フォーティスの剣術修練
(* ̄∇ ̄)ノ 外伝とちょっとクロスオーバー
フォーティスは真剣な顔で木剣を構える。対するのはユッキルデシタント。こちらも東方古刀の形をした木剣を構える。
フッ、と鋭い呼気と共にユッキルの木剣が振るわれる。未だ未熟なフォーティスの為にわざと呼気を強く出して気配を伝える。
フォーティスは前に置いた右足を引き、脛を払いに来たユッキルの木剣を受け止める。ユッキルは続けざまに剣を振る。足を守る為に木剣を下ろし、空いたフォーティスの頭へと上から真っ向を落とす。
フォーティスは打ち込まれる剣に対し避けずに前へと。右足を踏み込みながらの入り身、既に木剣は振り上げ背中に背負うように。右半身になったフォーティスの身体は、自らの持つ木剣の下に潜り込むように。
ユッキルの振り下ろす真っ向を背に担いだ木剣の腹で受け流す。木剣の振りかぶりと入り身での防御を合わせ持つ東方古流剣術、独特の体勢。
ユッキルの真っ向を凌いだ直後、前に踏み込んだ右足と後ろの左足を入れ換えるように転身。振り下ろすフォーティスの木剣がユッキルの首筋に、寸止めでピタリと止まる。
横で見ていたカッセルが満足そうに頷く。
「表中太刀、四本目、足切、ものにしてきたではないかフォーティス」
ふう、と深く息を吐くフォーティス。額から汗が溢れる。眉間にシワを寄せて。うーん、と唸る。相手をしていたユッキルが、どうした? と訊ねる。
「フォーティス、何か不満そうだな?」
「だって、やればやるほど剣って難しいなあって。カッセルとユッキルがスゴク遠いとこにいるのが解るもの」
聞いたカッセルとユッキルは満足そうに笑む。ユッキルが振り向いて剣術の型を見ていた女に告げる。
「どうだ? ハオスねえ様。このフォーティスという逸材は」
そこには黒いローブを着込む暗い赤い髪の女、アダー=ハオスがいる。領主館に訪れた特別な客人。ユッキルがねえ様と呼ぶ深都の住人。
「私は人間の武術には詳しく無い。逸材、なのか?」
「一を聞いて十を知る。フォーティスはカン働きが鋭い、一度の修練で気づくことが多くある。ただ、その為に少々考え過ぎてしまうところがある」
カッセルの言葉にユッキルが続ける。
「気づかなければ剣を振り回すだけなら簡単なこと。術理に気づけば途端に難しくなる。フォーティスは自分で課題を見つけるのが得意のようだ」
「だけど、僕はじいじみたいに強くなれるのかな?」
「うーん、フォーティスは同じような技量で競う相手がいないのが問題か」
フォーティスに武術を教えたがる人が領主館に多い。その誰もが一流という武人ばかりのウィラーイン家。執事もまた剣の腕では聖獣警護隊を越え、メイドの一人は無手格闘の達人。
館の秘密を守る為でもあるが、フォーティスは館の外で同年代の子供との付き合いが無かった。
そしてフォーティスの乳兄弟、フォーティスが妹のように思うカラァとジプソフィは、腕力脚力は人間離れしている。
フォーティスにとって可愛い双子の妹、しかし、フォーティスがケンカで勝てる相手では無かった。
フォーティスは強くなりたい、と思いつつ武術の修練をするが、領主館の中では強さを競う相手の水準が高過ぎた。比べると領主館の中でフォーティスの勝てる相手がいないということになる。
「僕、王都の騎士訓練校でちゃんとやれるのかな?」
「うぅむ、人の子の付き合いというのは、私たちにはなんとも言えないが」
剣術の修練を終え休憩するフォーティスが、見ていたアダー=ハオスに尋ねる。
「ハオスは正体を出さないの?」
黒いローブに身を包むアダー=ハオスは人化の魔法で人に化けている。黒い影法師のような姿だ。
「領主館の中庭は楽にしていいんだよ」
「私は人に化けるのが慣れている。気にするな」
「そうなの? ハオスがどんな姿なのか、見てみたかったんだけど」
「私は深都の住人の中でも異形だ」
「ここには気にする人はいないよ」
ニコリと微笑むフォーティスをアダー=ハオスはいつもの無表情の顔で見る。
「……不思議なところだ」
「何が?」
「この、館の中庭が」
アダー=ハオスは領主館の中庭をぐるりと見回す。色とりどりの花の咲く花壇。ここでは深都の住人が正体を現し、そのままの姿で館の人間と話す。
それが当然の風景としてある。
「……私は、人に許される資格は無い」
「ハオスもそういう顔をするんだ。アイジスとアシェも、たまにすごく遠いところから僕たちを見てるような目をするよ」
「そんな役目をこなして来た」
「誰でも幸せになってもいい、と思うんだけど」
「幸せに、か。人の未来が幸福である、と信じているのか?」
「違うの?」
「……かつての古き神話では、人の未来とは破滅であると語られた。聖典の最後に黙示録と描かれて。災害、疫病、虫の群れ、ありとあらゆる災厄が滅日をもたらすと。それを先へ、未来へと伸ばす中で、滅日を回避する手段を探し……」
「未来は幸せじゃ無いかもしれない。だけど不幸ともまだ決まっていない」
フォーティスはキッパリと言いきる。
「ウィラーインの一族は、誰もが自分で幸も不幸も選べるように、その為に魔獣から民を守るんだって、じいじとばあばが言ってた。不幸しか無いなんてのはウィラーイン家が許さない」
フォーティスが腕を伸ばす。釣られてアダー=ハオスはフォーティスの手を握る。
「深都のおねえ様たちって、たまに心配になるよ」
「心配されるほど弱くは無いが」
「涙を見せない泣きそうな顔をしたりするから」
「……気をつけよう」
アダー=ハオスは手袋越しにフォーティスの手のぬくみを知る。指の根本に剣ダコが小さくある手は力強くアダー=ハオスの手を握る。
「強いな……」
十二姉の一人、最も長く人の世を見てきたハオスの三姉妹は、小さな声でそっと呟く。
珍しく、いつも無表情の顔を小さく微笑ませて。
_φ( ̄∇ ̄ ;K キマイラのアダーねえ様は乱読家。本が好きで、ある日、領主館に乗り込み『……ウィルマ=テイラー先生のサインを』と。そして『剣雷と槍風と』のシリーズと出会いそっちにも目覚めて……
(* ̄∇ ̄)ノ アダー=ハオス、十二姉の一人です。キマイラのお姉さま。蜘蛛意吐、外伝『闇を落とした毒の魔女』に登場してます。
_φ( ̄∇ ̄ ;K 帰りの便のクインの背中に、愛読用保管用布教用布教用のスペア、そして十二姉特別回覧用、計・五セットの、例のシリーズの全巻を積み上げているかも。ハハウエのサイン本はもちろん確保した上で。
さらに、現在のジャンル最新人気作に手を出したりして!
その若手BL作者の名はフィル! ハイラスマート伯爵家の、ぺたん次女!
腐臭のあった少女は大成して、伯爵夫人は一過性と思っていたが、慢性化重篤に気づいたときには手遅れ! 今では高名BL作家となり。
( ̄▽ ̄;) おお、膨らむ膨らむ。




