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フォーティスの反抗期? その3


「私はフォーティスがハッキリと恥ずかしいと言ったことには、少し安心しているところもあるが」


 アプラースの呟きにアシェとクインは半目でアプラースを見る。アプラースは苦笑しながら話す。


「いや、フォーティスは優しい子だから。カラァとジプソフィはちょっとワガママなところがあるが、素直にものを言ってるだけでそこは心配はしていない。だが、フォーティスは周りの大人に気を使い我慢しているのではないか、と心配していた」

「フォウは優しい子だけど、あの子が我慢してる?」


 クインの疑問にアプラースは応える。


「子供というのは大人に気を遣って生きているものだ。大人の庇護が無ければ子供は生きてはいけない。大人が思うよりも子供は大人の機嫌を窺ったりしているものなのだ」

「アプラースには憶えがあるぴょ?」

「フッ、私の場合は王族だからまた違うが。幼い頃は王家の一員に相応しい者であらねばならない、という重圧があった。大人たちの視線に期待があった。期待に応えられなければ失望される、というのが、子供の頃、私がいじけるようになった原因のひとつだ」


 アプラースの話を神妙に聞くアイジスは、眉間に皺を寄せて苦しそうな顔をする。


「それは、我々の期待があの子達の成長を歪める原因にもなる、ということか? ……そうであるなら、我々業の者がローグシーを離れることも考えなければならない」


 アイジスの苦渋に満ちた言葉に深都の住人は騒ぎ出す。


「ま、待ってくれアイジスねえ様。あたい達はあの子たちを見守らないと」

「そうよ、歴史上初めて誕生した業の者の娘、我らが母の希望なのよ」

「だからこそ我々が悪影響を及ぼす訳にはいかん」

「イヤなのじゃー! もっとここで遊びたいのじゃー!」

「アイジスねえ様ー、せっかくボクたちここの人たちと仲良くなれたんだよ? そのためにがんばってきたのにー」

「いや、お前たちは勝手に来ておかしなことばかりしていた」

「ボクたちがいたから人と打ち解けることもできてるよね?」

「アイジスねえ様だけだと固すぎるのじゃ」

「ソレガシはウィラーイン家にて武術指南役としての役目がある。途中で放棄はできん」

「その通りだ。せめてフォウがシタンの技の基礎を身に付けるまで。生兵法こそ怪我のもとだ」

「やー、アイジスねー様? あちたちが急にいなくなることの方が、あの子たちに悪影響ぴょん」


 ララティの言葉にアイジスが、む? と。


「それはどういうことだ? ララティ?」

「あの子達はあの子達で、深都の住人のお世話係を自分達の役目だと思ってるぴょん」

「そうなのか?」


 クチバは、お、とララティを見直す。いつも子供たちと一緒に遊ぶか一緒にイタズラするかとふざけているようなララティが、意外と人のことをよく見ている。


「前にパラポがこっちに来て、子供たちにしがみついて泣き出したぴょん」

「そういうこともあったな」

「パラポの他にハオスねー様、モルアンねー様、ハリスンにファルフィ、深都の住人が来る度にあの子達がお出迎えしてるぴょん」

「あぁ、子供たちは新しく来た妹がどんな姿かと、楽しみに待つようになった」

「んーで、あの子達は深都の姉妹達をおもてなしして、話し相手になって、笑顔にしてお見送りするのが自分達の役目だと思ってるぴょん」

「いや、子供たちに役目を押し付けた憶えは無いんだが」

「あちたちが急にいなくなったら、きっとあの子達は自分達に不手際があったんじゃないかって、落ち込むぴょん」

「まさか……」


 戸惑うアイジスにクチバが言う。


「ララティの言うとおりでしょうね。押し付けてられてはいませんが、期待されてることはあの子達もわかっているでしょう。その期待に応えようと、新たな客人が来たらおもてなししようと積極的に動きます」

「深都の住人がウィラーイン家に迷惑をかけているのは解るが、あの子達の重圧にもなっていたとは……」

「重圧と言う程のものでは無いでしょうね」


 側で見てきたクチバには解る。深都の住人はゼラとカダールに、三人の子供たちに期待している。乳母をしていたアシェとクインに至っては依存とも言えるほどになっている。

 

「それに子供たちにとって、既に深都の住人と共に暮らすことが当たり前になってます。急にいなくなったら寂しく思うでしょう」

「ではどうすればいい?」


 アイジスの疑問にクチバは暫し考える。


(アイジスは相変わらず固いですね。でもアイジスがしっかりしてないと、今ごろこの別館の深都の住人はもっと増えて収拾がつかなくなっていたかもですね)


