マジカルゼラ! 劇場版
ゼラのバルーンアートをバージョンアップしてもらいました。
なのでマジカルゼラもテレビ版から劇場版にバージョンアップです。わっしょい。
「これが、悪魔ケージョン? 嘘だろ?」
ゼラの側にいる九官鳥のクー子が掠れた声で呟く。ゼラとクー子の前に聳えるのは巨体の魔神。
「クックック、遅かったではないか? マジカルゼラ」
「悪魔ケージョン! カダールを返して!」
「ククッ、悪魔? 遅いと言っただろう? 我は闇の神の因子を取り込み更なる力を得た」
四対の黒い翼、捻れた二本の角、尊大に立つ巨体は一足で家を踏み潰す程に大きい。かつての悪魔ケージョンではあり得なかった濃密な魔力がその巨体から溢れ空間が歪む。
「悪魔を越えた覚醒魔神、最早このケージョンに敵う者はいない」
「相手が魔神でも! ゼラは負けない! くーあ! ろす! ろす!」
「バカ! やめろゼラ! よく見ろ!」
両手を天に伸ばし詠唱するゼラをクー子が止める。覚醒魔神がその手に持つのは大きな水晶。その水晶の中に、
「カダール!?」
「ククッ、マジカルゼラよ、ディスインテグレーターを撃てるものなら撃ってみるがいい」
「ケージョン! この卑怯もの!」
「クハハッ、我が配下ピージョンを屠ったマジカルゼラを侮りはせんよ。さあ、この男を返して欲しくば、我が配下に下れ!」
「うう、カダールぅ……」
覚醒魔神ケージョンの持つ水晶の中、カダールは何か喚いて水晶を殴るがびくともしない。水晶の中の声は聞こえない。
「さぁ、大人しく我が軍門へと下るのだ、マジカルゼラ!」
「待てえーい!!」
「む? 何者?」
現れたのは一人の骸骨。もとは豪華であったローブはボロボロになり立つのもやっと、という有り様。しかし気迫は満ち覚醒魔神ケージョンへと怒鳴る。
その骸骨の名はハイリュウ。ゼラを倒し魔獣王となることを目的とするアンデッドドラゴン。
「つまらん結界に閉じ籠り、人質を取るなど恥を知れ! 真に魔獣王のタイトルを奪うなら、姑息な手段など使わず全力でぶつかり合え!」
「ふん、死に損ないの雑魚が、まだ生きていたか」
「マジカルゼラはワシの獲物よ! 横から掠め取ろうなど許さぬ! 認めぬ!」
「認めなければどうだと言うのだ? 雑魚が茶々を入れるな」
「ワシを雑魚呼ばわりしたことを、後悔するがいい。ワシには人質など通じんぞ! 食らえ! 我が全力の一撃!」
ハイリュウはその背に背負ったものを力一杯投げつける。
「エクアドミサイル!」
「おおおおお!」
解説しよう。エクアドミサイルとは、カダールの親友にして槍の使い手。カダールと共に不死身の騎士と呼ばれる男を力任せに投げつける荒業である。
赤い槍を構えたエクアドが赤い流星と化し、覚醒魔神ケージョンの持つ水晶へと一直線に飛翔する。
「な? バカな? バカか?」
遠距離の魔法攻撃を警戒していた覚醒魔神ケージョン。生身の人間を投げつけるという、まさかの物理攻撃は想定していなかった。赤い流星と化したエクアドの槍が、カダールが閉じ込められた水晶に突き立つ。
水晶が割れる音が高く鳴り、覚醒魔神ケージョンの手からカダールとエクアドが落下する。
「カダール!」
ゼラがカダールの落下地点目指して走る。だが遠い、このままでは間に合わない。
「ロディガ、ネス、ナグラ! ワシの残る全魔力を持って、結界封印解除お!!」
ハイリュウが叫びその身体から灰色の光が溢れる。覚醒魔神ケージョンの結界にヒビが入り、ゼラを弱体化させていた結界が無くなる。
ハイリュウの封印解除の魔法は九官鳥のクー子にも及ぶ。人界を混乱させないようにと、闇の母神がクー子にかけた封印を解除する。
九官鳥のクー子の姿が緑の光に覆われ、その中からもとの姿を取り戻したクー子、カーラヴィンカのエアリアクイーンが現れる。
「もとの姿に戻れれば!」
