確かに、冷静では無かったわね。私としたことが」
アシェは濡れた白い髪をかきあげながら、プールからニュルリと這い出てくる。クインも鷲の前足をプールの縁にかけて出てくる。
「だけど、アイジスねえ様、フォウのことが心配じゃねえのかよ」
「私とてあの子たちの側で暮らし、フォウに情が移っている」
アイジスはツイと視線を反らす。クインとアシェの方を見ないようにして言う。
「声を荒げてしまったのは、その、あれだ。八つ当たりだ」
「アイジスねえ様……」
ジト目でアイジスを見上げるアシェとクイン。アイジスは、ふう、とひとつため息つくと二人に向き直る。
「深都で作った薬を人類領域に持ち込む、そんなことを許す訳にはいかない。落ち着いて考えれば解るだろう」
「そうね、これまで人類領域には無い病気の特効薬。そんなものを持ち込んで、もし人間が複製し人類領域に広まることになれば、病気で死ぬ人が減り人口が爆発的に増加するかもしれない」
「今の人の数が増えても食料資源、燃料資源を増やす技術は今の人類には無い。人口が増えれば食料事情を改善するための開墾や、燃料としての木々の伐採が増えることになる。人間は森に踏み込むしか無い。結果、環境を悪化させながら魔獣との戦いが増加する」
「古代魔術文明の残した環境被害の爪痕も、未だ再生途中の土地もあるし。人類を未来に残すためには自然環境を守らないといけないし」
「場合によっては、病気で死ななかった人の数と同じ数の人を魔獣が殺さなければならなくなる。薬ひとつ普及するにも、人間は前提となる課題をいくつも超えなければならない」
「深都の知識でフォウの病を治すのはダメね」
冷静さを取り戻したアシェは自分に言い聞かせるように深都の住人の役目を思い出す。だがクインはまだ納得できないようで。
「でもアイジスねえ様、ゼラはいいのかよ? ゼラは何人も魔法で助けてるじゃないか」
「ゼラは特別だ。ゼラは私たちの妹だが、深都を目指さなかった妹だ。ゼラに深都の知識は無い」
「はー、ゼラだけずりい」
「ゼラと人間の関係はゼラが作る。そしてゼラが仕出かしたことの結果に起こることは、カダールが受け止める。あの男はその覚悟を決めている」
「カダールはホントに解ってんのかよ」
「解る訳が無い。カダールとゼラの間にカラァとジプが生まれるなど想像の埒外だ。それでもウィラーイン家の者は、ゼラもカラァもジプも家族と受け入れ支えると決めた」
アイジスは腕を組み天井を見上げる。
「これから何が起きるかはまるで読めん。正直、私たちが何処まで手を出していいかも手探り状態だ。なのに私が悩んで慎重になろうとしているのにお前たちはいつもいつも……」
「あの、アイジスねえ様?」
「なんだ? アシェ?」
「私とクインは、このままあの子たちの側にいてもいいのかしら?」
「今の人のやり方の範疇を越えないこと、滅日に繋がる知識と技術を伝えないこと、この二つを守れば悪いことにはならない、のではなかろうかと」
「アイジスねえ様も分からないのね」
「ではアシェにはカダールとゼラが、ウィラーイン家が何をやらかすか読めるのか?」
アシェは少し考えて、少し考えただけで諦めたような声を出す。
「……読めないわね。頭の中がお花畑の能天気の狂戦士のすることなんて」
「いや、そんなに酷くはないだろ。ちょっとお人好しでスケベなだけで」
「クイン、フォローになってないわよ」
「それに先が読めなくても、なんでか上手くいってるし」
「ホントにどうしてかしらね」
「お前たち、ずいぶん仲良くなったな」
アイジスの一言でアシェとクインはキョトンと互いを見つめ合う。言われて初めて気がついた、というように。
◇◇◇◇◇
翌日、朝。ベッドに身を起こしたフォーティスにフェディエアがシチューを食べさせているとき。扉を開けてアシェとクインが入ってきた。
「あーしぇ、くいんー」
「あ、フォウ、シチューがこぼれちゃわ」
パッと笑顔になるフォーティス。フェディエアも二人を見て。
「おはよう、二人ともアイジスに怒られたみたいね」
「あぁ、変な薬を持ち込むなってさ」
「そう、フォウに薬は必要無いみたいよ。まだ熱があるけれど食欲はあるし」
「それで、フェディエアに頼みがあるのだけれど」
「何かしら? アシェ?」
「人の看病の仕方を私たちに教えてくれないかしら」
「いいわよ、だけど」
フェディエアは片手で口を隠して、ふわ、とひとつあくびをする。
「一晩フォウを見てて寝てないのよね。私はこれから休むから、あとはアシェとクインにお願いするわ。看病の仕方はお義母様とアステとルブセィラに聞いてちょうだい、サレン」
呼ばれたメイドのサレンはシチューの皿を片づけながら、
「皆様、朝食が終わればこちらに来ますよ」
