スキュラねー様対フクロウのクチバ
本編のフクロウのクチバ、ついにスキュラのハイアディと邂逅です。
「では、ハイアディ、おやすみなさい」
「……、」
「なんでむくれるんですか?」
うう、さんざんからかうように頬から耳に首筋をコチョコチョして、レーンは私のことなんだと思ってるのよう。ふう、顔が熱い。レーンを見ればなんだか満足したような顔で私を見てるし。レーンのイジメっ子……。
「ちょっとしたスキンシップじゃないですか」
「もう……」
「おや? ハイアディがもっと触って、と目で訴えてくるから、私もやめどころを見失うのですけど?」
「そんな目、してないもん」
恥ずかしくなってプイと顔を背けると、レーンはクスクスと笑って私の髪を一房摘まむ。指に挟んだ私の青い髪にチュッと音を立ててキスをして、
「おやすみなさい、また明日」
「おやすみなさい……」
レーンは地下室を出る。階段を昇る足音が遠ざかる。
……スキュラの私を怖がって無いのは解るけれど、うーん、レーンはなんで私に触るときあんなに楽しそうな顔をするんだろう? というか、私を怖がらずにペタペタ触る人間なんて、初めて。
蜘蛛の子のゼラを見慣れてるっていう、このローグシーの街の人がおかしいのかしら?
……レーンの手はあったかくて、撫でられるとホッとして、恥ずかしいけど、ずっと触っていて欲しくて、やん。
「……やっと一人になりましたか」
「ひゃい!?」
思い出しうっとりしてたら、いきなり地下室の暗がりから女の声が!
「だ、誰? 誰かいるの?」
「……あれ?」
暗がりから現れたのは、灰色の髪を長く伸ばした女の人。え? いつからいたの? まさか、私が人の気配を感知できないなんて?
灰色の髪の女は小首を傾げて私を見る。
「おや? てっきり私のことは気がついていて、あえて気がつかない振りをしてるとばかり、」
「え? 全然わかんなかった。あなた本当に人間?」
「どうやら私の隠身術は、深都の住人にも効果があるようですね?」
その女は薄く微笑んでいる。私が見抜けない気配隠蔽? そんな力を持つ人間がいるの? この女、只者じゃ無い。
「それとも彼氏とイチャつくのに夢中でしたか? 夜中の地下室でいつまでもチュッチュベタベタと」
「そ、そんなチュッチュベタベタとかしてないもん!」
「このままムニャムニャまで始めたらどうしようかと、悩んでしまいましたよ」
「この覗き魔! いつから見てたの!? あなた、何者!?」
灰色の髪の女は私にペコリと一礼する。
「初めまして深都の住人。私はウィラーイン家に仕えるクチバと申します」
ウィラーイン家、この街の領主の貴族で、あのおっぱいいっぱい男の一家ね。
え?
「そう、ついに見つかってしまったわね……」
蜘蛛の子とおっぱいいっぱい男の関係が信じられ無くて、でも興味が押さえきれなくて私はこの街に潜入した。
……長旅で疲れて、乾燥して干からびて街壁に張りついて、野良猫にかじられそうになったたころをレーンが助けてくれたのだけど。
そのレーンが私をこの地下室に匿ってくれて、いつの間にかもとの目的を忘れて、レーンのことが気になってしまったのだけど。
うぅ、ウィラーイン家に見つかったなら、そこから深都に伝わって、私を連れ戻しにクインかアイジス姉さんが来ちゃうんだろうなぁ。
見つからないように街に出ないようにして、レーンの家で暮らしてたのに、ウィラーイン家って凄いのね。この私を見つけるなんて。
クチバと名乗る女をジッと見ると、その女は呆れた顔で、はー、と深く溜め息を吐く。
「あのですね、ついに見つかってしまったわね、じゃ無くてですね、私達諜報部隊フクロウはあなたが街に来たときから気づいてますから」
「え? ウソ?」
「あなたの目的が不明で、しかも深都の住人。刺激して暴れられても困るので、しばらく様子を見てたのです。これまでずっと見張ってました」
「ええ? まさか、私が人間の監視に気がつかないなんて……」
「そーですね、ちょっとレーンに夢中になりすぎなんじゃ無いですか? 潜んで見てましたけど、ずっとウットリモジモジクネクネしてましたね」
あう、どこからどこまで見られてたの?
「レーンの方からも、報告は上がってきてます。あなたが落ち着いたらハラード様に挨拶に行くと」
あ、そんな話もあったっけ?
「それなのになかなか来ないし、様子を見てればずっとイチャイチャしてるだけ。あなた何しにローグシーに来たんですか?」
「えっと、それは、赤毛の英雄の観察の為で、」
「の、予定で来て、それが何故地下室に隠れて新婚夫婦ゴッコなんです?」
新婚夫婦ゴッコ? 私とレーンが? う、うん、なんだかレーンのご飯作って、お洗濯して、仕事に出掛けるとき、行ってらっしゃいって言うのが、なんだか胸がムズムズして楽しくて、うん、新婚さんみたい、きゃう。
「とりあえず一度ウィラーイン家に来てください。その時にあなたのことを少し、話合いましょう」
「話合い? 人が私と?」
つい口にしたことにクチバと名乗る女がムッとした顔をする。だって、人が私と話をしようだなんて、レーン以外にはそうそういないと思うもの。
私は魔獣スキュラ、人に怖れられて当然の魔獣。この私と人が対等に話をしようだなんて。
灰色の髪の女は、足音を立てずにいつの間にか接近してきた。え? この人間、速い? 手を伸ばして、私の入ってる壺に手を突っ込んで、
「きゃあああ!?」
「ふむ、スキュラの触手とはタコかイカかと思ってましたが、この手触りは大ウナギのようですね」
ななななな? 何この女? いきなり私の触手をわし掴み? 鼻がくっつきそうな間近に顔を寄せて来て、ちょっと怖い?
「深都の住人のスキュラさん、あんまりウィラーイン領の人間をなめないで下さいね」
ひい、口は笑ってるけど目が、目があ。
「レーンはローグシーの街の守備隊の副隊長です。ゼラちゃんを探りにいろんなとこから街に来る人が増える中で、余計な仕事を増やさないで下さい」
ひゃああ、私の触手、そんなに乱暴に握っちゃダメえ。そこグニグニしないでえ。
「あなたがこの街に居たかったら、深都にあなたのことは黙っていてもいいですから」
「え?」
「その辺りを含めて、領主であるハラード様に挨拶に来なさい。匿ったレーンと一緒に、解りましたか?」
「え? えぇ?」
女が私の触手を握る手に力を込める。ひいぃ?
「わかりましたか?」
「わ、わかった、わかりましたー!」
「よろしい」
何? この街の人間、怖い? どうして私が威圧されてるの?
灰色の髪の女はニッコリ笑って、私の触手の粘液のついた手を見る。
……流石に、これは気持ち悪いと思うわよね? 私、スキュラだもの。人間は粘液のついた触手を不気味と思うものだもの。
クチバと名乗る女は手についた私の粘液をマジマジと見て、おもむろに口を近づけてペロリと一舐め?
「ふむ、微かに海の味がしますね。久しぶりにタコワサとかスルメとか食べたくなりました。ローグシーに海産物はありませんからね」
ひいいいい? 私、食べられちゃう? 助けてレーン! 助けてー! この人間、怖いー!?
設定考案
K John・Smith様
加瀬優妃様
m(_ _)m ありがとうございます。