8話 勘違い
やべぇよやべぇよ...
空気が重いとかいう次元じゃねぇよ
だってあれもうほんとに黒いの出てるもん
物理的に扉ガタガタいってるもん
そら兵士さんも悲鳴あげるわ
「どうすんのこれ...」
無意識に言葉が溢れる。
まぁどうにも出来ないが。
...待てよ、どうにか出来るかも。
(光属性付与)
体が光に包まれる。
辺りが一気に明るくなり、照らされた黒が部屋へ引っ込んで行くのが見えた。
(やっぱゴースト系は光属性が弱点よな)
ゲームでは当たり前の話だ。
幽霊やゾンビなどといった「怖いもの」は基本的に光属性に弱い。
そんな光属性を付与された俺は今、幽霊に対して無敵モードって事だ。
多分だけどね。
見た感じ身体中ピカピカだもん。
それが証拠に漏れ出ていた黒い霧は消え、今にも外れてしまいそうだった扉はしんと静まり返っている。
少なくとも俺には触れなくなるだろうと思っての行動だったが、思ったよりこの世界の幽霊さんは光が嫌いらしい。
「っとくれば.....」
ぐにぃっと笑みをかみ殺す。
幽霊だ。モノホンの。
現実ではまだ出会ったことのない存在であり、いわゆる超常的と言われる存在だ。
それが今、扉を隔てた向こうにいる。
扉を開ければ必ずそこにいる。
見ることが叶うのだ、それもこの目で。
極め付けには俺には近づいてこれないときている。
...これは見とかなきゃ損ってもんだろう。
扉に近いと危なそうだし、兵士さんを少し動かして扉の前に戻る。
(さぁ幽霊の正体...暴いたろうやないの)
ワクワクする。
こんな気持ち、いつぶりだろう。
まるで開発段階から楽しみにしてたゲームの起動時のようだ。
扉の取っ手に手をかけると、心の高まりもまた一段と増す。
いいねぇ...ニヤニヤが止まらん。
まぁ実際は笑みを噛み殺してるからめちゃくちゃ苦々しい顔をしてるんだろうが。
(いざ...!)
扉を開ける。
当然次いで中に入ろうとするわけだが、俺は中に入れずにいた。
逆に扉の前から離れてしまいたいとすら考えた。
何故か?
これまた当然のことながら、中にいるであろう幽霊の妨害を受けていたからだ。
扉を開けた途端、先ほど引っ込んで行った黒い何かが大量に飛び出してきた。
質量がある訳でなく、俺の体に触れると消えるようなので害がある訳ではない。
それを受けて感じた感想を言葉にすれば、俺が部屋には入れない理由もまた明確となる。
端的に答えるとするならばそう...台風ばりの突風である。
「うおぉぉ!?」
なんじゃこりゃぁぁあああ!?
目が、目がちょ....
黒いものと共に動く空気の渦がシンを吹き飛ばそうとする。
強引に進んで部屋の中に入ってもそれは止まず、むしろ強まってすらいた。
だが、それ故に「黒い何か」が何処から出ているのかも理解できる。
扉から奥の真正面。
この黒き突風はそこから吹いており、事実そこには何かがいた。
(あれが幽霊か...?
よし...もうちょい...もうちょい....きた!)
「おぉ!」
一歩、一歩と足を進め、そしてやっとの思いで伸ばした腕で、それに触れる。
すると吹き荒れた風は止み、黒い何かも動きを止めて漂った。
「うぅん...?」
触れられた何かはもぞもぞと動き、遂には顔を上げてのたまう。
「おにいちゃん...だぁれ?」
と。
(幼女の幽霊か...)
全身真っ黒な幼女だ。
瞳も、髪も、着ている服のワンピースも。
ただその肌だけが、日光に照らされた事がないかのように透き通り、病弱を思わせる白さを持っている。
こんな物置に化けて出るのだから、死因にその肌も無関係では無いのだろう。
(なんか...そう思うと浮かばれんな
触っても成仏はせんかったし、どうにか出来んかな...)
「眩しくて...見えない...おにいちゃんは...だれなの...?」
眩しい...か....ん?
ふと自分の体を見下ろし、思いつく。
そうだ、付与がある。
(同じ光属性の付与で成仏ワンチャンあるかも)
出来ることは少ない、ならば思いつきに従うのも一興。
シンは迷いなく幼女の額に手を置いた。
「ん...?」
(光属性、付与)
この子に光をとそれっぽく念じ、その体が一瞬光った事でそれが成功したと確信する。
体が凄まじい虚脱感に包まれるが、周りの黒い霧も晴れていった。
「ぁ......」
幼女もこてんと瞳を閉じて....閉じて?
あれ?
(成仏してない!?)
てっきり上手くいったと思ってたが...あ
そもそもこの子もしかして....ッ!?
後ろでタッタッタと音が聞こえ、反射的に壁際の置物に隠れてしまう。
地味に広い倉庫で隠れる場所には事欠かなかった。
もしかすればだ。
この子が幽霊じゃ無いとすればだ。
俺、ちょっとやばいんじゃ...
いやいや待て待て、状況を整理するんだ。
俺は...
「夜中」に「物置」で「幼女」を「眠らせ」て...
.....ダメだな、これは捕まるわ。
俺のバカバカ!
そもそもファンタジーなんだからこれくらいだな....
そう思ううちに、外から声が聞こえる。
「....うわ!?」
「....ぅうん....」
「大丈夫!?」
「...は...助けに来てくれた勇者様ですか!?」
「う、うんそうだけど...何で勇者って知って....」
「そ、そこ!2番倉庫に幽霊が!」
「幽霊...?」
あ、やべぇなこっち来る。
見つかるな!俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物俺は....
「ん...この子かい?」
「は、はい...でもなんだか雰囲気が...」
「確かに闇の力は感じるな...あ、起きるよ」
「ひぃ!?私外で待ってます!」
俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物俺は....
「んんぅ...え....」
「おはよう?君は誰なのかな?」
「眠く...ない...影も...ない...」
「え?」
「私に...光が...おにいちゃん、なの?」
「えっと...?」
「おにいちゃんの中にも、光...ある」
「確かに僕は光の勇者だけど...中ってそれうわ!?」
「ありがとう...大好き...ついていく」
「ぼ、僕にかい?」
「うん、ずっと」
俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物俺は....って行ったか。
何言ってたかは聞こえなかったけど、なんかいなくなったのは分かった。
窮地は脱したな。
とったスキルの...多分察知のお陰なのかな?
まぁもうちょっとここで時間潰して.....
...部屋に帰るまでも見られないようにしなきゃな。
善意からなのに、なんかダメなことした気分だわ....。
こういう主人公の行いが他の人の手柄になって、それに主人公も気付かないのって好きなんですよ。
ただこういう勘違いってあんまりないんですよね。
誰か他作品で知ってたらお教えください。