◇◇◇◇◇
フォーティスの看病についてはアシェとクインがすることに。ルブセィラ女史とルミリア夫人、他に手の空いた者がアシェとクインに教えながら。
フォーティスの風邪が移らないようにカラァとジプソフィは暫く離れることになる。
アシェとクインに人の看病の仕方を教えるのも二人一緒にまとめてした方がいいということで、フォーティスの風邪が治るまでアシェとクインはフォーティスの専属になる。
アシェとクインは真剣にルブセィラ女史の手元を見る。ルブセィラ女史は冷水に浸した手拭いを絞り、畳んでフォーティスの額に置く。
「熱があるときは頭を冷やして身体を暖めます」
「冷やすのはわかったわ。暖めるのは?」
「湯タンポなどもありますが、一度この風邪になり移らないと分かった人が添い寝してもいいですね」
「それならあたいだな、アシェは体温低いし」
「蛇だから仕方無いわね」
「じゃあ、あたいが肌であっためるとして」
「フォウも寝てばかりで飽きているので、絵本でも読んであげてください」
クインは絵本を手にいそいそとフォーティスのベッドに入っていく。ルブセィラ女史は二人に人の看病の仕方を教える。部屋の湿度に気をつけて乾燥しないように。発疹が痒くなっても爪でかくと跡が残るかもしれないので気をつけるように。痒み止めの塗り薬の使い方。治ったと思っているとぶり返すこともあるので油断しないこと。などなど。
アシェとクインは付きっきりでフォーティスの看病を続ける。
「ちょっといいかしら?」
アシェがルブセィラ女史を呼び止める。振り向くルブセィラ女史の前でアシェは首を傾げて。
「フォウが私の尻尾を離してくれないんだけど」
ルブセィラ女史が見ると、ベッドに横たわるフォーティスは寝ぼけたままアシェの黒蛇の尻尾の先を握りしめている。むにゃむにゃしながら尻尾の先をペタリと顔にくっ付けている。
ルブセィラ女史はアシェの尻尾の先に触れてみるとひんやりしている。
「アシェの尻尾がひんやりしていて気持ちいいみたいですね。頭寒足熱には良さそうです」
「……気持ちいいの? 私の尻尾が?」
「顔の熱を吸うようにこのままにするのも良いのでは?」
アシェは少し戸惑いながらも、
「そうね、尻尾の先を掴ませたままでも部屋の窓拭きくらいはできるわね。窓を湿らせておけば湿度も保てるし」
言って掃除道具に手を伸ばす。
ルブセィラ女史の見る先では、ベッドでクインがフォーティスと添い寝しながら小さく子守唄を歌い、アシェはフォーティスに尻尾の先を掴ませたまま鼻歌しながら窓を拭く。
小さな歌声と鼻歌を聴きながらルブセィラ女史はそっと部屋を出て扉を閉める。
「二人ともずいぶんと優しい顔をするようになりましたね。気づいているのでしょうか? しかし、ウィラーイン伯爵家はスピルードル王国でも猛者の武人の家と有名ですが、あの歳で伝説の進化する魔獣を二人も従えるとは」
自分の教え子のことを自慢するかのようにルブセィラ女史は呟いた。
後にこのフォーティスの風邪の一件からカラァとジプソフィは、
『フォウばっかりかまわれてて、うらやましい!』
となり風邪を引いてしまう。この風邪というのはカラァとジプソフィの仮病だったのだが、
「それなら復習も兼ねて看病ごっこでもしましょうか」
「そうだな。さあカラァ、ジプ、あたいがじっくり面倒みてやるぞ」
と、アシェとクインが言い出し、カラァとジプソフィの仮病を治すための看病が始まった。
アシェもクインも人より長く生き、人が死ぬところを見たこともある。しかし産まれて間も無い頃からの人の子を世話してきたのは、フォーティスが初めてのこと。
眠るフォーティスを抱きクインは呟く。
「解っていたハズなのに、頭で理解することと心で解ることは別なんだな」
「そうね。改めてこの身で味わった気分ね」
アシェはフォーティスの髪を撫でながら応える。
人は些細なことで死ぬこともある。幼い子供であれぱ尚更のこと。
アシェとクインはフォーティスが風邪をひいたことで一段と過保護になってしまう。
フェディエア
「ちょっとアシェとクインの過保護が行き過ぎて心配になるわね」
フクロウのクチバ
「そーですね。二人とも子供たちとちゅーするの、やめませんからね」
アシェ
「それを言うなら、クインは母乳も出ないのにフォウに乳首を咥えさせたりしてるわよ」
クイン
「あ? あ、あ、あれはフォウがぐずるのをなんとかしようとして仕方無く!」
ルミリア夫人
「ところで、フォウのファーストキスの相手はどちら? クイン? アシェ?」
カダール
「あぁ、それならゼラだ」
ゼラ
「ウン、クインとアシェが来る前だから」
ルブセィラ女史
「ふむ、クインのファースト乳首を奪ったのはフォウで間違い無いようですね」