「ことの起こりはフォーティス様が、ローグシーの街の男女の違いを認識しなおしたことでしょう。これは街での人の男女のあり方と、男の子の成長というものを皆さんに知ってもらえばいいだけのこと」

「だけど」


 アシェは不満そうに言う。


「一緒に風呂に入るのが恥ずかしくてイヤって、今さら言われてもね」

「そこは男女混浴が当たり前になってしまった領主館の大浴場がちょっと珍しいのです」

「……ちょっと? 今のスピルードル王国で混浴はあまり、」


 アプラースの呟きをクチバは聞こえなかった振りをする。


(ルミリア様はゼラ様も入れる家族風呂と言って設計しましたが、今にして思えば、まるでアイジスやハイアディが来ることを予見していたようですね)


 領主館の大浴場とは、ルミリア夫人が『ゼラと一緒にお風呂に入りたい』と設計したもの。ゼラの下半身は人をその背に乗せられるほど大きな蜘蛛体。そのゼラが肩まで浸かれる浴槽とは人の足が届かない深さにもなる。


『お湯はゼラの魔法で沸かしてもらうとすれば、燃料費のことは考えなくていいわね。それなら深さのバリエーションを変えた浴槽を数種類作っておきましょうか』


 そうしてルミリア夫人が作ったものは、下半身の大きい深都の住人も余裕で使える大浴場。


(深都の住人はゼラ様の姉上たち。息子の嫁の姉ならば家族と。だから皆で入れる家族風呂を作った、と言うルミリア様は流石です)


「領主館の大浴場は広く、ウィラーイン家の家臣も聖獣警護隊も使わせてもらってますが、かつては男女の入浴日が違ってました。ですが、男に裸を見られることを気にしない人がいて、」

「なによ? お風呂と寝室は裸でもいいんでしょう?」


 深都のマッ()組代表のアシェが不満げに言う。それに一同、あー、と声が出る。


「大浴場が混浴になったのはマッ()組の影響ぴょん」

「アシェの他にゼラ様も男との混浴を気にしませんし」

「ゼラは見たいという男がいたら、自分から見せたりするわよ」

「それを許す旦那のカダールがどうかしてんじゃないか?」

「いえ、カダール様が言うには、ゼラ様の溢れる慈愛を独り占めするのは器が小さいと」

「おっぱいいっぱい男の度量は大きいのじゃ」

「兄上から聞いた話では、以前はゼラとの混浴権は一騎打ちでカダールに勝った報酬、ということだったが?」

「ボクが来たときには大浴場は混浴だったよ?」

「いつのまにか一騎討ちルールは無くなりましたね。それにゼラ様は、みんなと一緒だと賑やかで楽しい、と喜びますから」

「ほら、私だけのせいみたいに言わないで。ゼラも服は嫌いなのよ。それにアプラースだって混浴してるじゃない」

「初めはゼラに引っ張っていかれて、今ではウィラーイン家とも、カッセルとユッキルとも一緒に入るのに慣れてしまったか」

「うむ、騎獣の世話をするのも乗り手の務めだろう」

「それにアプラースに洗ってもらうと尻尾が一段とふわふわのサラッサラになる」

「アプラースがいつの間にか毛繕いマスターになってるぴょん」

「あの大浴場の湯を沸かすのは、ゼラかアシェの魔法なのだろう?」

「えぇ、そうよ。だから燃料を節約するなら私かゼラと混浴するのがいいのよ。アイジスねえ様は男と混浴は嫌がるから無理だけど」

「マッ()組は恥ずかしいというのを理解してくれん」

「聖獣警護隊にはハンター出身が多いですし、女ハンターは肌を見られることを気にしない人も多いので。深都の住人だけが原因というわけでもありませんよ」

「先ず、聖獣警護隊という男女混合部隊がスピルードル王国には少ないし、かなり特殊なんだが」

「セッシャ、ここは混浴が当たり前かと思い、聖獣警護隊とも一緒に風呂に入っていた」

「ソレガシも。修練のあとに風呂に浸かりながら、武術について稽古の仕方について話し合ったりしていた」

「「なので修練のあとにフォウと一緒に汗を流したりしていたのだが」」

「うむ、風呂というのが良いものとはローグシーに来て学んだのじゃ」

「うん、ボクたち綺麗にするだけなら魔法でチャチャッとやっちゃうからね」

「ぴょ、湯に使って身も心も解きほぐす、んで疲れを癒しつつ、隠すことの無い裸の付き合いは人と仲良くなるのに役立ってるぴょん」

「クインも混浴に慣れたでしょ?」

「それが当然となったら慣れるしか無いだろ。それに子供たちの世話をするには一緒に入らないと」

「話を戻して、ローグシーの街の浴場でフォーティス様に何があったかお話ししましょう」


 クチバの言うことに一同ピタリと口をつぐむ。



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