空駆ける魔獣の中で、その速度に敵う者のいないカーラヴィンカ。風よりも速く飛翔し落下するカダールとエクアドを受け止める。
「ガフッ、ワシにできるのはここまで……」
力を使い果たし、ガクリと膝を着くハイリュウ。
「ワシ以外の者に敗北するなど、絶対に許さんぞ、マジカルゼラ……」
「ありがとう! ストーカーの骸骨さん!」
「ストーカーでは無い! いい加減憶えろ! ワシの名はハ、ぐはあっ!」
ボロボロのローブを纏ったハイリュウは、全体力、全魔力を使いきり、名乗ることもできずに倒れた。ここに来るまでに覚醒魔神ケージョンの配下と闘い、既に限界だった。
「くっ、死に損ないの敗残の骸が! 我が結界を壊すなど!」
覚醒魔神ケージョンの爪から黒い波動が迸る。カーラヴィンカの姿を取り戻したクインは迫る黒い斬撃を回避し、ゼラのもとへと飛ぶ。腕に抱えたカダールをゼラへと投げる。
「ゼラ!」
「カダール! やっとお帰りなさい!」
「ただいまだ! ゼラ!」
カダールを受け止め抱き締めるゼラ。カダールが拐われてからずっと走り続けていた。覚醒魔神ケージョンの配下と闘い、結界に囚われてからは本来の力も発揮できずに、九官鳥のクー子と二人、ここに来るまでに疲弊している。
だが、覚醒魔神ケージョンの結界はハイリュウにより破られた。そして愛するカダールが腕の中にいる。
ゼラの身体に力がみなぎる。後から後から湧いて出る。ようやく再会できたカダールを胸に抱え、ゼラは涙を流す。
「ぬうう! どいつもこいつも! この覚醒魔神ケージョンこそが新たなる絶対支配者! 我こそが神! この世界は我のものだ!」
「ゼラ! あいつを倒すぞ!」
「ウン!」
カダールは剣を構えゼラの蜘蛛の背に乗る。ゼラとカダールは声を合わせて叫ぶ。
「「騎乗合身! アルケニーナイト!」」
エクアドは赤い槍を構え、カーラヴィンカのクインの背に乗る。
「騎乗合身! カーラヴィンカナイト!」
「こ、今回だけだぞ! 変なとこ触るなよ!」
アルケニーナイトとカーラヴィンカナイトは、覚醒魔神ケージョンに挑む。二組の騎乗騎士が放たれた矢のように。
「行くぞゼラ!」
「ウン! 任せてカダール!」
(熱いイントロ、盛り上がる挿入歌IN)
♪世界を越えて
二つを繋ぐ
糸を掴め♪
「ぬうっ! 封印結界など無くとも! この覚醒魔神ケージョンの力に敵う者などいるはずが無い! 目覚めよ我が軍勢!!」
覚醒魔神ケージョンが腕を振るう。黒い粒が周囲に無数に落ちる。その粒は風船のように膨らみ魔獣の姿となる。一体一体がかつての大悪魔ピージョンに匹敵する力を持つ、覚醒魔神ケージョンの配下にして操り人形。
無数の黒い影、様々な姿の魔獣の軍団が立ち塞がり、アルケニーナイトとカーラヴィンカナイトを襲う。
♪閉ざされた闇の中で
移ろい、もがき、さ迷って
胸の熱だけ憶えてる
その明かりだけが道標
嘆いていても、先は見えないから
顔を上げて、
開け、瞼を
立ち上がれ
伸ばせ、その手を
掴み取れ
光る、銀糸に♪
黒い影の魔獣軍団が火、雷、氷の魔法を立て続けに放つ。しかしクインは無数の弾幕をかいくぐり両手を高く掲げる。
「センジン!」
クインが緑の光を手に、風の刃を射つ。封印を解かれ全力で放つカーラヴィンカの風の魔法。いくつもの風の刃が次々と影の魔獣を切り裂いていく。
地上のゼラは八つの紫の球体を従え、影の魔獣に突撃する。
「ちむっ!」
宙に浮く目玉のような紫の光の球体から光線が迸る。光線に触れた影の魔獣が爆発して四散する。
「いいぞ、ゼラ!」
「カダール、褒めて!」
カダールはゼラの蜘蛛の背に乗り、ゼラの黒髪をくしゃくしゃと撫でる。
カダールが側にいる。カダールの手が触れる温かさを感じる。ゼラの身体が震え、カダールの触れたところから無限の魔力が湧いてくる。
ここに来るまでの戦闘の疲労も吹き飛び、ゼラの全身に活力がみなぎる。
