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鏡写しの君と桜の下  作者: とうにゅー
1章 文学少女は本を胸に抱く
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13話 想いよ届け

「詠せんぱーい! 鏡子せんぱーい!」


 部室に向かっていると、伊知さんが私を呼び止めた。


「これから部活ですか?」

「そうだけど」

「ちょっとお邪魔してもよろしいですか?」


 中に入ると伊知さんは、わあと声を上げた。


「素敵です! 汗臭くないし、涼しいし」


 運動部の部室って汗臭いのかな……。

 あたりをみまわし、伊知さんは紙切れを胸ポケットから取り出した。

 鏡子が受け取り、内容を見る。

 中に書かれたひらがなが一つと五つにずらされたものが書かれていた。「い」から始まるひらがな表と「か」から始まるひらがな表。


「これ、日記に挟んであったんです」

「ありがとう」


 紙切れと、四枚目の日記を照らし合わせて、解読を試みる。

 するとどうだろうか。

 まったく理解できなかった文がすらすらと読み解けていく。



 一月五日。

 あのひとをみかけました。

 となりにちいさなあかごとじょせいがおりました。

 夜から朝になりました。

 わたしのこいは散りました。


 かつよしさん、あいしていました。



 夜から朝というのは、夜というのは月を表して、朝というのは太陽、つまり日を表していた。一月五日の日記だから、前半部分は一つずらして、後半部分は五日だから五つずらすということだった。

「あの人、というのはかつよしさんという人だったのね」

 鏡子はしんみりと呟いた。

 訳した日記を並べ、一枚目から読み返す。

 恋人への気持ちが綴られた日記。

 戦争から帰ってきたであろうかつよしさんを見かけ、自分は結婚していて、相手も子どもがいた。もうそれは叶わぬ禁断の恋なわけで。それでもなお、伊知さんの曾祖母はかつよしさんを愛していた。

 当時は戦後だしお見合い結婚は多かった。伊知さんの曽祖父もお見合い結婚をしたのかもしれない。


「あの、ありがとうございました。あたしのわがままで暗号を解読してもらって」

「いいのよ。気にしなくても」


 伊知さんは鏡子の手を握り頭を下げた。

 解読できてよかった。

 琥珀色の光が部屋を満たし、安藤の解読を祝うようだった。

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