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別館の呑んべさん達

(* ̄∇ ̄)ノ ウィラーイン家別館、館長になったのは?


 ある日のこと、私はハラード伯爵とルミリア夫人に呼ばれた。


「アプラース王子、別館の館長をしては貰えないだろうか?」

「はあ?」


 ハラード伯爵が言ったことに虚を突かれ、間抜けな声をあげてしまう。


 スピルードル王国の王子として産まれ、王族としてその務めを果たし、王家のことは兄上、エルアーリュに任せて、私は今、ウィラーイン領にいる。

 中央礼賛派の貴族を議会から追い出す為の工作を行い、私はその旗頭となった。これは兄上と企み行った。

 その企みは上手くいき、レングロンド公爵を始め王国の為にならない貴族は一掃できた。私は彼らを釣り上げる道化を演じた。


 今の私は、表向きは兄上の留守中に王権を狙った者として、辺境送りとなった身。少数の魔獣深森調査隊を率いる隊長として、魔獣深森から王国を守る任についている。

 王子がウィラーイン伯爵の配下として監督されながら、魔獣狩りを行うことで罪を購え、というわけだ。


「その私が、ウィラーイン領主館の新別館の館長、ですか?」

「うむ、というのもウィラーイン家の実情を知り、別館を任せられる者というのが限られるからだ」


 聞いて額に冷や汗が浮かぶ。別館とは、この前できたばかりの、あの別館のことか?


「アプラース王子ならば務まるだろうとな」

「いえ、ハラード伯爵、私には力不足です」


 あの別館の館長、だと? 表向きはウィラーイン家の別館。

 ウィラーイン家の本館はカダールとゼラ姫、そしてウィラーイン家が仲睦まじく暮らすところ。

 かつてのウィラーイン家の領主館は、現在は迎賓館として改装されている。それは本館の方に人を招待できない事情があるからだ。

 そして別館とは、本館に入りきらなくなった人々の為に急遽作られた新たな館。館の名称はまだ決まって無いという。


 問題はそこに住む住人達だ。

 ゼラ姫の姉上達、深都の住人。人知を越えた麗しき半人半獣の乙女達。

 ハッキリ言って私に彼女達を抑える力など無い。


「私が、別館の館長とは、流石にその、無理です」

「しかし、他に適役がおらんのだ。なに困ったことがあればワシかルミリアに言ってくれればいい」


 困ったこと、うむ、困ったことばかり起きそうだ。あの特別な客人達は何をしでかすか解らない。まるで行動が読めない。

 クインは話してみれば気さくで、私が王子というのも気にしない。いや、特別な客人達は人の身分など気にする者はいないのだが。

 その中でクインとはわりと話をする方だ。というのもクインは酒が入るとちょっとお喋りになる。なので私も女の飲み友達ができたらこんな感じか? と新鮮に思う。


 アシェは、なんと言えばいいのか、人をからかうというか挑発するような言動をする。たまにカチンと来るときもある。

 アシェとクインはルミリア夫人の言うことは聞くので大人しい方だが。


 問題は、ララティだ。深都から来た大使、アイジスに何度怒られてもイタズラをやめない。自称道化というララティだが、度々問題を起こす。わざとやっているのが分かる。

 この前は領主館の庭にいつの間にか弾丸カボチャを植えていて、庭師が撃たれて怪我をするところだった。その庭師が殺気を感じて咄嗟に回避したと言うが、もしも私が知らずに近寄っていたらどうなっていたことか。


 他にも、カッセル、ユッキルの姉妹。別館の建築に手を貸してくれたハイアディ。

 彼女達が暴走したら、私はどうすればいい?

