表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Destiny~終わりは始まりを告げる~  作者: 七海さくら
終わりは始まりを告げる
1/9

#01 起源

初めまして。七海さくらと申します。

初めて投稿しました。

とある歌を聞いて浮かんだイメージを作品にしました。

最後までお付き合い頂ければ幸いです。



「退いて!…っ退きなさいっっ!!」


 お願いから命令形に変わっても彼女を阻む者達は遮るその腕を降ろそうとはせず、代わりに何かに耐えるような顔で目を背けた。

 異様な熱気で立っているだけでも汗ばむ気候の中、不気味なほど大きな羽音をたて、渡り鳥が飛び立つ。

 刹那、彼女はほんの少し緩んだ壁を無理矢理こじ開け、まろぶように飛び出すと彼が入った磐戸に向かった。

 呼び止める声も腕も振りほどいて、彼女のケープだけがふわりと舞い落ちた。



 ごつごつとした道なき道に何度も足を取られながらも斜面を下る為、幾度となく前に倒れそうになるが決して走る足は止めない。

 ようやく辿り着いた磐戸はいつもなら彼女の為にすぐ開かれるのに、今は堅く閉ざされていた。

 まるで誰かの意志を表しているかのように。


 その細い腕を振り上げ、力一杯磐戸を叩くが、自分の手が強く痺れるだけで、何も変化は起きない。

 それでも彼女は諦めなかった。いや、諦められるわけがない。

 伝えたいこと、伝えなくてはならないこと。そのどちらもまだできていないから。


 こんな勝ち逃げは許さない。

 こんな別れ方は認めない。

 ……離れたくないっ!!


 彼の名前を叫びながらもう一度手を振り上げたその時少し離れた山が噴火した。



 血の気が引いた。

 今までで一番嫌な予感がする……



 山に奪われていた視線を戻した方が早かったのか。

 その華奢な腕を迷わずに叩きつけた方が早かったのか。

 …きっとどちらでもいいのだ。

 彼の安全さえ確保されるのであれば。


 だが、何度叩いても磐戸はびくともせず、自分の無力さに絶望しかけたその時、愛しい人の絶叫が聞こえた…気がした。

 いや、あの人に関することで“気のせい”という言葉は自分にはない。

 それはこの十余年で確信している。



「………開けなさい」


 背筋を伸ばして涙で濡れる瞳を拭おうともせず、彼女は生まれて初めて体内を駆け巡る血を震わせるように“命令”した。

「開けなさい」

 握りしめた拳が手のひらの皮膚を破った。紅が滴り落ちる。

 それほどまでに握り締められた手とは対照的な、静かな静かな命令。

 誰も何も遮ることのできない“命令”は重い磐戸すら退かせた。


 開けきるまで待つのももどかしく、人一人分の隙間ができるやいなやその体を滑り込ませた。




 磐戸の中は神殿になっている。

 この国を開拓・創造した初代国主がこの国を護るために作った双子剣の片割れ。初代から代々国主が保持する輪廻の剣と同じ石で作られた細身の剣が祭られている聖なる空間。


 その祭壇の前に“彼”は立っていた。

 いつものように、凛とした背中はやっぱり綺麗だ。


 よく知った姿に、目を細めて安堵すると早足に近付き、彼の傍に立つ。

 勝手に想像し、暴走した馬車のように一心不乱に駆けた自分が少し恥ずかしく、彼の顔をまともに見ることができなかった。

 隣だと彼の横顔をこっそり伺う事ができないし、右手の血に気付かれたらとっても心配するだろう。両手を背中に隠して、彼の左一歩斜め後ろで歩を止めた。


 それでも慌てすぎた恥ずかしさはどうしようもなくて、視線は少し下げ気味。

 ちょうど視線の先、左の二の腕に巻かれた細く緋い絹地は彼女が彼の無事を祈ってプレゼントしたもので、そこに巻けるのは自分と彼だけだと言われた時はなんて恥ずかしい事を言える人なんだろうと思った。

 ただ、独占できる権利は素直に嬉しかった。


 ふと彼が振り返る。ゆっくりと。

 つられて彼女も視線を上げ、それが交差した時、不意に伸びた彼の手は彼女の細い喉元を覆った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