ルティの果物収集旅
(* ̄∇ ̄)ノ ルティの主役回。愛称ルティことルティールレウト。下半身は大コウモリの深都の住人。イタズラ三人娘の一人です。
「ルビーマンゴー発見! これは完熟のじゅく!」
南方の森までひとっ飛び。実る果実を探してパタパタと。真っ赤に熟したルビーマンゴーは甘い匂いを辺りに放って、うん、よく無事なの見つけられた。向こうにあるのは、あ、鳥が啄んでる。
領主館の子供たちに果物を運んで喜ばれてからは、ボクは『南国の果物のおねえさん』と呼ばれている。ドライフルーツにするとか加工しないと、南国の果物はウィラーインに届けられないからね。新鮮な南国の果物を食べようとしたら、ボクかクインみたいに速く空を飛べないと無理。
人の乗り物はそんなに速くも移動できないし。子供たちに果物おいしー、とニコニコされたら期待に応えないとね。
というわけで、南国の果物のおねえさんことボク、ルティールレウトはルビーマンゴーの季節に合わせて南の森へ。ばびゅんとな。ルビーマンゴーはフォウくんが美味しいって喜んで食べてたし。
フォウくん、また喜んでくれるかな?
カラちゃんとジプちゃんはゼラの味覚を受け継いだのか、野菜と果物は嫌いだけど。フォウくんが美味しいって言うのを口にしてヘンな顔になってたなあ。あはは。
でもチーズが好きなゼラがチーズケーキを作れるようになって、チーズケーキにつけるフルーツソースも作るようになったからいろんな果物を持ってってみようか。カラちゃんとジプちゃんもゼラのチーズケーキは大好きだし。
ボクたち業の者は基本的には生食で、焼いたり煮込んだりしたのはあんまり好きじゃ無い。それはカラちゃんとジプちゃんも同じみたい。
だけど、ボクも含めて深都の住人はローグシーに来てからは、おやつは別腹というのが分かった。食事は栄養補給でお菓子は娯楽、なのかな? お菓子にお酒でアイジスねえ様とカッセルとユッキルは、堕落しそうだ、なんて心配してたけど。
そうそう、果実酒も人の作り方で丁寧に作ると美味しいのができるんだよね。魔法でどっかんとやろうとすると出来上がるのも雑な感じだし。
「お、コノハムシ発見」
カラちゃんとジプちゃんは蜘蛛の子だから、活きのいい虫とかトカゲとかを持って帰った方が喜ぶかもしれない。この前は庭でヤモリを捕まえてモグモグしてたし。
『カラァ、ジプソフィ、ソレは人が見ているところで食べてはダメよ』
二人のおばあちゃんのルミリアは、しょうがないわねって笑いながら言ってた。カラちゃんとジプちゃんは人間の貴族の伯爵家のご令嬢って育てられるから、窮屈そう。それが息苦しいようならボクが二人を深都に連れて行こうかって考えてたけど。
『人前で食べてもいいものと、隠れてコッソリ食べるものの違いを覚えましょうね』
おばあちゃんのルミリアも、おじいちゃんのハラードもなかなかだ。ルミリアとゼラが子供たちに、身内と聖獣警護隊しかいないとこなら食べてもいいもの、人が見てるとこで食べてもいいもの、偉い人との会食やお茶の席でのマナーなんて教えてた。
下半身蜘蛛のアルケニーを可愛い孫だって抱っこする。あの一家もあの館の住人たちも、ボクの知ってる人間とは何か違う。
『ウン、人は自分達が口にしない生のモノを食べるとこ見たら、ビックリしちゃうから』
そうカラちゃんとジプちゃんに教えるゼラは、ちゃんとお母さんしてたなあ。
蜘蛛の子ゼラが人間と家族になって上手く行くのかとか心配してたけど、あれはもう笑うしかないよね。
アシェから聞いた話だけど、カラちゃんの蜘蛛の脚の爪が執事のグラフトの腕を引っ掻いて、血が出たことがあったんだって。
『けっこう深くてかなり血が出たハズなのに、その武装執事が微笑んで『これは将来が楽しみです』なんて言ってたのよ。そのあとはカラァとジプソフィに靴下を履かせようってなって、どの色が似合うか可愛いかって盛り上がっていたわ』
アシェは呆れたように言ってた。半人半獣が人にケガさせて、それで済んじゃうんだ。
まあ、骨をポキポキ折られても、だからどうした?って顔してるおっぱいいっぱい男がヘンなんだけど。でも、あの家族に育てられたからカダールはカダールなんだねー。
ゼラがいろいろ頑張って人に受け入れられたってのもあるんだろうけど、カラちゃんとジプちゃんが危なっかしいことしても、みんなでイベントみたいに楽しんじゃってさ。
『カダールとゼラがいる間は、あちたちが深都で騒動起こさなくてもいいぴょん』
『そうじゃな。むしろワシらは向こうを盛り上げてやるべきなのじゃ』
