双子姫の糸の使い方特訓
(* ̄∇ ̄)ノ K様に作っていただいたバルーンアート、桜天女ゼラからできたSS
「「上手くできなーい!」」
領主館の中庭でカラァとジプソフィが、ぷくー、と頬を膨らませてむくれる。見下ろすゼラは、
「ンー、」
と、ちょっと困りつつも微笑んでいる。見上げるカダールは、
「なんだか、懐かしいな」
と、呟く。
中庭には巨大な蜘蛛の巣。その真ん中にいるのはゼラ。
カラァとジプソフィが手から糸を出せるようになったので、ゼラが糸の使い方の見本として子供たちに蜘蛛の巣を張るところを見せた。
カラァとジプソフィはゼラの真似をしようとして、手から糸を出して操ってみるものの、なかなか上手くいかない。
ゼラとカラァとジプソフィを見ていたルミリアはクルリと扇子を回す。
「なるほどね。ゼラはもとはタラテクト。誰に教えてもらったわけでも無く、蜘蛛の巣の作り方は知っている。だけどカラァとジプは生まれたときからアルケニー。手から糸は出せるけれど、野生の蜘蛛のように本能で巣の張り方を知っている訳では無いのね」
隣に立つルブセィラ女史は指で眼鏡の位置を直す。
「そういうことですか。となるとカラァとジプは子供が立ち方を覚えるように、糸の使い方を学ぶ必要がある、ということですね」
「でも難しいわね。ゼラは糸の使い方を誰かに教えてもらったのでは無いから、カラァとジプに教えるのも難しい、ということになるわ」
「ふむ、アルケニーの能力はあっても使い方は学習が必要……、?ちょっと待ってください、ゼラさん?」
「ン? なに? ルブセ?」
「ゼラさんは巣を張る以外にもいろいろな糸の使い方をしますよね? 投げ縄のようにしたり、カモフラージュにしたりと。それらはどうやって身に付けました?」
皆が見上げる蜘蛛の巣の真ん中で、ゼラは首を傾げて思いだそうとする。
「えーと、森の中でいろんな蜘蛛をジーっと見て真似したの。何度も試してるうちに、少しずつなんか分かってきて」
「ほう、自然の中で他の蜘蛛がゼラさんの先生だったのですね。蜘蛛と言っても糸の使い方は様々。投げ縄グモ、トタテグモ、水グモ、中には糸を前足で構えて飛び付くのもいれば、北方のスノウラビットスパイダーはまるでボーラのように投げつけたりもします。ではカラァとジプもいろんな蜘蛛を観察してみましょうか?」
ルブセィラ女史の提案にルミリアはニッコリ笑う。
「それはいいわね。糸の使い方以外にもいろいろと学べそうで」
「ア、ハハウエ、糸の使い方で思いだした」
ゼラが蜘蛛の巣からピョンと跳びルミリアの前に着地する。
「前にハハウエが言ってた糸、こんな感じ?」
両手を伸ばしてゼラが指先から糸を出す。フワリと現れるのは細い金の糸。日を浴びてキラリと光る。
「「キレーイ」」
カラァとジプソフィが目を輝かせる。ゼラは指先をヒョイヒョイと動かすと、金の糸は生きているかのように動きながら空中で編まれ、黄金のハンカチが作られていく。
「キラキラする糸ってこんな感じ?」
「素敵よゼラ、光の反射が凄いわね」
「これだとプリンセスオゥガンジーみたいに丈夫じゃないけど」
「これは頑丈さも魔術防御もいらないわ。ゼラが簡単に作れて、ちょっとしたお洒落に使えそうなのができたらいいわねって思ってたのよ」
ゼラの作った黄金のハンカチを手にして、ルミリアはいろんな角度で見る。
「衿飾りやスカーフにするのもいいわね。この糸で刺繍するのも素敵」
「カラァも作るー」
「ジプも作るー」
ゼラの真似をしてキラキラ光る糸を出そうとするカラァとジプソフィ。しかし上手くいかないようで、糸は太くなったり細くなったり。練習するうちに銀色のキラキラ光る糸がかなりの量になっていく。
「ちょっとこれで何か作ってみましょうか」
◇◇◇◇◇
ローグシーの街の訓練場の張り紙より。
『毎年恒例のローグシー訓練場腕試し大会が来月に迫りました。エントリーする方は早めに受け付けまでお申し込み下さい。
今年の優秀者への景品は、黒の聖獣様と蜘蛛の御子様が手作りになられた、金の守り袋、銀の守り袋です。振るってご参加下さい。
注意事項、ウィラーイン領民の日頃の鍛練の成果を競う大会ですので、現役ハンター、守備隊、領兵団に所属の方は参加できません』
バルーンアート
K John・Smith様
m(_ _)m
ファンアート、ありがとうございます。
◇◇◇◇◇
_φ( ̄▽ ̄K)
ローグシー訓練場腕試し大会! となれば!