 ルミリア夫人が愛用の扇子をパチンと閉じる。


「アプラース王子。館長と言っても軽く見回りをしてくれるといいのよ。何かあれば私たちかアイジスに伝えてちょうだい」

「で、ですがそれは」

「スピルードル王家として、特別な客人の動向を知っておいた方がいいでしょ? エルアーリュ王子への報告にもアプラース王子が近くで彼女達を見ておくのがいいわ」


 確かに、このウィラーイン家の秘密はウィラーイン家の関係者とスピルードルの王族のみが知ること。迂闊に外に漏らすことはできん。

 一人で国を滅ぼせそうな者がゴロゴロここにいる、ということは。


「ということでお願いね、アプラース王子」


 こうして私は領主館別館の館長となり、別館の二階に居を移すことになった。

 私の配下の魔獣深森調査隊はローグシーの街、訓練場の近くに宿舎を置かせてもらっている。今のところ別館の二階に住むのは私と隠密ササメだけだ。


「無事に務まればいいが……」


 無事に済む訳が無かった。その後、ルティにロッティ、ファルフィ、パラポ、アダー=ハオス、次々と特別な客人がやって来たり、ハイアディがズバンしたり、アイジスがズッバアンしたり……


◇◇◇◇◇


アプラース王子

「これは? いったい?」


ララティ

「アプラース、いらっしゃいだぴょん」


アプラース王子

「いらっしゃいだぴょん、じゃなくて」


ララティ

「聖獣警護隊も酒呑みが多いぴょん。だけど街の酒場で泥酔できないっていうから、別館の一階を酒場っぽくしてみたぴょん」


ハイアディ

「バーカウンターも作ってみたの」


ララティ

「ウィラーイン家別館酒場、開店ぴょん。早速あちがバーテンに挑戦ぴょん」


ロッティ

「おもしろそうなのじゃ! ワシもバーテンやってみるのじゃ!」


ルティ

「南国の果物、持ってきたよー、あはははは」


アイジス

「おまえたちはまた……」


ララティ

「おっとアイジスねー様、今回は誰にも迷惑にならないぴょん。領主館別館の中でするぴょん」


アプラース王子

「う、うむ、これはこれで外で問題を起こさないようにするにはいいのか?」


ロッティ

「そうなのじゃ。だいたいみんながズルイのじゃ。アシェもクインもハイアディもローグシーの街に行っとるのに、なんでワシらがローグシーの街に出てはいかんのじゃ」


アイジス

「まず、ララティは人化の魔法が下手っぴだ。そしてルティとロッティは人の常識がまだ分かってない。それで街に出して騒動を起こされてたまるか」


アシェ

「私とクインは潜入に慣れてるし、ハイアディは人の街のこと学んでサポートする彼氏にメイドがいるから」


クイン

「それと、カッセもユッキもあの東方風の格好は目立つけれど旅芸人とごまかしているし」


カッセル&ユッキル

「「そこは抜かり無い」」


アシェ

「旅芸人暮らしから人の街にも慣れてるわよね」


ララティ

「うむう、それであちたちがローグシーの街に出られないのなら、領主館の内壁の中では少しくらいハメを外すのも許して欲しいぴょん」


アイジス

「おまえたちはハメを外しっぱなしのような。聖獣警護隊と飲み会したりとか」


ロッティ

「館の者と飲み会するぐらい、いいじゃろに」


ルブセィラ女史

「お酒を持ってきました。シウタグラ商会に頼んで各地のお酒をいろいろ揃えてみました」


ララティ

「でかしたルブセィラ!」


アプラース王子

「ルブセィラ女史……」


ロッティ

「さっそくカクテルじゃ! 宴会なのじゃ!」


アイジス

「おい、ルブセィラ」


ルブセィラ女史

「ルミリア様から伝言です。『泥酔して騒ぎを起こしたら、もうお酒は用意しませんよ』と」


アシェ

「それは困るわね」


クイン

「あたいらで監視しておくか」


ルブセィラ女史

「アシェもクインもアイジスもお酒好きですよね」


アシェ

「人が手間隙かけて作ったものは美味しいものね」


クイン

「深都の酒って強引に作った薬品みたいのが多いからなあ」


アシェ

「メチルとかエチルとか?」


ララティ

「ほい、アイジスねえ様、早速どうぞぴょん」


アイジス

「う、む、むう。で、では、別館から出ないことを条件としよう。特にルティ、酔っぱらって空を飛ぶなよ」


アシェ

「その前に各地のお酒ですって? 待って、カクテルにして混ぜる前に味見してみないと」


クイン

「そうだ、いい酒をおかしな混ぜ方するなんて飲み方はもったいない」


ララティ

「アシェこそほどほどにするぴょん。飲み尽くしたらバーテンできないぴょん」


アイジス

「ふう……、ウィラーイン家のブランデーは、いいな」


アプラース王子

(いい呑みっぷりだが、高級品の蒸留酒がこんなにある酒場は、街には無いぞ)