そう言ってララティとロッティはカッセルとユッキルとハイアディを巻き込んで真っ先に深都を飛び出した。
ちなみにそのとき、追っ手を攪乱工作したのがボクなんだけど。もちろん怒られたけど。
ボクはおもしろいからララティについていってるんだけどね。ボク達トラブルアトラクターズは深都のイタズラがお仕事。
深都の姉妹は仲良くて、一緒に居ればバカなこと言ったりケンカしたりする。だけど一人になると昔を思い出して鬱々としちゃうのがいる。いろいろあったから業の者になったわけで、ボクにもそういうのはあったりもするけれど。
『悩みすぎは良くないぴょ』
『おう、落ち込むヒマなど与えてやらんのじゃー』
と、深都の姉妹たちを楽しませて来たのがボクたちトラブルアトラクターズ。ララティとロッティとボクでいろいろ騒ぎを起こしてきた。だから深都の中でも、ボク達三人がお仕置きされた回数はぶっちぎり。
『いい加減にしなさい!』
と、ツルギねえ様は怒り。
『まったくお前たちは』
と、アイジスねえ様はため息をついて頭を抱えていた。ごめんねー。
だけど他の姉妹が見てないところで、ヴォイセスねえ様はボクをむぎゅーとハグして。
『いいぞ、もっとやれ』
と言ってボクの頬をペロリと舐めた。
『そんなお遊びも深都には必要だ。穴蔵の妹たちの心を軽くしてくれ』
だからボクたちは、深都でしょーもない騒ぎを起こしては逃げて捕まって怒られてた。
そーやって騒がないと暗くなっちゃうのを巻き込んで。
それでもパラポやハイアディは落ち込みやすいのか、一人でしくしくと泣いてたりするし。
カッセルとユッキルは、復讐を終えてからは生きる目標が無くなったのか、虚ろな目でボンヤリする生きた屍みたいになってたり。
ボクたちだけじゃ姉妹の気分を晴らすのに力不足。日を落とす大蝙蝠になって、なんでもできると思ってたけど、こんな簡単そうなこともなかなか上手くできやしない。
それが、あのヒネてた人間嫌いのアシェがあんなに可愛くなっちゃうなんて、カラちゃんとジプちゃんには敵わないなあ。
ボクたちは中途半端に人になって、中途半端に魔獣のまま。
どっち付かずの姿になって、ここが行き止まり。もしも姿が変わることがあれば、それは心を無くして棄人化したとき。
だから深都は、まるで目的地を見失った迷子の集まり。バカみたいにはしゃいだりするのもそういうことで。
深都で我らが母を助けるという目的が無ければどうなっていたか。
深都に辿り着けなかった業の者が人の世界でやらかしたことは、半人半獣の伝承として語り継がれたりしてる。ボクも深都で姉妹と出会わなければどうなっていたことか。
だから、ボクとララティとロッティでバカ騒ぎを起こしていて、でもゼラとカダールとあの子達が居ればその必要も無い。そこはちょっと寂しいけれど。
それよりも、ボクたちに新たな未来を、見失ったこれから先を予感させるウィラーイン家は、とても大切で、忘れかけた希望を感じられて。
だからこそ、ボクたちはあの館を盛り上げなきゃね。
あの子たちが喜びそうな果物とかを、アイジスねえ様に見つかると怒られるからコッソリと運んだりね。
「……ん?」
南国の森の中、果物を探して採集しているとなんだか妙な臭い。ちょっと懐かしい臭い。
「この臭いは、アレかな?」
臭いの方へと緑の木々の中を進んで、あった。地面に咲くのは南国でもっとも大きな花、そして南国でもっとも臭い花。臭いにつられて虫が集まっている。
「これ見たらルブセィラは喜びそーだなー」
花は既に枯れ、臭いは薄くなってて実ができている。それでもくさい。
「やー、相変わらずのスッゴイ臭いだなー」
ん? この種を持ち帰ったらどうなるかな? この種から花が咲いたなら。南国と気候が違うからちゃんと咲くかはワカラナイけれど。
もしも上手く咲いたら、あの子たちが臭い臭いって大騒ぎするかもしれない。想像すると楽しくなってきた。
「うん、いろいろ様々なことが起きる世の中で、体験しながら対処法を学ぶことが成長だよね。人が強く逞しくなることは我らが母の望みでもあるし」
それにこの花は臭いがスゴイだけで、これでケガしたりすることも無い。おお、イタズラには最適な花だよ。
「持って帰った果実のかごの中に、たまたま変な種がまぎれこんでただけ、うん、ということで、うふふふふ」
人は成長する。あの子たちは側で見てるボクが驚くくらいにスクスク大きくなっていく。
子供時代のちょっとしたおかしな事件は、思い返す子供時代の思い出に色を添えるんじゃないかな?
