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プリンセスオゥガンジーの質の違い◇◇◇第1話

(* ̄∇ ̄)ノ 久しぶりのカダール視点でお届けします。『プリンセスオゥガンジーの質の違い』全4話。


「プリンセスオゥガンジーが?」


「えぇ、残りが少なくなってしまったの」


 領主館の一室、フェディエアが内密の話があるというので人払いをしたところ。フェディエアが俺に顔を寄せて声を潜めて言う。


「できれば少し補充をしたくて」


「在庫はまだ在った筈だが?」


 プリンセスオゥガンジー。それはゼラの手から生み出される糸で作られる極上の布。西の聖獣ゼラにしか作れない神秘の布。

 母上の地下秘密研究室で保管されているその量を思い出しながら、フェディエアに応える。


「ウィラーイン家と縁のある貴族には、一通りドレスやハンカチに仕立てて贈ったのだろう?」


「えぇ、灰龍被害の復興に支援してくれたところには。だから急いで必要というわけでは無いのだけど」


「俺が言うのもなんだが、かなり量があった気がするのだが?」


「十分な量があった筈なんだけどね……」


 フェディエアは少し疲れたように言う。何かあったのか?


「ニセ物騒ぎが起きたあと、訓歌の像を作るのにけっこう使ったじゃない?」


 プリンセスオゥガンジーと言えば、俺とゼラの結婚式と、その前にはエクアドとフェディエアの結婚式で結婚衣裳に使った。

 結婚式では俺とゼラ、エクアドとフェディエアもその結婚衣裳で街に出て、ローグシーの街の住人の多くが七色の陽炎に彩られた衣装を目にした。

 そして聖獣ゼラの加護宿る聖布、プリンセスオゥガンジーは有名になってしまった。欲しがる人が増えてニセ物が出回る騒ぎになったほどだ。


 ニセ物騒動の対策に芸術家の叔父がプリンセスオゥガンジーをふんだんに作った蜘蛛の像を作った。この『訓歌の像』はローグシーの聖堂に飾られている。


 あの聖堂、割れたステンドグラスに俺を抱き上げたゼラの像に訓歌の像と、聖獣ゼラにまつわる物の展示場になってきてないか? 参拝する人が増えて、聖堂の神官長がまた改築すると喜んでいたが。

 訓歌の像に使われた本物を見れば、光を浴びれば七色の陽炎の立ち昇るプリンセスオゥガンジーとは、人の手で作ることは不可能なものと解る。


「訓歌の像のおかげでニセ物騒ぎは静まってきたけれど、欲しがる人はまだまだ多いわ」


「だが、あれはゼラにしか作れない代物で、欲しがられても困るのだが」


「その希少性にゼラの人気があるから、手に入れたいって人は増える一方ね。プリンセスオゥガンジーを求めて変な黒装束の連中が夜な夜なウロウロしてる、なんて噂もあるわ。それにエクアドがオストール家のお母様に贈ったハンカチも騒がれたみたいよ。男爵家がどうして幻の品を?って」


「それはエクアドがウィラーイン家の養子に入り、ゼラの義理の姉になったからだろうに」


「どんなにお金を出しても手に入らない幻の品、なんて呼ばれてるのよ。それなのにルブセィラが……」


 はあ、とため息を吐くフェディエア。何かあったのかと聞いてみると。


「聖獣警護隊の研究班と武装班、正確にはルブセィラとミューギルとアーキィが、プリンセスオゥガンジーを活かした防具開発と抗魔術試験で調子に乗ってしまって」


「あぁ、そういうことか」

 

 ルブセィラ女史の研究欲に火がつき、そこにあの鍛冶姉妹が加わわってしまうとどうなるか、簡単に想像できてしまう。


「次々と試作を作っては対魔術攻撃の試験とかしたか。投射魔術の種類を変えては何度も試作品に当てたりとか」


「他にも、丈夫過ぎるプリンセスオゥガンジーを裁断するための専用鋏の実験台にされたりね。それで改良された新しい専用鋏ができたのはいいけれど、あの希少品を無駄遣いし過ぎよ」


 フェディエアが疲れて見えるのは、どうやら怒り疲れたあとのようだ。

 ルブセィラ女史は研究欲を満たす為に、あの鍛冶姉妹は特殊素材をどう使おうかと、プリンセスオゥガンジーを嬉々としていじくり回していたのだろう。

 フェディエアはべつに金に煩い守銭奴というわけでは無いが、商人の娘として育ち今は聖獣警護隊の会計でもある。そのため見方は少し変わるか。

 売りに出したならば金貨の山が積めそうなプリンセスオゥガンジー、その残骸の山を目にしてフェディエアは平静ではいられなかったようだ。思い出してしまったのか、今も険しい顔で怒っている。


「お義母様に言ってルブセィラと鍛冶姉妹には、もうプリンセスオゥガンジーを触らせないようにしてもらったわ」


「まぁ、おもちゃにされても困るが。しかし、ルブセィラとあの鍛冶姉妹が研究してくれたから、あの布を切れる鋏が開発されたので、無駄にはなっていないだろう?」


「成果が無ければ許さないわよ。プリンセスオゥガンジーを裏貼りして、抗魔術力の上がった黒蜘蛛の騎士の鎧とエクアドの新しい鎧ができたわ。対投射攻撃魔術にはこれまでの鎧には無い性能ですって。他には専用鋏の改良かしら。確かにあの奇妙な形の鋏が無いとプリンセスオゥガンジーはろくに裁断もできないけれど」