ルブセィラ女史

「そしてルティの為に細い筒を作ってみました」


ルティ

「細い筒?」


ルブセィラ女史

「ルティは逆さにぶら下がった方が楽なのでしょう?」


ルティ

「ウン、僕はコウモリだからね。逆さにぶら下がった方が落ち着くんだ」


ルブセィラ女史

「この細い筒を使って吸い上げれば、逆さにぶら下がったままお酒が飲めますよ」


ルティ

「あ、ストローか。ほんとだ、コレいいね。あはは」


アプラース王子

(天井から逆さにぶら下がったままクピクピと)


ララティ

「シャッカシャカシャッカシャカ、できた! ララティスペシャルカクテルだぴょん。さ、アプラース、ぐいっといくぴょん」


アプラース王子

「待ってくれ。私はハラード伯爵より、別館のことを任せると。だから私は監督する立場であってだ」


ララティ

「別館の長なら、別館の住人と腹を割って話すぴょん。あちのスペシャルカクテル、名付けて『ピンクムーン』を飲んでみるぴょん」


アプラース王子

「ピンク……、これ、何が入っているんだ?」


ララティ

「ん? いろいろ」


ロッティ

「こっちもできたのじゃ! 名付けて『ラジカルラスカル』さあ、赤髭、味見してみるのじゃ!」


赤髭

「ほお、南国の果物らしい原色に近い色鮮やかさ。くわえて独特の強い香りが実に良い」


アイジス

(いざとなれば別館を結界で包み、一人も外に出さんようにすればいいか)


◇◇◇◇◇


ララティ

「で、ルミリアが赤髭のおねえちゃんぴょ?」


赤髭

「うむ、姉上の才は、あのクライシュナー侯爵家に納まるものでは無かったのだ(ヒック) その姉上がやりたいことをやりたいようにやれる今の環境は、姉上をフォローするハラード伯爵がいてくれるから。そこはハラード伯爵に感謝はしている。しているのだが」


ララティ

「シスコンの赤髭は優しいおねえちゃん取られて気分は複雑ぴょん?」


姉上

「(ヒック)姉上が教えてくれたのだ、『紫の空に赤い雲もステキね』と。目に映るものを心がどう感じるのか、そして狭量な者は広い視野で物を見ることはできない、と(ヒック)つまり芸術とは、人の心に刺激を与える、物事の物理法則に囚われ無い側面を描き出し、心に映る真実を形にして人に伝えることもまた芸術家の役目として」


ララティ

「(まだ酔いが足りないぴょ?)その芸術家の使命と才能に気づかせてくれたのがおまいのおねえちゃんぴょ? ほらもっと呑め」


ルティ

「あはははは、甘くて美味しいよコレ」


ロッティ

「アイジスねえ様は少年執事と何処までいったのじゃ?」


アイジス

「何処まで? ど、何処にも床にも行ってない!」


カッセル

「妹よ、アイジスねえ様が呑み出したら」


ユッキル

「うむ、セッシャ達が場を見張るしかあるまい」


クイン

「アプラース、呑んでるかー?」


アプラース

「あぁ、しかし、いいものだな。こうして気を許せるものと呑むというのは……」


◇◇◇◇◇


 別館ではいろいろなことが起きる。事が起きるのも彼女達が人と変わらぬ感情があるからだ。同じ館に住み、食事を共にし、こうして酒を呑み語りあえば、人と何が違うというのか。

 別館に作られた酒場で乙女達との酒宴。少し彼女達との距離が近づいたように思える。


 ……問題は、酒が好きな者が多く、意外と酒代がバカにならないことだが。


◎ バーテンダー ・ララティ

              

         ∪\ _ ( \    

         (・×・)

         б ⊂彡 * 

          / サッ!

おごりだぴょん  / 〃./

       /  〃 . /

      / ″函 . /

    /     ./

   |  ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ |


   新作スペシャルカクテル、

     『ピンク・タイガー』

            のむぴょん


◇◇◇◇◇

(* ̄∇ ̄)つ函 いただきます。


アスキーアートはK様より。

ありがとうございます。


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