「この花が咲いたとき、あの子たちはどんな顔をするのかな?」
あとでまたアイジスねえ様に怒られておしおきされちゃうんだろうけど。
こんなおもしろそうなこと思い付いたら、やるしかないよね。ボクからのプレゼントだ。
領主館の中庭の片隅に満開のこの花が咲くところを思い浮かべてボクは翼を広げる。南国の果物で一杯になったかごを足で掴んで。
さあ、帰ろう、あの愉快な館に。
◇◇◇◇◇
「ぴょおおおお?!」
「ちいいいいい!!」
「なんじゃあああ!?」
おー、臭いでダメージ受けてる。ララティ、カッセル、ユッキル、ロッティは鼻を抑えてゴロゴロ転がっている。うん臭いよね。鼻のきく人にはより大ダメージだ。
領主館の中庭、隅の方。見つからないようにこっそり植えた種はすくすく育って、本来よりも小ぶりな、それでもこの館の人達には見たことも無いくらいの大きな花を咲かせた。そして肉と果物が腐ったような強烈な臭いを辺りに撒き散らしている。
イタズラ大成功。
眼鏡の賢者ルブセィラは、
「鼻を覆えばいい、という訳にはいきません。粘膜が空気に触れるところを守り、消臭効果を高めた薬品と組み合わせたマスクを作成しましょう」
「せんせー、調合できましたー」
うん、ウッキウキだ。それをフォウくんが手伝っている。
「んーと、こーしてあーして」
「んにににににに」
カラちゃんとジプちゃんは、あれ何してるんだろ? あ、手から出した糸で臭い対策のマスクを作ってるのか。
ゼラとカダールはと見ると、ここは子供たちに任せようか、ウン、という感じでほのぼのと見守っている。
「はい、よくできました。マスクのこの部分に消臭効果のある薬品を染み込ませて、このマスクであの花に近づきサンプルを採取しましょう」
生き生きしてるなあルブセィラ。で、子供たちは臭い、臭いって言いながら笑ってる。だよね、くさいのもここまで来ると笑っちゃうよね。
「ルうぅティいぃいい?」
「あひゃ?」
しまった。後ろから後頭部を手でがしっと掴まれた。底冷えのするアイジスねえ様の声が。子供たち見てたら逃げそこなった。
「ルティ? だからウィラーインに無いものを持ち込むなと、あれほど言ったよな?」
「あ、あの、アイジスねえ様? あはは、その、ボクもかごにあれの種が入ってるとは」
「ほおう? それがどうして狙ったように見つかりにくいところで咲いているんだ?」
「さ、さあ? いやー、これも運命のイタズラという偶然かなー? あはははは」
「そんなわけがあるか!」
領主館の片隅に咲いた南国の珍しい花は、ルブセィラにサンプル採取されたあとは速やかに処分された。で、ボクはおしおき決定に。
「アイジス、言われた通りにミントを採集してきましたが、これをどうします?」
諜報部隊フクロウのクチバがどっさりと緑の葉っぱを持ってきた。ミント? まさか?
アイジスねえ様がクチバからその葉っぱを受け取って。
「ありがとうクチバ。ルティ、おしおきだ。ミントがいっぱいの部屋で1日謹慎だ」
「いやあああ! ミントはヤダあああ!」
ボクはコウモリだからミントの臭いは大っ嫌いなんだよ!
「そのイヤな臭いに包まれて反省しろ」
「やーん!」
アイジスねえ様にミントの山と一緒に部屋に放り込まれた。丁寧にアイジスねえ様の結界で脱出不可能に。やー、ミント、いやー。鼻が曲がるー、もげるー。ごめんなさーい。
(* ̄∇ ̄)ノ K様のモンコレ、『Halloween特別回、カボチャ頭の弔い』より派生した前日譚になります。