覚醒魔神ケージョンが影の魔獣を呼び出すが、アルケニーナイトとカーラヴィンカナイトの敵では無い。
覚醒魔神ケージョンが歯ぎしりする。
「ぐう、まだそんな力を残していたのか!」
「カダールが側にいれば! ゼラは無敵!」
「ふざけるな! 人に、人間にそんな力があるものか! 死ねい! 魔神黒爪無尽斬!!」
♪運命も世界も飛び越える
記憶の熱は嘘じゃない
本当を抱いて確かめる
銀月のあなたのもとへ
触れる物は
手と肌だけじゃ無い
唇からは
呼吸が、鼓動が
繋がって
心と心が
結びつく♪
「はん! 当たるかよ!」
背にエクアドを乗せたクインが宙返りするように空を舞う。覚醒魔神ケージョンの黒の斬撃を回避する。
「すいっ、ちー!」
ゼラが氷の壁を作り黒の斬撃を受け止める。
「さい!」
ゼラが拳を突き出すと砕けた氷の破片が弾丸となり、覚醒魔神ケージョンを襲う。
「小癪な!」
四対の翼でその身を守る覚醒魔神ケージョン。その間もクインとゼラは影の魔獣を倒していく。
「お前の配下はその程度か?」
「九官鳥が調子に乗るな!」
「あれは世を忍ぶ仮の姿だ! ハリクゥ!」
クインが両の手の平を覚醒魔神ケージョンに向ける。巨大な竜巻が舞い上がり覚醒魔神ケージョンの巨体を包む。
「ただの竜巻でこの覚醒魔神を止められはせん!」
「それはどうかな?」
「目障りだ! 消えろ!」
腕を振り上げクインに向けようとする覚醒魔神ケージョン。その動きが不自然に止まる。
「何? これは? 糸?」
「しゅぴー」
ゼラが走りながら竜巻に糸を飛ばす。クインの竜巻に操られた糸が蛇のように覚醒魔神ケージョンにまとわりつき、動きを止める。
「ぬがあ! こんな糸ごときで!」
「残念ながらゼラの糸はただの糸じゃ無い」
クインの声にゼラを見る覚醒魔神ケージョン。ゼラの手から糸が伸びる。ゼラのその手は蜘蛛の背に乗るカダールが手を重ねている。
「あの二人の仲を引き裂けないと、その糸は切れない!」
「そんなバカな話があるか!」
♪決められた未来は踏みにじる
叫ぶ想いを届かせて
隔てる境界なんて無い
あの日と今が繋がって
追いかけて、手を伸ばす
捕らえて、離さない
約束を、重ねて
糸を繋いで
運命の女神にも切らせない
硬く繋いだこの絆は♪
もがく覚醒魔神ケージョン、しかしその動きは糸に封じられる。
ゼラの蜘蛛の背に乗るカダールが叫ぶ。
「これで終わりだ! 覚醒魔神ケージョン!」
「ぐおお! バカな! この私が! お前ら如きにぃ!」
カダールはゼラを背中から抱くようにして右手を伸ばす。その手はゼラの右手に重なる。
カダールとゼラが、アルケニーナイトが吠える。
「闇が二人を引き離そうと!」
「ゼラとカダールは一心同体!」
「業も因果も踏み越えて!」
「繋ぐ糸は無限大!」
二人の手に白い光が集まる。世界律が歪む程の魔力が目映い光を放つ。
覚醒魔神ケージョンがその力におののき身を捩る。
「やめろ! この私が! この覚醒魔神ケージョンがこんなところでぇ! こんなバカなことがぁ!」
「「滅殺! 灰塵の滅光!!」」
アルケニーナイトの放つ白き光の柱が、覚醒魔神ケージョンの巨体を包む。触れるもの全て灰と塵に変える白き光が。
「この私がああああ!!」
♪世界を越えて
二つを繋ぐ
糸を掴め♪
こうして覚醒魔神ケージョンは滅びた。ゼラはカダールを取り戻し、世界に平穏が戻った。
「カダール……」
「ゼラ……」
夕日の中でカダールとゼラは抱きしめあう。互いにそこにいると確かめあうように。
「カダール」
「なんだ? ゼラ?」
「もう、拐われちゃ、ダメだよ?」
「すまん、気をつける……」
互いに顔を近づけゆっくりと唇を重ねる。夕日の中で二人はひとつの黒いシルエットになる。
設定考案
K John・Smith様
加瀬優妃様
友情出演、K John・Smith様
バルーンアート、K John・Smith様
m(_ _)m ありがとうございます