「それは仕方無い。ゼラがそう作ってしまうのだから」


 ゼラの作る布、プリンセスオゥガンジーは光を浴びれば七色の反射光が陽炎のように揺らめく。この特徴が見た目に解りやすい。明るいところでこれほど派手な布は無い。


 かつて、ゼラがその手から様々な糸を出すのを見て、何かに使えそうだとルブセィラ女史と母上が盛り上がった。メイモント産のシルクをゼラに見せて、こんな布を織る糸が出せないか、と。

 面白がった母上とルブセィラ女史と研究班がゼラに注文した。綺麗で軽くて手触りが良くて肌触りが滑らかで嫌な臭いもしなくて光沢があるもの、と次々と思いつくままに。ゼラは母上の期待に応えようとしてがんばった。


「そうしてできたのがプリンセスオゥガンジーだ。そして、その布でできた服を俺が着たときに身を守れるように、とゼラが想像して張り切った結果に、あの丈夫さとなった。並の刃物では貫くことも切ることもできない異常な防刃性能と、火槍や風刃の魔術すら打ち消す抗魔術性能がついた」


「それでいてあの薄さに軽さだもの、とんでもない布よね」


 かつてプリンセスオゥガンジーを加工するのを手伝った、ルブセィラ女史の助手が言っていた。


『プリンセスオゥガンジーの美しさに心が震えるのは、ただ綺麗な布というだけじゃなくて、そこにゼラさんの、カダール様を守りたい、という想いが詰まっているからでしょうねえ』


 俺はドレスの良し悪しとかイマイチ解らない武骨者だが、プリンセスオゥガンジーのドレスは美しいと思う。あの布を見る度にゼラの愛を感じて、胸の奥が暖かくなる。


「だが、ゼラでもあれを作るのはたいへんらしい。薄いのに切れないとか、手触りが良くて柔らかいのに刃物を通さないとか、矛盾するものを成り立たせるのにかなりの魔力を注ぎ込んでいる。そのためにプリンセスオゥガンジーを作るとゼラは魔力枯渇になる」


 魔力については底無しに見えるゼラが唯一、魔力枯渇状態になるのはプリンセスオゥガンジーを編んだあとだけだ。

 ゼラにとっては魔力枯渇になることが目的なのだが。


「しかし、フェディエアが作ってと言えばゼラは引き受けるだろう。それが人払いしてまで俺にしたい話なのか?」


「……もう、言ってしまったのよ」


 顔を背けてこちらを見ないようにして、言いにくそうに声が小さくなっていくフェディエア。何やら耳が赤くなっている?


「プリンセスオゥガンジーを作ってくれない? とゼラにお願いしてしまったのよ」


「べつにおかしなお願いでも無いと思うが?」


 フェディエアとゼラは一緒に子育てしているうちに、今ではすっかり仲の良い姉妹のようになっている。フェディエアがゼラにお菓子の作り方を教えたり、今ではカラァとジプソフィとフォーティスと並び、ゼラとフェディエアが同じベッドで寝たりもする。


「ゼラがフェディエアの頼みを断ることは無いだろう」


「えぇ、そしたらゼラは、『わかった、カダールとムニャムニャするー』って言って、ニコニコしながらプリンセスオゥガンジーを作りはじめて……」


「あー、そういうことか」


 ゼラは俺とムニャムニャしたくなると、魔力枯渇状態になるためにプリンセスオゥガンジーを編む。

 無意識で身体強化を魔力で行うゼラ。いつもはちゃんと手加減できているが、ゼラが我を忘れると人を越えた怪力が出てしまう。

 お茶を飲み過ぎて酔っぱらったときとか、ムニャムニャして気分が昂ってしまったとき。


 俺はゼラとムニャムニャしようとして肋骨が折られたり、ゼラに自慰を教えようとして腕の骨が折られたりと、これまで何度か痛い思いをしてきた。

 それはゼラが俺にしがみつきたい、思いっきり全力で抱きしめたい、というものであって、ゼラの愛の深さ故に文字通り骨が折れる。ゼラの想いに応えられない俺の身体の脆さが、歯痒くて残念だった。


 ゼラが魔力枯渇状態になることで、魔力による無意識の身体強化が使えなくなる、という発見から、俺とゼラは無事にムニャムニャできるようになった。

 なんの不安も無く俺を抱き締めることができるようになったゼラの笑顔は、いとおしい。


 ひとつの問題はこうして解決した。その後、聖獣警護隊の隊員はゼラが鼻歌しながら手から出す糸を編む姿を見ると、『あぁ、今夜はするのか』『今夜はお楽しみですね?』と察してしまうようになった。ゼラの作る布と俺の顔を見てニヤニヤしたり、何か納得するような表情をする。むぐぅ。

 プリンセスオゥガンジーの在庫を母上の地下秘密研究室に隠してもらうのは、枚数を数えられないのには都合はいい。いや、俺が恥ずかしがっても今さらかもしれんが。


「だから、その、今晩はカラァとジプソフィはこちらで預かるから、夜は、その、ゼラと……」


 顔を背けたまま言いにくそうにフェディエアが言う。嬉々としてプリンセスオゥガンジーを編むゼラを止められなかったようだ。


 カラァとジプソフィが産まれてからは、その、回数は少なくなった。ゼラは寝るときはカラァとジプソフィと一緒に寝ることが多い。

 何より両親のムニャムニャというのは、幼い子供に見せるものでは無いだろう。


 だがまさか、義理の姉になったフェディエアから、今宵はゼラとムニャムニャしなさい、と言われることになるとは思わなかった。


 ……そうか、久しぶりにゼラとムニャムニャできるのか。


設定考案

K John・Smith様

加瀬優妃様


ありがとうございます。


( ̄▽ ̄;) 次回、ノクターン警報?

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