「バカか!? 領兵団は参加できないからって、女房や娘に景品(守り袋)を取ってもらおうとか。お前がした言い方だと、あとで横取りするってことだぞ。そりゃあ、家を追い出されるぜ。泊めてやるから明日謝りに……」
「っ ⁉︎ むがああぁぁぁ!!!!」
「アーキィ、うるさい、手を動かしな。期日が近いんだ。だいたい、あんたじゃあ、勝ち残れないだろ」
「いや、姉さん。出といた方がいい気がするの………、勝つんじゃなくて、なんか嫌なヤツに騙しや罠を仕掛けまくって足を引っ張っぱらないとイケナイと、あたしの魂がささやく──、」
「遠い目をしてもダメだ。前日は外出禁止」
「われら『“黒の手の兄弟”血約同盟(黒の手ブラ派)』! ついに動き出すときが来た! 秘密組織内・秘密結社の忍従も全景品の四割をゲットすれば終わる!」
「聖徒会の幹部の必要人数を買しゅ………、もとい、説得したなら、あの忌々しい副会長に解任動議を仕掛けられる! ヤツの個人コレクションを解禁して全員の共有財産にぃぃ!!」
(((でもなぁ)))
(((自分で獲得した景品[手作りの金銀の袋]を、だれが手放すんだよ?)))
「きらきら?」
「おぅ、お父さん強いんだぞ? 中央諸国の『ふたつ名』持ちの武人、四大武芸大会でシード枠だったんだ。田舎町で勝ち進めないわけが……」
「俺、密偵だぞ!!」
「は? 同僚に何いってんの、知っているわよ」
「だって、おま、そんな、」
「プリンセスオゥガンジーのサンプル。いくら本国に言われても売られてないし、窃盗も強奪もムリ。でもね、一般参加して催しを盛り上げるなら、景品の持ち帰りは邪魔しないって」
「だれがいった?」
「フクロウのとこのコ」
「ローグシーのくノ一じゃねぇか!」
「うん、最近時々飲んでるの。グチったら同情されてねー。それで。ほかの間某や諜報員や工作員や軍探にも声かけるから、おもしろい感じに引っ掻き回してって♪」
「俺ら、にぎやかしかよ」
「〇〇町内会からは、靴屋のアストン。事前情報通りだ」
「いや、ミゲルも出るそうだ」
「引退したはずだろう! くそ、酒屋のバトルフォーク復活かよ!」
「孫に、例の景品をねだられたそうだ。あと、噂じゃあ例の飴屋も今回参戦するかも、」
「賭けのオッズがめちゃくちゃになる! 確かめろ!!」
「ふん!ふぉ!!む、うぉおおおおおお!![ズ・ムゥ〜ん]」
「ご近所の迷惑よ! モールはその辺にしなさい、夕食にするわよ」
「はぁーい」
「ちゃんと、手は洗いなさい」
「あたし、子どもじゃないんだよ!」
「人間どもが荒ぶっておる。………サカリか? ナワバリ争いが近いのか? 妙なヤツがまた増えておる、吾輩がしっかりせねばナ」
「くっくっく。景品贈呈、これは双子を狙う絶好の機会かも❗️」
「「「 馬鹿なの?」」」
◇◇◇◇◇
( ̄▽ ̄;) わお、SSからの発展暴走も、ありがとうございます。膨らむなあ。